こんにちは。日本最大級の老人ホーム検索サイト「LIFULL介護(ライフルかいご)」の編集長、小菅秀樹(@kosugehideki)です。
小菅 秀樹|株式会社LIFULL senior LIFULL介護(ライフルかいご) 編集長
横浜市生まれ。老人ホーム・介護施設紹介業で主任相談員として1500件以上の施設入居相談に対応。入居相談コンタクトセンターの立ち上げ、マネジャーを経て、現在は日本最大級の老人ホーム・介護施設検索サイト「LIFULL介護(ライフルかいご)」の編集長。「メディアの力で高齢期の常識を変える」をモットーに、介護系コンテンツの企画・制作、寄稿、セミナー登壇などを行う。趣味はバイクツーリング、筋トレ、ウィスキー。
前回、従業員の「望まない介護離職」に対して人事担当者ができる対策についてご紹介いたしました。
今回は、ダイバーシティ経営を推進するという観点から、従業員が介護を理由に辞めることの無い組織作りを推進する重要性についてお伝えできればと思います。
そもそもダイバーシティ経営とは「多様な人材の能力を最大限に活かせる機会を提供すること」を指しますが、介護を理由に従業員が十分な能力を発揮できないのであれば、改善が必要です。
そして、従業員が能力を発揮できる環境を作り出すために人事担当者に求められることは、従業員からの介護離職の相談に対して、正しい知識をもとにして「本当に離職するしか選択肢がないのか?」を一緒に考えることです。
本記事では、平均的な介護期間や介護費用について、および介護保険サービスの利用を開始するために必要な手続きについてなど、人事担当者が従業員に伝える際に知っておきたい基本的な知識をご紹介していきます。
目次
1. どれくらいかかる?「介護期間」と「介護費用」
まずは、介護離職に関する日本の実態について見ていきましょう。
厚生労働省によると、家族の介護を理由に仕事を辞める「介護離職」をする人は年間約10万人いると言われており、ここ10年間はほぼ横ばいで推移しています。しかし、これはあくまで調査に回答した人の数値であり、実際にはもっと多くの人が介護によって仕事を辞めていると考えられています。
また、平均的な介護期間は4年7ヶ月で、介護費用の総額は約500万円となっています(生命保険文化センター調べ)。これもあくまでも平均値となりますので、実際には10年以上介護をしている人や、さらに費用が必要となる人がいるうえに、平均寿命が伸びていることで一層多くの期間や費用が必要になると推察されています。
介護をする子ども世代は、住宅ローンの返済や子育て・教育費などで出費が重なる40〜60代です。
前提として、親の介護費用は親が持っているお金でやりくりすることが多いですが、子ども世代が介護離職により収入を絶ってしまうことは、彼らの生活を直接的に圧迫することにつながります。
また、この世代は会社で要職に就いていることも多いため、離職してしまうことは会社にとっても大きな損失でしょう。
今後より多くの人が、より長く介護と向き合う時代が到来する中で、ダイバーシティ経営の推進のために仕事と介護の両立を支援することは欠かせません。。
2. 従業員が介護休業・介護休暇取得中にすべきこと
それでは、家族の介護が必要になったとき、仕事と介護の両立に向けてどのような準備が必要なのでしょうか。
仕事と介護の両立で大切なポイントは、それを実現させるための体制を作ることです。家族の介護が始まったら、まずは介護休暇や介護休業を取得しながら介護体制を整えていきます。
介護休暇と介護休業は、家族の介護で仕事を休む際に利用できる制度であり、どちらも要介護状態の家族の介護やその手続きをするために取得できます。
要介護状態とは、厚生労働省の基準によると「2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態」であり、必ずしも介護認定を受けている必要はありません。
2-1. 介護休暇と介護休業の違いとは?
介護休暇と介護休業は、「取得要件」「取得日数」「申請方法」「給与・保証」の4つの点で異なります。
介護休暇は当日の口頭連絡でも取得できるため、家族の急な体調不良で病院に付き添う際などに利用することが多いようです。
一方、介護休業は長期間取得できることから、通院頻度が多いとき、宿泊を伴うなどの遠距離介護の対応、施設入居の準備などで使われています。
しかし、ここで大切なことは、どちらも介護自体にはなるべく時間を使わないということです。
2-2.従業員が介護休暇・休業中にすべきこと
それでは、介護休暇・介護休業中に何をすべきかと言うと、「介護保険サービスを受けるための各種手続き」です。
上述のように、介護期間は長く、経済的負担も大きくなります。介護離職を防ぐためにも、従業員が家族の介護が必要になった段階でしっかりと仕事と介護を両立できる体制づくりを整えることが重要です。
そのためには、介護保険サービスを利用してプロの力を頼ることが必要不可欠です。
サービス開始時には多くの申請が必要となり、意外と時間がかかります。介護休暇・介護休業はこれらの手続きのために利用するのがポイントですので、取得することになった従業員に伝えて欲しいと思います。
3. 従業員がおこなう手続き|要介護認定の申請から介護サービスの利用まで
介護保険サービスを受けるためには、以下の手続きが必要となります。
要介護認定を受けるところから介護保険サービスの利用開始まで、具体的にどのようなことをおこなうのか順に確認していきましょう。
3-1. 要介護認定の申請
要介護認定は市区町村の担当窓口または地域包括支援センターで行い、窓口で記入した申請書を提出する必要があります。65歳以上の方は介護保険被保険者証も持参しましょう。
また、病状について医師の意見を記入した「主治医意見書」の提出を求められる場合もあります。自治体によっては主治意見書を行政から主治医に依頼することもあります。
そのため、かかりつけの病院名、医師の氏名、連絡先を控えて持参しましょう。
3-2. 認定調査
要介護認定の申請をおこなうと次に認定調査が実施され、主治医意見書と訪問調査をもとに、どの程度の介護サービスが必要かの判断が下されます。
訪問調査では市区町村から委託を受けたケアマネジャーなどが自宅等を訪問して、身体状態や認知症の程度からどのような介助が必要かを確認します。
この際、日頃から顔を合わせていない人が来ると、本当は1人でできないことも「できる」と言ってしまう高齢者が少なくありません。
正しい状況を把握してもらうために、日頃から介助が必要と思う場面はメモに残しておき、本人がいないところで認定調査員に渡して、普段の様子を伝えることが大切です。
3-3. 要介護認定結果通知
結果の判定はコンピュータによる一次判定と、専門家の審査会による二次判定をもとに行われます。
申請から結果の通知まで原則30日かかりますが、市区町村によっては前後することもあります。
3-4. 居宅介護支援事業所と契約
介護保険サービスを利用するためには、「ケアプラン」と呼ばれる介護サービスの計画書が必要です。
具体的には、生活の長期目標と短期目標を設定し、それをもとに必要な介護サービスを一週間単位で組んだものとなります。
要介護認定の結果が通知されたら、まずケアプランを作成するケアマネジャーの事業所を探して契約します。
事業所の一覧は地域包括支援センターでもらえますが、ケアマネジャーとは密に連携し、頻繁に連絡を取ったり、親元へ訪問してもらったりすることになるので、親の自宅から近い地域包括支援センターを選ぶと良いでしょう。
また、契約時には必ず「介護離職はしたくない」と伝えるようにし、それにつながるケアプランを組んでもらうことが介護離職防止には大切です。
3-5. 介護サービス利用開始
ケアプランができたら、利用するサービスの事業者と直接契約を行って、介護サービスの利用が始まります。
はじめの頃は不安を抱える高齢者も多いため、サービス利用時に同席できるよう、勤務の調整を希望する人もいます。
サービスに慣れるまでは介護休業や時短勤務などを利用し、同席が不要になった頃に通常勤務へ戻すことを提案してもよいでしょう。
4. ダイバーシティ経営推進のために、介護の正しい知識を身に付けよう
ここまで、ダイバーシティ経営推進のために、人事担当者が知っておきたい介護の基本的な知識をご紹介しました。
家族の介護によって従業員が能力を発揮できない環境は改善していく必要があり、そこに性別は関係ありません。しかし、介護離職者の約8割は女性というのが現状です。
親族からの期待があったり、女性自身が介護を自分の役割と思ってしまったりする傾向があるのでしょう。女性が働き続けられる職場環境を整えるためには、介護離職対策は避けて通ることはできません。
従業員から介護離職の相談をされたとき、まず人事担当者に求められることは、「1人で抱えないように」と声をかけること、離職防止に向けて最大限の協力を約束すること、そして、「本当に離職しかないのか?」を一緒に考えることです。
そのためにもぜひ、介護に関する正しい知識を身につけていただければ幸いです。