
「あの人、チームのムードメーカーだったのに、突然辞めてしまった」——そんな経験はありませんか。
本連載では、若手社員の価値観を「自己成長重視タイプ」と「組織貢献重視タイプ」の2つに分類し、それぞれに応じたマネジメントの実践方法を解説してきました。前回は「自己成長重視タイプ」へのアプローチとして、成長を「見える化」する3つの技術をご紹介しました。
最終回となる今回は、「組織貢献重視タイプ」への実践マネジメントです。このタイプは、チームや会社への帰属意識が離職の抑止力として機能しやすい一方、「自分の仕事が誰かの役に立っているか」が見えなくなったとき、静かに意欲を失っていってしまう可能性があります。
一見、離職リスクが低そうに見えるこのタイプ。しかし、サインを見逃すと手遅れになりやすいという側面もあります。貢献の実感を届けるマネジメントの技術を、3つのアプローチで解説します。

寄稿者坂本 佑太朗(さかもと ゆうたろう)氏株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 測定技術研究所 主任研究員
ここに人物紹介文が入ります。2015年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。人事アセスメントに関する新規商品開発や心理測定技術に関する研究に従事。研究成果は関連学会で発表、および専門誌に投稿し、理論と実際を結びつける。現在は、360度評価を中心とした研究開発に取り組む。2020年東北大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員。
目次
第1章:役割と期待の明確化——「あなたに頼みたい」を伝える
このタイプが離れていく理由
組織貢献重視タイプが「辞めたい」と感じるとき、その背景にあるのは多くの場合、「自分はこのチームに必要とされているのだろうか」という疑問です。
自己成長重視タイプが「成長できないこと」に不満を感じるのに対し、この組織貢献重視タイプは「存在意義が見えないこと」に深く傷つきます。仕事を与えられていても、「なぜ自分がこれをやるのか」「自分でなくてもいいのではないか」という感覚が生まれると、じわじわと意欲が低下していきます。
表面上は真面目に働いていても、内側では「ここにいる意味があるのか」という問いを抱えていることがあります。このタイプの離職サインは見えにくいため、上司は意識的に関わりを持つことが重要です。
実践:「あなただからお願いしたい」を言葉にする
このタイプへのアサインで最も重要なのは、「なぜあなたにこの役割を担ってほしいのか」を明示することです。
業務の内容を伝えるだけでなく、「あなたの○○という強みが、このチームに必要だから」という文脈を添えることで、存在意義の実感につながります。
〇ビフォー(役割の意味が伝わらない伝え方)
「鈴木さん、次のプロジェクトでは議事録とスケジュール管理をお願いします」
〇アフター(存在意義を明示した伝え方)
「鈴木さん、次のプロジェクトで議事録とスケジュール管理をお願いしたいんですが、鈴木さんって場の空気を読みながら、みんなの発言をうまく整理してくれるじゃないですか。あの力が、このプロジェクトには絶対必要なんです。鈴木さんにいてもらえると、チーム全体が動きやすくなると思っています」
「誰でもいい仕事」ではなく「あなたにお願いしたい仕事」として伝えること。それだけで、このタイプの受け取り方は大きく変わります。
実践:チーム内での「役割の地図」を見せる
組織貢献重視タイプは、自分がチームの中でどこに位置しているかを把握できると、安心感とやりがいを同時に得られます。
プロジェクトの全体像を共有したうえで、「このチームの中で、あなたはこの部分を担ってもらっている」と明示することが効果的です。自分の仕事がチームのどこにつながっているかが見えると、日々の業務への取り組み方が変わります。
第2章:貢献の実感を届けるフィードバック——「あなたのおかげで」を言葉にする
「察してくれるはず」は通じない
組織貢献重視タイプは、チームへの貢献を強く求めている一方で、その貢献が認められているかどうかを、意外なほど敏感に感じ取っています。
上司としては「ちゃんと見ているつもり」でも、言葉にして伝えなければ、このタイプには届きません。「頑張りは見てもらえていない」「自分がいてもいなくても変わらない」という感覚が積み重なると、静かに心が離れていきます。
フィードバックは「特別なとき」だけでなく、日常の小さな場面で、こまめに届けることが重要です。
実践:「影響」を具体的に言語化して伝える
このタイプへのフィードバックで最も効果的なのは、本人の行動が周囲にもたらした「影響」を具体的に言葉にすることです。
自己成長重視タイプへのフィードバックが「あなたの成長」を主語にするのに対し、組織貢献重視タイプへのフィードバックは「あなたがいたことで、チームや周囲がどう変わったか」を主語にします。
「よかったよ」「ありがとう」で終わらせず、「何が」「誰に」「どう影響したか」を具体的に描写することが、このタイプの心に深く届くフィードバックです。
実践:第三者からの声を届ける
組織貢献重視タイプは、上司からの評価だけでなく、同僚や他部署など「周囲からの感謝」にも強く動かされます。
他のメンバーや関係者から「鈴木さんのおかげで助かった」という声があれば、それを本人に伝えることも重要なマネジメントのひとつです。「○○さんが、鈴木さんのフォローがあってよかったと言っていましたよ」というひと言が、このタイプには大きな力を与えます。
第3章:キャリア支援——「チームの中での未来」を一緒に描く
組織貢献重視タイプのキャリア観
自己成長重視タイプが「個人として何ができるようになるか」を軸にキャリアを考えるのに対し、組織貢献重視タイプは「どんな存在としてチームや組織に関わり続けられるか」を軸にキャリアを考える傾向があります。
そのため、このタイプへのキャリア支援では、「スキルアップ」や「市場価値」という言葉よりも、「チームの中でどんな役割を担いたいか」「どんな形で会社に貢献したいか」という問いかけのほうが響きやすいです。
実践:「なりたい存在」を軸にキャリアを対話する
1on1では、以下のような問いかけを取り入れてみてください。
- 「チームの中で、将来どんな存在になりたいですか?」
- 「一緒に働く人たちに、どんな風に頼られたいですか?」
- 「今の仕事の中で、一番『役に立てた』と感じるのはどんな瞬間ですか?」
これらの問いは、このタイプが自分のキャリアを「貢献の文脈」で言語化する手助けになります。答えが出てきたら、それを日々の業務や役割に接続することが上司の役割です。
実践:「頼られる存在」への成長を支援する
組織貢献重視タイプが目指す姿の多くは、「チームに頼られる存在」「困ったときに相談される人」です。この志向を生かし、後輩の指導役やチームの調整役といった役割を意図的に任せることも有効なキャリア支援になります。
「あなたの強みをチームのために活かしてほしい」という形でキャリアを提示することで、このタイプは強いエンゲージメントを感じます。
まとめ:「見えている」と伝えることが、離職防止の核心
組織貢献重視タイプへのマネジメントを一言で表すなら、「貢献を見えるようにすること」です。
このタイプは、貢献したくないわけではありません。むしろ誰よりも貢献を求めているからこそ、それが見えないときに静かに心が折れます。上司の役割は、存在意義を言葉で伝え、貢献の影響を具体的に届け、チームの中での未来を一緒に描くことです。
今回ご紹介した3つのアプローチをまとめます。
1. 役割と期待の明確化:「あなただから頼みたい」を言葉にし、チーム内での位置づけを示す
2. 貢献の実感を届けるフィードバック:「あなたのおかげで」という影響を具体的に、こまめに伝える
3. キャリア支援:「チームの中でなりたい存在」を軸に、貢献の文脈でキャリアを描く
連載を振り返って:価値観を「知ろうとすること」から始まる
全3回にわたって、若手社員の2つの価値観タイプと、それぞれへのマネジメント実践をご紹介してきました。
最後に、一つお伝えしたいことがあります。
今回ご紹介したタイプ分類やアプローチは、あくまで「傾向を捉えるためのツール」です。大切なのは、「このメンバーはどちらのタイプか」を正確に判定することではありません。「このメンバーは何に喜びを感じ、何に不安を覚えるのか」を知ろうとし続けること——その姿勢そのものが、信頼関係を築き、離職防止につながる最も根本的なマネジメントです。
若手の離職を「最近の若者の傾向」として片付けるのではなく、目の前の一人ひとりと向き合うための手がかりとして、本連載をお役立ていただければ幸いです。
