プロアクティブ人材育成 実践ステップ④:マネジメントの涵養から人材の育成を!|「プロアクティブ人材」育成実践術 #6 |HR NOTE

プロアクティブ人材育成 実践ステップ④:マネジメントの涵養から人材の育成を!|「プロアクティブ人材」育成実践術 #6 |HR NOTE

プロアクティブ人材育成 実践ステップ④:マネジメントの涵養から人材の育成を!|「プロアクティブ人材」育成実践術 #6

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※本記事は、株式会社日本総合研究所様より寄稿いただいたものになります。

前回の連載の第5回では、プロアクティブ行動の促進に向けた人材マネジメントの鍵となる経営・人事部門と管理職との関わり方が重要であることを解説してきました。今回の第6回では、現場でプロアクティブ行動の促進を図る管理職の「部下に対する見方」に着目します。

普段、管理職が部下の指導や育成に携わる中で、「自分自身が部下をどのように捉えているか」によって、自身の行動は知らず知らずのうちに影響を受けています。部下に対する見方によっては、無意識のうちに自身の指導・育成が良い方向に向かっていることもあれば、悪い方向に向かっていることもあるのです。

そこで、現場で日々活動している管理職の方々を念頭に置き、プロアクティブ行動の促進に向けて活動する中での部下に対する目の向け方や、どのような行動を実践していくべきかを解説していきます。

【連載】「プロアクティブ人材」育成実践術

寄稿者下野 雄介株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアル デザイングループ 部長

「プロアクティブ行動の促進」研究・ソリューション開発責任者を兼任。オンライン公開講座「2023年人的資本経営の総括と、2024年に向けた展望」(日本CHO協会 2023年度)をはじめ人的資本経営・プロアクティブ行動に関する講演実績多数。専門は組織開発、組織行動論。著書「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略」 (KINZAIバリュー叢書)。

寄稿者 宮下 太陽株式会社日本総合研究所 未来社会価値研究所兼リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアルデザイングループ シニアマネジャー

立命館大学客員研究員。組織・人事領域のコンサルタントとして学術の知見も駆使し、顧客の本質的な課題を捉えた科学的な組織変革を支援。専門は文化心理学、社会心理学、キャリアディベロップメント。著書「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略(KINZAIバリュー叢書) 」他共編、監訳、共著多数。

寄稿者方山 大地株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアルデザイングループ シニアマネジャー

一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員。民間企業を中心とした人材領域のテーマに関するコンサルティングに従事。近年は、HRデータや採用・育成に関する科学知の適正活用に向けた調査・研究も行っている。著書「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略」 (KINZAIバリュー叢書)他、論文・寄稿多数。

最も重要な役割を持つ現場の管理職

連載の第4回でも触れた通り、個人のプロアクティブ行動を促進し、それをチーム全体の動きに波及させて組織パフォーマンスの向上につなげていくには現場の管理職の関与が何よりも重要です。

例えば、定期的な1on1ミーティングを採り入れて部下の成長を一緒に振り返って前向きな気持ちを作っていく、仕事の配分・進め方を見直してより個々の部下の能力が発揮できるような環境を整えたりするなど、率先して個々に関与していく行動がプロアクティブ行動の促進につながっていきます。

しかし、管理職全員が部下のプロアクティブ行動の促進に向けた働きかけを自発的に開始しようとするわけではありません。この時、管理職の行動に無意識のうちに影響をおよぼす要因の一つが、管理職の部下に対する見方です。

こうした見方・捉え方のことを、学術用語ではマインドセットと呼びます。

行動に影響をおよぼす「マインドセット」とは

マインドセットとは、ある性質に対して個人が持つ無意識の思考パターンや固定化された考え方であり、本人の行動や態度に影響を与えます(Dweck, 2006)。

マインドセットには主に2つの傾向があり、

  • 「人の能力・行動は先天的に決まっていて、働きかけによっても変わらない」と捉える固定的マインドセット
  • 「人の能力・行動は後から形作られるものであり、働きかけによって変わっていく」と捉える増大的マインドセット

があります。

端的に言うと、部下の能力や行動を「固定的に捉えているか」のか、それとも「可変的に捉えている」のか、これらによって管理職の働きかけが変わってくるのです。(図表1)

こうした点に着目した場合、管理職はそもそも部下のプロアクティブ行動を働きかけによって変えられるものだと捉えているのでしょうか。

管理職はプロアクティブ行動の働きかけによって変わる

株式会社日本総合研究所と株式会社ZENKIGENが共同で実施した管理職3,746名を対象にした調査(※1)の結果では、概ね、管理職はプロアクティブ行動の働きかけによって変えられるものであると捉えていることが分かりました。

図表2に記載されている各質問項目の指数が6.00に近づくほど、プロアクティブ行動は働きかけによって変えられるものだと捉える傾向が強くなります。図表2の結果を確認すると、指数は中間値の3.00を超えて3.50~4.00程度となっており、こうした傾向を示唆していることが分かります。

同調査では、「プロアクティブ行動の促進に向けて部下に対してどのような働きかけを実施するか」という点についても質問を実施しています。その結果、プロアクティブ行動は働きかけによって促進できる・変えられるものであると捉える管理職の方が、様々な働きかけを実践しようとする傾向にあることが分かりました。

例えば、プロアクティブ行動は変えられるものであると考える管理職の方が、社外研修・セミナーなど社外で知見を広める機会を奨励したり、周囲の社員や他部門の社員との協業を促したりするなど、部下のプロアクティブ行動の促進につながる働きかけの意識が強くなっています。

管理職自身がマネジメントを見つめ直すべき

ここまで解説してきた通り、管理職の部下に対する見方は、無意識のうちに自身の行動に影響します。そのため、まずは管理職が部下に対する見方の癖を改めて見つめ直し、向き合うことが重要です。

自身の見方はこれまでの指導・育成経験などによって、知らず知らずのうちに固定化されていることがあります。特に、自身の働きかけによってチームのマネジメントがうまくいっていない時は、視野狭窄に陥ってしまい、無意識のうちに「部下の行動なんて変わらない」と思い込んでしまい、働きかけをあきらめてしまうことがあります。

本稿の図表2に記載されている質問項目などを用いて、最初の段階で自分の認知の癖を把握しておくべきだと考えられます。

一方で、「所詮は部下に対する見方の傾向なんて把握しても、それを変えることは出来ないのではないか?」という指摘もあると思われます。しかし、自身の認知・見方の傾向やそれに起因する行動を定期的に振り返り、これまで取ってこなかった行動を取ってみるだけでも、徐々に部下に対する見方が変わってくることは先行研究でも指摘されています。

例えば、これまで実施してこなかった部下とのキャリアに関する面談や、社外で学ぶ機会を薦めてみるなど、プロアクティブ行動の促進に向けて新しい動きを採り入れてみるだけでも、部下に対する見方は前向きな方向に変わってきます。

「部下の行動は生まれつきの性格などによって決まっていて、自分が何とかできるものではない」と考えているベテラン管理職は多いと思われます。そうすると、自ずと部下への働きかけも少なくなり、チーム全体のプロアクティブ行動が促進されにくくなってしまいます。

自身の認知・見方の傾向を把握して、そこを出発点に少しずつ新しい働きかけを模索してみることが部下・チームのプロアクティブ行動促進に向けたカギになるのです。

続く連載第7回では、現場の管理職がプロアクティブ行動の促進に向けて実践に移すべき人事施策を見出すために有用となる人的資本創造価値モデルについて解説していきます。

——

(※1)2024年1月~2月にかけて民間企業所属の管理職3,746名を対象にWeb調査を実施した。各プロアクティブ行動に対するマインドセット、プロアクティブ行動を促進するために部下に対して実施する働きかけの方法・意向などを、質問項目を用いて測定した。

参考文献

Dweck, C. S. (2006). “Mindset: The new psychology of success”. Random House.

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