「イグジットマネジメント」のイグジットとは、出口という意味の英単語「Exit」のことを指します。
雇用の入り口となる採用活動と並行して、雇用・人材の出口戦略を計画的に行うことは、変化の激しい市場に適応していくため必要不可欠なものです。
一般的に人事の仕事とは入り口の「採用」をイメージすることが多いですが、雇用の流動化が激しくなった今こそ、雇用の出口であるイグジットマネジメントに真剣に取り組む必要性が高まってきています。
【社労士監修】HR関連法改正トレンドBOOK 2024年版
2023年は一部企業を対象に人的資本開示が義務化されたほか、HR関連での法改正に動きが見られました。
2024年では新たな制度の適用や既存のルールの変更・拡大がおこなわれます。
人事担当者として知っておきたいHR関連の法改正に関する情報ですが、その範囲は幅広く、忙しい業務の中でなかなか網羅的に把握することは難しいのではないでしょうか。
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1. イグジットマネジメントとは
イグジットマネジメントとは、人材の退職や個人との関係解消を戦略的に実施して、企業に適切な新陳代謝を促すことを意味します。
イグジットマネジメントは、「トラブルなく辞めてもらうこと」だけではありません。個人が主体性を持ってキャリアを選択し、企業内で最大限の価値発揮をした上で、適切なタイミングで退職の道を選び取るまでの取り組み全体が、真のイグジットマネジメントと言えます。
2. イグジットマネジメントのメリット
イグジットマネジメントは企業の新陳代謝を促すことが大きな目的となりますが、新陳代謝を促すことで次のような効果も期待できます。
2-1. 企業の古い慣習を断ち切ることができる
次のような課題を抱えている企業の方がいらっしゃるかもしれません。
- スキルも経験もある期待の人材を採用したが、気付いたら人材が英気を失い活躍できていない
- 中堅社員の意見が強く、他の従業員が発言しづらい風土ができ上がっている
- 新たな人材が入社してもすぐ離職してしまうため従業員全体の年齢が高い
- パフォーマンスの悪い人材が他の従業員の士気を下げてしまう
これらの課題は、イグジットマネジメントを実施することで解消できる可能性が高くなります。
イグジットマネジメントは、企業に長年根付いてしまった不要な慣習を排除し、柔軟な経営判断ができるよう後押しをするものです。
2-2. 企業ブランディングの強化につながる
従業員は労働基準法により守られているため、簡単に解雇することができません。
そのため、従業員に退職してもらいたい場合は、定年退職まで待つか、何かしらの退職勧奨を実施することになります。
しかし、希望退職の募集や退職勧奨は、労使のトラブルに発展しやすくネガティブな印象を持たれやすいものです。
ネガティブな感情で辞めた従業員に口コミサイトなどで悪評を書かれてしまうと、企業の信頼度も落ちてしまう可能性があります。
今まで働いてきた従業員が「退職勧奨された」とネガティブに受け止めるのではなく、労使合意のもと円満退社をすることができれば、中長期的に企業ブランディングを守っていくことにもつながります。
2-3. シニア人材との良好な関係性構築につながる
イグジットマネジメントの役割は、従業員を円満退社させることだけではありません。
超高齢化の影響で定年制度が崩れた日本では、シニア人材とどのように良い関係性を保っていくか再考する役割もあるでしょう。
シニア人材の雇用に関しては、平成25年以降の高年齢者雇用安定法の改正により、次のルールが設けられました。
定年年齢を65歳未満に定めている事業主は「65歳までの定年の引き上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置を実施しなければならない。
また、高齢者向けに実施された内閣府による調査によると、近年では元気なシニアが増加しており、75歳まで、または一生涯働きたいと希望する高齢者は非常に多くいることもわかっています。
(参照:雇用を取り巻く環境と諸課題について|厚生労働省職業安定局)
今後も定年年齢の引き上げ、または定年制度の廃止は進んで行く可能性は高いです。
これらのことから、日本全体でシニア人材をどのように活かし、経済発展させていくか今一度見つめ直す必要があると言えます。
高齢者を一気に退職させるのではなく、年齢問わず企業に必要な人材には留まってもらえるようリテンションマネジメントと両軸で取り組んでいくことが重要かもしれません。
離職防止のためのリテンション施策とは|企業の取組事例もご紹介
3. イグジットマネジメントの具体的な施策例
本章では、イグジットマネジメントの具体的な施策例をご紹介します。
<1>年齢・性別・個人のスキルに合わせて活躍できる多様な場を設ける
イグジットマネジメントは、活躍していない人材を退職させることに焦点を置くのではなく、年齢や性別にかかわらず、個人のスキルややる気に合わせて、多様な人材が力を発揮できる環境を整えることに焦点を置くべきです。
従業員が最大限のパフォーマンスを出すことができる環境を整備することで、本人が納得し適切なタイミングで退職を決めることができます。
無理に退職に導くのではなく、自分の役割を終え、満足度高く働き切った人材が企業と関係を断っていく流れを構築することで、個と企業の良好な関係性を保つことが大切です。
<2>従業員の主体性・意思を尊重する
企業が一方的に従業員のキャリアを決定するのではなく、従業員が主体的に自身の道を選びとる方法です。
特にシニア人材に対しては、60歳以上の継続雇用の道を提示しつつも、企業が従業員にどのような価値発揮を求めているのか明確に決めて提案し、個人に選択してもらうよう促すことがポイントとなります。
個人が主体的にキャリアを選択できるようにすることで、従業員が企業に依存する状態を防ぐことが可能です。
<3>転職や副業支援・独立支援を行う
ひとつの会社にとどまらず、転職をしてキャリアを築いていくことを支援する方法です。
転職だけでなく、副業支援や独立支援もおこなうことで、従業員が自立自走できるようになることが目的として挙げられます。
やりがいを感じていない企業で、ぶら下がり社員・窓際社員になるよりも、本人の意思で前向きにキャリアを築くことの背中押しをするための施策となります。
転職先に推薦状を書く、副業がしやすいようアドバイスをしたり案件紹介をサポートするなど、さまざまな取り組みが可能です。
<4>退職した従業員のアルムナイ活動を活性化させる
アルムナイとは、退職者や卒業生の集まりを意味する言葉で、イグジットマネジメントへの意識が高まる中で、アルムナイの重要性も注目されるようになってきました。
アルムナイへの取り組みは新しい採用手法としても認識されており、若手人材、新卒一括採用を実施するよりも、一度会社を離れて社外で力をつけた優秀な人材を囲い込む方が、企業にとってメリットがあるとも考えられています。
その他にも、アルムナイ・リレーションを実施することで、企業の良い口コミを広げてもらうブランディング効果や、外注先・業務委託契約で副業先として関係構築も可能です。
離職した個人にとっても「もと〇〇会社の人材だ」というようなブランディングができるため、アルムナイ・リレーションに積極的に参加してもらえる可能性も高いです。
退職してすぐ関係を打ち切るのではなく、退職後も情報交換を定期的に行い、お互いに支援関係を築いていくことをおすすめします。
4. まとめ
従業員が定着し長く働くことが、必ずしも企業経営にプラスになるとは限りません。
人事担当者だけでなく、会社全体でイグジットマネジメントに真剣に取り組み、企業の新陳代謝を促していきましょう。
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