「会社に対する愛着心」「従業員自らのやる気」という意味を持つ「従業員エンゲージメント」。
具体的には従業員が自社に対して愛着を持ち、会社の価値観・ビジョンに共感することで、会社の経営・成長に積極的に関わっていこうとする行動のことです。
今回は「従業員エンゲージメント」を高めるためにHRTechの活用を推進している3社の企業から、課題や手法に対してのお話を伺いました。
今西 良光 氏 | 株式会社Emotion Tech 代表取締役
2013年にwizpra(現Emotion Tech)を創業。顧客と従業員の感情を解析し企業の収益や生産性を高めるサービス「Emotion Tech」「Employee Tech」を提供。「Employee Tech」は2018年HRアワード 組織変革・開発部門最優秀賞、HRテクノロジー大賞 労務・福利厚生サービス部門優秀賞をダブル受賞。
野呂 健作 氏 | 株式会社ベネフィット・ワン インセンティブ事業部長
2005年、ベネフィット・ワン入社。
福利厚生の法人営業を経て、公的団体専門の公務グループ長、顧客向け支援サービスのプロジェクトマネージャーを歴任。
2018年4月、社内ポイントサービス「インセンティブ・ポイント」を提供するインセンティブ事業部長に就任。
企業組織活性や定着率向上、販売促進をサポート。
鈴木 貴史氏| 株式会社MyRefer 代表取締役社長 CEO
2012年株式会社インテリジェンス(現パーソル)に入社。
グループ歴代最年少で社内ベンチャー制度「0to1」を通過し、国内初のリファラルリクルーティング事業 MyReferを立ち上げる。9ヶ月で黒字化を実現し社内ベンチャーカンパニーCEOとして事業拡大を牽引。2018年、事業譲渡によりMBOを経て完全独立。
パーソル初となるスピンアウトベンチャー株式会社MyReferを設立、代表取締役に就任。
目次
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。
1. 株式会社Emotion Tech|組織状態を可視化するための重要さ
最初に顧客と従業員の感情を解析し企業の収益や生産性を高めるサービス「Emotion Tech」「Employee Tech」を提供する株式会社Emotion Tech代表取締役の今西良光氏から、組織状態を「正確に」「定常的に」計測し、「打ち手に繋げる」ための手法を伺いました。
1-1. 従業員エンゲージメントの意義
今西氏:我々は、従業員エンゲージメントのことを従業員の方と企業の関係性そのものを表しているものだと考えています。
1-1-1. 従業員エンゲージメントを高めるのがなぜ重要か
なぜ、従業員エンゲージメントを高めるのか重要かということについて、一つ事例をもとに説明したいと思います。
以前、証券会社のクライアントの中で、「なぜ収益性が高い顧客群が取引をしなくなったのか」を調査することがありました。すると、約8割ものお客様が「担当者が辞めたから」ということを理由にあげていたのです。
このように従業員の離職が顧客離れを引き起こし、企業に大きな損失を与えているケースがあります。
従業員エンゲージメントを高めることは定着率向上や、費用削減(採用・研修コスト低下)につながるだけではなく、企業収益の増大に直結されるため、重要とされています。
1-2. 従業員エンゲージメントを計測する
今西氏:ここからは、従業員エンゲージメントをどの様に測っていくことが最適なのかという話に移りたいと思います。大切なのは、「指標を決めましょう」いうことです。
従業員エンゲージメントを計測するためには、離職率・生産性・紹介採用と関連する指標が必要です。
① eNPS℠*について
これまで、よく利用されてきた指標といえば、従業員の総合満足度や、幸福度といったものです。
さまざま指標はありますが、我々が非常に有用な指標だと思っているのは、このeNPSという指標です。
もともと海外ではすでに多くの企業で使われている指標で、eNPS とは、Employee Net Promoter Scoreというスコアの頭文字をとったものです。
平たく言うと、その会社で働くこと、その職場で働くことへのおすすめ度合いを定量化したものです。
アメリカでは究極の質問と言われるほど、非常に簡単であることが特徴です。
質問の仕方と計算方法をご紹介します。
あなたは現在の職場を親しい友人や知人にどの程度おすすめしたいと思いますか?(周囲に転職検討中の方がいると想定します)10段階で評価します。
9点~10点をつけた人は、その職場に対する推奨者。
0点~6点の人は、批判者。
7点~8点は中立者。
② eNPSスコア
仮に推奨者が45%、中立者が35%、批判者が20%いる職場であるとすれば、その職場スコアは、この推奨者の45%という数字から、批判者の20%という数字を引き算した、25という数字になります。
*eNPS℠はベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの役務商標です。
3. 従業員エンゲージメントを分析する
今西氏:次に、出てきたスコアをどう分析するかなのですが、統計解析を用いることが効果的だとされています。
統計解析を用いることで、エンゲージメントの高低を生み出す要因を導き、「何が影響しているか」を統計解析で明らかにします。
どのような項目がエンゲージメントを下げて(上げて)いるのかを導き、最も効果的な改善点を分析することができます。
① 長期勤続者の従業員エンゲージメントがUPした具体事例
ここで、具体例を用いて話をしたいのですが、
ある企業様では、できるだけ長く働いてほしいと考えているにもかかわらず、長期勤続者ほどeNPSが低いという、ちょっと残念な結果になっていました。そこで下記の6つをおこないました。
①長期勤続者だけを分類し、どの要因がeNPSを引き下げているのかを調査
②成長の実感が得られていないという項目が大きくエンゲージメントを引き下げている
③「成長の実感」を高めるために、スキルシートの見直しと運用の構築、それから定期面談と評価の仕組みをセットし改善
④結果的に短期間で、長期勤続者の従業員エンゲージメントがUPした
② 継続的に改善を進める
実際に重要なのは、継続的に見ていくということです。
先ほどの事例の企業様は定点で改善を実施しているために、3ヶ月に1回の頻度でアンケートをおこなわれています。
そして、店舗のマネージャーが分析結果を見て、すぐにその方針をエリアマネージャーと相談して改善策に落としています。
小さなサイクルを店舗サイドでは3ヶ月ごとに、本社サイドでは約6ヶ月ごとで大きな施策を回していく、というこの両輪で、従業員エンゲージメントを改善して売上をアップしています。
4. 株式会社ベネフィット・ワン|従業員エンゲージメントの向上と具体的な手法
次に登壇いただいたのは、社内ポイントサービス「インセンティブ・ポイント」を提供する株式会社ベネフィット・ワンの野呂 健作氏から従業員エンゲージメントの向上と、その具体的な手法についてお話を伺いました。
4-1. 信頼、誇り、連帯感 とエンゲージメント
野呂氏:近年では、「福利厚生がいかに充実しているか」だけでなく、働きがいそのものに対する価値も、従業員から求められるようになってきていると感じています。
働きがいがあるかないかは、従業員エンゲージメントを高めるためにとても大切な指標となります。
毎年「働きがいのある会社」ランキングを発表し、世界60カ国以上で従業員意識調査をおこなっている機関、Great Place to Workでは、「信頼、誇り、連帯感」の3つが社員を取り巻く環境において非常に大きな要素を占めているといわれています。それぞれどんな要素があるのかを説明していきたいと思います。
① 信頼(エンゲージメント)
まず、信頼そのものについては、会社や経営者を信頼できる信用、尊敬、公正といった環境があるか、ということをあらわします。この信頼の有無によってエンゲージメントが大きく左右するのではないかと考えています。
② 誇り(レコグニション)
そして2つ目の「誇り」とは自分自身や仕事そのものに誇りをもつ、自信をもつといった承認欲求のことをあらわします。
FacebookやTwitter、Instagramといったような、SNSもまさに承認欲求の現れです。何かに認められるということに非常に価値が置かれるようになってきました。
③ 連帯感(コミュニケーション)
3つ目が、「連帯感」。一緒に働く仲間といかにコミュニケーションがとれているかということだと思っています。
職場で日ごろの感謝も含めて、「いつも資料を作ってくれてありがとう」や「サポートしてくれてありがとう」というような感謝の気持ちを言葉や態度で伝えることは重要です。
4-2. レコグニション(承認)についての3つのタイプ
野呂氏:つぎに、誇り=レコグニションについて少し深掘りをしてみたいと思います。レコグニションについては大きく3つのタイプがあると言われています。
① 顕彰型
特に高い実績を出した社員を称え、模範として顕彰することです。
これは、社長賞や部長賞などにあてはまり、限られた人のみに与えられる賞であるため、非常に名誉的な賞とされていますね。現金や商品券を差し上げているようなケースが多いと思います。
一方で、限定的な賞であるため、承認効果は大きいですが機会が少なく、周りの人から妬みや不満がうまれやすいです。
② 奨励型
これは、縁の下の力持ちと言われるような目立たないところで、コツコツと頑張ってくれる努力と姿勢を称え奨励する型のことです。
奨励型は、自薦他薦の両方で発掘する場合が多く、GOOD JOBカードやサンクスカードといったものを活用している企業が多いです。
③ HR型
日常的な良い仕事、気配りを称え、職場の人間関係などを潤滑にするイベント型です。HR型はスマイルコンテストなど、ゲーム感覚でおこなっている企業が多いです。
奨励型、HR型は、比較的全社員が対象になるというところが特徴だと思っています。1回の承認効果は大きくないですが、承認機会を積み重ねることで承認効果を拡大することができるというのが大きな特徴です
4-3. 仕組み化の大切さ
次に、エンゲージメントを仕組み化することがいかに大切かを説明したいと思います。
野呂氏:中間管理職のプレイングマネージャーなどは、マネージャー業をやりながら、実働業務そのものもおこなうことが多いです。
実働業務をおこないながらでは、部下が期待するコミュニケーションの量と質までなかなか追いつかない、こういったような課題をよくいただきます。
そういった課題を解決するべく、古くから社内報や社内イベント、あるいは部署レポートや社内研修、さらには運動会といった事業部間のコミュニケーションをはかることができるような事例があります。
しかし、これらは、マンネリ化してしまったり、企画担当だけが苦労したり、というような問題が発生してしまい、均一的なコミュニケーション課題の解決にはなりません。
そこで、まず大切なのは、仕組化することだと私は考えています。
今回は、コミュニケーション活性により働きがいが高まった例を紹介します。
- 社員の顔と仕事がみえる記事を毎月2本、全社員が見られるイントラネットに投稿
- 感謝のメッセージを送り職場全体で称賛し合う(上位者はホームページで公表もされる)
- タウンミーティング(年50回以上開催される社長と社員の双方向コミュニケーションの場)
- 賞与にも連動する価値をもった社内通貨
これらの企業は「働きがいのある会社ランキング」にも選出されており、社内で承認・称賛しあうことや、社内通貨などを活用してコミュニケーションを取り合うということが働きがいを高めることにつながっています。
5. 株式会社MyRefer|社員のファン化を促進してリファラル採用を活性化する
ここでは、リファラル採用のシステムを提供している株式会社MyRefer鈴木 貴史氏に採用マーケットの潮流について、エンゲージメントとリファラル採用の相関関係、社員をファン化させるための社内コミュニケーションについてのお話を伺いました。
5-1. 社員をファン化させるリファラル採用の潮流
鈴木氏:現在の日本は労働市場に多くの課題があります。「少子高齢化により、30年後には労働人口が今より40%減少する」「社会人になったミレニアル世代が2年以内に40%離職する」ということが問題視されています。
労働人口は減り続け採用もできず、採用しても早期に辞めてしまうというような、企業からすると深刻な採用難の時代に突入しているのです。
また、企業と社員の関係性も変化しており、会社に長く居続けるのではなく、友達関係でつながり続けて辞めたあとも仲良くやっていくような関係性が広まっています。
だからこそ、持続可能性が高い戦略的採用手法を選択する企業が増加しています。
そのひとつがリファラル採用です。
例えばメルカリさんやGoogleさんなどの強い組織を作っている企業様でいうと、採用者数の7~8割をリファラルで採用しています。
社員に呼び掛け、友人知人を紹介してもらう採用手法。
リファラルリクルーティングとも呼ばれている。
5-2. エンゲージメントとリファラル採用の相関性
鈴木氏:リファラル採用の最大メリットは、会社の社員の信頼つまりエンゲージメントだと我々は考えています。データでもリファラル採用をおこなうことでエンゲージメントが向上したという実績が、さまざまな企業で出ています。
では、リファラル採用がエンゲージメントとどんな相関関係にあるのかをご説明させていただきます。
エンゲージメントの構成要素は、衛生要因と動機付け要因の2つに分けられます。
福利厚生や給与などの衛生要因(ハード面)の整備は『エンゲージメントを下げない』ために必要な要素であり、『エンゲージメントを高める』うえで重要な要素は、当事者意識や理念浸透などの動機付け要因(ソフト面)です。
ソフト面の整備において、特に理念浸透や当事者意識の醸成に有効な手法がリファラル採用です。
左側:福利厚生・組織風土・給与水準などのハードな側面。
エンゲージメントを下げないための要素。
エンゲージメントを上げるための要素
会社は社員に当事者意識を持ってほしいと言うと思いますが、当事者意識とは経営意識、つまり、経営の3つの資源である【ヒト・モノ・カネ】に対して自分事化する意識です。
リファラル採用は経営資源である【ヒト】、つまり「採用」のミッションに社員が携わり、自分達自身で仲間集めをすることにより当事者意識を醸成する手段です。
リファラル採用を促進させることによって会社を自分事化することができ、理念の浸透や当事者意識の醸成が図れ、社員が会社のファンになり、エンゲージメントが高まっていくのです。
5-3. 社員のファン化を促進してリファラル採用を活性化するためのプロセス
鈴木氏:エンゲージメント向上については人員配置や目標設定、称賛の仕組みや福利厚生などがありますが、これらの制度や仕組みは、結局社員に伝わらなければエンゲージメントとしての意味をなしません。
というのも、人事の皆さまが認識している以上に社員は自社の制度を思ったほど理解していません。
人間は一週間で75%のことを忘れると言われています。
自分自身がやるべきミッションならまだしも、直接的関与が薄い制度情報などは尚更です。
リファラル採用制度についても同様で、インターナルブランディングをいかに工夫するかが重要になります。
そのためには定期的に情報提供をしていき、記憶に刷り込むようにコミュニケーションを取る必要があります。
また、同じ情報配信のみではノイズだと脳が認識して余計に記憶しようと思わなくなるので、情報の角度を変えて継続的に社内マーケティングをすることが重要です。
これらにより制度の認知が浸透し、リファラル採用を同時に促進することでビジョンや理念を浸透させることができエンゲージメントが高まっていきます。
エンゲージメントを上げるのが先か、リファラル採用やるのが先か?
結論、両方同時に採り入れることが非常に重要です。リファラル採用を導入することで社員が当事者意識を感じ、エンゲージメントが高まります。
どれぐらいの社員が紹介しているかということや、なぜ自社をお勧めするのかという声掛け要素を分析することは、エンゲージメント向上の課題を見直すきっかけにもなります。両方のサイクルを同時に回すということが、非常に重要です。
6. 社のサービス紹介
最後に登壇された3社のサービスをご紹介させていただきます。
6-1. 従業員のエンゲージメントを計測したい
運営会社:Emotion Tech
URL:https://www.emotion-tech.co.jp/
6-2. 社内ポイントサービスを導入したい
運営会社:ベネフィット・ワン
URL:https://bs.benefit-one.co.jp/incentivepoint/
6-3. 工数をかけずにリファラル採用をしたい
運営会社:株式会社MyRefer
7. まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は
・「従業員エンゲージメント」の計測分析をおこない、継続的に打ち手に繋げる手法
・「従業員エンゲージメント」の向上と、その具体的な手法
・「従業員エンゲージメント」とリファラル採用の相関関係、社員をファン化させるための社内コミュニケーション
の3点についてお話をお伺いしました。
それぞれのお話をまとめると
どこが課題なのか計測分析をして、課題に対して定期的に施策をおこなう。
社内で承認・称賛し合うこと。
社内のファンをつくり、社内広報及び当事者意識の醸成をすること。
これらが「従業員エンゲージメント」を高める方法だとわかりました。
3社のお話を参考に、課題や手法に対して具体的な実践をしてみてはいかがでしょうか。
本記事が少しでも参考になりましたら幸いです。
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「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。