AI、生成AIを利活用したサービス開発・提供をしているエクサウィザーズ。同社では、自社の人事業務においても生成AIを活用して数多くの業務改善を実施してきています。
まだそこまで人事業務の活用事例が多くない中、どのような活用をしてきているのか?また、それによりどのくらい効率化できているのか?
エクサウィザーズ執行役員 コーポレート統括副部⻑ 人事責任者である半田さんに話を聞きました。
【人物紹介】半田 頼敬|株式会社エクサウィザーズ 執行役員 コーポレート統括副部⻑ 人事責任者
X:@Yoritaka21
慶應義塾大学卒業後、2010年ベネッセコーポレーションに入社。マーケティングを担当後、2015年リクルートホールディングスに入社。リクルートの中途採用やIndeed, Inc.の国内外のTech系人材の新卒・中途採用プロジェクトに従事。 2018年にエクサウィザーズに一人目専任人事として参画し、組織拡大をリード。2021年のIPOを経て、2022年4月より執行役員に就任。現在は大企業のDX推進を目的としたTech組織のコンサルティングも担当している。 Linkedinが選出する”日本で最も勢いのあるスタートアップランキング”、TOP STARTUPS2019・2020で2年連続1位、2019年にはLinkedin Japanが選出する人事でMVPを受賞。
目次
用途に応じて最適なAIを選択|エクサウィザーズで活用している生成AIとは?
−まずはエクサウィザーズの会社概要と半田さんのポジションについて教えてください。
半田さん:エクサウィザーズは2016年2月に立ち上げた会社で、「AIを用いた社会課題解決を通じて幸せな社会を実現する」というミッションのもと、複数のAI事業を展開しています。
私は2018年に1人目の専任人事として入社し、採用や人事全般を担当しながら、現在では執行役員として人事責任者の職責を担っています。
また人事業務に加えて、生成AIを活用した新規サービスの開発、DX組織の立ち上げやエンジニア採用に対するコンサルティング支援もおこなっています。
−今回は「生成AI活用方法」をテーマに掘り下げていきますが、自社で開発・提供している生成AIサービスを利用しているのですよね?どのようなサービスか簡単にご紹介いただけますか?
半田さん:まず、弊社は日本最大級のAIプラットフォームである「exaBase」を開発・提供しています。
exaBaseはDX人材育成支援、FAQ/チャットボット、IR業務支援、予測分析、介護業界向け、金融業界向け、自治体向け、採用支援と顧客のニーズに合わせて活用できるAIプロダクトやAIアセット、コンサルティングサービスを提供しています。
半田さん:その中で企業向けの生成AIプロダクトとして、「exaBase 生成AI」という法人向け生成AIプロダクトを提供しており、世界初で国内サーバーで動作するGPT-4oを提供しています。
さらに、ChatGPTだけでなく、Google社の「Gemini」、Anthropic社の「Claude」といった各種LLM(大規模言語モデル)への切り替えも可能です。
−なるほど、それぞれの状況に応じて、どのLLMが最適か選んで活用できるのですね。
半田さん:もちろん、利用者がそれぞれのLLMの特性を理解して、用途に応じて選択できるようになることが前提としてあります。さらに、プロンプトをテンプレートとして設定することも可能です。
これにより、毎回プロンプトを入力する手間が省け、簡単にテンプレートを選択して活用できるようになります。
業務に最適化されたプロンプトを登録しておくことで、作業効率が向上し、仕事のスピードアップにつながります。
人事業務における、具体的な生成AIの活用方法とは?
−ここからは、人事業務における生成AI活用の具体例をお伺いしていければと思います。
半田さん:人事業務で生成AIが使えるシーンは多くあります。例えば、翻訳業務や要約、アイデア出し、日本語の細かいチェックなど、あらゆる場面で活用しています。
たとえば、アイデア出しでは、プレスリリース等の自社の情報をどのように求職者にわかりやすく伝えるかを考えたり、採用広報領域ではインタビュー記事のテーマのアイデア出しや、タイトル作成、記事執筆に使ったりしています。
また、カジュアル面談の募集では、「◯◯についてお話しませんか」というアプローチを用いることがあります。この際に、求めるターゲットに効果的に訴求するキャッチコピーの考案にも生成AIを活用しています。
半田さん:さらに逆にいえば、自身の経歴をもとに「カジュアル面談で何を話せるか」というアプローチで作成する際に、生成AIを活用して最適な面談の打ち出し方を考案することもあります。
生成AIが求人票を採点、マネージャーのチェック工数も大幅に軽減
−もう少し具体的に、まずは採用領域における生成AI活用について教えてください。
半田さん:採用領域では、職種の理解、求人票の作成、面接の準備、採用コンテンツの自動記事作成などに生成AIを活用しています。
その中で求人票作成の話になるのですが、求人票作成は会社の顔となる重要な業務です。ある意味セールスにとっての営業資料のようなものだと考えています。
求職者だけでなく、ご家族の方も見るかもしれませんし、 エージェント各社に説明する時のベースにもなります。
そのうえで、求人票は単なる情報の羅列ではいけません。優秀な人材を惹きつけるには、事実に基づきながら、魅力的に伝える工夫が必要となります。
これが想像以上に奥が深く、求職者の心に響く求人票作成には細やかな配慮が欠かせません。
そして、求人票の質を高めるために何をしていたかというと、これまでは私が最終的に一つひとつ丁寧にチェックしてレビューしていました。
−エクサウィザーズさんの募集一覧を見ると、かなりの数の求人があります。これは半田さんの負担が大きそうですね。
半田さん:そこで、事前に求人票を生成AIにチェックさせ、質の高い求人票を効率的に作成できないか考えたんです。
−どのようなことをされたのでしょうか?
半田さん:生成AIが求人票の採点をする仕組みをつくりました。
生成AIに求人票の内容を入力すると、誤字脱字、わかりやすさなど、いくつかの観点から、24点満点で採点されます。
半田さん:そして基準点を満たせた後に、私がチェックするルールに変えました。
チェックの段階で見ても、私の意図から大きくずれることなく、フィードバックすることが格段に減り、求人票のレビューに使っていた時間を大幅に削減でき、別のことに時間を使えるようになりました。
−採点の仕組みはおもしろいですね。
半田さん:この事例から感じたのは、全員で一からプロンプトをつくるのではなく、業務の詳細を熟知したマネージャーや経験豊富な社員が仕組みを構築し、それをチームメンバーが使用する方が効率的だということです。
ですので、最近はこのやり方でプロンプトを用いた仕組みづくりを意識しています。
採用広報の記事作成も、生成AIを活用することで短時間の執筆を実現
半田さん:また、採用ブログの記事作成にも生成AIを活用しています。
これまでは、企画したものを外部のライターにお願いして、時間とお金をかけて記事作成をしていました。
プロに依頼することでクオリティは担保されるものの、依頼時のコミュニケーションコストも踏まえると、採用を本業としているリクルーターに負荷がかかります。
そこで生成AIを活用することで、コストをかけずに2、3時間で記事作成ができるようになりました。
例えば、取締役と私の1on1の内容を記事化したものがあるのですが、録画したデータを生成AIに読み込ませて、画像も生成AIにつくってもらって、その日のうちにコンテンツ化することができました。
もちろん、記事の構成や編集作業など人の手が必要になる部分もあり、完全に生成AI任せではなくある程度のスキルは求められると思います。
−採用広報の記事作成は工数がかかる重い業務だと思いますが、この仕組みを使えば大きく効率化できそうですね。
生成AIを活用した事前準備で、1on1の質向上と客観的視点のサポートが可能
−組織開発やマネジメントの領域における、生成AI活用についてもお伺いできますか?
半田さん:例えば、人事のメンバーが事業部のメンバーと1on1をするシーンで活用しています。
コンディションが落ちているメンバーと面談する際に、何をどういう聞き方で接するべきか、事前に生成AIと壁打ちすることで、より質の高い面談ができるようになりました。
どうしても自分の認知だけで接すると偏りが生じる可能性があるので、「こういうことを聞かれたら相手はどう思う?」といった形で生成AIに問いかけて客観的な視点を持つようにしています。
半田さん:人がやるべきことと生成AIがやるべきことを分けるという話もありますが、二元論ではなく、「質を上げる」という点で生成AIが使えると感じています。
チームビルディングも生成AIがサポート。MBTIデータの強み・弱みもチームの武器に
半田さん:また、最近おもしろかったのは、チームビルディングでの生成AI活用です。
人事チームは17人いるのですが、メンバーそれぞれのMBTI診断(※)の結果を生成AIに入力すると、チームとしての強み・弱み、リーダーがやるべき働きかけ方をアウトプットしてくれるんです。
一人ひとりの性格を心の機能と態度の側面を4つの指標で表し、16タイプに分類する性格検査
このタイプのメンバーは、どんなときに居心地の良さ/悪さを感じるか。このチームはどういう状況だと成果を出しやすいか、失敗しやすいか、リーダーとして私が発揮すべき強みは何か/控えるべき行動は何か、生成AIが学習して指示をしてくれるのですが、これが結構当たっているんです。
半田さん:こういったエビデンスベースの理論に基づいたチームビルディング研修は、有料のサーベイを活用したり、人事コンサルに頼むようなことだったりしますが、生成AIを使い複数のメンバーのデータを入力すれば、チームとしての分析や示唆の出力も気軽にでき、とても便利だと思います。
新しい人事制度のQ&Aも、生成AIで仕組み化、人事の対応工数も軽減
半田さん:また、新しく人事制度を設けた際のQ&A作成でも生成AIを活用しました。
新人事制度を作成して全社に周知する際に、社員からさまざまな質問が出てくると思うのですが、その対応に意外と時間がかかるものです。
それに対し、人事制度のドキュメントを生成AIに読み込ませて、従業員からの質問に自動で回答できる仕組みをつくりました。
半田さん:また「人事制度の説明会で質問されそうなことを10個出して」と聞いて、事前にその内容を資料に盛り込むようにもしています。
人事制度を作成している側だと気づかない盲点があったりするので、そこをあらかじめ生成AIにカバーしてもらいます。
これにより、人事説明会の準備の手間や、その後の従業員フォローの対応工数を大幅に削減できました。
生成AI活用で、サーベイ結果も迅速に展開
半田さん:従業員サーベイの分析にも生成AIを活用しています。
Googleフォームを活用して従業員に回答してもらうのですが、リアルタイムで部門ごとの推移や定性コメントについて生成AIが分析した上で、レポートを自動で作成してくれています。
定性コメントも以下のような形で分析してもらっています。
半田さん:長いときは、サーベイの結果を分析し、経営陣やマネージャーに共有するのに数週間近くかかってしまうこともあったのですが、マネージャーの立場からすると、それでは遅いですよね。
それを生成AI活用によって、部署ごとの特徴などもすぐに簡単に把握できるようになりました。
生成AI活用のカルチャー浸透。意識している3つのポイント
−生成AI活用を促進させるために意識しているポイントはありますか?
半田さん:この1年ぐらいかけて生成AIの活用促進を我々もやってきて、うまくいくこと、いかないことさまざまありましたが、その中で3つ意識しているポイントがあります。
1つ目は、トップやリーダー自身が、生成AIやテクノロジーを活用する姿を見せることです。「リーダーが使っていること」が組織への浸透の前提条件になり、リーダーが使っていない組織でメンバーが活用するというのは、やはりなかなか盛り上がりが生まれないと思いますと思います。
生成AIやその他自動化関連のテクノロジーやサービスを積極的に使うチームと使わないチームの差を見たときに、やはりリーダーが積極的に使ってるチームは、利用率が高い傾向にあるなと感じています。
2つ目は、活用事例の共有です。少しでもいいので、社内で生成AI活用の事例を共有する場を設けることが大切です。
例えば、コーポレート部門では「生成AI活用のライトニングトーク」をやっていて、そこで事例を共有するようにしています。簡単なものでも良いので、とにかく共有して生成AI活用の空気感をつくっていきます。
ポイントは、使う人と使わない人の差が出ないように意識しながら、いかに使う人の割合を増していくかです。
3つ目は、生成AI活用の文化づくりです。ミーティングの度に、「どれくらい生成AI使ったの?」「生成AIはなんて言ってた?」というようなフィードバックをしたり、生成AIの活用度をモニタリングした上で、高活用の社員にはスポットライトを当てるようにしています。
生成AIを積極的に使う人をいかにリワードしていくか、「この組織は生成AIを使うと称賛されるんだ」というカルチャーをつくっていくこともポイントだと感じています。
人事業務の業務効率化は発展途上、生成AI活用の事例を他社にも広げていきたい
−最後に今後の展望についてお聞かせください。
半田さん:引き続き、生成AIを使って人間の能力を拡張させる仕組みをつくっていきたいですね。
人間がやっていることの質を高めるために生成AIを使ったり、やらなくていいことを生成AIに任せて、人間ができることにフォーカスするのが当たり前になってくれば良いなと感じています。
また、自社で生成AIを使った人事業務の効率化を進めていきつつ、他社にもそのノウハウを提案できるような人事組織でありたいと思っています。
自社の人事の困りごとを生成AIで解決し、それを他社に展開し価値提供できるようになる。そのようなコストセンターではなくバリューセンターとしての人事を目指しています。
生成AIを活用した人事業務の効率化は、まだまだ発展途上の領域です。そこに対してエクサウィザーズから事例をつくり広げていければと考えています。