人事はどこへ向かうのか?平成の人事に令和の人事が聞いた“変化の潮流” |HR NOTE

人事はどこへ向かうのか?平成の人事に令和の人事が聞いた“変化の潮流” |HR NOTE

人事はどこへ向かうのか?平成の人事に令和の人事が聞いた“変化の潮流”

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※本記事は、株式会社シニアジョブの関岡央真さんより寄稿いただいた記事を掲載しております。

少子高齢化による人手不足に働き方の多様化、労働移動の円滑化に生成AIの普及など、人事・採用を巡る環境の変化は目まぐるしく、これからいったいどのようになるのだろうと悩む人事や採用担当の方は多いと思います。

今回は、「平成時代」に人事を務め、現在はテレホンアポインターとして活躍する62歳の女性に、株式会社シニアジョブの戦略人事本部長の、私・関岡央真が僭越ながら「令和の人事」を代表して話を聞いてみました。

「平成の人事」は令和へと至る時代の変化をどう感じたのか、人事の今後を占うヒントについて探りました。

関岡央真 | 株式会社シニアジョブ 戦略人事本部長 シニア就業促進研究所 所長

大学卒業後、テレビ局系列の制作会社に入社。報道・情報番組の制作に携わる。2017年から株式会社モバイルファクトリーに採用担当として入社。新卒を中心に採用活動を行うほか採用広報も兼務。「モバファク 新卒ドラフト」などのユニークな採用を行うなど、営業職からエンジニア職まで幅広い職種の採用を経験。2023年9月より現職。

1. 平成から令和へ人事はどう変わった?

生成AIなど、ビジネスを巡る変化の速度は加速する一方で、それは人事・採用でも同様です。7年前、私が前職で人事になった時には、60代を即戦力として中途採用している自分などまったく想像できませんでした。

今後、シニアの採用はより一般的に、そして高い年齢へと拡大するでしょう。また、人事や採用の場面でのAIの活用も進むでしょう。その中で、人事・採用という仕事はAIに奪われることのない安泰なものなのでしょうか。

私は人事・採用の未来に、強い危機感を持っています。既に適性検査や評価管理システムの一部ではAIが導入され、成果を上げています。近い将来、人では遠く及ばない正確で公正なジャッジメントをAIが行うようになるでしょう。その時、我々人事の役割はどうなるのか、それを探るために私は、「平成の人事」の話を聞いてみることにしました。

シニアジョブのテレホンアポインターとして働く62歳のKさんは、かつて支店長のような管理職ポジションで人事や採用も担当していた人物。現在に至るまで視点や手法、注意点が大きく変化してきた人事・採用を、「平成の人事」だったKさんはどう見つめてきたのかを探ることで、私は人事・採用の今後を考えたいと思います。

2. 「毎日終電だった」今は真似できない平成の人事の働き方

まず、Kさんの人物像から紹介しますが、その働き方から既に、令和の現在では会社側から強いることが許されないような働き方でした。

Kさんが、結婚・出産を経て就職したのは、生活関連サービスの営業職でした。事業所のNo.2、のちにトップとなり、専任ではなくたくさんの仕事の一部ですが、人事・採用も担当していました。

Kさんはこうした管理職を10年続け、その後も同じ業界で仕事を続けたものの、61歳になるタイミングで事業自体が終了。シニアジョブのテレホンアポインターに応募して採用、2023年10月から勤務しています。

管理職、育児、さらに遠方での親の介護をすべて両立させたKさんは、帰りは毎日終電。帰りの電車の中で玉ねぎの皮を剥きながら帰ったこともあるそうです。

人事としては、それまでどの会社でも半年もたずにすぐ辞めてしまっていた若者を採用・教育し、キャリアアップや寿退社までの3〜4年、しっかりと活躍してもらい、現在でもお礼を言ってもらえる関係を構築していたといいます。

3. 短期離職者でも採用する教育への絶対の自信

上記の採用対象や方針からして、もう私とは異なりますが、これは時代の変化というよりも、管理職の職務の一つとして人事・採用を担当していたKさんと、人事・採用専任の私の立場の違いかもしれません。

短期間で職を転々としている応募者に対しては、私の場合、もし採用するにしても「うちもすぐ辞めてしまうのでは?」という不安をどうしても抱えてしまいます。しかしKさんは、現在よりも終身雇用が一般的だった時代に、応募者が職を転々としていても、どんな前職でも関係なく採用していたそうです。

「話していると、優秀な人でも社員同士の非難とか妬みとか、仕事に直接関係のない理由で辞めていたんです。だから、そういうのがここは一切ないからと、もしあったとしても私が全部払拭するから大丈夫だって言ったんですね」

「辞めるなとか、辞めないなっていうのは、その時は多分わからない。この人は絶対いいだろうなと思った人が、研修終わった途端に辞めちゃうっていうのもありますしね。それは相性ですよ」

このように語るKさんは、「教育」や「職場環境整備」を重視し、それについての自信から転々としている応募者も採用できていたのです。では逆に、Kさんが評価しなかったのはどのようなパターンだったのでしょうか。

「“私は絶対にこの仕事がしたくて応募しました!”って言っているような熱い人が結果を出せるとは限らず、かといって、冷めていれば良いとも限りません」

「1人で1000万円稼ぐ人がいたんですよ。 その人がいる支社は、すごく成績良かったんですね。だけど私は、それが1番良くないなと思ったんです。その人がもし倒れたら売上ゼロですよ」

このKさんの言葉からもわかるように、Kさんは能力が高い、熱量が高いだけで評価はせず、組織のフェーズとカルチャにマッチした人の採用・教育を重視していたといいます。

当時の組織においては、1人で1000万円稼ぐ社員より、8割できる社員を5人育てたほうが良いといった方針を持っていました。

このKさんの方針とは違った考え方を、現在、令和のスタートアップに勤める私は持っています。

転職が当たり前・前提として考えなければならない中で、スーパースター社員の戦力は極めて重要です。ずっと頼ることはリスクだとしても、スーパースターを無視して「8割」を5名採る余裕はありません。

規模が大きくなるまでは、スーパースター、トッププレイヤーに頼りつつ、後進を引き上げてもらう構造になるでしょう。

4. 若者が管理職をやるべき、と平成の人事が言う理由

スーパースター社員やトッププレイヤーに多少関連することで、管理職についてもKさんは興味深い発言をしていました。それは「管理職には、若者が就くべき」というものです。

私もこれは賛成なのですが、Kさんにはどのような思いがあるのでしょうか。

本来であれば「どのように数字を上げるのか、そのために何をやるのか、そしてやることの責任を負うのが管理職」であるにもかかわらず、自分たちの時代は年功序列で年齢・社歴だけで管理職になった年配者が「朝何時に来た、夜何時に帰った、トイレに何回行った」といった無意味な管理をしていたと語るKさん。

「若いうちから管理職にチャレンジしたならば、管理職が向かなかったら辞めるなり 営業や技術職に戻るなりできるじゃないですか。年を取ってから元の仕事に戻ってねって言っても戻れなくて、ぶら下がる人が多くなってきてしまう。だから、若いうちに管理職に就けてみるのは1つだと思うんですよね」

このように、若者が管理職に就くべき理由をまとめたKさん。管理職についての私とKさんの意見は共通しており、管理職も人によって向き不向きがあり、「あくまで管理職はロール・役割でしかない」というものであることを確認し合いました。

5. 「人事が重視すべきもの」は変容していない

このように「平成の人事」だったKさんと話をする中で、私は時代が変わる中で「人事が重視すべきもの」が変容したのではなく、終身雇用が当たり前なのか転職が当たり前なのか、買い手市場なのか売り手市場なのかなどの「取り巻く外部環境」が変容したことによって、それに対応するための注力ポイントや手法が変わったのではないかという結論に至りました。

Kさんが人事・採用として重要視していたのは、人材の「教育」と「労働環境整備」でした。そのため、採用時には応募者の職歴や資質にはそれほどこだわっていませんでした。

1人のスーパースター社員よりも8割できる社員を多く確保することを目指していました。そして、入社後の「教育」を重視するからこそ、人事には「公平なジャッジメント」が求められると考えていました。

対して私は、人事が「公平なジャジメントを行うのは限界がある」と考えています。そこは将来的にAIに任せたほうが良いかもしれないとさえ思います。

入社して欲しい人材を確実に口説き落とせるとも、離職を完全に防げるとも思っていません。だからこそ、人事にもっとも求められるのは「会社の魅力づけ」のスキルであり、興味を持ってくれた人材に「会社の魅力を確実に伝える」スキルだと思っています。

6. 令和も変わらないコミュニケーションの重要性

では、こうした「新旧の人事の違い」を超えてなお、私たち人事が重視すべきものは何なのでしょうか。それは「コミュニケーション」だと私もKさんも考えています。

退職代行が盛んに用いられるなど、就職・退職を巡る人材と会社間でのコミュニケーションが最近途絶する場面が出てきたことをKさんが嘆く一幕がありました。これは私も共感しましたが、過去に比べて転職・退職の頻度が増している現代だからこそ、以前にもまして人事にとってのコミュニケーションの重要性も増していると考えます。

たとえば、退職代行についてもKさんは「退職が軽くなった」と嘆きましたが、私はむしろ「社員にとって退職のためのアクションが重いために退職代行を使うのでは?」と思いました。

退職代行に限らず、様々なサービスやツールが人や情報をスピーディーにつなぐ現在。求職者や社員と人事のコミュニケーションも、その速度についていかなければなりません。

そうでないと、退職代行を使って辞める社員のように、人事が気づいた時には為す術もない事態になってしまいます。

冒頭でも述べたように、今後確実に採用でも評価でも、AIによるジャッジメントが人間を凌駕するでしょう。すると人間の人事の役割は、営業戦略を立てて最終的にクロージングを行う営業職に近いものになると私は考えます。戦略立案や「会社の魅力づけ」、そしてコミュニケーションへと重要な領域が集約されるのではないでしょうか。

人事が管理職の補助的な役割だった昭和の時代から脱皮し、公平なジャッジと強力な教育で人事を変えようとした「平成の人事」Kさんの時代も、長く勤めることが理想で、それに見合った人材を採用する、あるいは教育する時代だったように、今回のKさんとの対話を通じて感じました。

転職が当たり前で、若者は特に人口自体が減少している令和の今、人事はただ教育や評価するだけではなく、自分たちの力で今の仕事や社内を楽しいものに変換する、仕事をしようと思ってもらえるコミュニケーションを取るといったアクションが求められ、それが実現できないと淘汰されるという確信を強めました。

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