医師人材サービスを手がける株式会社エムステージが主催する、企業の人事・労務担当者対象のセミナー『メンタルヘルスの休職復職のために、人事が知っておくべきこと』に参加。
社会保険労務士の舘野氏を講師に迎え、従業員がメンタルヘルス疾患により休職となった際に、人事は産業医と協働してどのように休職・復職対応に取り組むべきかについて紹介しています。
今回は、職場復帰支援の流れの中で、第1ステップとなる「休業開始及び休業中のケア」について記事にまとめました。
人事が知っておくべき 「メンタルヘルス対応の流れ」と その「予防策」
民間企業に勤務後、社労士事務所に勤務。その後「ハラスメント対策」中心のコンサル会社にて電話相談および問題解決のためのコンサルティング、研修業務に従事。産業医業務を行う企業で、予防のためのメンタルヘルス対策とメンタル疾患の人へのカウンセリングに従事。2015年に社労士として独立開業、エムステージでは産業医紹介事業の立ち上げにかかわる。
1. 休職から職場復帰までの5ステップ
舘野氏:
職場環境を整える1次予防、そして発見・早期対応の2次予防の対策をおこない、さまざま手を尽くしても、休職せざるを得ないような状況になってしまうことはあります。では休職してからはどのような対応が求められるのでしょうか。
こちらの資料は、休職開始から職場復帰をするまでの流れとなっています。
全体の流れとしては、第1ステップから第5ステップまであります。第1ステップは、休業開始及び休業中のケア。第2ステップが主治医による職場復帰可能の判断。
第3ステップは職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成。第4ステップは最終的な職場復帰の決定を経て職場復帰する。そして第5ステップはその後のフォローアップになります。
こちらがあくまでも手引きで、この通りに絶対に実行しなければならないということはありません。ただ、ここに書いてある内容やポイントを外さずにおこなうことで、たいていの場合は職場復帰支援に大きく役立てることができます。
このステップの中で多くの相談をいただくのが、第4ステップ、第5ステップです。第4ステップは「復職できるかどうかの判断に迷っています」という内容で、第5ステップは「退職になってしまったが、本当は復職できたのではないか?」と、この辺りでトラブルになり、相談にくることが多くあります。ただ、何も手を打たずにこれらのタイミングで相談があってもすでに遅いのです。
大事なのは第1から第3ステップです。ここでどれだけしっかり対応するかが大事です。
2. 第1ステップ|休業開始及び休業中のケア
2-1. そもそも、休職者の管理ができているか
舘野氏:
第1ステップは「休業開始及び休業中のケア」です。
「今、御社で休職に入られてる方は何人いますか」と人事の方に尋ねると、把握されていないことがすごく多いです。そういうことにならないように、従業員が休業に入ったときからしっかりと管理をしていくことが重要です。
まず、病気で休業開始するときは、病院から診断書を提出してもらう必要がありますが、その診断書をしっかりと管理しましょう。それから休職する従業員に対して、休業中の事務手続きや職場復帰支援に関する手順を話しておきましょう。
また、安心感を持ってもらうために、休業期間中の社内制度、処遇、手当の説明、休業の最長期間や、再休職までのクーリング期間や復帰できなかった場合の取り扱いも、この時点で伝えておくと良いでしょう。
そのために、事前に準備すべきことがあります。休職に関する制度を就業規則に定めておくことです。
2-2. 就業規則に定めておくべき、休職に関する制度とは?
舘野氏:
休職に入る要件、診断書が要るのか、要らないのか、休職願いは必要かどうか、欠勤日数を休職に入るまで設置するかどうかなど、以下のような項目が含まれているか確認しましょう。
これらの項目を定めていない、確認をしていなかったがために、後の対応がスムーズにいかない場合が多くあります。
たとえば、何かしらが原因で勤怠が乱れているにも関わらず、本人が休みたがらないケースがあります。
本人の申し出以外に一定日数の欠勤で、事業主や会社が休職を命じることもできるのですが、そういうときに対応する条文がないと「就業規則の通り、休職してしっかり休んでから復帰してください」と言えない訳です。
それから、「復職にあたり会社の指定する医師または産業医の意見を聴くこと」。これもすごく大事です。これがないと、休職中の従業員が通っている病院の主治医の診断書だけで判断し、復職させないといけないことになります。
さらに再休職になった場合の通算規定も非常に重要です。また、休職期間満了後及び再休職した場合の雇用契約解除の内容は、解雇なのか、自然退職なのか、この辺がどうなっているのか、足りない情報があればきちんと規定していく必要があります。
また、休職復帰に関する管理職研修を実施して欲しいと思っています。部下を持つ管理者には休職復職制度についての情報を理解しておいて欲しいのです。
なぜなら、休職する部下から「私、この先どうなっちゃうんでしょうか。もう、職場復帰って難しいんですか?」と相談があったときに、管理職の方は適切に回答することが求められるからです。
管理職の返答によっては、混乱を発生させることも非常に多くあります。本来であれば復帰できる人も、そこで気持ちを折られてしまうことにもつながるため、是非、研修をおこなっていただきたいです。
3. 第1ステップで注意するポイント
舘野氏:
第1ステップとして注意するポイントをお話させていただきます。まずは、休職に入る従業員に対して、就業規則の内容や復職するための要素を書面で交付するようにしましょう。
ポイントは書面で交付することです。直接会えない場合でもメールで添付したりとか、郵送で送ったりとか、必ず休職に入った時点で、復職の条件についてきちんと示しておきましょう。
できる限り、最終出社日などに人事の方がお会いになって対面で説明することです。そして可能であれば、配偶者や親権者、ご家族が同席の上で説明したほうが良いでしょう。
本人がどうしても嫌だという場合もありますが、特にメンタルヘルス疾患により休職される方は、そのときの記憶や情報認識能力が、普段に比べ格段に落ちてるケースが多いのです。
言った、言わないの話もこれで防げます。また、「産業医面接指導も定期的にしますよ」ということも伝えましょう。それから休職期間や復職復帰の条件や、復帰したらその人がしなければいけない仕事についても主治医に伝えておくと良いでしょう。この時点でお話ししておくことが後々効いてきます。
4. 休職の判断をどうするか?
舘野氏:
遅刻、欠勤を繰り返しており、明らかに体調が悪い人がいるとします。「仕事にも支障が出ているのですが、休職させた方がいいんですか?」という相談を受けたら、人事の皆さんどのように対応しますでしょうか?
ここで私がお話ししたいのは、休職の判断をどうするかについてです。良くあるのは、「体調が悪いので休職した方がいいんじゃないか」と判断されるケースです。休職の判断をするためにまずは、就業規則の規程に則って受診命令を出してください。
「受診命令を出したけれど、本人が絶対休職したくない。受診しませんと言っている。困った」そのような話も聞きます。それでも「まずは受診してください」という話にもっていけるように、就業規則に盛り込んでおくべきだと思います。
それでも受診を拒む場合には、「受診しないのであれば、他の労働者と同じようにきちんと就業してもらわなければ困ります」というフェーズに入ります。
「病気ではなく、きちんと就業できるということであれば、遅刻・欠勤を繰り返さず、きちんと就業してください」ということになります。それでも状況が変わらなければ、就業規則の中に「無断または診断書の提出なしに〇日以上の欠勤を繰り返すような場合には、退職や解雇になります」という項目を設けておき、その項目に則って厳正に対処する、という流れになります。
注意していただきたいのは、印象だけで「あの人うつ病じゃないかと思うんですよ」と決めつけることです。それはプライバシーの侵害などに受け止められてしまうので、控えたほうがいいでしょう。
これは、『疾病性』と『事例性』との違いにつながります。病気を確定することが『疾病性』で、業務上で問題になっている客観的事実が『事例性』になります。職場でメンタルのトラブルを感じた際に、「うつ病ではないか?」と思うのではなく、「欠勤が多い」「周囲とのトラブルが多い」という『事例性』の視点を優先し、対応することが重要です。
病気かどうかという「疾病性」の判断は職場だけでしてはいけません。受診してもらい、専門家の医師が判断するものです。ここを気にかけることがすごく大事です。
ここまでが職場復帰支援の第1ステップです。本人が休職したいと言ってきたときにどのような対応が求められるのか。是非、参考にしていただければと思います。
次回は、職場復帰支援の第2ステップ以降についてご紹介させていただきます。
【セミナー概要】
- テーマ:「メンタルヘルスの休職復職のために、人事が知っておくべきこと」
- 主催:株式会社エムステージ
- 日時:2017年7月21日(金)15:00~17:30
- 会場:アットビジネスセンター東京駅 406号室
人事が知っておくべき 「メンタルヘルス対応の流れ」とその「予防策」