戦略人事とは?人事戦略との違いや注目される背景・事例を解説 |HR NOTE

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戦略人事とは?人事戦略との違いや注目される背景・事例を解説

  • 組織
  • 人材育成・研修

「戦略人事って何?人事戦略とは違うの?」

「戦略人事はなぜ注目されてるの?」

はじめて「戦略人事」を見聞きした人は、以上のように悩んでいるのではないでしょうか。

戦略人事は、企業が経営戦略で定めた目的を達成するために人事施策を策定することを指します。終身雇用の崩壊や労働人口の低下で人材確保が難しくなった昨今、人材確保のために注目されている人事手法の一つです。

本記事では、戦略人事の概要や人事戦略との違い、注目されている背景などを解説します。また、記事後半では実施する際に必要な役割・機能や注意点、成功事例も解説しているので、ぜひ最後までご覧ください。

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「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。

本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。

1. 戦略人事とは

戦略人事とは、経営戦略の達成のために人事施策を作成し実行することです。経営戦略と人的資源のマネジメントを結びつけ、人的資源を最大限活用することを目的としています。

戦略人事の根本となる概念は、デイビット・ウルリッチ教授が提唱した「戦略的人的資源管理(SHRM)」です。SHRMは、事業戦略の実現に必要な人事戦略のあり方を考える手段として用いられています。

とくに、市場変化が激しい現代社会では、経営資源である「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の適切な運営が大切です。戦略人事は、「ヒト」にあたる人的資源をどのように戦略に合わせるかを考えるために欠かせない要素といえるでしょう。

2. 戦略人事と経営戦略の関係

戦略人事と経営戦略は、企業の成長・競争力を高めるために密接に連携しています。

経営戦略とは、企業が経営目的を達成するために必要な計画・施策全般のことです。経営戦略や経営計画と戦略人事の関係性は、「目標」と「その目標を達成するための手段」に例えられます。

経営戦略の実現には、戦略・戦術・戦力・環境の4要素が必要で、戦略人事はそのうち戦力・環境を担う手段の一つです。

よい戦略・戦術があっても、実行できる戦力がなければ目的を達成できません。経営戦略を実行するために必要な人材を育成・採用して確保することが戦略人事の役割といえるでしょう。

3. 戦略人事と人事戦略の違い

戦略人事と人事戦略の違いは、主に以下の通りです。

目的

焦点と範囲

経営との連動度合い

戦略人事

経営ビジョンを実現すること

組織全体の戦略と直接的に結びつき、ビジネスの成功を目指して人的資源を管理する

企業のミッションや経営目標にコミットしており、高度なビジネス理解が求められる

人事戦略

人事に関する業務の効率化や目標を達成すること

組織の全体的な戦略に沿った人的資源を管理する

人事内で戦略を立てることが求められ、経営とは連動していない

戦略人事は、ビジネス成功に向けて、組織全体の戦略にもとづいて適切な人材を確保し発展させることが目的です。そのため、組織の総合的な戦略と密接に結びつき、人事部門と経営層が協働して実施されます。

一方で人事戦略とは人的資源を管理するプロセスのことで、採用手段の改善や従業員のスキル開発などを実施することです。人事戦略は、あくまで組織の目標達成に必要な人材を確保し、能力をフル活用することを目的としています。

戦略人事のように組織の経営にもとづくのではなく、特定の人事関連の課題に対応して組織の長期的な目標達成に貢献する点が特徴です。

4. 戦略人事が注目される背景・理由

戦略人事が注目される背景には、近年の企業経営に降りかかる著しい環境の変化が挙げられます。

まず、終身雇用の崩壊や成果主義への転換により、人材の流動が激しくなっていることが原因の一つです。

厚生労働省の調査によると、令和4年だけでも転職入職率は10.8%であることがわかっています。このことから、雇用の流動性が高く、転職が活発に実施されていることがうかがえるでしょう。

また、労働人口の減少により、経営戦略の実現に必要な人材の確保が難しくなっているのも原因です。総務省によると、2022年の労働力人口は前年に比べて5万人減少していることがわかっています。

さらに、2050年には5275万人にまで減少すると予測されています。2021年からは29.2%も減少する計算になり、より一層労働力人口の確保が難しくなることがうかがえるでしょう。

以上のような現代社会で市場優位性を確保したいなら、変化に対応可能なスキル・経験を保有する人材の獲得が欠かせません。そのため、人材管理を中核とした優れた経営戦略が必要とされているのが現状です。

参照:令和4年雇用動向調査結果の概況|厚生労働省

参照:労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果の概要|総務省統計局

参照:令和4年版 情報通信白書|総務省

5. 戦略人事に必要な役割・機能

戦略人事を実施するためには、以下の役割・機能が必要です。

  • HRBP
  • センター・オブ・エクセレンス(CoE)
  • オペレーション部門(OPs)
  • 組織開発&人材開発(OD&TD)

それぞれ、具体的に解説します。

5-1. HRBP

HRBPは、「人事(HR)」と「ビジネスパートナー(BP)」が合わさった役割です。各事業部門と連携し、人的資源と組織づくりの観点からビジネスをサポートすることを目的としています。主な仕事は、事業の人材や組織に関するリクエストに応えることです。

人材の配置・採用など事業をサポートする役割を担う従来の人事と違い、経営者や事業責任者と協力しながら成果を目指す点が特徴です。

HRBPが注目される背景には、コロナなどの影響により発生した急激な社会環境の変化に対応することが挙げられます。経営者目線で組織を改善できる人材の獲得が求められている社会に欠かせない存在といえるでしょう。

5-2. センター・オブ・エクセレンス(CoE)

センター・オブ・エクセレンス(CoE)とは、人事に特化したコンサルティングをする機能のことです。

社内の人的資源の専門領域で、優秀な人材・ノウハウを一箇所に集約して企画や設計機能を効果的に進めます。特定の部門だけが情報やノウハウを保有する現象を解消し、組織横断的に情報を共有することが目的です。

各部門で実施している業務を一元化できるほか、部門間を超えた新たなイノベーションの促進にもつながります。特定の部門が抱える課題に各部門が協力することで、早期解決にも期待できるでしょう。

5-3. オペレーション部門(OPs)

オペレーション部門(Ops)とは、日々の業務が計画通りに進行し、効率的に運営されるようにする部門です。

企業の生産性や効率を向上させるために、主に以下の業務を実施します。

  • 業務プロセスの管理
  • リソースの最適化
  • 品質の確保
  • コスト管理

CoEが策定した施策をもとに作成されたマニュアルや仕様書を確認し、施策を日々運用するのが主な役割です。

例えば、デジタル化による業務効率化にあたっては、主に以下の業務を実施します。

  • テクノロジーの選定・導入・運用
  • 効率的な業務フローを構築

また、市場や顧客の変化に合わせたサービス提供を可能にしたり、グローバルな視点で業務を最適化したりして競争力を高めることも主な仕事です。

5-4. 組織開発&人材開発(OD&TD)

組織開発(OD)とは、組織の人事戦略を実行するための体制を構築する機能です。組織全体のパフォーマンスを向上させることを目的とし、人と人との関係性や相互作用を重視します。

コーチングやフューチャーサーチなどの手法を用いて、従業員間の関係性を強化し、組織全体の活性化を図るのが一般的です。

一方で人材開発(TD)は、戦略を実現するための人材マネジメント戦略を担う機能です。個々の従業員の能力やスキルを向上させることを目的とし、個人の成長を通じて組織全体の成果に貢献することを目指します。

研修や教育プログラムを通じて、個人のキャリア達成やスキルや知識を向上させることが一般的です。

6. 戦略人事を立てる手順

戦略人事は、以下の手順で実施します。

  1. 企業の経営ビジョンをもとに人材ビジョンを策定する
  2. 企業の中長期人事計画を策定する
  3. 採用計画・育成計画を策定する

それぞれ、詳細に解説します。

6-1. 企業の経営ビジョンをもとに人材ビジョンを策定する

戦略人事の第一歩は、企業の経営ビジョンをもとにした人材ビジョンの策定です。

経営ビジョンは、企業が将来達成したい理想像や目標を示します。そのため、経営方針を読み解いて会社の社会的使命を理解したうえで人材ビジョンを策定することが重要です。

人材ビジョンとは、経営ビジョン実現に必要な人材の特性や能力を明確にし、企業全体で共有する指針のことです。

人材ビジョンを策定することで組織全体が同じ方向性を持ち、経営戦略の実現に向けて一丸となって取り組めるようになるでしょう。

6-2. 企業の中長期人事計画を策定する

人材ビジョンを策定できたら、次に企業の中長期人事計画を策定します。「5年後に売上高を100億円増やす」などの中長期的な経営計画をもとに、以下の3点を考慮して策定しましょう。

  • 必要な人材の質と量
  • 要員配置
  • 人件費の最適化

そのうえで経営計画の実現をサポートするための具体的な人事施策を立案することで、経営戦略と人事戦略を一体にできます。

6-3. 採用計画・育成計画を策定する

最後に、採用計画と育成計画を策定します

採用計画では、経営ビジョンの実現に必要なスキルや経験を持つ人材をどのように確保するかを検討しましょう。ダイレクトリクルーティングや新卒採用など、企業のニーズに応じた方法を選択することが重要です。

育成計画では、既存の従業員が必要なスキルを身につけるための研修や教育プログラムを設計します。適切に設計することで従業員の能力を最大限に引き出せ、組織全体のパフォーマンスの向上につながるでしょう。

7. 戦略人事をおこなう際の注意点

戦略人事を実施する際は、以下の3点に注意しましょう。

  • 従業員と密接に協働する
  • 人事管理内での整合性を図る
  • 成果に対する評価指標を決めておく

それぞれ、具体的に解説します。

7-1. 従業員と密接に協働する

戦略人事を成功させるためには、従業員との密接な協働が欠かせません。

戦略人事は単なる人事業務の管理ではなく、経営戦略を実現するための重要な手段であるためです。成功させるには、現場の従業員と密接に連携し、彼らの意見やニーズを把握することが求められます。

また、組織全体が一丸となって経営目標に向かって進むためにも、従業員が戦略人事の目的や方針を理解することが重要です。従業員に適切に周知して混乱を回避することで、戦略人事の成功につながるでしょう。

7-2. 人事管理内での整合性を図る

戦略人事を実施する際には、人事管理内での整合性を図ることも重要な要素の一つといえます。

整合性の欠如は、従業員の混乱や不満を招き、組織のパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性があるためです。

以下のような人事制度に一貫性をもたせ、互いに矛盾が生じないよう心がけましょう。

  • 評価制度
  • 報酬制度
  • 育成プログラム

7-3. 成果に対する評価指標を決めておく

戦略人事を効果的に運用するためには、成果に対する評価指標を事前に設定しておくことも重要です。

評価指標は、戦略人事の施策がどの程度成功しているかを測定するための基準となります。事前に定めておくことで、施策の効果を可視化し、必要に応じて改善策を講じられるようになるでしょう。

具体的な指標として挙げられるのは、主に以下の通りです。

  • 従業員の生産性
  • エンゲージメント
  • 離職率

自社の経営戦略に合致した評価指標を選択するとよいでしょう。

8. 戦略人事の成功事例

ここからは、戦略人事の成功事例を2つ紹介します。

  • 大手食品会社|企業内大学で人材育成
  • 大手製造会社|経営戦略の変革に応じた施策

8-1. 大手食品会社|企業内大学で人材育成

とある大手食品会社では、戦略人事を通じて従業員の育成をおこない、必要な人材の確保に成功しています。

グローバル化を進める中で、国内外の事業会社の社長や執行役員を任せられる人材を育成するために、企業内に大学を設立しました。

コースは若手からシニアまで年代・役職別に5段階に分かれており、それぞれに合ったカリキュラムが展開されています。

また、多様なフィールドで活躍できる経営人材の育成に向けて、入社して10年間に3部署を経験する教育制度も実施しました。

OJTでは習得できない専門的な内容を体系的に学べる環境を提供したことで、重役に相応しい人材の確保に成功しています。

8-2. 大手製造会社|経営戦略の変革に応じた施策

とある大手製造会社では、新たな経営戦略への転換をきっかけに、経営戦略に連動した戦略人事も実践しています。

具体的には、海外拠点ごとにおこなわれていた人事制度や施策をグローバルの共通基準で標準化しました。

結果、グローバル人材を育成・獲得する基盤を確立でき、2015年の上期には海外売上高比率5割超えを達成しています

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