【取り組みステップ①】経営層のコミットメントを得る|人事ができる“仕事と介護の両立”支援の実践ポイント#4 |HR NOTE

【取り組みステップ①】経営層のコミットメントを得る|人事ができる“仕事と介護の両立”支援の実践ポイント#4 |HR NOTE

【取り組みステップ①】経営層のコミットメントを得る|人事ができる“仕事と介護の両立”支援の実践ポイント#4

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※本記事は、株式会社日本総合研究所様より寄稿いただいたものになります。

ここまで、家族の介護を行いながら働き続ける従業員への支援が不足している場合、企業にとってどのようなリスクがあるのか、取り組みを進めることは企業にとってどのようなメリットをもたらすのかについて、経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を基に経営層視点・人事部門視点・管理職/従業員視点で説明しました。

また、そのような取り組みを行うことが人的資本の維持の観点やリスクマネジメントの観点でも重要であることを説明してきました。

そこで今回の第4回では、効果的な仕事と介護の両立支援の取り組み方の第1弾として、経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」の「ステップ1:経営層のコミットメントの重要性」についてご説明します。

寄稿者石田 遥太郎株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー

シンクタンクに勤務した後、2012年より医療福祉関連ベンチャーのスタートアップメンバーとして参画し、医療介護施設の開設及び運営のコンサルティングに従事。また管理部門の責任者として、経営管理全般(経営企画、財務、人事、システム等)を担当。2019年日本総合研究所に入社。リサーチ・コンサルティング部門にて、健康分野、医療介護分野における政策提言、調査研究、民間企業向けのコンサルティングに従事。

寄稿者小島 明子株式会社日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト

1976年生まれ。民間金融機関を経て、2001年に株式会社日本総合研究所に入社。多様な働き方に関する調査研究に従事。東京都公益認定等審議会委員。主な著書に、『「わたし」のための金融リテラシー』(共著・金融財政事情研究会)、『中高年男性の働き方の未来』(金融財政事情研究会)、『女性と定年』(金融財政事情研究会)、『協同労働入門』(共著・経営書院)。

寄稿者石山 大志株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー

日系コンサルティングファームを経て現職。入社後一貫して人事組織コンサルティングに従事し、近年は人的資本経営の推進、プロアクティブ人材の育成に向けた取り組み推進に注力。近時の執筆記事等として、「仕事と介護の両立を実現するビジネスケアラー支援」(共著、『労政時報』2024年/労務行政)「エクイティがダイバーシティ施策のカギ-〜人的資本経営とDE&I」(共著、「Power of Work-2023年/アデコ)等がある。

 

1. 仕事と介護の両立支援が進まない…その理由は?

企業での仕事と介護の両立支援は、高齢化社会が進み労働力が不足する労働供給制約社会において、人的資本経営や人材確保定着の観点から非常に重要であると言えます。

しかし、実際にこの取り組みを進めている企業はまだ限定的です。では、なぜ仕事と介護の両立支援が進みにくいのでしょうか。

理由1:介護の現状を開示することに抵抗を感じる人が多い

第一に考えられる理由が、介護そのものが持つ特有の事情です。介護というと、誰もが心身が衰えていく歳を重ねた親を想像し、それぞれの介護経験はプライベートな事情の一部であり、人に話すことは控えめになる傾向があります。

自身のキャリアに影響を与える恐れがある介護の現状を開示することには抵抗を感じる人は少なくありません。

理由2:社内でも介護の実態を把握しにくい

そして、もう一つは企業の内部の構造的な問題が挙げられます。前述の介護に対するネガティブなイメージが存在するため、社内での介護の実態を把握する取り組みを行っても、従業員自身が介護の実情をあまり表に出すことができません。

それによって、経営会議での報告や議論が難しくなり、経営の優先事項リストにおいて仕事と介護の両立支援が低い位置になると、適切な施策の判断や進行が困難になります。

そうした事情が続くと、企業全体での両立支援に関する理解が深まらず、周囲の理解がないまま介護状況を示すことに迷いが生じ、従業員が介護の状況を明らかにする意欲が減退します。

結果として、仕事と介護の両立に取り組んでいる従業員の実態が把握できず、社内全体への影響を正確に理解することができず、生産性の低下が見え隠れするという状況が現れてきます。

このように仕事と介護の両立が進まない状態は、「負のサイクル」となってしまう可能性があります。 このような問題に対しては、企業全体で課題を共有することと、それに対する理解と協力を進めていくことが非常に大切なのです。

2. 介護と仕事の両立を支援するためのコミットメントと経営者の役割

介護と仕事の両立の支援に向けて、「負のサイクル」を断ち切るためには、経営者や経営陣の強い意志やコミットメントが必要です。

その第一歩として重要となるのが、「経営層のコミットメント」です。これは、経営者自身が「介護」という課題に対する深い理解と、それを踏まえた組織文化改革の推進に他なりません。

自社にフィットした仕事と介護の両立支援策を考え出す

具体的にはどういったことが重要なのでしょうか。

それはまず、各企業が自社の業種、業態、規模、組織構成、ビジネスモデルをふまえつつ、自社にフィットした仕事と介護の両立支援策を考え出すことです。

そしてその策を見つけたら、次に経営方針や戦略と連動させていく姿勢が求められます。そしてそのサポート策を経営者が明示し、担当役員や担当者を任命して推進体制を整備することにより、計画の実現に向けて一歩を踏み出せるのです。

経営者自身が「介護」という課題について深く理解する

しかしそのためには、何よりも経営者自身が「介護」という課題について深く理解していることが重要です。

介護についての知識を得るためには、本ガイドラインで提供されている情報だけでなく、行政機関が発行するパンフレット、関連書籍、メディアの情報など様々な情報源を利用して、具体的に介護が発生した場合に従業員を取り巻く状況を理解することが必要です。

その上で自社の状況、つまり規模や業種などを考慮に入れて、経営戦略や組織マネジメント、現場パフォーマンスといった観点から、従業員が仕事と介護を両立させることが難しいとどのようなリスクが生じ、逆に両立が可能になるとどのような利点があるのかを整理することが求められるのです。

これにより、経営者自身が「仕事と介護の両立」について深く知識を持ち、その理解をもとにした対策を行うことで、負のサイクルを断ち切り、企業全体としての取り組みを推進していくことができるのです。

3. 経営者のメッセージ発信と推進体制の整備

「介護と仕事の両立」の推進に向け、経営者や経営陣の強いコミットメントが必要となります。

それは経営者自身や経営陣が従業員やその他の経営幹部に向けて、両立を積極的に推進するための動機付けや方針を示す必要があるからです。

経営者自らが両立支援策の推進に関するメッセージを発信

その一環として、経営者自らが両立支援策の推進に関するメッセージを発信することは、企業全体の方向性を示し、行動変容を促す有効な手段となります。

こうしたトップ自らの先導により、職場全体で仕事と介護の両立を支援する環境や風土が形成・醸成され、心理的安全性も確保されます。

それにより、従業員が介護の状況について自由に話せる雰囲気が生まれ、各部署の管理職がフォローアップを行いやすくなると期待できます。

両立支援を推進するための特定の役員や担当者を任命しておく

また、自社の中で仕事と介護の両立支援を推進するに当たり、特定の役員や担当者を任命しておくことは重要で、それが推進体制の骨格を作ることにつながります。

例えば、大企業ではダイバーシティ施策などを担当するCHROChief Human Resource Officer)がその任を担っている場合も多いですが、中小企業ではそういった専任の部署や人員がいない場合もあるでしょう。

しかし、そのような状況下でも、経営者が率先して仕事と介護の両立を推進する主体を任命し、明確にすることで、社内の推進を一層力強く行うことが可能となります。

加えて、経営者が直接介護と仕事の両立支援を強く訴えるメッセージを発信することで、企業全体が行動の変化を遂げるきっかけとなるでしょう。

その結果として職場全体での介護と仕事の両立支援の風土が形成され、従業員が自身の介護状況をよりオープンに共有しやすくなる環境が生まれます。さらに、管理職による従業員へのサポートも効果的に行うことが可能となります。

介護と仕事の両立を支援する環境作りを推進

このように経営者が介護と仕事の両立を応援する強力なメッセージを発信し、実際の行動として体現することが求められます。このことにより企業の文化自体が変わり、様々な課題をより良く解決していきます。

その一つが、介護と仕事の両立を支援する環境作りで、それにより企業全体がより健全な成長を遂げるための土壌が形成されるのです。

実際の事例を挙げてみると、社員の平均年齢が上がるにつれて介護の問題が増えることを予測し、数年前から仕事と介護の両立支援策を開始した企業があります。また、全社意識調査にも介護に関する設問を設けて状況の把握を行い、それをもとに経営会議で報告するなどしています。

さらに、両立支援制度が効果的に作用するためには風土づくりが重要です。そのために社内報を活用してトップからメッセージを発信し、本気で介護支援に取り組んでいることを社員に伝えることが求められます。

これらの事例は、経営者が介護と仕事の両立に対するコミットメントを実際の行動に移し、その結果として企業全体がより良い方向に進むための具体的な方法を示しています。

このように、介護と仕事の両立を支援するためのコミットメントを得ること、経営者のメッセージ発信と推進体制の整備することは、「介護両立支援を巡る負のサイクル」を断ち切るための第一歩となります。

では、そのあと人事部門は実際にどのように取り組みを進めて行けばいいのでしょうか。次回の第5回では、ステップ2として「実態の把握と対応」について説明します。

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