2018年6月29日に働き方改革関連法が成立しました。労働者の過労働防止や同一労働同一賃金を目指した関連法ですが、企業はこれからどのような対策をおこなえばいいのでしょうか?
今回は、働き方改革関連法によって何が変わったのか、それによって企業はどのような対策・準備をおこなわなければならないかをわかりやすく、いくつかのポイントにまとめてついてご紹介します。
働き方改革が始まり、法改正によって労働時間の客観的な管理や年次有給休暇の管理など、勤怠管理により正確さが求められることとなりました。
しかし、働き方改革とひとことで言っても「何から進めていけばいいのかわからない…」「そもそも、法改正にきちんと対応できているか心配…」とお悩みの人事担当者様も多いのではないでしょうか。
そのような方に向け、働き方改革の内容とその対応方法をまとめた資料を無料で配布しておりますので、法律にあった勤怠管理ができているか確認したい方は、以下のボタンから「中小企業必見!働き方改革に対応した勤怠管理対策」のダウンロードページをご覧ください。
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「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。
1. 労働時間の見直し
法定労働時間が労働基準法32条により定められ、「1日で8時間以内、1週間で40時間以内」と定められています。
しかし、競争社会の中でこの短い労働時間では、競合とのサバイバルに生き残ることは困難です。そこで、労働基準法36条について労使間で事前協議をおこない、所定の時間以内の時間外労働をおこなってもよいと決められています。
それが36(さぶろく)協定と呼ばれるものです。私たち労働者が働ける時間は法定労働時間+36協定で定められた時間外労働の時間ということになります。ここでいう時間外労働とは、残業だけでなく、休日出勤なども含みます。
1-1. 時間外労働の上限規制の見直し
今回、働き方改革法案の可決で注目されているのが時間外労働の上限規制の見直しです。労働者の過労働を防ぐ目的で策定された労働基準法36条ですが、条件によっては大きな抜け穴があり、労働者を十分に守れていませんでした。
労働時間の見直し
時間外労働の上限は以下の表の通りです。
現行 | 可決後 | |
基本 |
45時間/月 360時間/年 |
100時間/月 平均80時間/月 720時間/年 |
特別条項 | 無制限(労使協定次第) | |
罰則 | なし | あり |
<可決前>
時間外労働時間を決めるのは36協定ですが、何時間でも設定できるわけではありません。36協定の中でも時間外労働の上限を規定しています。現行の法律では、1ヶ月で45時間、1年間で360時間を上限としています。
1ヶ月で45時間とは、20日間働くとすると平均2.25時間の残業に相当します。
しかし、36協定には、「特別条項」とよばれる制度があり、36協定届の所定欄に理由と延長時間を記載することで、月に45時間を超える時間外労働が可能となってしまいます。そのため、ここで100時間と書けば、100時間まで時間外労働が可能になります。青天井が可能な制度であることがわかります。
<可決後>
可決後、時間外労働時間の上限が1ヶ月80時間、1年で700時間が上限となりました。1ヶ月で80時間とは、20日働くとして毎日平均で4時間の残業に相当します。
企業が準備しなければいけないこと・やらないといけないこと
大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から適用されるので、それまでに準備を完了させなければいけません。これまでは、時間外労働で36協定を超えてしまっても罰則はありませんでした。
働き方改革法案では、時間外労働の上限を超えると罰則の対象になります。上限を超えないためにも、以下のことをおこなう必要があります。
【適正な労働時間の把握・管理】
- 残業が増えてきたらペースを落とすように指示する
- 1ヶ月の管理ではなく1年という長いスパンでの時間外労働のバランスを調整する
【長時間労働をさせない業務体制】
- これまで一人で時間外労働をおこなってきた業務を分散させる
- 人材の傾斜投入などで負荷調整をおこなう
- テクノロジーを導入し、業務の工数削減に取り組む
1-2. 多様な働き方
多様で柔軟な働き方を実現するために、フレックスタイム制についても制度の見直しがおこなわれました。また、他の人にはできない高度技術をもった人向けの高度プロフェッショナル制度が新設されました。
フレックスタイム
フレックスタイム制の変更は以下の表の通りです。
現行 | 可決後 | |
清算期間の上限 | 1ヶ月 | 3ヶ月 |
<可決前>
これまでのフレックスタイムは1ヶ月以内に清算が必要でした。1ヶ月に設定された就業必要時間が160時間の場合、最初の15日間で100時間働けば、1ヶ月の残り15日間で60時間の労働時間にしなければなりません。この制度では、忙しいタイミングが1ヶ月以上続くことが多い場合は、調整できないことが多かったという点です。月の前半が忙しいからと多く働き、月の後半は働く時間を減らすという作戦でも最終的には月末まで忙しい時期が終わらず、結果として大幅な時間外労働になってしまいます。
<可決後>
今回の法案では3ヶ月以内に清算できればよいとなっています。3ヶ月も連続で忙しいということは少ないので、就業時間の調整ができ、本来のフレックスタイム制の良さを発揮できることでしょう。
企業が準備しなければいけないこと・やらないといけないこと
多くの企業は勤怠管理の効率化を考慮して勤怠管理システムを採用しています。今回の法案によってフレックスタイム制を採用している企業は清算期間を1ヶ月から3ヶ月に修正をしなければなりません。多くの企業が同時にソフトウェアのバージョンアップを求めることになり、混乱もしくは、順番待ちになってしまうでしょう。
早めに勤怠管理システムの運用会社にバージョンアップの依頼をしておき、必要なタイミングでシステムを更新できる準備をしておきましょう。
高度プロフェッショナルの設定
特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)が創設されます。
高度プロフェッショナル制度には、職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が高度な専門的知識を必要とするなどの業務に従事する場合に、年間104日の休日を確実に取得させることなどの健康確保処置を講じることです。本人の同意や委員会の決議等を要件として労働時間、休日、深夜の割り増し賃金等の規定を適用除外にする内容が盛り込まれています。
さらに、労働安全衛生法の改正により、制度対象者は在社時間などが一定時間を超える場合は、必ず医師による面接指導を受けなければなりません。
企業が準備しなければいけないこと・やらないといけないこと
企業は自社で働いている高度プロフェッショナル人材の選定をしておく必要があります。他の人にはできない高度技術をもっていて、年収が一定以上になっていなければ、他の人と同じように時間外労働に関する制限が入り、破ると罰則を受けることになります。
必要があれば、年収をあげて高度プロフェッショナル認定をしておく必要があります。また、医師面接を受ける必要があるので、産業医の確保も必要になります。
本章で解説した働き方改革関連法による変更点に関しましては、適切な対応ができていない場合に罰則が生じてしまう可能性があるため注意が必要です。
当サイトでは、働き方改革の内容や直面しうる課題、その解決方法を解説した資料を無料で配布しております。
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2. 退勤と出勤のインターバルの設定
前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければなりません。ただし、「努めなければならない」といった言葉からわかるように、強制力があるというよりは、「良い方向なのでそうしましょう」という弱い印象を受けてしまいます。
企業が準備をしておかなければいけないこと、やらないといけないこと
優先順位としては少し低めかもしれません。まずは社内でルール(就業時刻から翌日の始業時刻までに空けないといけない時間)づくりが必要です。
3. 産業医の機能強化
産業医の従業員に対する健康維持をするための対応が追加されました。
企業が準備をしておかなければいけないこと、やらないといけないこと
産業医の選任義務がある労働者数50人以上の職場において、事業者は衛生委員会に対して産業医がおこなった労働者の健康管理等に関する勧告の内容等を報告しなければなりません。また、産業医に対しては産業保健義務を適切におこなうために必要な情報を提供しなければなりません。
4. 正規と非正規の待遇差の解消
「同一労働同一賃金」とは、同じ内容の仕事に対しては給与水準も同じにすることです。同じ内容の仕事をしているのに、雇用形態によって待遇が違うと労働意欲を失い、生産性も下がってしまいます。
特に正規雇用者と非正規雇用者の不合理な待遇差が注目されており、厚生労働省はこの待遇差の解消を目指しています。
育児や介護の負担を抱える女性や高齢者を正規雇用することには限界があるので、どうしても非正規雇用にならざるを得ない状態にあります。
しかし、欧米諸国の場合は、非正規雇用の給与水準が正規雇用の約8割といわれているのに対して、日本では約6割と世界的に見て低い水準になっています。そのため、日本も欧米と同じ8割を目標にしています。
今回の働き方改革法案の可決で、非正規雇用者に対して、待遇が決定した経緯を説明しなければいけません。給与や手当、休日などそれぞれについて適切かどうかを判断します。不合理な待遇を受けた場合は、行政が介入するようになります。
企業が準備しないといけないこと、やらないといけないこと
待遇格差の理由を説明することが義務化されるので、同一内容の仕事をしている人同士で格差がある場合は、その理由付けを明確にする必要があります。労働者から説明を求められたときに説明することができなければいけません。
最近はこの格差が悪しき文化であると、度々報道されており、今回の働き方改革法案をきっかけにこれまで不満をもっていた労働者から説明を求められる可能性が高いです。またそこで納得のできる説明ができなかった場合には行政(と一緒に報道も入ってくることでしょう)が入り、企業的に困った状況に陥ってしまう可能性があるので注意が必要です。
5. 行政による履行確保措置および、行政ADRの整備
不合理な待遇差を解消するための義務(同一労働同一賃金など、均等待遇)や労働者に対する待遇の説明義務について、行政による履行確保措置および行政ADRが整備されます。ADRは、 Alternative Dispute Resolutionの略で、日本語訳にすると裁判外紛争解決手続きのことです。
言葉の通り、待遇に対して不合理な格差がある場合、裁判ではなく、行政を通して説明を求めることができる制度になります。
企業が準備しないといけないこと、やらないといけないこと
ADRを求められると、それは企業の信頼性について疑問を投げかけることにつながってしまうので、極力避けた方がいいでしょう。特に待遇差に対して敏感になりつつあるので、行政ADRが実施されたとなると、報道される可能性も高く、企業のブランドに傷がつく可能性があります。
そうならないためにも、待遇差が発生する場合は、説明をおこなえる準備が必要です。
6. まとめ
働き方改革関連法の成立により、時間外労働の時間上限値が明確になりました。これまでのルールでは罰則がなかったことや、抜け道(特別条項)を使うことで無制限となっていましたが、必ず制限が設けられるようになったので注意が必要です。
ただし、高度プロフェッショナル制度にみられるように特定の専門性の高い人に対しては、高い給与を与えることと定期的な産業医検診を受けることを前提に、時間外労働の上限が適用されない特殊なケースが残ります。企業としても過労働による自殺や労働意欲低下による出社拒否などは会社の雰囲気を悪くして生産性を下げてしまいます。
そうならないためにも今回可決された働き方改革関連法をうまく利用して、事業者も労働者も納得した状態で、就業し、生産性を高めることで会社の利益、強いては個人への報酬アップを目指してwin-winの関係になれるように努力が必要です。
働き方改革によって働く時間が減る方向にあるので、いかに効率よく業務をこなすかが重要になります。世の中には便利なシステムが多数あり、勤怠管理システムなど利用できるものを利用し、人はコア業務に集中できるような会社づくりが求められています。
働き方改革が始まり、法改正によって労働時間の客観的な管理や年次有給休暇の管理など、勤怠管理により正確さが求められることとなりました。
しかし、働き方改革とひとことで言っても「何から進めていけばいいのかわからない…」「そもそも、法改正にきちんと対応できているか心配…」とお悩みの人事担当者様も多いのではないでしょうか。
そのような方に向け、働き方改革の内容とその対応方法をまとめた資料を無料で配布しておりますので、法律にあった勤怠管理ができているか確認したい方は、以下のボタンから「中小企業必見!働き方改革に対応した勤怠管理対策」のダウンロードページをご覧ください。
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本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。