企業の新陳代謝を促すイグジットマネジメント|メリット、注意点、具体的な施策例とは |HR NOTE

企業の新陳代謝を促すイグジットマネジメント|メリット、注意点、具体的な施策例とは |HR NOTE

企業の新陳代謝を促すイグジットマネジメント|メリット、注意点、具体的な施策例とは

  • 労務
  • 労務・その他

「イグジットマネジメント」のイグジットとは、出口という意味の英単語「Exit」のことを指します。

雇用の入り口となる採用活動と並行して、雇用・人材の出口戦略を計画的に行うことは、変化の激しい市場に適応していくため必要不可欠なものです。

一般的に人事の仕事とは入り口の「採用」をイメージすることが多いですが、雇用の流動化が激しくなった今こそ、雇用の出口であるイグジットマネジメントに真剣に取り組む必要性が高まってきています。

1. イグジットマネジメントとは

イグジットマネジメントとは、人材の退職や個人との関係解消を戦略的に実施して、企業に適切な新陳代謝を促すことを意味します。

イグジットマネジメントは、「トラブルなく辞めてもらうこと」だけではありません。個人が主体性を持ってキャリアを選択し、企業内で最大限の価値発揮をした上で、適切なタイミングで退職の道を選び取るまでの取り組み全体が、真のイグジットマネジメントと言えます。

イグジットマネジメントが注目される背景
今までの日本では、終身雇用制度のもと従業員が定年まで長く働き続けることがもっとも重要視されていました。そのため、たとえ企業の成長に寄与していない人材がいたとしても、定年退職を迎えるまで待つか、早期退職・希望退職を募る方法しか存在していなかったのです。
しかし、労働人口の減少とともに、働き手である個人のニーズや、企業が対峙する市場は日々変化が激しくなっています。優秀な人材を確保できたとしても、個人が永久的に企業成長に寄与し続けることはあり得ません。
そのため、優秀な人材を確保するエントリー(入り口)マネジメントだけでなく、企業と方向性が合わなくなった人材と友好な関係を築きながら、エグジットまで導いていく力が必要だと注目されています。
今後は、個人がどれだけ個々の事情にあった柔軟な働き方を「選択」できるかが重要となります。「働き方改革」は、働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革です。(参考:https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/

2. イグジットマネジメントのメリット

イグジットマネジメントは企業の新陳代謝を促すことが大きな目的となりますが、新陳代謝を促すことで次のような効果も期待できます。

2-1. 企業の古い慣習を断ち切ることができる

次のような課題を抱えている企業の方がいらっしゃるかもしれません。

  • スキルも経験もある期待の人材を採用したが、気付いたら人材が英気を失い活躍できていない
  • 中堅社員の意見が強く、他の従業員が発言しづらい風土ができ上がっている
  • 新たな人材が入社してもすぐ離職してしまうため従業員全体の年齢が高い
  • パフォーマンスの悪い人材が他の従業員の士気を下げてしまう

これらの課題は、イグジットマネジメントを実施することで解消できる可能性が高くなります。

イグジットマネジメントは、企業に長年根付いてしまった不要な慣習を排除し、柔軟な経営判断ができるよう後押しをするものです。

2-2. 企業ブランディングの強化につながる

従業員は労働基準法により守られているため、簡単に解雇することができません。

そのため、従業員に退職してもらいたい場合は、定年退職まで待つか、何かしらの退職勧奨を実施することになります。

しかし、希望退職の募集や退職勧奨は、労使のトラブルに発展しやすくネガティブな印象を持たれやすいものです。

ネガティブな感情で辞めた従業員に口コミサイトなどで悪評を書かれてしまうと、企業の信頼度も落ちてしまう可能性があります。

今まで働いてきた従業員が「退職勧奨された」とネガティブに受け止めるのではなく、労使合意のもと円満退社をすることができれば、中長期的に企業ブランディングを守っていくことにもつながります。

2-3. シニア人材との良好な関係性構築につながる

イグジットマネジメントの役割は、従業員を円満退社させることだけではありません。

超高齢化の影響で定年制度が崩れた日本では、シニア人材とどのように良い関係性を保っていくか再考する役割もあるでしょう。

シニア人材の雇用に関しては、平成25年以降の高年齢者雇用安定法の改正により、次のルールが設けられました。

定年年齢を65歳未満に定めている事業主は「65歳までの定年の引き上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置を実施しなければならない。

また、高齢者向けに実施された内閣府による調査によると、近年では元気なシニアが増加しており、75歳まで、または一生涯働きたいと希望する高齢者は非常に多くいることもわかっています。

(参照:雇用を取り巻く環境と諸課題について|厚生労働省職業安定局)

今後も定年年齢の引き上げ、または定年制度の廃止は進んで行く可能性は高いです。

これらのことから、日本全体でシニア人材をどのように活かし、経済発展させていくか今一度見つめ直す必要があると言えます。

高齢者を一気に退職させるのではなく、年齢問わず企業に必要な人材には留まってもらえるようリテンションマネジメントと両軸で取り組んでいくことが重要かもしれません。

「リテンションマネジメント」について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
離職防止のためのリテンション施策とは|企業の取組事例もご紹介

3. イグジットマネジメントの具体的な施策例

本章では、イグジットマネジメントの具体的な施策例をご紹介します。

<1>年齢・性別・個人のスキルに合わせて活躍できる多様な場を設ける

イグジットマネジメントは、活躍していない人材を退職させることに焦点を置くのではなく、年齢や性別にかかわらず、個人のスキルややる気に合わせて、多様な人材が力を発揮できる環境を整えることに焦点を置くべきです。

従業員が最大限のパフォーマンスを出すことができる環境を整備することで、本人が納得し適切なタイミングで退職を決めることができます。

無理に退職に導くのではなく、自分の役割を終え、満足度高く働き切った人材が企業と関係を断っていく流れを構築することで、個と企業の良好な関係性を保つことが大切です。

<2>従業員の主体性・意思を尊重する

企業が一方的に従業員のキャリアを決定するのではなく、従業員が主体的に自身の道を選びとる方法です。

特にシニア人材に対しては、60歳以上の継続雇用の道を提示しつつも、企業が従業員にどのような価値発揮を求めているのか明確に決めて提案し、個人に選択してもらうよう促すことがポイントとなります。

個人が主体的にキャリアを選択できるようにすることで、従業員が企業に依存する状態を防ぐことが可能です。

<3>転職や副業支援・独立支援を行う

ひとつの会社にとどまらず、転職をしてキャリアを築いていくことを支援する方法です。

転職だけでなく、副業支援や独立支援もおこなうことで、従業員が自立自走できるようになることが目的として挙げられます。

やりがいを感じていない企業で、ぶら下がり社員・窓際社員になるよりも、本人の意思で前向きにキャリアを築くことの背中押しをするための施策となります。

転職先に推薦状を書く、副業がしやすいようアドバイスをしたり案件紹介をサポートするなど、さまざまな取り組みが可能です。

<4>退職した従業員のアルムナイ活動を活性化させる

アルムナイとは、退職者や卒業生の集まりを意味する言葉で、イグジットマネジメントへの意識が高まる中で、アルムナイの重要性も注目されるようになってきました。

アルムナイへの取り組みは新しい採用手法としても認識されており、若手人材、新卒一括採用を実施するよりも、一度会社を離れて社外で力をつけた優秀な人材を囲い込む方が、企業にとってメリットがあるとも考えられています。

その他にも、アルムナイ・リレーションを実施することで、企業の良い口コミを広げてもらうブランディング効果や、外注先・業務委託契約で副業先として関係構築も可能です。

離職した個人にとっても「もと〇〇会社の人材だ」というようなブランディングができるため、アルムナイ・リレーションに積極的に参加してもらえる可能性も高いです。

退職してすぐ関係を打ち切るのではなく、退職後も情報交換を定期的に行い、お互いに支援関係を築いていくことをおすすめします。

4. まとめ

従業員が定着し長く働くことが、必ずしも企業経営にプラスになるとは限りません。

人事担当者だけでなく、会社全体でイグジットマネジメントに真剣に取り組み、企業の新陳代謝を促していきましょう。

人事業務に役立つ最新情報をお届け!メールマガジン登録(無料)

HR NOTEメールマガジンでは、人事/HRの担当者として知っておきたい各社の取組事例やリリース情報、最新Newsから今すぐ使える実践ノウハウまで毎日配信しています。

メルマガのイメージ

関連記事

中小企業におすすめの福利厚生と導入メリットを解説

中小企業におすすめの福利厚生と導入メリットを解説

中小企業における福利厚生の重要性は日増しに高まっています。従業員の満足度と企業の競争力を高めるために、適切な福利厚生の選択と導入が求められます。この記事では、中小企業向けのおすすめの福利厚生とその選定方法、導入によるメリット、さらに福利厚生を充実させるための具体策について解説します。

  • 労務
  • 福利厚生
2024.04.26
HR NOTE 編集部
福利厚生がない会社が直面するリスクと必要な福利厚生について解説

福利厚生がない会社が直面するリスクと必要な福利厚生について解説

現代の労働環境において、福利厚生の充実は企業の競争力を高め、従業員の満足度を向上させる重要な要素です。しかし、すべての企業がこの点で十分な配慮をおこなっているわけではありません。本記事では、福利厚生がない会社のリスクと、福利厚生を充実させるメリットについて詳しく解説します。

  • 労務
  • 福利厚生
2024.04.26
HR NOTE 編集部
退職金は年末調整の対象に含まれる?退職所得の計算方法や確定申告が必要なケースを解説

退職金は年末調整の対象に含まれる?退職所得の計算方法や確定申告が必要なケースを解説

退職金は年末調整の対象となる所得には含まれませんが、所得税の課税対象ではあります。当記事では、なぜ退職金が年末調整の対象にならないのか、退職金に対する所得税の課税金額の計算方法、そして、退職金に対して確定申告が必要になる […]

  • 労務
  • 給与計算
2024.04.19
HR NOTE 編集部
サイレント退職、なぜ起こる?仕組みと予防策を解説|Smart相談室 伊禮 武彦

サイレント退職、なぜ起こる?仕組みと予防策を解説|Smart相談室 伊禮 武彦

こんにちは。株式会社Smart相談室の伊禮武彦と申します。法人向けオンラインカウンセリングサービス「Smart相談室」の運営、ビジネス部門の統括責任者を担当しています。 今回はクライアント様よりよくご相談を頂くサイレント […]

  • 労務
  • リスクマネジメント
2024.04.19
金井一真
ワークフローシステムの機能一覧!基本から便利機能まで解説

ワークフローシステムの機能一覧!基本から便利機能まで解説

近年では、ワークフローシステムが注目されています。システムを導入することで、紙の申請書を使うデメリットが解消できるため、業務負担の軽減が期待できます。ワークフローシステムには、さまざまな機能があります。当記事では、ワークフローシステムの機能について詳しく紹介します。ワークフローシステムの機能について興味がある方は、ぜひこの記事を参考にしてください。

  • 労務
  • 労務・その他
2024.04.08
HR NOTE 編集部

人事注目のタグ