インドと日本の“違い”を掛け合わせる。異文化から「第三の解」を生み出す実践【現場を変えるCQ白書 第7回】 |HR NOTE

インドと日本の“違い”を掛け合わせる。異文化から「第三の解」を生み出す実践【現場を変えるCQ白書 第7回】 |HR NOTE

インドと日本の“違い”を掛け合わせる。異文化から「第三の解」を生み出す実践【現場を変えるCQ白書 第7回】

  • 組織
  • 企業文化・組織風土

※本記事は、アイディール・リーダーズ株式会社の宮森千嘉子様より寄稿いただいたものになります。

コラボレーションは、ときに苦労も生じます。

相手が異国にいればなおのこと。しかも相手がインドとなれば、苦労が増えることも想像に難くないでしょう。10人に聞けば10人が違うことを答えるほど、多様性に富んでいるからです。

そんなインドで2019年にデジタルブランディング支援会社「STORYTELLING LLP」を設立した見上すぐりさん。同社の強みは、日本やインド、中東などの多国籍メンバーでチームを組み、その“違い”を掛け合わせていることにあります。

しかし最初から上手くいったわけではありません。見上さんはインドに縁があったわけでもなく、その道のりは試行錯誤の連続でした。

次世代リーダーに欠かせないCQという力をテーマにした本連載。今回はインドと日本という文化の違いをCQでパワーへと変えていく実践について聞きました。

寄稿者宮森 千嘉子アイディール・リーダーズ株式会社 CCO(Chief Culture Officer)

「文化と組織とひと」に橋をかけるファシリテータ、リーダーシップ&チームコーチ。 サントリー広報 部勤務後、HP、GEの日本法人で社内外に対するコミュニケーションとパブリック・アフェアーズを統括し、 組織文化の持つビジネスへのインパクトを熟知する。 また50カ国を超える国籍のメンバーとプロジェクトを推進する中で、 多様性のあるチームの持つポテンシャルと難しさを痛感。 「違いに橋を架けパワーにする」を生涯のテーマとし、日本、欧州、米国、アジアで企業、地方自治体、プロフェッショナルの支援に取り組んでいる。英国、スペイン、米国を経て、現在は東京在住。ホフステードCWQマスター認定者、CQ Fellows、米国Cultural Intelligence Center認定CQ(Cultural Intelligence)及びUB(Unconscious Bias)ファシリテータ、 IDI(Intercultural Development Inventory) 認定クォリファイドアドミニストレーター、 CRR Global認定 関係性システムコーチ(Organization Practitioner, Gallup認定ストレングスコーチ。著作に「強い組織は違いを楽しむ CQが切り拓く組織文化」、共著に「経営戦略としての異文化適応力」(いずれも日本能率協会マネジメントセンター)がある。 一般社団法人CQラボ主宰。 

日本でのつまずきとインドでの会社設立

見上すぐりさんのキャリアは、日本の大手信託銀行からスタートしました。役員秘書を務めますが、約5年で退職します。見上さんは次のように振り返ります。

ある日急に眠れなくなってしまったんです。まさに文化が合わなかったのだと思います。そもそも「何をしたいのか」より「どこに所属するのか」で就職先を決めていました。結果的に心身が疲れてしまい退職しました。

その頃に結婚をしましたが、心身が良くない状態ではパートナーシップを築くのも難しくて。2年ほどで破綻しました。所属する会社も家庭も無くし、失うものが何も無い。どん底の時期でしたね。
でも逆に「自分のやりたいことは何か」と考えられた。CQの第一歩というか、自己理解を深めるきっかけになりました。

その後、ベンチャー企業勤務を経て、デジタルマーケターとして独立。再婚もします。そして相手の仕事の関係で移住した先がインドでした。

初めての土地ながら「自分の場所に帰ってきた」という感覚を持ったと見上さんは言います。

「隣の人と会話ができる」という前提がないことが心地良かったんです。

インドでは隣の人の言語や宗教が同じとは限りません。宗教や生まれた州が違うと、祝日も食事も日々のルーティンも違います。10億人超がそんな違いを受け入れ合い、国を成り立たせているという壮大さに惹かれました。

一方でその頃、二度目のどん底を経験しました。第三子を流産してしまったんです。
そのことをきっかけに、会社という、生産するコミュニティをつくりたいと考えて起業に至りました。

日本とインドとの“違い”

見上さんが設立したSTORYTELLING LLPは、現在はインドや中東へ進出する日系企業に対してデジタルでのブランディングやマーケティングを支援しています。

日系企業から依頼を受け、インドで採用した人たちと一緒に、インド市場のためのサービスを提供する……。いくつものギャップがあるため、プロジェクトには苦労が付き物だと話します。

日本とインドは、かなり異なる文化を持っていますよね。

インドは流動性の国なんですよ。毎日のように何かが起こるのでプランDくらいまで用意しなければならない。でも日系企業は長期的プランを立てますし、変化を嫌がりますよね。

また、私は「リラックス」がクリエイティビティの源泉だと思っています。ただインド人がリラックスし過ぎていると、日系企業に価値を感じてもらえない場合があります。結果、日本側とインド側にギャップが生まれることになります。

見上さんのリーダーシップについて周囲から「インドのメンバーに軽視されているのでは?」といった指摘もあったそう。事業が成長し、クライアントの企業規模が大きくなるほど、そのギャップは広がったといいます。

チームづくりや、プロジェクトの進め方に課題を感じていた見上さん。そんなときに知人の紹介から受講したのが、CQ養成講座でした。

衝撃だったと話すのは、日本という国の“特異さ”です。本連載でも紹介した、文化の違いを理解するためのフレームワーク「ホフステードの6次元モデル」は、文化の傾向を数値で見ることができます。一例として日本は「不確実性を回避したい」という傾向が、世界でも突出して高い国です。

このフレームワークを通すと、見上さんがチームづくりに抱いていた課題は、自身が権力格差の小さい参加志向である一方で、インドは権力格差の大きな階層志向が強いことが原因だと考えられました。

特に北インドは、歴史的に闘いが多かった地域です。そのためロジックの根底には「権威」や「階層」があります。

ですが私は公平性を大事にしていて、さらに女性でもあるので、メンバーから「リーダーシップがない」「頼りない」と見られていたのだと思います。

それからは、女性性より男性性を出すようにアクト(演技)するようにしました。

例えば、日本人女性は積極的にうなずいたり、ほほえんだりして共感を表現しますよね。それを寡黙に振る舞うように変えてみました。結果的に、上手くいくことは増えたと思います。

ところが自分と異なるタイプを演じることに負担もあったと見上さんは話します。

私は「なりきる」タイプなんですよね。憑依させてしまうというか。

信託銀行で心身が疲れてしまった原因も、完璧な秘書としての自分をアクトしていたからだと思います。自分と相手との境界線を設計する必要がありました。

STORYTELLING LLPでも、男性性を出して威厳のある女を演じ続けることはつらかったんですよ。そこで夫にCEOを託し、私はCSO(Chief Storytelling Officer)という役職に就きました。

異文化共創の5段階と葛藤

以下の表は、東海大学の山本志都教授による異文化意識発達モデルです。違いに対する認識の発達過程を5つの段階で示しています。

表:異文化意識発達の5つの過程
フェーズ5
違いとの【共創】
選択に意識的になり、出現させたい未来にコミットする中で、発信力で周囲に影響を与え、探索力で他者からの影響力を受け取り、この相互作用を通じて、相互適応と共進化を実現する状態。
フェーズ4
違いを【相対化】
複数の視点を移動しながら、多面的に比較検討する中で、自分になかった異なる文脈での発想や感覚を理解し、考慮できるようになる状態。異なる選択肢や可能性に対して柔軟な対応が可能になる。
フェーズ3
違いを【最小化】
違いを特別視せず、なじませて調和させる中で、自分に分かる範囲の違いを許容して、ある程度尊重する寛容性がある状態。ただし、理解は限定的。想定外の出来事では許容範囲を超え、違いを踏まえた対応が難しくなる。
フェーズ2
違いに対する【防衛】
違いを認識するようになるが、自分の中で整理しきれず、違和感や抵抗感を覚えている状態。自己防衛のために対象を否定し、攻撃、排除に至ることもある。
フェーズ1
違いへの【無関心】
違いについて考える発想がなく意識外になっている。または興味がなく何とも思わない状態。

フェーズ1~3は違いをコストと見ている段階で、フェーズ4・5はパワーに変えていく段階です。見上さんはこれに沿って、次のように話しました。

初めてCQを学んだときは、自分では【相対化】のフェーズにいるという認識でした。

そこから男性性を強調してアクトし【防衛】というフェーズに下がった気がして悩んでしまって……。

そのことを宮森千嘉子さんに話したところ「みんな、行ったり来たりするんです」とおっしゃってくれました。各フェーズを行き来する中で成長していくのだと。

成長していないわけではないと分かって嬉しかったですね。また同時に、フェーズが上がっていくほど、自分と相手との境界線を設定することが大事だと感じました。

チームづくり、プロジェクト推進……

では現在、見上さんはどのようにチームを運営しているのでしょうか。

先ほども触れたとおり、インドは階層志向が強い傾向があります。「上の人が言うことしか聞かない」ということが起こるため、メンバー同士での協力は苦手だと見上さんは話します。
その点も踏まえ、地域や宗教などの文化的背景も考慮しながらチームをつくっています。

例えば朝は1時間くらい、みんなでチャイを飲みながら“だべる”んですよ。

直接的な仕事は進みません。しかし実はその1時間に、進捗管理や信頼構築などが凝縮されています。人生を語り合い、異なる文化背景を理解して、同志になっていく。

始業と同時に仕事を始める日本とはかなり違いますよね。

さらにプロジェクトについても聞きました。

日本側が主導の場合は、まずは日本側が絶対に外せないメインメッセージと3つの具体を示します。その上でインド側へ「こういう世界を作りたい」というビジュアル資料を共有します。インドの人は多言語文化なので、ビジュアルのほうが理解しやすいからです。

そこからは任せるのですが、ほとんどは日本側が考える6割くらいのクオリティで上がってきますね。そこからリバイズをかけます。たった45秒のビデオでも10回ぐらい修正があったりしますよ。コミュニケーションの多さはある種のお約束事と捉えています。

日本人からすると疑問で仕方ないでしょうね。私の場合は、そこのコミュニケーションをインド人のメンバーに任せています。インド人同士は、そのコミュニケーションやリバイズに何のストレスも感じていません。

文化の“違い”を価値に変える

日本人はイチから積み上げるのが得意ですよね。一方でインドはゼロイチに才能があると思います。枠組みにとらわれていないんですよ。「違うことが当たり前」で、コラボレーションへの心理的な障壁も圧倒的に低い。

近年は、グローバルで評価されるインド・ブランドや、グローバル企業のトップにインド人が就く例も増えていますよね。

最後に、こうした文化に面しながら仕事を進める魅力を見上さんは次のように話しました。

チーム運営は楽ではありません。しかし私自身は、刺激的で最高の環境だと思っています。

ブランディングという仕事は「相手の文化の中で、自ブランドがどのように相手の生活を豊かにしていくか」というストーリーをつむぐことでもあります。ですから、相手の文化的背景への歩み寄りがない限り、ブランディングは成立しません。

その歩み寄りの際に「国」では主語が大きくなってしまいます。CQを意識しながら、まずはその相手と話し合うことの重要性を強く感じていますね。

専門家の視点から
インドの人たちの、“違い”に対する受容性や活用の仕方に学べることは多々あると思います。一方で、CQで重要なのは、自身のコアは保ち続けることです。コアを保ったままで、どのように適応するのか、あるいはこちらに適応してもらうのか。
異なる文化を持つ人と働くことは簡単ではありません。現場での課題に自分を責めてしまう人もいますが、文化への理解を深めCQを高めることで、現場での課題感を緩和できるのではないでしょうか。

【こんな方におすすめの一冊】

  • 組織に課題感がある人事担当者
  • 組織文化の変革に取り組みたいマネジャー・経営層
  • 多様性を活かしたリーダーシップやチームマネジメントに関心のある方
  • 異なる背景や価値観を認識し、チームとして最大化する思考を身につけたい方

人事業務に役立つ最新情報をお届け!メールマガジン登録(無料)

HR NOTEメールマガジンでは、人事/HRの担当者として知っておきたい各社の取組事例やリリース情報、最新Newsから今すぐ使える実践ノウハウまで毎日配信しています。

メルマガのイメージ

関連記事

「メンバーシップ型」の限界と、「ジョブ型」の落とし穴

「メンバーシップ型」の限界と、「ジョブ型」の落とし穴

人材不足、DX推進、事業環境の急速な変化――。企業にはこれまで以上に柔軟な人材活用が求められています。 日本企業で長く主流だった「メンバーシップ型」は、人材育成には強みがある一方で、個人の専門性やスキルが見えにくいという […]

  • 組織
  • 企業文化・組織風土
2026.07.10
金井 一真
「プレイングマネージャー」の終焉──「正社員×外部人材×AI」で創るハイブリッド営業組織

「プレイングマネージャー」の終焉──「正社員×外部人材×AI」で創るハイブリッド営業組織

前回は、営業活動のどこまでをAIに任せ、どこからを人が担うべきか、その「境界線」の重要性と、組織を再設計する「AX(AIトランスフォーメーション)」の必要性についてお話ししました。 では、実際にその境界線をどのように引き […]

  • 組織
  • 企業文化・組織風土
2026.07.09
金井 一真
国際会議・展示会を強力な人材育成施策にする方法|ジェイソン・ダーキー

国際会議・展示会を強力な人材育成施策にする方法|ジェイソン・ダーキー

こんにちは。ジェイソン・ダーキーです。 執筆者JASON DURKEE(ジェイソン・ダーキー)氏IDEA DEVELOPMENT株式会社(アイディア社) 代表取締役 米国シアトル生まれ。1992年に来日し上智大学に入学。 […]

  • 組織
  • 人材育成・研修
2026.06.01
金井 一真
人的資本経営を実現する事業・組織の『複眼設計』

人的資本経営を実現する事業・組織の『複眼設計』

はじめまして。Leaf Ringの安藤です。 執筆者安藤 宏樹氏Leaf Ring株式会社 取締役CHRO 大阪大学大学院ビジネスエンジニアリング専攻を卒業後、2014年に新卒で株式会社Speeeに入社し、マーケター、営 […]

  • 組織
  • 企業文化・組織風土
2026.05.29
金井 一真
営業AI活用の落とし穴──なぜ「ツール導入」だけでは成果につながらないのか

営業AI活用の落とし穴──なぜ「ツール導入」だけでは成果につながらないのか

前回は、労働人口減少や営業職の採用難を背景に、従来の「人に依存した営業モデル」が限界を迎えていることについてお話ししました。 分業化やBPO、SFA/CRMなどの活用は進んでいるものの、それだけで営業組織の課題が解決する […]

  • 組織
  • 企業文化・組織風土
2026.05.28
金井 一真

人事注目のタグ