近年、日本において1on1ミーティングが注目されていますが、サイバーエージェントでは2005年あたりから、上司・部下による「月イチ面談」を定期的に実施しているとのこと。
そこで今回は、サイバーエージェントが実施している「月イチ面談」とはどのようなものか、同社の取締役人事統括である曽山さんにお伺いしました。
本記事では曽山さんのお話をもとに、月イチ面談を実施した背景とその方法、そして結果としてどのような効果があったのかをまとめています。
目次
人事評価に対する納得度をあげるために「月イチ面談」を実施
―サイバーエージェントではなぜ「月イチ面談」を実施するようになったのでしょうか?
曽山氏:当社の月イチ面談は、2005年くらいから「推奨」という形で実施しています。これは強制ではありません。面談することを強制しても意味がないと思ったのであくまでも推奨としています。
月イチ面談を実施するようになった背景としては、当時、評価制度をバージョンアップしようとしたことがきっかけです。
そのためにまず、評価の納得度が高い部署と低い部署での違いを調べました。そうしたところ、納得度が高い部署は、週に1回、月に1回など、上司と部下が良く対話していることが分かったのです。
良い悪いをきちんと定期的に振り返っている上で評価しているため、納得感が全く違うのです。一方で、評価に不満がある部署も当然あって、そのような部署は、上司・部下で全く対話をしていませんでした。
普段から目標の進捗についての確認をおこなったり、良い所を認めてあげたりとすることでそのメンバーの自信につながります。
一方で、「やり方や向かっている方向がダメだったらダメと早く言って欲しい」という声もあり、フィードバックは良いも悪いも早く欲しくて当然と、そこから月イチ面談を推奨するようになりました。
―評価の納得度が高い部署と、不満がある部署を調べる際、どのように調査されたのですか?
曽山氏:実は、不満がある部署から人事に声がきていました。当時、いくつかの部署から「曽山さん聞いてください。評価や査定に不満があります」という声がきました。
一方で、それ以外の部署からは全然そういった声があがってきませんでした。そこで、声があがって来なかった部署のメンバーに話を聞いたら、みんな納得感を持って取り組んでいたのです。
月イチ面談で聞くことは「先月、今月、中長期」の3つ
―実際に月イチ面談をはじめて実施する際、どのように取り組まれていったのでしょうか。
曽山氏:最初はマネージャーの方々に「是非、月イチ面談をやってください」と声をかけて推奨していきました。そしたら、みんなから「面談のやり方が分からない」という声が出たんですね。
そこからどうやって面談をしていくべきかについて、マネージャーに対し勉強会を実施するようにしました。今は、「3つのポイントを聞いてください」と言っています。
【月イチ面談で聞くべき3つのポイント】
- 先月の成果に対する振り返り
- 今月どうするのかという議論
- 中長期のキャリアの話
「先月・今月・中長期」と、この3つだけ聞いてくれればOKとしています。ちなみに、中長期の話はそんなにしょっちゅう変わるものでもないので、「中長期は毎月聞かなくても良い」と言っています。
―それ以外に、勉強会では何かされたのでしょうか?
曽山氏:先ほどの3つの項目を伝えた上で、ロールプレイングをしてもらいました。3人1組で上司役・部下役・オブザーバー役で5分間、面談をしていきます。
そして、終わった後にオブザーバーからフィードバックをしてもらいます。その時に、良い所と、課題点を必ず言ってもらうようにしています。すると、結構さまざまなフィードバックが出てきます。
たとえば、「すごく共感度高く相槌を打っているところがよかった」「メモを取っている姿勢が上司役としてはとっても安心できた」というポジティブなものから、「質問の仕方がちょっと詰めているようで少し怖い感じでした」というネガティブなものまで、率直にフィードバックされるので、好評です。
私から伝えているのは、「とにかく話を聞いてくれ」ということ。マネージャーによっては、ずっとしゃべってしまう人もいるんですよ。
ですので、必ず聞く姿勢を持って欲しいと。その上で3つの項目を必ず聞いてくれていれば、そこまで細かいことは言っていません。
―面談の時間は決まっているのですか?
曽山氏:だいたい20分から30分で充分。15分でも良いと話しています。
月イチ面談で「びっくり退職」が減った
―月イチ面談を実施した結果、何が変わったのかお伺いさせてください。
曽山氏:上司・部下、お互いから「安心できる」という声がすごく出てきました。上司・部下が対話をすることで、成果に対する合意ができ、何に対して注力すべきなのかが明確になるんです。
お互いに意見を擦り合わせていき、合意形成を図ることはすごく大事で、そのために月イチ面談が貢献してくれています。
また、離職率が大きく下がりました。もちろん月イチ面談以外にも、離職率低下のためにさまざまな施策をしていたのですが、月イチ面談を取り入れてから数年で一気に離職率が下がった印象ですね。
特に、「びっくり退職」が限りなく減ったんです。
―びっくり退職とはどのようなものですか?
曽山氏:これはもう言葉の通りです。たとえば、Aさんの退職の話を聞いた時に「えっ?」と自分の口から出るものはびっくり退職です。「えっ?」といったような驚きの声が出る場合はびっくり退職だと定義しています。
「退職するかもな」というのは、月イチ面談をすると、事前になんとなく分かるんです。新しいチャレンジのため退職という選択もあるので、退職自体が悪いわけではありません。
上司と部下で、直接的な相談じゃないにしても「何か悩んでそうだな」と退職懸念が事前に分かっていて、そのフォローができることがすごく大事なポイントです。
事前に分かっていて対応ができていれば組織の設計も準備できますし、仮に本人が退職しても、その後の関係性も良好なものになります。
もちろん、今でもゼロ化できているわけではありませんが、月イチ面談によって、びっくり退職、びっくり異動は明らかに減りましたね。
―逆にびっくり退職になってしまうケースはどのようなものですか?
曽山氏:一番は、上司と部下の相性が合わないケースですね。それは上司・部下どちらかが悪いということではなく、配置の問題だと思っています。
相性が良くないと信頼関係も構築しにくいため、結果的に悩んだ末に退職を決意して、そこではじめて退職の旨を明確に発言するというケースです。
また、過去私が人事部長になった時に、退職面談で多かったのが「私は前からサインを出していました」という声です。
その声は、「相談に乗ってくれていたら私はもっと頑張れたのに・・・」というニュアンスが入っています。「話を聞いてくれたら、私はもっと頑張るつもりがあった、だから何回もサインも出していたのに聞いてくれなかった」というものですね。
しかし、事業部サイドのマネージャーに話を聞いても、「全然知らなかった」という反応が大半だったんです。
―なるほど。実際にどのような形でそういったサインが出ているのでしょうか?
曽山氏:よくあるのが、「色々考えてます」というセリフです。要は、悩んでいることを間接的に言うケースが多いんですよね。
「最近キャリアとかどう考えてるの?」と聞くと、「色々と考えてます」「壁にぶち当たってます」と、笑顔でさらっと言われたりしますね。
―それだとなかなか気づきにくいですよね。
曽山氏:気づきにくいです。非常に難しいんですよね。だからこそ、月イチ面談を推奨したいのは、定期的に話すことによって、顔と表情と出てくる言葉の違いに上司が気づけるんです。
「ポジティブだった時からなんか違う」という違和感を持てるようになり、定点で見ることによって違和感に気づける可能性が高まるんです。
―普段話しているからこそ、違いに気づけるということですね。
曽山氏:そうです。ですので、びっくり退職を防ぐために月イチ面談をするという手段論ではなく、月イチ面談を通して、普段からメンバーをよく見ておくことが一番の大前提なんです。
ただ、「よく見る」というこの4文字。人によっては、よく見るとはどういうことか分からないという声もあります。
そのため、最低限でも月に1回くらいは面談をして、コンディションの変化がないかを見ていくことを勧めています。食事に行ったり、週一でミーティングしたり、ランチに行ったり、何でも良いと思います。
「部署の定例ミーティングで5人の顔を見てます」と言っても、ほとんど分かりません。業務上のミーティングでは分かりにくいんです。その人自身にしっかりと向き合った、その人自身のための時間を取るということが非常に重要なポイントです。
―びっくり退職をその場で防止できても、またそこから定着、活性につながるものなのでしょうか。
曽山氏:その後の定着に関しては、マネージャーの対応が重要です。この対応次第で大きく、2つのケースに分かれてしまいます。
1つは、退職となってしまうのであれば、部署異動を勧めるといった、何かしら仕事の変化をサポートする方が良いと考え、提案してくれるケースです。全社視点での組織貢献を考えてくれているマネージャーはそこで動いてくれます。
もう一方のケースは、「自分の部署から退職を出したくない」という想いがあってか、問題になっている状況を悪意はないにしても、責任感からその場で収めようとしてしまうケースです。
これを私は「偽善的責任感」とよく言うのですが、「自分がこのメンバーと対話をしてなんとか収めなければならない」という、貢献意識の勘違いが起きてしまいます。
たとえば、「部署異動がしたい」と上司と対話をして、上司が面談で毎月粘ってしまうケース。「まぁまぁまぁ」となだめて、自分の組織に残すとすると、最終的にどうなるか。部下の最後の抵抗は「退職」になってしまうんです
最終的な意思決定が、覚悟を決めて退職するとなってしまうと、もうどうしようもありません。
―その他に、退職の傾向になり得るサインはありますか?
曽山氏:やはり、さまざまなことに対して前向きでなくなっていくように思います。たとえば、いつもは参加していた飲み会などのイベントに参加しなくなるということは、あるかもしれません。
自分がチームの一員として所属することに対して、やっぱり悩みを持っているため、積極的になれないのです。
「GEPPO」「3者面談」もびっくり退職の減少に貢献している
―御社であれば、GEPPOの活用もびっくり退職を減らすことに貢献できるのではないでしょうか?
曽山氏:おっしゃる通りです。びっくり退職を防ぐための効果的な方法として、当社ではGEPPOが効いています。GEPPOのように定期的にアンケートを取ることはお勧めですね。
GEPPOでは、毎月メンバーのコンディションを晴れ・くもり・雨の5段階天気で聞くことと、フリーコメントで相談したいことがあれば、そのコメントが書けるようになっていることが特長です。
そしてその内容は、社内ヘッドハンターチームと役員しか見ることができないルールになっています。
上司や部署とは切り離した全社資産として、メンバーのキャリアを最大限に活かせるように運営しています。面談だけでは拾えない声をGEPPOで拾えることは大きいです。
また、面談において、直属の上司だけでなく、さらにその上の上司も加えて3人で面談を実施することは、1つやり方としてあると思います。
―なるほど、上司と1対1で面談をして素直に話せないこともありますね。
曽山氏:そう、なかなか面と向かって話せないこともあるじゃないですか。ですので、直属の上司以外のところにも、上手く声が集まるような仕組みをつくるといいですね。
そこで、一番上の上司がある意味黙ってるくらいで、上司と部下、お互いの意見をフェアにぶつけさせる。そういう3者ミーティングもケースとしてあります。これは役員が参加しているケースもあります。
あと、各部署で実施している施策の中で参考になったのが、マネージャーとその上のシニアマネージャーで、その部門のメンバーについての議論をおこなうことです。
月に1回、週に1回、各メンバーのコンディションについて議論をして、それぞれの状況を把握していくこともお勧めです。