こんにちは。HR NOTE編集長 根本です。
昨今、組織のダイバーシティ化や採用手法の多様化により、採用担当者にも、求められるものが多くなってきたように感じます。
そこで、「これからの人事に求められる能力とは何か」ということを、メスライオンこと、ネットマーケティングの人事責任者である宇田川 奈津紀氏、MOLTSの代表である寺倉そめひこ氏のお二人にお伺いしました。
登壇者宇田川 奈津紀氏株式会社ネットマーケティング
広告事業とメディア事業を行う株式会社ネットマーケティングにて人事採用責任者として従事。ダイレクトリクルーティングを中心に4ヶ月で20名の採用をしたことから、「肉食系人事」と言われ、それが転じて現在は「メスライオン」という愛称で、セミナー・講演など多岐にわたってご活躍。趣味はスカウトメール作成で、「スカウトメールは恋文」と言うほどのこだわりを持つ。
登壇者寺倉 そめひこ氏 株式会社MOLTS
立命館大学を卒業後、経営コンサルティング、広告代理店、藍染師を経て株式会社LIGに入社。入社1ヶ月半でマネージャーに就任し、新規メディアの立ち上げ、企画、人材採用に携わる。その後、執行役員として、人事領域、メディア領域の業務に従事。2016年3月に株式会社MOLTSを立ち上げ、5月に独立。Webメディア、人事領域のコンサルティングや自社メディア・サービスの立上げを進行中。
採用担当者自らが動いて採用を進めていく攻めの姿勢が必要
―これからの人事というところで、採用市場の変化に関して何か感じるところはありますか?
宇田川氏:転職希望者数よりも求人が上回っていて、どの企業も人材不足という声を良く聞きます。
今や採用担当者はただ待っていても人材の確保ができないと思うんですよ。求人広告に掲載するのも、紹介会社を利用したとしても、ただそれだけで待っているのではなくてこちらからもアクションしていく必要がある時代になってきたなと思います。
求める人材は待っていてもそもそも出ないんだっていう状況なので、「採りにいかないと」と思い、弊社ではダイレクトリクルーティングにも力を入れています。
―そめひこさんはどうですか。
そめひこ氏:明確に記憶しているのが、3年前まではダイレクトリクルーティングって言葉があまり聞こえてこなかったんですよね。
リファラルリクルーティングっていうキーワード自体が1年半ぐらい前から徐々に盛り上がってきて、メディアの露出や他社の取り組み事例が増えてきているように感じます。
実際に、採用のお手伝いをさせていただいている企業様からも「リファラル、ダイレクトリクルーティングを導入したいと思うのですが、どうしたらいいですか」といった声が増えています。
―そういう採用市場が変わっていく中で、人事としてはどういう動きをとっていく必要があると感じていますか?
宇田川氏:注目されている採用手法を導入したからって採用がうまくいくわけではありません。
人事は、採用成功に向けた採用体制を作らなきゃいけないと思っています。例えば、「フルスタックのエンジニア20代、IT業界5年、職歴1社」といった感じで、弊社としては絶対採用したい人材が出てきたときは、全社を巻き込んで面接のアレンジまでしていくくらいの戦闘態勢をつくります。
「競合とどう違うのか」というのを伝えられるのは、ファーストアクションでは人事ですが、人事プラスαで現場も一緒の熱量で口説き落とす必要があります。
他社様の人事の方からご相談を受けるようになりお話しを聞くと人事と現場がバラバラになっているような印象を受けることがあります。
そこがそもそも一体になって、「採用を成功させる為にお互いが歩み寄って協力しないといけない」ということを理解していないと競合他社に競り勝っていけないと思うんですよね。
さらに採用を成功させる為には何が必要かをつきつめていくと、ブランディングにも力を入れるべきだと思っています。
どうブランドを作っていくかというところは、人事が一方的に考えた理想だけを打ち上げるという形ではなく、現場で働く人達のやりがいや、どんな組織にしていきたいか、どういう開発をしていきたいのか、などをちゃんと理解し合って進めていくことが重要だと思っています。
そのため、現場のエンジニアの方々と温度感のすり合わせは定期的に行っています。
人事の方からのご相談で一番多いのはエンジニア採用についてです。いろいろ話を聞いていくと、CTOや現場のエンジニアの方々と密に連携をとっている人事の方ってあまり多くはないと感じています。
でもCTOがエンジニアを採用できる鍵を持っていて、今後の方向性、エンジニアがどうなっていくのかとか、そういったところをしっかりとベクトルを合わせていく。
合わせていくことによってブランディングができるかなと思っています。
そめひこ氏:今の話を聞いていると、僕も人事と現場との関係性で悩んだときがあって、人事部がもともとなかった会社に人事部を立ち上げたんですよね。
そこで生まれたのが人事部と他事業部のセクショナリズムでした。「人事部は採用する」「現場はしっかりとお金を稼ぐ」みたいな明確な分かれ方になっちゃって、「人を採用すること」における責任区分があやふやになったことがあったんです。それは、肌で感じたものだったのですが。
その時に気付いたことが「採用主体をいかに現場に置きながらも、最適な採用を行っていくのかを考え続けねばならない」でした。入り口の採用だけではなく、その後を考えると人事部が責任を負うべきではないと思うので。
宇田川氏:私の場合は、自分でできることにどうしても限界があるなと感じているので、「ここまでは人事で頑張ります。
この先を一緒に動いてもらえませんか」っていう、自分ができるものと、現場に手伝ってもらいたいものを明確にするようにして協力体制を築いています。
そめひこ氏:「採用」というプロジェクトの中にしっかり役割をもうけて展開していくから協力体制がしっかり築けて、セクショナリズムが生まれないという感じですね。なるほど。
これからの採用担当者に求められている能力とは?
―そめひこさんは、これからの人事はどのような能力が求められてくると思いますか。
そめひこ氏:直近の話で言いますと、個人的に感じているのは採用手法が増えてきている中で、手法ごとのテクニックのみに目がいきがちなのですが、そこだけではなくそれぞれの手法を強化するような要素も見ていかないといけないと思います。
例えば、「まったく知らない会社」と「知っている会社」があった際に、「知っている会社」のほうが求職者にアプローチしたときに絶対に返答率が高いはずなんですよ。
そういった観点で見ると採用における広報をどうしていくのかを考えないといけなくて、メルカリさんとかすごく上手いなと思います。キャリアハックの松尾さんを人事として採用された時に、「さすがすぎる」と思いました。
あとは手法ではなく、選考フローの改善の部分です。
すごく面白かったなと感じたのが、ある上場間近の企業様の採用支援をさせていただいたときに、「エントリーはものすごく多くきているけれど、採用に苦戦しています」っていう話をもらって、採用プロセスのデータを全部とったんですよね。
「エントリーは確かに結構きている、けれど内定が出ない」って何が原因か分析したときに、一次面接から二次面接の歩留まりが非常に悪かったんですね。
調べてみると、一次面接の面接官がなかなか魅力をうまく伝えられる人じゃなくて、どちらかというと上から目線で求職者を見てしまっていて、次の選考に進もうっていう意欲はなくなってそこで辞退が多く出ていました。
そう考えたら、もう手法どころではなくて、選考フローの要素も非常に重要になってきているなと思って。
現場との関係値というところももちろん必要ですし、データをしっかりとって改善するポイントを見つけられるようなマーケティング能力をしっかり持っている人も必要になってくると思います。
宇田川さんは採用広報や採用におけるマーケティングに関してはどう思いますか?
宇田川氏:採用広報は、今は「メスライオン」をきっかけにネットマーケティングを知ってもらおうと奮闘しています。ただ、私1人が頑張っても採用はできません。
先ほどそめひこさんが言ったように、採用におけるマーケティングっていろんな考え方があると思うんですよ。
例えば入り口と通過率と内定率みたいなところに分かれていると思っています。
「そもそも母集団形成ができていない、それだとそもそも採用苦戦するよね」とか、「応募は来ているのに決まらない。じゃ、どこかプロセスがおかしいのでは?」というところをしっかり分析して課題を見つけて、解決に向けて現場とすり合わせるっていうことがすごく大事だと思っています。
そもそも母集団が少ないのであれば、まずは何かしらブランディングしていく必要があります。
弊社はブランディングでいくと、メスライオンや自社サービス以外の部分で、「働く人間にフォーカスできているか」というと、そこがまだ足りていないと思っています。
どうしても営業職が強い会社と見られがちなので、エンジニアをどのように見せていくのかが、今すごく必要だと思っています。
そめひこ氏:採用広報を考えるってなったときに、Webのマーケティングと近いものがあると思っています。
僕はずっとメディアの運営も見てきたんですけど、インバウンド設計を行う上で考えないといけないユーザーが2パターンに分かれるんですよ。
1つが「全く知らない人」。例えばネットマーケティングをまったく知らない人にどうアプローチしていくかというと、外部のさまざまなメディアに「メスライオン」を露出して、「メスライオン=ネットマーケティング」というように、認知が働いてくるなと思っています。
2つ目が「従業員と関わりがある人たち」ですね。これってリファラルと同じ考え方なんですけど、例えば従業員のインタビュー記事がメディアに出たときに、どれぐらいFacebookなどのSNSでシェアしてくれるかが重要です。
それによって、従業員と関わりがある人たちが、メスライオンやネットマーケティングを認知してくれるかが変わると思うんですよね。
みんな結構狙いがちなのが、自社と関わりがないところであったり、まったく知らない人たちが知るような場所にどう広報していくのか。
ただ、リファラルリクルーティングのデータを測定し、内定率もマッチング率もかなり高くなってくるところを見たら、周囲の人をどう取り囲むのかを考えないと、そもそも採用広報として機能していかないなと思っています。
そういう観点でいくと、広報力もそうだし、編集力、マーケティング力、あとはどれだけ社員が協力してくれるのかも必要ですね。
「こういうインタビューコンテンツが出ました」ってなったときに、「10人知り合いがいて、10人がシェアしてくれたから、100人の周りの人たちにアプローチできた」みたいなところも作っていける人が必要だなと思います。
宇田川さんは、「社員協力率」を高めていくためのアプローチって何かされていますか?
宇田川氏:弊社は、リファラルに関してこれからだと感じています。
社員に対するアプローチはこれからもっと力を注いでいかなければと思っているのですが、おそらく協力はしてくれると思っています。
なぜかというと、弊社で求めるエンジニアがなかなか採用できないってときに、エンジニアの社員が人事に何も相談せずに採用要件に合うエンジニアを紹介してくれたんですね。
そういうことがあるので、ネットマーケティングの仕事内容、やりがい、どんな社員がいるのか、などがまとまったコンテンツがあれば、もっと外部の方々に伝えやすいんじゃないかと。
人事はそこに努めるべきかなと思っています。
そめひこ氏:その話を聞いてすごく思ったのが、少し前に、リファラル採用の支援をさせていただいている企業様で、いろんなデータをとっていたんですね。
例えば「入社した直後の人のほうが社員紹介してくれる人の割合が高い」っていうデータがでたり、「各チーム単位でキャンペーンを行った時に、チームリーダーの愛社精神があるかないかでチームメンバーが外部の人をひっぱってくる確率が変わる」という傾向だったり。
いろんなデータがあって、それに紐づいて次の展開を考えて動いていくのですが、一番力を入れないといけないことって社内の啓蒙活動だと感じました。
誰かが紹介してくれたときに、そもそもそれを全社共有メールであったりだとかFacebookグループであったりとかで、「この人がこういう方を紹介してくれました」っていう経過を伝えていくだけで、「社員紹介やってるんだ」とか、「〇〇さん、こういう動きとってるんだ」と認知と評価からくる全体的なモチベーション向上が重要で、結構それをないがしろにしているんですね。
人事から採用に関しての情報を社内共有しないので、みんなが採用に目がいかない。プロジェクトを発足した人の理解度と、そうじゃない人の理解度の違いはかなりあるのに、そこにあまり目がいかないことが多く見受けられます。
宇田川氏:結構人事セクションって閉鎖された空間なんです。
それは全社の個人情報や給与情報、人事評価等も管理しているので、ある程度クローズドの部分があってもいいと思うんですけど、採用に関してはクローズドになっちゃいけないと思うんですよね。
「今どういうオーダーがあって、どの部署が困っていて、どういう仕事なのか」っていうのを人事のほうから公開していく。
「そのテクニックに愛があるのかどうか」は、すごく重要な要素
―今、採用広報、マーケティング、社内を巻き込んでやっていくための調整力というキーワードが出てきましたが、それ以外で人事としてキャッチアップしていかなければいけないっていうものはありますか?
そめひこ氏:僕、メディアにも携わっていたのですごく感じているのが、メディアの世界って変化がものすごく早いんですよ。
1年前とか半年前に流行っていたタイトルがそもそもバズらなくなってきているとか、次々新しいメディアや手法が生まれていく中で、その流れについていくためには既存で成功している方法と、プラスαで新規で新しいトライをしていく二軸をずっと走らせ続けないといけない環境にいたことが、僕は人事でその経験が生きたなと思っています。
採用っていう観点だけで話をすると、僕はそういう新しいトライであったり、市場の変化を見て、既存のやらないといけないワーク、プラスαで新しいことをやり続けるっていう、改善する能力であったり、トライしていくっていう能力がすごく重要だなって思っています。
宇田川氏:私は今人事を1人でやっているので、社内社外問わず一緒に戦う仲間を集めてすり合わせをしていく協力体制づくりが大事だと思っています。
私はこれをチーム諸葛孔明って言っているんですけど。私が1人でダイレクトリクルーティングやってもだめで、私がダイレクトリクルーティングを動かしながら、ブランディングも考えて現場に協力してもらいながら、現場は現場でリファラルが動いている。
社外ではメディアの強みを活かして求人広告で訴求してもらっている、人材紹介では私がダイレクトリクルーティングでカバーできない方々を紹介してくれる。
そう考えると1人じゃ無理だなと思っていて。社内、社外関わらず、ネットマーケティングがどういう人材を必要としていて、どういう人材だったら採用に至るのかということをしっかりと人事がイメージをして伝える、すり合わせをしていくことが大切だと思います。
そめひこ氏:人事側と事業側でのセクショナリズムがあると、リファラルやってもダイレクトやっても人材紹介をやっても何やっても失敗すると思っています。
ここの調整っていうのは重要視してやっていかないといけないことですよね。
宇田川氏:私がすごく感じてるのは例えばリファラルとかダイレクトリクルーティングっていう言葉だけが注目されているなと。
「ちょっと手を付けて、うまくいかないからやめちゃう」じゃなくて、長期的にやらなきゃいけない手法だと思っています。
「この採用本当にうちの会社に合っているのかな、結果が出なかったら、なんで結果が出ないのかな」って振り返りを私は今までずっとやってきたんですね。
リファラルリクルーティング、ダイレクトリクルーティングという言葉は2つしかないけれど、そのやり方は会社の文化やカルチャーに影響されるので、千差万別です。
向いている、向いていないもあるし、試行錯誤しながら自社のやり方をみつけていく。これが正解だなんていうのがないから・・・。
そめひこ氏:そのテクニックに愛があるのかどうかってすごく重要な要素だなと思っていて、愛があれば改善してそのカルチャーにフィットしていくような姿になっていくだろうし、1回これやって、そのテクニックだけ知って、やってみてだめだったら、「このテクニックだめだな」ってなっているのは、やっぱり愛のないやり方だなと思うし、採用も上手くいかないなと思っています。
何か新しい情報を仕入れて、それをそのまま終わらせるんじゃなくて、しっかり愛を持って育てていく、しっかり機能させていくってところまで見ていかないといけないですよね。