みなさんは、前任者の異動や退職に伴い、後任となる方の採用をされたことはありますでしょうか?
今回は、「後任採用」のノウハウについて、事業会社での採用経験を持つ、株式会社juice upの森さんと、株式会社HERPの庄田さんにお話を伺いました。
この「後任採用」という募集背景は、若干ネガティブなイメージを持たれやすく、隠されることも少なくありません。「前任者は何で辞めるんですか?」「異動になった理由は何ですか?」という疑問がつきまとうためです。
しかし、むしろ前任者にフォーカスを当てることによって、ミスマッチが少ない採用ができるといいます。
森さん、庄田さんのお二人は、後任採用について共通する想いや実践ノウハウを持っており、本記事では、それらをインタビュー形式で掘り下げてご紹介していきます。
【人物紹介】庄田 一郎|株式会社HERP 代表取締役CEO
【人物紹介】森 尚樹 | 株式会社juice up ビジネスオフィサー
後任採用は突然に
ー今回のテーマである後任採用。お二人はどのようなときに後任採用を検討していましたか?
僕が前職で人事をしていたときは、部署異動、産休・育休、退職などで人員配置の話が出たときですね。配置転換で対応するのか、後任を採用するのかといった議論になっていました。
ただ、いずれも急に発生するため、多かったのは異動する人、辞める人の上長が兼務でその仕事を見るというケースでした。「本当にそれで大丈夫なのかな」とは思っていたのですが・・・。
できる限り早いタイミングで事業部と人事側が連携して、対応策を考えられないと後任採用はうまくいかないと感じていました。
僕は自身の後任を採用するためにイベントを開いたことがあります。
当時は採用担当をしていたのですが、しばらくして人事側から事業側へ異動の希望を出したんです。最初は「採用担当がいないからダメ」と言われていたのですが、異動の相談を続けていったある日、経営陣から「後任を自分で採用するならいいよ」と条件付きで許可が降りたんです。
そこで、『採用担当を!採用しナイト!』というイベントを企画し、実施したんです。
これは、前職の社長、副社長、僕の3人で考えたイベントで、選考を通して我々が「会食をさせていただきたい」と感じた方は、三ツ星レストランで豪華ディナーをご一緒する権利をプレゼントして、採用につなげていくというものです。
ー面白いイベントですね!
この企画、一晩でほぼつくったって聞きましたよ。
そうそう、一晩でほぼ決めましたね(笑)。どんなアイキャッチ画像にするかなど、飲みながら3人で議論してつくっていきました。
自分自身の後任を探したこと以外でも、後任採用はしていたのですが、前職はまだ70〜80人のベンチャー企業だったため、急な欠員、増員が多く、あらかじめ予期して後任の採用に動くことは難しかったですね。
ー退職などでポジションが空いたときは、若手や未経験でもやる気のある方を引き上げたりしないのでしょうか。
ある程度仕組みができている企業であれば、引き上げは可能だと思います。ただ、仕組みがまだ整っていないベンチャー企業などでは、難しいかもしれませんね。
職種にもよりますが、そのポジションに当てはまっている人たちの集まりで、代わりがなかなか効かないんですよね。
優秀な人材が下に埋もれていたら、引き上げは簡単にあり得るかもしれないですけどね。
そうじゃないですよね。逆に「人手が足りない」って毎日動いてますもんね。
後任採用でうまくいった事例とうまくいかなかった事例
ー後任採用のうまくいった事例とうまくいかなかった事例はありますか?
集客はうまくいったけど、結局そこから採用できなかったイベント
先程の庄田さんのイベントは、特に集客面でうまくいった事例ですよね。
かなりバズってましたよ。
ーどのぐらいの集客数だったんですか?
エントリー数だけでいくと、僕の後任として人事業務に興味を持ってくれた方が60人くらい参加してくださいました。
ーそこから後任の採用は決まったのですか?
それが結局、できなかったんですよね。
いいところまで行った候補者の方はいたんですか?
3人の方と会食させていただいたのですが、採用には至らなかったんです。そのことが、逆にうまくいかなかったことの話になります。
自分の後任を採用するときに起こる弊害だと思っているのですが、自分がやってきたことに対して、ある程度の自負があるじゃないですか。それを「さらに良いものにしてもらう」という観点で見がちになるんです。なので、ジャッジがちょっと厳しくなってしまったんです。
「これはできそうだけど、これはできないんじゃないか」といった引き算でものを考えてしまって・・・。そんな話を言い出すと、先入観も入ってしまって採用することは難しいですよね。このことに後から気づきました。
慎重だったんですね。
めちゃくちゃ慎重でしたね。
結局は、人事企画をしていた方に採用機能も持ってもらったんです。そこからしばらくして事業部に異動はできたのですが、いろいろ引き継ぎなどをしながら兼任で採用業務もしていました。
ボランティア兼務みたいな感じですね。
自分の後任を採用するときにプライドとのせめぎ合いが起きる
ー森さんはいかがですか?
僕の場合は完全な後任ではないのですが、一部の業務を任せるために採用をしました。当時、前職で人事として働いているのが事業部内で僕一人だったんです。
採用をメインでおこなっていく中で、人事制度、社員教育などに注力できていなかったので、その部分の業務を誰かに切り出して渡したいということで、二人目となる人事を採用することになったんです。
自分の中の一部の業務を後任として採用していくため、一次面接はすべて自分が入り、業務説明、何ができて何ができていなくて、何を手伝ってもらいたいのか、全部洗いざらい話していきました。その上で「一緒にやりたい」と言ってくれる人を採るような動き方をしました。
ー採用していく中で何か気づきはありましたか?
少なくとも、人事制度や教育の領域に関しては、自分よりも優秀な人を採用したほうが組織としてうまくいくことはわかっているのですが、その人は僕の部下になる可能性もありますし、自分の教育や指導ができやすい人を採ったほうがいいなと思っていたんです。
そうすると、「自分よりも、ものすごくできるんじゃないか」という人に対して、一次面接で合格を出すかどうか、プライドとのせめぎ合いみたいなものが発生するんですよ。
途中から意識してプライドを捨てて、最終的には東大卒でベンチャーの人事コンサルに就職した専門性が非常に高い方を採用しました。「森さんとは真逆の方ですね」と言われるくらい、僕とはタイプが異なる感じの方だったのですが、結果として、“陰と陽”みたいな関係になり、うまくまわりました。
ですので、自分よりも優秀な人を採用すべきなのですが、そこで発生するプライドをうまく自分の中で消化して採用するっていうのが難しかった印象ですね。
あと、前任者が優秀だったり、人望がめちゃめちゃ熱いケースだったりすると苦労します。スキル面だけでもだめだし、人物タイプのマッチだけでも物足りない。
前任者のストーリーは伝えたほうが絶対にいい
ー後任採用で候補者に伝える内容で意識したことはありますか?
意識して話したことは、「僕がなぜ入社したのか」「入社後にどういうことができてどういう学びがあったか」などについてですね。
そのあとは社長と副社長の2人で、「日本はもうヤバイ」という話をしました。今後、学歴やキャリアといったレジュメ上に書いてあることではなくて、本当に何ができるか、何をしてきたか。そういったことが重視され、ぶら下がっているだけでは安定は手に入れられないという話をしていきます。
自分の歴史の話と、危機感をあおったわけですね。
ー前任者の歴史を語ることは、後任採用ならではかもしれませんね。
庄田さんの場合は、「人事募集」って普通に求人票に書いて、人事の仕事のやりがいなどについて無機質な文字面で書かれているよりも、飲みの場などで庄田さんの経歴や身についたスキルについて話すほうが刺さったりするじゃないですか。たしかにそういった工夫は重要ですね。
僕自身が失敗したと感じる経験があるのですが、前任者の退職に伴い、紹介会社や求人広告に後任募集を出す際、求人内容をヒアリングした相手が前任者の上長だけだったんですよ。
前任者の上長に、「どういうことを任せたいか」「どういう経験を持ってる人を採用したいか」聞いていくのですが、前任者が辞める前にもっと本人に聞けば良かったと思っています。
さっきの庄田さんの話のように、前任者が働いていたときに感じていた「想い」や「やりがい」「難しさ」を聞けていないと、無機質な求人票、無機質な面接になってしまうように感じています。
しかも、上長もこれを機会にハイスペック層を求め、ないものねだりをしてくるため、理想論のスペックの求人ができあがり、それで後任が決まらずに長期化してしまい、結局その上長が兼務で業務するという。
でも、兼務しながらマネジメントするのは負担が大きいので、不満がたまって悪循環が生まれてしまったというのが、失敗したなという経験です。
それ、すごくわかります。僕も同じで、今動いている施策全部をそのまま回せるような人を採用しようとすると結構苦労するというか、長期化しちゃいますよね。
入社後にもある程度は育てていく前提で採用しないとうまくいかないんだなというのはありますね。それこそ、前任者の想いやストーリーを理解し、そこから自分の色を出していくという時間は絶対に必要だと思います。
後任採用だからって隠す必要はない
あと、後任の募集ということを意外と隠して採用するケースがあると思うんですよ。「やっぱり辞めちゃう人がちらほらいるんだな」って思われてしまうので。
僕の場合、以前は「組織力強化のための増員募集」という打ち出しにしていました。そうすると、「まだまだ伸びている成長感ある会社なんだな」と思ってもらえるからです。
でも、「後任募集」としっかりと打ち出して、前任者のリアルを伝えたほうが、入社後のミスマッチは圧倒的に減ると思います。
前任者の生の声をはさめるかどうかは大事ですよね。
それがあることで、仕事への理解度も違いますし、カルチャーフィットにも大きく貢献すると思います。
ー前任者の声があるかないかで、採用が大きく変わってきますね。
部署異動や産休産後による後任採用で気をつけるべきこと
ー部署異動や産休、育休による後任採用においては何に気をつけるべきでしょうか。
部署異動については、早めに決めることもできるので、組織の人員配置を考えてどうしても足りない役割ができるとしたら「早めに動くこと」につきると思います。前任者も部署異動をしたら忙しくなってしまうので。
産休の場合も早めに動くことが大事です。妊娠がわかってから安定期に入るまでは非常に重要な期間だと思うので、女性的な悩みをしっかりと汲みつつ、後任について考えていったほうがいいですね。
あとは、前任者の育児休暇が明けた際に、どういうポジションで戻ってくるのかなども決めておいた方が良いと思います。前任者が復帰するタイミングで、自分のポジションがなくなってしまうと後任の人が不安に感じてしまうためです。
部下になるのか、別の部署に異動になるのか、時短でスペシャリティを発揮してもらうのかとか、そこらへんが決まってないと後任採用はうまくいきません。
ー庄田さんはいかがですか。
森さんが言っていた通り、早期に察知して動くことが重要だと思います。
僕が前職のときにすごく幸運だったのは、経営陣との距離感がすごく近かったことです。
そうすると、日頃社員と接している中で自分がキャッチする情報に加えて、部署異動、退職懸念など、さまざまなことを割りと早めに知ることができるんです。また、100人規模の組織サイズだったので、従業員個々人のモチベーション、コンディションなども、見ていたらわかるじゃないですか。
僕、「この人辞めるかも」「この人産休に入るかも」っていう察知能力がすごく高くなりましたね。
わかります。顔色とか見ているとわかりますよね。
ーすごい・・・。そういった察知能力ってどうやって磨かれるんですか?
常日頃から社員を観察することですね。人を観察するスキルは人事には必要な素養だと思います。
すごい手段的なこと言うと、カレンダーとかですかね。カレンダーの謎な有給、謎な非公開のランチとか(笑)。
それめっちゃわかります。なんかいないな・・・って。これはあからさま過ぎますけど、急にスーツとか(笑)。
ーちょっとした変化に対して、敏感にアンテナが立つんですね。
中途採用の面接ってだいたい仕事終わりにあるじゃないですか。なので19時スタート、20時スタート、遅くて21時スタートなので。
ベンチャー企業だと、この時間に働いていることが多いので、「最近この時間帯にいないな」ってなったら、だいたい何かしら動きがあるんだろうなと思いますね。
>>後編に続く
後編では、後任採用のメリット・デメリットや、後任採用の面接で実践すべきノウハウについてご紹介します。