これまで複数のプロダクトやメディアを立ち上げた後、現在はWebマーケティングのノウハウが学べるカリキュラムやニュースが掲載されているメディア「ferret」を立ち上げ、今も編集長としてメディアの急成長を牽引している、株式会社ベーシックの飯髙 悠太氏。
またIT/Web系ベンチャーで事業、人事の責任者、執行役員としてのキャリアを積み、Web集客、成果獲得並びに採用コンサルティング会社として独立した株式会社MOLTSの寺倉そめひこ氏。
今回は両名をお呼びし、IT/Webベンチャーの事業責任者だからこそわかる事業と人事のことについて語っていただきました。
飯髙 悠太(いいたか ゆうた)|株式会社ベーシック 執行役員/ferret編集長
寺倉そめひこ(てらくら そめひこ)|株式会社MOLTS 代表取締役
目次
二人の体験「1があったから、10を作るために必死に突っ走ってきた」
そめひこ氏:飯髙さんと初めてお会いしたのって、1年くらい前でしたよね。今では何か相談あったら連絡しちゃう兄貴的存在だと思ってるし、気づいたら仲良くしてますね。
飯髙氏:え、そういう仲良しみたいにみせるのやめてもらってもいい?
そめひこ氏:おい(笑)ferretのことはもちろん今も、もっと前からも知っていました。ただ飯髙さんがどのようなことをされてきたのかあまり聞いたことがなかったのですが、そこについて少し伺ってもよろしいですか?
その前に、1月付けで執行役員になられましたね。お祝い事でうれしくて電話したら、飯髙さんはいたって普通な対応でしたね。
飯髙氏:うん、その時眠かったしね(笑)
僕は2014年の4月ベーシックにJOINしました。当時は「ferret PLUS」というSEM(検索エンジンマーケティング )のツールや、SEO順位チェックツール、キーワードアドバイスツールなどを提供するサービスを7年間くらい継続していました。ただ時代の流れもあり、プラットフォーマーもそういったツールを提供するようになったので、ちょうどツールからメディアにピポットするタイミング。
また「ベーシック社として世の中にマーケティングを教えていく、学んでもらえるようなメディアをつくりたい」という構想がもともとあり、僕が入ったのはその実現に向けて着手しようと動きはじめたときでした。
そこに編集長という立場でJOINし、入社して5ヶ月後にリリース。そこから一気に展開し、4ヶ月で60万、リリースちょうど2年の2016年10月時点で月間250万PV、会員数33.5万人まで成長しました。
ただPV数って対した指標じゃないんですよね。小手先の技術でどうにかできることもあるし。ferretで描くメディアのあり方って「狭く、深い」なんです。
また、自社サービスのferret Oneへの送客も役割としてあるので、そこの調整も重要です。編集長という立場なので、もちろん編集をすることもありますが、メインはメディア事業をどう成長させるか、どのような組織を作るかなどをやっていますね。
そめひこ氏:結構似ているところはありますね。
僕は今自分の会社をやっていますが、26歳で前職先のIT/Web界隈で既に有名になっていた自社メディア事業の責任者をさせていただきました。当時ほぼ収益がなかったのですが、目標数値を組み立てて、その数値に合わせて事業を、そしてメディアを成長させるためにどうしたらいいのかということを考えて、採用からマネジメント、組織体制の構築等を行っていました。
目標数値が足りないときは事業を作ったり、商材を作ったりなど。メディアの成長、収益拡大の二点で、メンバーと一緒にグロースさせてきました。
ただ僕自身未経験の業界でしたので、本当に手探りの中で「なんでメディアって伸びるの?」「SEOってなに?」「アナリティクスってあるんだ」「採用って何を使えばいいの?」みたいな形で、当時のメンバー、まあ今もそうですが凄く迷惑をかけていましたね。
その後、人事の責任者になりました。
飯髙氏:勝手に喋ってるけど、聞いてないよ?
そめひこ氏:いや、対談にはこういうの大事なんですよ(笑)。
組織作りで大切にしたことは「意思決定の流れを調整する」
そめひこ氏:最初に編集長に就任されて、特に注力されたことってあります?皆にビジョンを語ったとか、面談をしたとか。
飯髙氏:もともとferretには責任者が僕を含めて3人いたんですね。担当役員と、サービスの責任者と、編集長の僕で。二人とも優秀な方だったんですが、最終的に僕がferretのトップになりました。
それは、僕が凄く優秀だということではなく、入社した理由がferretを作るということでしたし、やりたい気持ちが誰よりも強かったというのが一つあります。
もう一つが、最初から3人が決めていくスタイルをとると結果として意思決定が遅くなったり、思っていたものとは違うものが出来上がったりしてしまうケースって往々にしてあると思っていまして。事実、入社当時のferretは構想から離れているところが多々見えたんですよね。
意思決定をきちんと統一していきましょう、そしてそれには一番やりたい、そして当時唯一メディアの立ち上げた経験のあった僕が最適だと思い社長に直談判して納得してもらいました。それは、自分がというよりも、ferretがよくなるための提案でした。
そめひこ氏:それ凄くわかります。意思決定のルートをどう作るのかということはかなりこだわっていました。
例えば経営者から現場に指示を出すときは、必ず事業責任者の僕に「許可を得てください」と口酸っぱく言っていました。経営者の一言は、どうあがいても当時自分よりも影響力があって、力強かったんですね。だから、何も伝えてなければ部下は一言経営者が声をかけるだけでやることを変えてしまうんです。優先順位を変えてしまうんですね。
でも事業を任されていて、「こうだ」と思ったことを形にしていきます。もちろん認識合わせをしていきますし、アドバイスは受けますし、影響力を高めてもいく努力をしていくわけですが、勝手に上に動かれると組織としてコントロールできないことが増えていき、責任の所在が自分自身見えなくなっていきます。責任感が薄れること、これは事業責任者にとって一番ダメなことですね。そうなったら、いつまでも上が責任感をもって進行しないといけなくなるので。
だから、意思決定をどう整理していくのかは、当時ヒエラルキーのある組織作りをしていた僕にとってかなり重要なことでした。
3名がトップだと、責任の所在がどこにあるのかが不明瞭になったり、またチームがバラバラになったり、役割分担が明確にできていないとしんどいですよね。役割分担も、結構難しいと思いますし。
飯髙氏:意思決定の整理は蔑ろにされがちな箇所で、いろいろと組織にも形があるから難しいですけれど、まずは誰がトップで、どういう責任範囲で、どう組織として機能させようとしているのかは大事だと思いますね。組織がまとまった時は、本当に一気に事業が成長していくことがわかりますからね。
ベクトルの向きを合わせるために「語る、見せる、時にはバスから降りてもらい、涙する」
そめひこ氏:組織作りの点で、皆が同じ方向をみたり、同じ熱量になったりしたときは一気に前に進みますよね。人がたくさん集まったグループではだめで、ベクトルの向きを少しずつ合わせないといけない、それは機能的にも感情的にも。飯髙さんはどうやって合わせていくとかございますか?
飯髙氏:うーん、究極どれだけの熱量を持つかだと思います。
僕は新規事業を立ち上げるとなったら「身を粉にして死ぬほど頑張らないといけない」と考えていて。入社した理由が「ferretをつくる」だったので、寝る間もなく一気に進めていこうと考えていました。ただ、入社した時にいたferretのメンバーは、今でこそ違えど当時は「ただferretやるから集まってと呼ばれたメンバー」でしかない印象でした。今から考えれば至極当たり前なのですが、その熱量や方向性のギャップに苦しみました。
それをどう解決していったのか、というと机の上で考えても意味がなく、もう語り続けるしかないと思っています。それも、ただ語るだけではなく、納得してもらうまでとことん話す。
よく「仕組みを」とか、「制度を」とかという話はあると思います。もちろんそれも大事だとは思うのですが、運用コストがかかったり、浸透するまでに時間がかかったり、機能するのが感情的な部分ではなかったりなどがありますよね。
当たり前ですが事業を作っている身としてはもう動き出して必死なわけですから「今、どうベクトルを合わせて、強固な組織にしていくのか」を考えなければならない。そういう時はその場で「語る」「納得してもらう」が一番良い手段だなと。
そして、やっぱり熱量。
そめひこ氏:飯髙さん、そんな熱血キャラでしたっけ(笑)
あとは、反乱分子にどう対応するか。いきなり入っていったら自身が反乱分子の可能性もありますが、そうは言っても前に進めなければならないし、反乱ではなくパートナーになってもらうことでより前に進んでいけます。例えば急な役職の変更などで結構起こりますね。
そういう時は見せることが必要な相手もいると思っています。圧倒的な結果を残して背中を見せる。「俺の方が凄いだろう」という見せ方が必要な場合もありますし、「これは無理ですよ」「そんなんやっても意味がないですよ」「あまりやりたくないですそれ」みたい言葉に対して、「こうすればできたよ」「意味があったよ」「少し形にしてみたけれどこれはやりたいことと繋がっていない?」「これかなり楽しいよ!」というふうに姿勢を見せていくことで統率を図ることもありました。
ベクトルの向きが合わないな、と思った時の多くに反乱分子の存在があります。もちろんそうじゃないケースもありますが。反乱分子の多くは何か「気に入らない」という感情が優先されがちで「不満」があります。組織として声を傾けないといけない不満もあれば、ただただ不満を言われるケースもあります。「不満を解消し続けたあげく退職された」ということは過去何度か経験してきました。不満は言い訳や愚痴につながりがちで、語ることでなんとか話を聞いてもらえることもあれば、その人の言い訳の理論武装してくることもあります。それはもう、姿を見せなければいけないなと。
飯髙氏:しゃべってるテキスト考えてたら、漢字が多そうで頭に入らなかった。
そめひこ氏:いや、あんた編集長でしょ(笑)
飯髙氏:でもほんと大事ですよね。ただ僕が少し違うのは、語っても、見せても、同じベクトルの向きにならない時もあります。そういう場合は、ferretというバスから降りてもらうこともありました。
それはferretのために、というところももちろんありますが、その人のためにもならないと思うからです。やはり、どんな人でも、同じベクトルの向きのメンバーと走っていた方が楽しいだろうし、充実するだろうなと思っています。事実として、転職活動をサポートしたこともありました(笑)そういう人でも、今も飲みに行く人もいます。
あと、トップという立場でありながらちょっとうまくいかないことがあった時期があったんです。簡単に説明すると立て続けにトラブルがでちゃいまして。チーム全員集まってもらい、素直に謝ったことがありました。
その時に、メンバーから「いやいや、全然ですよ」「そんなことで落ち込まないでくださいよ」って言われた時には、正直ちょっと泣きました。同時にメンバーがちゃんとferretと向き合ってくれてるって思えてうれしくて。だから今後は何かあったら泣こうかなって思ってます。
そめひこ氏:それ言ったら効果ないっすよ。
採用は状況によって全く違う「はい!っといって突っ走る人が欲しかった」
そめひこ氏:様々な企業の採用のお手伝いをさせていただくことがありまして。その時に人事の方に「もっと事業部の人と対話しましょう」と言っています。事業を行っていく上で、求人票があっていない、求職者のターゲットユーザーがあっていないことが往々にしてあります。
例えば、昔事業を任されたばかりの時は、前提はあったとしてもとにかく「言われたことに対して「はい!」と言って全力で突っ走ってくれる人が欲しい」と思うこともありました。考えていることを最短ルートで全力で形にしてくれる人が欲しいと。その上で、スキルがある人がいたらいいなと。でも事業が成長していくにつれて、よりスキルを重要視することが必然的に出てきました。
カルチャーなどもそうですが、事業のフェーズによっても、やっぱり全く違うんですね、今ジョインしてほしい人の像が。それはベンチャーでまだ事業が成り立っていなく、仕組みがなく、採用も自らがやっていい状態だったからこそ得られた考え方だとは思うのですが、本当に思っている組織100%を作ろうとしたら欲しい人材像はフェーズによって全く違う。
事業を作る人は、そのフィット感を求めていて。そこが少しズレてしまって流されて採用すると、新しく入ってきた人に対する「愛」が薄れてしまう。
飯髙氏:それは、まさにだね。結構見失いがちになってしまうことだとも思っていて。
例えば会社でディレクターを雇おう、5つの事業で合計5名採用しよう、となった時に作られる求人票の数は多くの場合が1つだと思います。でも本当は5つ作るべきなんですよね、それぞれ欲しい人は違うので。もちろん、エントリーしてきたユーザーから振り分けていくなどはあると思うんですが、スキルよりもプライオリティが高い項目があるのであれば、ディレクターという括りではなく、例えば「数字を見るとワクワクしちゃう人」みたいな職種を作って求人出した方がいい。
でも、求人票ひとつ作ること自体が大変ということもありますし、「スキルで人を絞る」「学歴や学校で人を絞る」ということがやはり選考しやすく、そちらに依存してしまうんですよね。
そめひこ氏:ドヤってその例え話ふきました。よくわからないし(笑)
性格や人間性は、一度会ってみないとわからないところと決めて、会っていくしかない。だからこそ、社員紹介採用など、すでに知り合っていた人からの採用はありだなと思います。
飯髙氏:本当に人が欲しいとか、いい人がいた場合は、どうしても周りを見ますよね。知っている人の採用やそういった人に紹介してもらう人ほど、どんぴしゃりなものはないですからね。
人事には経営者や同僚とは違う「相談できる相手」であって欲しい
そめひこ氏:結構採用に関しても組織に対しても、人事が考えている領域とかぶる時があるかと思います。逆に聞いてみたいのですが、第一線を走られている事業責任者として、人事に期待することってありますか?
飯髙氏:人事と領域が被らないようにしているところもあれば、被っているところもありますね。採用は被っているところもあって。
被っていない領域に関してはよくわからないところも正直ありますが、会社の骨格を支えてくれているということは理解しています。逆に被る領域で、プラスして期待することがあるとするなら、それは「事業のことをより理解してほしい」ということでしょうか。
どれくらいなのかというと、戦っている市場規模やチーム、メンバー個々人の状態の把握、収支状況くらいまでは抑えてもらえると大変ありがたいです。
シンプルに言うと、「人事領域に対してもっと相談できる相手」であってほしいと思っています。事業を継続して育てていこうとすると、不安がチームを渦巻いたり、個人の状態がよくないことが続いたり、組織に対して手探りにしか回答が出せない時などがどうしても出てきます。
そういう時に、自身の迷いに対して助言をもらったり、状態に気づいてメンバーと話してもらったり、採用や組織設計にアドバイスをもらったりできるパートナーになってほしいというところはあります。それでいうと、うちの人事部長って僕が入社した時のサービス責任者で、くだらない話も聞いてくれるし、すごく良い関係だと思ってます。あっちからしたら面倒な奴って思われてそうですが(笑)
そめひこ氏:相談する相手は、経営者であったり、他の同じ境遇の人であったりするケースは多いですね。確かにそうなると、同じ状態を経験していたり、状況を知ってくれていたりしないと中々話せないことはありますね。
飯髙氏:そのために事業側はもっと人事を巻き込んで対話しながら前に進まないといけないと思っています。
また、人事からはもっと生きた情報を提供してほしいなというところはあります。意思決定していかないといけないことは毎日たくさんありますから、その意思決定をより有意義なものにしていくためのデータがほしいですね。
例えば採用でいうと、他事業部と一緒に募集されている状態から個別の募集に切り替えるとなった時、適切な媒体やアプローチ方法がわかる過去データを人事から提供してもらえれば、自分たちで動ける部分はありますよね。
他にもいくつかあるのですが、意思決定するために必要なデータが欲しいと思うことは常々ありますね。
そめひこ氏:もともと人事部がなかった時に事業責任者をやっていましたが、そりゃ大変でした。最終的に責任を背負っているのは自分でしかなく、最後に頼るのは自分でしかない。だから、最後は自分が動く。でもその時に、データが揃っていればとにかく結果を出すために最短ルートを走れますし、トライ&エラーの数も少なく前に突っ走ることができますね。
でも、きちんと事業側と人事側で語り合う場って話を聞いているとあまりない気がします。事業側も人事側も経験してきて思ったことは、それぞれやっていることが全く違いますが、当たり前ですがそれぞれの領域において互いにプロフェッショナルであり、会社としてどちらもなくてはならない存在であるということです。その両側が相互にコミュニケーションをとることで、組織も採用ももっと企業として有機的に機能していくと思います。
先ほども簡単にお話しましたが、事業責任者がコミュニケーションラインを整えるために頭抱えているとか、ある人事の方とお話をしていたらピンとこないことがあって。もちろんそれが全てではないですし、最適解ではないかもしれませんが、ピンっときた方が人事として、組織作りを考えたり、アドバイスするときにも役に立ちますね。
そうなるためには、まず相互コミュニケーションが必要だなと。上層部だけではなく、新人も早い段階から相互コミュニケーションを取れる環境と、場を設けていくことでもっと企業はアイデアにあふれて生産性が高まっていくだろうと思っています。
飯髙氏:結局そめって自分のいい話で終わらせるよね。飲みに言っても質問軽くしてきたあとはずっと自分の自慢しちゃうところとかかわいいよね。
そめひこ氏:え、これが締めですか(笑)
飯髙氏:ありがとうございました!