少子高齢化による労働者人口の減少により、新卒・中途採用で売り手市場の状態が続いており、優秀な人材には複数の企業からの内定が集まります。
そのような中で、もし内定通知書の書き方や送り方が誤っていた場合、せっかく内定を出した応募者が他社に流れてしまうなど、トラブルになることが考えられます。
そこで本記事では、内定通知書の法的役割や記載すべき内容、送り方などについて解説します。
1,内定通知書とは
社員を採用する際に、人事担当者がおこなう手続きは、次のような流れが一般的です。
①採用募集
②採用試験の実施と採用の決定
③内定通知の発送
④内定承諾書などの書類の受領
⑥入社
1-1,内定の定義とは
上記の図で説明した採用募集から入社までの流れには、「採用」と「内定」という言葉が使われています。
「採用」とは、企業が応募者に対して、採用試験の合格を示した状態です。
しかし、この段階では応募者が、企業に入社する意思があるかどうかは不明の状態です。
「内定」とは、企業が応募者を雇用する意思と応募者が企業に入社する意思の確認が取れた状態です。
一般的な意味で内定というと、正式な決定の前段階のイメージがありますが、最高裁判所の判例では、採用内定は「始期付き解約権保留付きの労働契約」という判断をしています。
「解約権保留付きの労働契約」とは、解約権を企業側が保留した形でかわす特殊な労働契約のことを指します。
例えば、新卒採用した内定者に対して「留年してしまった」などの特別な内定取消事由が発生したのみ、解約権が行使できます。
そのため、内定承諾書をもらっている内定者に特別な理由なく、内定取消をすると「不当予告解雇」と判断される可能性があり、損害賠償請求される場合があります。
つまり、「内定」は労働契約が成立している状態を意味します。
また、採用活動においては内定のほかに「内々定」という言葉も使われます。
政府は「2021年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請」を策定・公表して、経団連や日本商工会議所に要請しました。
この要請で、選考活動の開始は6月1日、正式な内定日は10月1日以降とされています。
よって、6月1日から9月30日までは内々定で、10月1日になってから内定通知が出せるということです。
1-2,内定通知書の法的な役割
内定通知書とは、企業側が応募者に対して「内定」したことを知らせる書類のことを指し、オファーレターとも呼ばれています。
企業は「内定通知書を送付しなければならない」という法的な義務は存在しません。
しかし、応募者とのトラブルを回避するために、内定通知書を発行する企業がほとんどです。
1-3,採用通知書や労働条件通知書との違い
①採用通知書との違い
「採用通知書」とは、採用予定者に対して採用することを知らせる書類のことを指します。
「採用通知書」と「内定通知書」はほとんど同じ意味ですが、「採用通知書」という書類に法的な定義はありません。
「内定通知書」は、内定という行為を証拠として示すため、法的な効力が発生する書類になりますが、「採用通知書」が何を示す書類なのかは、企業によって定義が異なります。
現状、内定通知書を採用通知書として扱っている企業もあれば、採用が決まった時に発行する書類を採用通知書として扱っている企業もあります。
②労働条件通知書との違い
労働条件通知書とは、企業から採用予定者に対して雇用契約を結ぶときに示す書類のことを指します。
労働条件通知書には、以下の項目を記載しなければなりません。
内定通知書と一緒に送付せずに、入社日に労働条件通知書を渡す企業もあります。
ですが、入社してから「企業説明会や面接試験で説明された労働条件と違っていた」と言われるなどのトラブルを防ぐ意味でも、内定を通知するタイミングで労働条件を提示することが大切です。
2,内定通知書の作成方法
内定通知書には、決まった書式があるわけではないので、企業が自由に作成することができます。
しかし、内定通知書の目的を考えると、記載すべき項目がいくつかあります。
本章では、内定通知書に必要な項目と、内定通知と同時に伝えておくことが望ましい事項についてご紹介します。
2-1,内定通知書に必要な項目
①採用決定について
内定通知書では、採用試験に応募してくれたことに対するお礼を伝えた上で、採用が決定したことを応募者に伝えます。
内定通知書は、一般的に郵送しますが、メールなどでおこなうことも可能です。
応募者に早く通知をしたい場合、メールで採用試験の結果を連絡したうえで、後日正式な内定通知書を郵送する必要があります。
②提出が必要な書類について
内定通知書を郵送する際には、内定承諾書や入社誓約書などを同封するのが一般的です。
内定承諾書と入社誓約書は、企業から採用内定を受けた応募者が、内定を承諾して入社する意思を示す書類です。
応募者は書類に署名捺印した上で、応募企業に返送します。
内定通知書には、これらの同封されている書類の内容と提出期限、提出方法なども記載する必要があります。
書類を返送してもらう場合には、返送先を書いた封筒を同封するようにします。
③入社日について
内定通知書には、入社日や出社日についても記載します。
また、内定を辞退する場合には、入社日の2週間前までに連絡してもらうように書き加えます。
民法の解釈では、就業を開始する2週間前までは、内定者は内定を辞退することができます。
内定辞退の期限について記載しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
④人事担当者の連絡先
内定から入社までの期間、内定者は新しい環境に適応できるか、不安を抱えています。
特に、新卒の内定者は初めて入社する会社のため、積極的な「内定者フォロー」が必要になります。
入社に関して疑問や質問などあれば連絡できるように、人事担当者の連絡先を記載する必要があります。
2-2,内定通知書と一緒に伝えた方がよい事項
①労働条件について
内定通知書と一緒に「労働条件通知書」を送付しない場合は、内定通知書に基本的な労働条件を記載する必要があります。
内定通知書と一緒に送付せずに、入社日に労働条件通知書を渡す企業もあります。
しかし、入社してから「企業説明会や面接試験で説明された労働条件と違っていた」と言われるなどのトラブルを防ぐ意味でも、内定を通知するタイミングで労働条件を提示することが重要です。
②入社日までのスケジュール
内定から入社までの期間が長い場合には、内定辞退を防ぐために人事担当者は内定者をフォローする必要があります。
企業によっては内定者が入社までモチベーションを維持するために、内定者の懇親会や、職場見学、入社前研修などをおこなうケースがあります。
これらの内定者フォローイベントを含めて、入社日までのスケジュールなどを記載する必要があります。
③内定取消事由について
企業から応募者の内定を取り消す場合の事由についても、内定通知書に記載する必要があります。
内定の取消が認められるケースとしては、応募者が「書類に虚偽内容を記載した」「病気やケガで就業できない」「入社日までに学校を卒業できない」「犯罪行為」などが挙げられます。
一方で、急激な経営環境の悪化など、企業側の都合でやむを得ず内定を取り消すケースもあります。
しかし、内定者は内定通知を受けた時点で、就職活動を止めている可能性があり、内定取消は応募者のキャリアを大きく変えてしまうため、できるだけ避けるよう注意が必要です。
2-3,内定通知をメールで送る際のポイント
近年、メールで内定通知を送る企業も増えています。
メールの内容については書類で通知する内容と同様ですが、メールで送る際には次の点に注意しましょう。
①差出人や件名を一目でわかるようにする
就職活動をおこなう学生のもとには、就業情報サイトや企業などから多くのメールが届きます。
内定通知であると一目でわかるような件名をつけないと、開封されない可能性があります。
例えば、「採用内定のご連絡」「内定についてのお知らせ」のような件名にします。
また、差出人も社名や部署、氏名がはっきりとわかる記載にすべきです。
さらに、差出人がローマ字表記になっている場合、スパムメールと間違えられる可能性があるので注意が必要です。
②就業時間内に送信する
日中は忙しいからといって、就業時間が過ぎてから内定通知のメールを送信すべきではありません。
なぜなら、内定者に「就業時間を過ぎてもメールを送らなければならない会社なのか」と判断される可能性があります。
内定通知の段階では、内定者は自社への入社を決めたわけではありません。
複数の企業から内定をもらっている人は、その中から入社する企業を選んでいる段階です。
残業が多い会社と思われ、内定辞退につながる可能性があります。
3,内定通知書の書式・テンプレート
前章では、内定通知書の作成方法について解説しました。
本章では、内定通知書のテンプレートをご紹介いたします。
参考にして各社の内容に合わせてご活用ください。
内定通知書のテンプレート
〇〇〇〇 様
令和〇年〇月〇日
株式会社〇〇〇〇 代表取締役〇〇〇〇
内定通知書
拝啓
皆様におかれましてはいっそうご清祥のこととお慶び申し上げます。
この度は当社の採用試験にご応募いただき誠にありがとうございました。
慎重に検討させていただいた結果、貴殿の採用が内定いたしましたので、ご連絡させていただきます。
つきましては、同封の書類をご確認いただき、署名捺印の上、期日までにご返送いただきますようお願い申し上げます。
入社予定日については令和〇年〇月〇日を予定しております。
なお、ご不明点につきましては、下記連絡先までお問い合わせいただきますようお願いいたします。
敬具
記
1. 同封書類 :内定承諾書、入社誓約書、身元保証書
2. 提出書類の返送期限 令和〇年〇月〇日
お問い合わせ先:人事部〇〇
電話番号:〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇
Email:〇〇〇〇〇@〇〇〇〇
4,内定承諾書の書式・テンプレート
内定承諾書についてもテンプレートをご紹介いたします。
内定承諾書には、次の事項を記載するのが一般的です。
・日付
・宛名(自社の代表取締役社長が一般的)
・内定承諾の旨
・ 内定取消事由に該当する場合は、内定を取り消されても不服申し立てしない旨
・ 提出書類で変更等があった場合は連絡する旨
・本人氏名と捺印欄
・保証人氏名と捺印欄
内定承諾書のテンプレート
令和〇〇年〇月〇日
株式会社〇〇〇〇
代表取締役〇〇〇〇様
内定承諾書
このたび貴社からの採用内定通知を受け取りました。
つきましては、下記の事項を了承して入社を承諾いたします。
記
1.入社日の令和〇〇年〇月〇日には出社いたします。
なお、健康上の理由等で出社できない場合には、事前に医師の診断書を送付致します。
2.内定承諾書の提出後は、無断または正当な理由なく入社を拒否しません。
3.提出を指示された書類は期限までに提出いたします。
4.提出した書類等に変更が生じた場合には、直ちに文書にてご連絡いたします。
なお、内定期間中に下記事項が生じた場合は、採用内定を取り消されても不服申し立てはいたしません。
・健康上の理由により就業が困難となった時
・書類等に虚偽の記載が発覚した時
・入社日までに卒業できなくなった時
・その他、勤務に支障をきたす重大な事象が認められた時
以上
現住所
氏名 印
保証人氏名 印
5,まとめ
内定通知書は、単に採用試験の合否を通知するだけでなく、内定の承諾をしてもらい入社につなげる目的もあります。
まずは、応募者が不安に思わないように、採用試験が終わったら、できだけ早く通知することが大切です。
今回ご紹介したテンプレートを活用して、すぐに内定通知を出せるように準備してみはいかがでしょうか。
また、内定承諾率を上げる方法は、下記の記事をご参照ください。