
日本の企業を支えてきた営業組織が、大きな転換点を迎えています。
日本全体の生産年齢人口は、2020年からの20年間で1,000万人規模で減少すると言われています。どの職種も人手は足りていませんが、特に事業成長の推進に重要な役割を持つ営業職は、需要が高いものの離職率も高く、慢性的な人手不足に陥っています。
しかし、問題の本質は人が減ることそのものではなく、減少が確実視される中でこれまでと同じ“人に依存した営業モデル”を続けている構造にあります。
本連載では、これからの時代に求められる“仕組みで伸ばす、新しい営業組織のあり方”について、考えていきます。

寄稿者大矢 剛大氏株式会社SaleSeed 代表取締役社長
名古屋出身。環境要因により挑戦を阻まれる人材と、労働力不足により事業推進のスピードを上げることができない企業、双方の現状を変えるべく、「才能と努力が報われる世の中をつくる。」を掲げて2021年に当社設立。人とテクノロジーの力で日本の労働生産力の最大化を実現するために邁進している。
生産年齢人口の減少
日本の生産年齢人口は、1995年をピークに減少し続けています。2025年は、戦後の第一次ベビーブームで生まれた団塊世代の方々が全員75歳以上となる年で、5年後には総人口の約3分の1を65歳以上が占めることによる2030年問題が迫ってきています。

また、出生数は第二次ベビーブーム以降減少し続け、2025年の上期は過去最小を更新しました。労働市場に新しく参入する若年層は年々減少しています。
一方で、女性の就業率上昇やシニア層の再雇用、駐日外国人の方の雇用など対策は進んでいますが、パーソル総合研究所の調査によると2035年の労働需要が7,505万人であるのに対し、供給される労働人口は7,122万人と、実に384万人もの人材不足が発生する見通しです。
つまり、「働ける人の総量が減っていく」という現実は、残念ながらもう避けることはできません。こうした構造の変化により、どの企業も「採用を頑張ればなんとかなる」という時代ではなくなっていきます。
もうひとつ、人々の「働く」ということに対しての考え方が変わりつつあるのも、人材不足の一因となっています。厚生労働省が調査した就業価値観の変化を見ると、会社の発展のために尽くすという回答は減少傾向にあり、ワークライフバランスを重視するように変わってきています。

高度経済成長期に形成された日本の長期雇用モデルは、労働人口が増加し続ける前提で新卒を大量に採用し、社内教育で長期的に育てることが一般的でした。しかし少子高齢化による人口構造の変化と、コロナ禍を経てリモートワーク/副業などが普及し、働き方が多様化したことで、多くの人が複数キャリアを前提としています。
それに伴い、毎年新卒で大量に採用して社内のカリキュラムで育成し、長く勤めてもらうというモデルが維持できなくなってきています。
営業職への影響
続いて、営業職に焦点を当ててみます。営業職の有効求人倍率は、全職種平均が約1.4倍のところ2倍前後です。
最近では、企画やマーケティング、広報といった職種が若手を中心に人気を集めています。SNS やメディアでもポジティブに紹介される機会が多いことが理由の一つであると考えられます。
対して営業は、特にBtoBの企業にとって事業成長の要ともいえる仕事で、ビジネスパーソンにとっても問題解決力や提案力、合意形成力などのあらゆるビジネススキルの基礎になる重要な職種です。
にもかかわらず、「ノルマが厳しそう」「体力的・精神的に大変そう」といったネガティブなイメージが先行し、実際の魅力ややりがいが十分に伝わっていない状況があります。この“イメージのギャップ”こそが、若手の営業志望者が減少している背景のひとつと言えます。
需要と比例して求人数が多いこと、前述したネガティブイメージが志望者の減少や離職率増加に繋がっていることから、有効求人倍率が高くなっていると考えられます。このような背景から私は、新しい営業組織を構築することこそが企業成長を止めない道の一つであると考えています。
日本の営業組織の今
新しい営業組織についてお話しする前に、日本の営業組織の文化はどのように生まれたのかを紐解いていきます。
日本の営業組織は長い間、個人の力に依存してきました。属人的なスキル・経験・根性で営業が成り立ってきたのです。しかし、人手不足やテクノロジーの発達、働き方や価値観の多様化により、従来の営業組織で成果を出し続けることは難しくなっていきました。
従来の営業組織の文化は、高度経済成長期に築き上げられました。GDP成長率が約10%で、企業が次々に新規参入をしていた需要>供給の時代は「とにかくたくさん訪問すれば売れる」という努力で量をこなすスタイルでした。
顧客データはアナログで、紙の名刺や台帳、担当者の頭の中で管理されていました。そして若い人材が毎年大量に入社し、先輩の背中を見ながら自分たちもとにかく現場で量をこなしていきます。これが、当時は成果を出すために最も合理的だったのだろうと思います。
しかしバブル崩壊後から経済成長が停滞し、少子高齢化が進行している現代では、自社で正社員採用をして、正社員で営業組織を創り、成長を目指すことが難しくなりました。市場も成熟しており新規開拓が難しく、量をこなせば売れるという時代ではなくなっています。
また、
- インターネットの普及で、顧客が商談前に情報を調べられるようになった
- SaaSやサブスクモデルの台頭により、チャーンやLTVなど営業活動において追うべき指標が増加した
- デジタルチャネルが増加した
- マーケティングとの連携強化が必要になった
などの理由により、訪問数と受注額だけでなく、細かな全プロセスの可視化と改善が求められるようになりました。
こうして、日本の営業組織は少しずつ変わってきています。
数年前にアメリカから、営業活動におけるプロセスを細分化する分業制の営業モデル、「The Model」が渡ってきました。リードの創出・アポイントの獲得・商談の実施・導入後支援など、本来はそれぞれの専門性を持った人材が行うべき業務を、日本では1人の営業が一気通貫で行ってきました。
「The Model」型の営業組織では、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの4つの機能に分かれ、営業担当個人ではなく組織で顧客に効率的にアプローチしていきます。現在は日本でも広く浸透しているモデルです。
とはいえ人手不足の中この体制を社内だけで完結させるのは難しいため、ここ数年では営業のBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を活用し、自社だけで補わず外部のプロ人材に委託する企業も増えてきています。
また、SFAやCRMなどのITツールの普及や、パンデミックによりオンライン商談が一般的になるなど、テクノロジーの活用も進んでいます。
こうして日本の営業組織は、努力で量をこなす時代から、分業化やテクノロジー、BPOの活用でより効率的に営業活動をする時代になりました。
しかし、こうして新しい機能や仕組みを導入しても、上手く運用できている企業は多くありません。特にBPOは、「社員が足りない部分の穴埋め」としてではなく、もっと戦略的に活用すべきであると私は考えています。
人がいないことが前提になっている今、リソースの最適配置が成果を出す組織づくりのために最も重要です。ということで、次回は外部人材の上手な活用方法と、テクノロジーを掛け合わせた未来の営業組織についてです。
