こんにちは、HR NOTE編集部 働き方改革プロデューサーの井上です。
コクヨ株式会社といえばCampusノートに代表される文房具メーカーのイメージが強いと思いますが、オフィス家具の製造・販売からオフィス空間のデザイン構築、働き方のコンサルティングなどを通して、今までに多くの企業の働き方改革の実現を支援しています。
今回は、働き方改革が注目されている背景や取り組む上で必要な考え方について、大手法人企業の働き方改革に携わる、鈴木さんにお話を伺いました。
鈴木 賢一 | コクヨ株式会社 ファニチャー事業部/スペースソリューション事業部/ワークスタイルイノベーション部 部長
なぜ働き方改革が注目されるようになってきたのか?
働き方改革の原点は「労働力の確保・活性化」と「生産性の向上」
-近年、働き方改革が注目されるようになってきた背景として、何があるのでしょうか?
鈴木氏:企業や組織において高度成長期の右肩上がりが約束された時代から、いつどうなるか分からない先行き不透明で不確実な世の中になったことで、経営資源である「ヒト・モノ・カネ」の中でも、近年は企業競争力を高めるために「ヒト」がより重要になってきているからです。
その大きな要因として、労働人口が減少傾向にある中で「優秀な人材をどう確保していくか」と「グローバルでも勝負可能な生産性をどう高めるか」の二つが挙げられます。
たとえば、少子高齢化によって、とある企業では50歳以上の社員が全体の4割を占めていたとします。この企業では、あと10年も経てばそのベテラン社員が退職し、今まで蓄えてきたノウハウや人脈がプッツリと切れるわけです。
総労働人口も減少傾向なので、定年などにより人が減った分、新しい人がどんどん入社するかといえばそうでもありません。残された社員だけで、既存の業務を1.5倍の生産性でこなしていかなければ企業は成長できないのです。
労働力不足という背景があるなかで、「なんとかして人を確保したい」「できれば優秀な人が欲しい」。また、長く勤めてもらうために、「やりがいを持って働いてもらうにはどうすればいいのか・・・」。そのような企業の声をよく耳にします。
今は「人と知恵の掛け算で価値が生まれる」時代。働き方改革の枠組の中で、ワークライフバランスやダイバーシティ、テレワークやABW(Activity Based Working)に代表される多様な働き方など、さまざまな施策がありますが、企業が取り組むべき働き方改革の原点は、新しい価値を生み出し成長していくための「労働力の確保・活性化」と「生産性の向上」なのです。
コクヨでは1990年後半から働き方改革に着手
-コクヨでは、働き方改革に関して何か取り組まれていることはございますか?
鈴木氏:もともとコクヨは企業のオフィスづくりをサポートする会社です。そのため、「オフィスづくりを通して、そこで働く人のアウトプットの質を向上させたい」という考えをずっと持ち続けています。
コクヨでは約20年前の1990年代から「戦うオフィス、勝てるオフィスづくり」というコンセプトをもって活動してきました。その時から掲げていたテーマが「働く人たちのパフォーマンス向上」です。
当時は「働き方改革」という言葉はありませんでしたが、2000年頃から「社員の意識を変えたい」「働き方を変えたい」という感性の鋭い経営者が増えてきたこともあり、「オフィスづくりを通じた働き方改革」をコクヨとして、本格的にお手伝いするようになりました。
-取り組み自体がものすごく早いですね!
鈴木氏:そうですね。その理由としては以前より、コクヨの中に「オフィス研究所」という、海外の先進的な事例を集め、今後の日本の働き方やオフィス環境にどのような影響をもたらすのかを調査するセクションがありましたので、市場や他社に比べて働き方に対する知見が多くありました。
また、そうして集めた最先端の海外事例から得たアイデアをコクヨのオフィスづくりに積極的に取り入れていくチャレンジもしていました。
働き方改革に取り組むうえで必要な考え方とは?
オフィス内における課題の8割はコミュニケーション
-働き方改革に取り組む上で必要なことは何でしょうか?
鈴木氏:「働き方改革とはなんですか」と言われたら、「行動、意識を変えること」だと言っています。では、行動、意識を変えるにはどうしたらいいのか。まずは、働き方についての考え方や今までの癖をリセットする必要があります。
もう1つ、スキルも大事です。取り組んだことのない事を、「やってみなさい」と言われても誰もがすぐにできるわけはありません。解いたことがない方程式を解けと言われても解くためのスキルがないのと同様です。行動と意識を変えるためにはそのためのスキルが必要なのです。
-行動や意識の変革、スキルを獲得するために具体的に何をしていくべきでしょうか?
鈴木氏:取り組むにあたって、まずは、変革すべき3つのコトを定義することが重要だと思います。
1つ目は「個人のワーク」の改革です。個々人のパフォーマンスを上げる、5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾)などによる片づけ、書類を削減しペーパレスで効率的な働き方を定義することです。
2つ目は「社内コミュニケーション」の変革。社内においてどのようなコミュニケーションが最適なのか定義していくことです。たとえば報連相や会議などを見直します。
3つ目は「お客様とのコミュニケーション」の変革です。新たなお客様や外部パートナーとの接点の持ち方や、ブランド訴求などがあります。ビジネスをする上でお客様を無視して働き方を変えることはできませんので、とても重要なポイントです。
3つのうち2つがコミュニケーションに関係していますが、その理由は、どの組織を見ても、働き方を考える上でオフィス内における課題の8割はコミュニケーションだからです。年間50社以上の経営課題をヒアリングしていますが、「コミュニケーション変革」をテーマに掲げない組織はありません。
一方、個人の創造性を高め、さらには組織として生産性を高めるためには、「個人のワーク」によって思考作業を深めていくこともとても大切です。
「個人のワーク」「社内コミュニケーション」「お客様とのコミュニケーション」、この3つをどのように変えていけばいいのか、それらを考えることで意識が変わり、定義することで行動に移すことができるのです。
-企業は働き方改革をどのようにはじめているのでしょうか。
鈴木氏:私たちにコンサルティングのご相談をいただくパターンは3つあります。1つ目は、経営層の「これはまずいぞ」という危機感から、トップダウンで指示が下りてきて、現場がてんやわんやするパターン。
2つ目は、独自に調査・勉強をして、自分たちなりに試行錯誤したがどれも上手くいかず、自社だけでの取り組みに限界を感じたため、一緒に取り組んでくれるパートナーを探しているパターン。
3つ目が、課題があって「変えなければ」とはわかっていても、何をどこからはじめたら良いかがわからないパターンです。
「トップダウンで指示が下りてきました。どうしましょう」というお客様も多くいらっしゃいますが、3つ目のような、「わかっていても、どうすればいいかわからない」というお客様がおそらく9割を占めていると思います。方向性が定まっておらず、さまざまな情報を整理することからはじまることも多いです。
また、とても具体的に「書類削減」や「管理職の意識変革」、「テレワーク・在宅勤務」など領域をしぼって解決策を考えることもあります。
まずは、働き方改革で何を実現したいのかを考える
-働き方改革において何からどう進めていくのが良いのでしょうか。
鈴木氏:一番重要なのは、「何をどうするか」より、「何を実現したいか」という「ありたい姿」を描くことだと思います。ここが描けていないお客様が多いんです。
私たちは「グランドコンセプト」と呼んでいますが、自分たちの会社をどう成長させたいか、そのためにどのように社員の行動を変えていきたいのか、といったシナリオを最初にデザインします。まず、この部分が「働き方改革」で最初に取り組むべきことで、今はこの「グランドコンセプト」づくりをお手伝いするケースが増えています。
この「グランドコンセプト」が見えてくると、「社員にどんな場を提供すればいいのか」「どういう仕組みと制度を用意すればいいのか」「どのようなITツールが必要なのか」が明確になります。ここまでコンセプトの落とし込みができれば、その先の要件化と具現化は難しくありません。
また、コンセプトの一つとして、社員の意識を変える施策も必要になります。いろいろな組織を見ていると面白いですよ。働き方改革による変化をすぐに受け入れられる人もいますが、そうでない人のほうが大半です。
ですので、組織や部門を巻き込み、社員一人ひとりに改革の目的を理解していただき、変化に対する心の準備をしてもらう。変革がうまくいかない場合のほとんどが、この心の準備、マインドセットができていない場合です。
-今後の御社の大枠の展望などありますでしょうか。
鈴木氏:コクヨというと「オフィスや文具」というイメージがどうしても強いですが、2000年以降、「働く」という領域にまで拡げています。
ただ、働き方を改善したからといって、その人の人生が豊かになるかというとそうではありません。私たちは働くこととあわせて、人々の「暮らし」の部分にも良い影響を与えられるような「働き方改革」を提案していきたいと思っています。
また、企業が何のために働き方改革をするかというと、やはり成長のためです。自社の成長のために社員の創造性を高めたいですし、時間も創出したいし、優秀で元気な社員にもきてほしいはずです。
どちらにしても、人が中心であることに変わりはありません。ですので、個人においても組織においても、「働く」と「暮らす」の両方について充足感があり、さらには「学び」を通じて成長していくことを視野に入れて、働き方改革を進めていきたいと思っています。