
この時期、多くの企業では来年の人材育成施策が固まりつつあります。企画は承認され、予算も組まれています。研修の大まかなイメージもありますが、まだまだ細かい調整が必要です。
今回は、そのチューニングに役立つ切り口とチェックポイントを紹介します。少しでも研修の成果を高められるように、ぜひ有効活用してください。

執筆者JASON DURKEE(ジェイソン・ダーキー)氏IDEA DEVELOPMENT株式会社(アイディア社) 代表取締役
米国シアトル生まれ。1992年に来日し上智大学に入学。卒業後,研修企画会社に就職し10年間勤務。2003年に独立起業。日本を代表する大手企業から外資系企業まで幅広い業種のクライアントに対して,研修プログラムの企画および講師として,5万人以上の能力アップとビジネス成果の向上に貢献した実績を持つ。著作に『ビジネス英語の技術』『ガツンと言える英会話』(Japan Times)ほか。
5つの切り口
研修の成果を高めるための要素は様々ありますが、ここでは分かりやすく5つの切り口に絞りました。
- 研修体系
- 研修の全体企画
- 対面研修
- リモート研修
- オンデマンド研修
チェックポイントをそれぞれ紹介します。
1. 研修体系
研修体系というのは人材育成施策の全体像です。ほとんどの人がイメージする定番は、縦に階層、横に研修テーマがある細かい表です。研修体系をつくる際の大切なポイントは、この3つです。
- 目的別に考える
- リソースにメリハリをつける
- 賞味期限の過ぎた研修を捨てる
定番の研修体系の表は1年間の研修実施イメージを把握するのに便利ですが、間違ってはいけないのは、各セルに書いてある研修にすべて等しく対応しようとすることです。
研修の中には非常に大切で、絶対に成果を出さないとまずいものもあれば、全社員が目を通して意識を高めるだけでよい研修もあります。
そこで、受講対象者と研修の内容とテーマ以外にぜひ考えてほしいことは、研修の狙いや目的です。目的によって必要なリソースは大きく変わるため、メリハリをつけることを意識しましょう。
例えば、ビジネス成果を出すのが目的なら数カ月の研修シリーズ、定着フォロー、職場実践などが必要です。逆に、意識の確認やリマインドが目的なら、数分のeラーニングや自己学習用のPDFで十分です。
代表的な目的とおすすめの研修形態はこちらです。
| 研修目的(提供価値) | おすすめの研修形態(提供方法) |
|---|---|
| 新しい企業戦略の実現 | 経営者サポート、職場の巻き込み、効果測定、チェンジマネジメント |
| 現職務の成果向上 | ラーニングジャーニー、職場実施、定着フォロー |
| 人材パイプラインの強化 | 長期のブレンドラーニング ( 対面/リモート/オンデマンドのミックス) |
| トラブル発生時の対応 | サポートツール |
| コンプライアンス | LMS(受講管理システム)によるeラーニング |
| 従業員のモチベーション向上 | 外部の公開コース、オンデマンドのコンテンツライブラリー |
賞味期限の過ぎた研修を捨てるとは、昔につくったままの内容を再検討することです。今のビジネス環境や受講者のニーズに合わなくなった研修は意外とあるものです。
例えば、新入社員のマナー研修にある、代表電話の転送の仕方やお茶の出し方。今は配属後にやる機会のある新入社員はかなり少ないはずです。
逆に、必要な内容が抜けている場合もあります。例えば、管理職研修でDX、グローバル、イノベーション、ダイバーシティ、ハイブリッドワークがなかったりしますが、どう考えても盛り込むべき重要な経営課題です。
2. 研修の全体企画
ここでいう全体企画とは、研修の流れのことです。
当日のタイムスケジュールというより、研修の前後も含めた全体のデザインに関わる部分で、例えば、事前課題があるか、研修は何日間あるか、コーチングのような研修以外の要素があるか等です。
重要なポイントは3つです。
- 数回の研修+定着フォローにする
- 上司を巻き込む
- 職場実践につなげる
単発やりっぱなし研修では、超一流講師がどんなに頑張ったとしても安定した良い成果は出ません。
逆に、研修を数回に分け、研修と研修の間に受講者が職場で実践してみて、次の研修で振り返って共有すれば、講師が普通でも良い成果が出ます。
さらに、受講者の上司を研修前後に巻き込めば研修に対する意識が高まり、職場での行動変容の確率も上がります。最後に、研修内容を繰り返し練習をする機会があれば、自然と定着できます。
3. 対面研修
対面研修のニーズはかなり戻ってきており、実は今の大トレンドの一つです。
背景としては、昨今のAIの普及により、AIにはない高いヒューマンスキルや人間力が求められていますが、残念ながら業務でのデジタルの割合が高く、その手のスキルを磨く機会が減っているためです。
対面研修の必須条件は「リモート研修ではできない、集まらないとできないことに絞る」ことです。具体的に言うと次のとおりです。
- 交流と共有を入れる
- 体を動かす
- 特別なイベントにする
対面研修なら、特に設計しなくても受講者の共有と交流はある程度自然に生まれます(休憩時間の雑談、一緒に食べるランチ、グループディスカッション等)。
ただ、それだけならわざわざ会場まで移動させて集める必要はなく、求められているような高い人間力も身につきません。ぜひ、受講者同士の交流を意図的に設計しましょう。
特に、同じグループメンバーだけではなく、他のグループの受講者とも接する機会をつくってあげましょう。
もう一つ、リモートではできないのが体を動かすことです。全身運動という意味ではなく、演習のときに立つ、机上でカードを手で並べ替える、機械を手で動かすようなイメージです。
交流があったとしても、このような動きがないならリモート研修で十分です。特別なイベントにする、というのは特別感やイベント感を持たせることです。
例えば、経営者やゲストスピーカーを呼んでみる、非日常的で特別な会場で実施してみる等。展示会やイベントと一緒に企画してもよいのですが、受講者が「わざわざ移動してみんなと一緒に受ける意味がある」ものだと納得できるようにしましょう。
4. リモート研修
ここ数年で対面研修が戻った分、リモート研修が減りました。私は講師として年間100回くらい登壇していますが、リモート研修はだいたい2割以下です。
ただ、大事なのは実施の回数や割合ではなく、リモート研修の質です。あくまで主観ですが、この1~2年でリモート研修の質が下がってきているようです。
受講者も講師も対面研修と比べて手を抜いている、一方的な解説で終えている、研修に適したプラットフォームを使わずにTeamsで定例会議の延長のような雰囲気で実施している、といったケースは少なくありません。とても残念なことです。
リモート研修は非常に重要で、実は研修のデフォルトやスタンダードにするべきものだと思っています。良いリモート研修のポイントを紹介します。
- リモート研修をデフォルトにする
- 演習の割合を解説より多くする
- ブレイクアウトルームとプロデューサーを必ず使う
リモート=講義中心の一方通行と思われがちですが、プラットフォームの機能を使えば解説中の受講者の反応はむしろ対面研修よりも得やすいです。例えば、投票する、反応マークを出す、チャットする、画面に絵描きをする等です。
リモート研修で絶対に避けるべきなのは、長く一方的な解説が多い講義です。おすすめは、解説部分のインプットを事前課題にして、研修中は演習中心にすることです。研修時間の50〜70%を演習とアウトプットに割きましょう。
その際、ブレイクアウトルームを積極的に使い、先ほどふれたプラットフォームの機能も使いましょう。「うちのプラットフォームにはその機能がない」「講師一人ではそこまで手が回らない」そんな言い訳は通じません。
リモート研修でふさわしいプラットフォーム(ベストはZoom、Webexでも良い)を用意するのは、対面研修でふさわしい会場を押さえると同様で、当然のことです。
講師一人ではすべてのリモート操作と運営はできないことも、かなり以前から分かっていることです。リモート研修は必ず講師ともう一人のテクニカルサポート(リモートプロデューサー)で実施することは、ベストプラクティスというより、今や常識です。
(参考:弊社ではリモート研修の際には必ず出社して、有線LANを使用し、プロデューサーと講師が隣に座り、外付けカメラと照明を使って実施しています。これはリモート研修の最低限のマナーと考えています)
5. オンデマンド研修
オンデマンド研修とは、eラーニングやマイクロラーニングのことです。
最近では10分程度の映像教材がメインとなっています。オンデマンド研修は使い方によってはとても便利なものです。
うまく活用するためのポイントはこちらです。
- 受講者のニーズと一致させる
- 行動につなげる
- 内容の質を高める
ダメなオンデマンド研修の代表選手は、対面研修を三脚を使って録画した風景です。
逆に良いオンデマンド研修の特徴は、時間が短い(10分未満)、内容が分かりやすい、見やすいビジュアルが多い、集中力を維持できるよう講師のテンションが高い、音質が良い等です。
理想は、例えるなら取扱説明書やマニュアルのように、具体的な見本やデモンストレーションです。
オンデマンドの効果的な活用法としては、研修(対面でもリモートでも)受講前に解説部分をオンデマンドで見てもらっておくと、研修中の演習時間が増やせます。
また、研修目的が意識を高める、コンプライアンスといった場合には特に役立ちます。
最後に
多くの会社では4月から新しい年度が始まります。
来年度の人材育成施策でしっかりとビジネス成果が出せるよう、今回紹介したチェックポイントを活かして人材育成施策をブラッシュアップしましょう。
