多くの企業では、人事や総務といった部署があり、企業活動で大切な役割を担っています。初めて人事部に配属された方などは、総務部との違いはなんとなく分かっていても、はっきりと理解している方は少ないのではないでしょうか。
本記事では人事や総務といったバックオフィスの役割を説明し、また人事や総務がおこなう業務を取り上げます。企業の中で人事部門やが担える役割を再確認して、企業戦略にそった人事戦略をイメージしていただけると幸いです。
目次
1.人事・総務を含むバックオフィスと呼ばれる部門にはどのような役割があるのか?
多くの企業では、収益の源泉となるフロントオフィスに加えて、バックオフィスの部署も設置されています。利益を直接生まないバックオフィスはしばしばコストセンターとも呼ばれ、コスト削減の対象となりがちです。しかし、フロントオフィスが全力で業務に集中するためには欠かせない役割を担っています。
どのような部署があるか、またその役割について、解説していきましょう。
1-1.バックオフィスにはどのような部署があるか?
企業によって捉え方はさまざまになりますが、バックオフィスの代表的なものには、以下のような部署があげられます。
総務
来客対応、受付業務、備品や土地・建物の管理など、さまざまな業務があります。株主総会の企画・運営も総務の担当です。また社員向けのイベント企画などもおこないます。
その他、他の部署が扱わない一切の業務をおこなうのも総務の役割です。従って、その業務範囲は各社で大きく異なります。
人事
人材に関する業務をおこないます。社員の募集・採用から入社・退職に関する業務、就業規則や教育制度、人事評価制度の制定、給与計算などをおこないます。その他、住所変更や通勤経路変更など、社員に関する諸届けも扱います。
中でも目標管理制度など、人事評価に係わる制度は経営に大きな影響を与える大変重要なものです。また年末調整や社会保険の算定基礎届も年間の主要な業務となっています。
経理
会社に出入りするお金に関し、業務をおこなう部署です。日々の経費計算や出納業務はもちろん、フロントオフィスと収支に関する折衝もおこないます。財務諸表や有価証券取引書の作成も経理の担当です。
決算業務は経理の主要な業務の一つであり、公認会計士や税理士との折衝もおこないます。
法務
企業活動が法令を遵守しているか、コンプライアンスをチェックする役割があります。また売買契約や業務委託契約など、さまざまな種類の契約書の内容を事前に確認し、法的に問題はないか、企業として不利な契約になっていないかをチェックする役割もあります。
また訴訟や紛争が発生した場合は、顧問弁護士とともに紛争の解決に当たります。
情報システム
社内の情報システム全般に関する運用管理をおこないます。またシステム更新の企画・立案もおこないます。社内各部署はもちろん、他社との折衝や調整もしばしばおこなわれます。
また、社内で使用するプログラムを作成することもあります。
ITがなければ現代の事業は成り立ちませんので、事業運営に欠かせない部署ともいえます。
この他にも企業により、広報や経営企画などの部署が置かれることがあります。
これらの部署が組織図上でどのように扱われているかは、企業によりさまざまで、以下のような例があげられます。
- 管理部など、上位部署の傘下に収められている
- それぞれの部署ごとに独立している
- いくつかの部署をまとめている(人事総務部など)
- 部署は一つにまとまっており、担当制になっている(人事担当、経理担当など)
1-2.バックオフィスが果たす役割
バックオフィスは、以下の3つの面を持っています。
(1)専門の業務知識を持つスペシャリスト集団
バックオフィスで扱う業務は、いずれも専門的な業務知識が必要です。たとえば人事ならば労働関連の法令、経理ならば簿記から決算まで、情報システムなら社内で扱うIT機器やシステムの全てといったところになります。
これらをフロントオフィスの社員が身に着けるのは大変で、本来集中すべき業務がおろそかになりかねません。バックオフィスは専門性の高い業務をまとめて引き受けることで、フロントオフィスの人員を本業に集中して投入し、できるだけ高い収益をあげるための助けとなっています。
(2)全社的な観点で企業のあり方を考える部署
フロントオフィスの各部門では、それぞれの部門の利益を最大限におこなう事業運営が求められますが、それゆえに自部門の事業を縮小・撤退する判断は下しにくいものです。
バックオフィスでは全社のさまざまな情報や事業環境に関する情報が集まります。そのため、企業全体としてどのような方向に進むべきかを考え、提案できる貴重な部署といえます。
また、人材の適材適所、及び公正な評価を実現するために活躍できる部署ともいえます。人事評価制度の制定を始め、各部署が求める人材情報の収集とそれに伴う社員の適正な配置は、バックオフィスだからこそできる役割といえます。
(3)フロントオフィスをサポートする部署
会社間では、しばしば契約書が交わされます。その内容は、ときに自社にとって不利な内容になっている場合もありますが、専門家でなければ気づかない内容もあります。企業の利益を損なわないようにチェックをする役割もあります。
2.「人事」「総務」に違いはあるのか?その業務内容の違いとは
人事と総務の部署には、明確な線引きがないともいわれています。しかし、その業務内容はどちらも一緒という訳ではなく、むしろ人事か総務のどちらかに分けられる業務も多数あります。
ただし、部署を分けるかどうかは、企業の事情によっても異なります。各社の実情と部署を分けるメリット、分けないメリットについて、説明していきます。
2-1.部署を分けるかどうか?各社の実情
人事と総務で部署を分けるかどうかは、各社により異なります。小規模な企業では分けるだけの業務量も人員もありませんので分けないことがほとんどでしょう。しかし社員が千人以上の企業でも部署を分けているとは限りません。各社の置かれた状況により部署を分けないこともあります。
2-2.総務の中で人事の業務もおこなうメリット
人事の業務は日々同じ量の仕事がある訳ではなく、給与計算の時期や算定基礎届、年末調整の時期といった、特定の時期に集中して仕事がある傾向にあります。そのため、総務の中で人事の業務をおこなうことにより、人事担当者の仕事が少ない時期に総務の仕事をおこなってもらうことができ、人材の効率的な活用と人件費の抑制が実現できます。
また、人事の部署は社員の情報を握っていることから、近づきがたい部署と思われることもあるかもしれません。総務の部署の中に入れることで社員との距離が近くなり、その結果として日々の会話の中から隠れた人材を発掘することができるなど、企業運営にメリットを与えることも期待できます。
2-3.部署を分けるメリット
人事の部署は社員の個人情報を扱いますので、機密事項が大変多い部署といえるでしょう。個人情報にアクセスできる人を最小限に抑えることは、企業の危機管理として重要なことです。そのため、総務と人事で部署を分けることにより、個人情報が外部に漏れる危険を最小限に抑えることができます。
また、人事評価の結果や社員の異動などの情報については士気に直接影響するものですので、決定までは内密にしておかなければなりません。危機管理の点ではなるべく内容を知る人数を少なくしておく方が良いですから、この点でも部署を分けるメリットがあります。
3.人事総務の具体的な業務内容とその違い
各企業によっても異なりますが、人事と総務それぞれの具体的な業務内容は、以下のように割り振られます。
3-1.人事がおこなう業務内容
人事の担当となる業務内容は、以下の通りです。
- 人材の募集、採用
- 入社、退職手続き
- 社員の異動に関する手続き(住所変更、扶養家族変更等)
- 社会保険に関する手続き(算定基礎届等)、年末調整
- 給与・賞与計算業務
- 就業規則、教育制度、評価制度の立案及び運用
- 部門・人員配置計画
- 社員の福利厚生(総務が担当する場合もあります)
- 社員の健康診断、メンタルヘルス対応(総務が担当する場合もあります)
3-2.総務がおこなう業務内容
総務の担当となる業務内容は、以下の通りです。
- 来客対応、受付業務
- 備品や土地・建物の管理
- 株主総会の企画・運営
- 社内行事の企画・運営
- 防火防犯対策
- 行政や地域住民への対応
- CSR活動
- 社員の福利厚生(人事が担当する場合もあります)
- 社員の健康診断、メンタルヘルス対応(人事が担当する場合もあります)
4.まとめ
これまで説明してきた通り、人事と総務は業務上重なる部分もありますが、どちらかに分類できる業務も数多くあります。その点では全社的な視野を持って行動する必要がある点は共通であるものの、人事と総務では少なからぬ違いもあるといえます。
人事も総務も日々のルーチンワークや毎月、1年に1回といった定期的な仕事もありますが、そうでない仕事もあります。とくに、人事に分類される業務については、教育制度や評価制度、部門・人員配置計画、採用計画など、企業の戦略に直結する業務が多く含まれているのが特徴です。したがって、人事の仕事に携わるにあたっては、日々の業務に埋没することなく、戦略的・長期的な視野も求められます。
社員の能力を十二分に発揮する環境をつくることができれば、業績向上など、企業の発展に大変有利な状況になることが期待できるでしょう。このように人事は企業の中でも、大変重要な役割を担う部署ということができます。