2023年3月期から人的資本の開示が義務化され、各社の開示内容について注目が高まっています。
一方で、目標数値の設定や、その達成に向けてどのように取り組むべきか、事業戦略との接続や人事データの可視化に向けた整備、自社ならでは独自性の追求など、求められるものは多く、まだまだ手探りの状況の企業が多いのではないでしょうか。
本記事では、2023年11月28日に開催された『人的資本経営サミット2023』より、「注目企業の人的資本開示と取組み」と題して実施された2つのセッション内容についてお届けします。
各社の具体的な取組事例が満載ですので、ぜひ人的資本開示を進める際の参考にしていただければと思います。
SESSION #1|注目企業の人的資本開示と取組み〜日本の先進事例 / Large case〜
1つ目のセッションでは、「Large case」として株式会社三井住友銀行の取締役兼専務執行役員として人事制度改革を推進する小林氏、オムロン株式会社の元取締役執行役員専務CFO兼グローバル戦略本部長としてROIC経営をリードし、現在はワコールホールディングス株式会社で社外取締役を務める日戸氏が登壇。
Forbes JAPAN Web編集長の谷本氏がファシリテーターとなり、実践的な知見をもとにした大企業における人的資本経営の実装と開示における核心的なポイントについて議論しました。
「経営戦略」と「社員の想い」双方の実現にコミットする|SMBC小林氏
私たちがこれまでどういう取り組みをしてきて、これからどのような変革に取り組もうとしているのか、また、どういう悩みを持っているのかについて、お話したいと思います。
1990年太陽神戸三井銀行(現三井住友銀行)入行。営業店勤務を経て2000年人事部に異動。人事部グループ長・副部長を歴任後、2016年岡山法人営業部長、2018年人事部長を経て、2023年現職就任。「変革をリードする人事」をモットーに、組織風土改革と人事のOS変革に取り組む。
今、グローバル化の進行やデジタルテクノロジーの浸透、FinTech企業の台頭によって、銀行業界は「斜陽産業」「不人気業界」と言われるようになってしまったと感じています。
また、従業員の価値観の多様化がとても早いスピードで進んでおり、これまでのようなヒエラルキー重視で同一性の高い組織のままでは、 本当にダメになってしまうという想いが強くありました。
そこで、従業員の挑戦意欲や成長意欲を取り戻すために、これまで6つの階層があった組織構造を3つの階層にしたり、事務職を総合職に統合したりと、大きな人事制度改定に取り組みました。
加えて、 組織風土改革ですね。ここは前社長の太田が強いリーダーシップで進めてきました。本来、SMBCが持っていた強みや良い部分をきちんと残していくために我々のカルチャーを定義し、エンゲージメント向上に取り組むようになりました。
中期経営計画でも「経済的価値の追求」だけでなく、「社会的価値の創造」に挑戦していくことを明記していますが、そういった社会課題の解決を進めていく上でも幅広い視点を得るために同一性の高い組織から脱却しなければならない。多様な人材が活躍できる処遇制度や運用の仕組みを作ることで、マネジメントのあり方を変えていきたいという風に思っています。
取り組みを進める上で課題となるのは、多様化が生み出す遠心力です。これをどう制御し、グループの求心力に繋げることができるか。これまで実施してきた組織風土改革の中で「SMBCらしさ」をどのように定義して、どのように守っていくべきなのかを、強く考えました。
そこで、今期からはSMBCグループとして人財ポリシーを制定しています。
これは、我々のミッション・ビジョン・バリューをもとに策定しており、企業が「社員に求めるもの」と「社員に提供する価値」という2つを表したものです。この人財ポリシー実現を目的に、これからの施策を進めていきたいと思っています。
そして、やはり経営戦略と従業員の想いを双方で実現することがSMBCグループの人的資本経営モデルだという風に思っています。
これまでのように人の「量」に注目するだけではなく、スキルや経験、能力といった「質」に注目して、戦略を支える人材ポートフォリオを作っていく。
個々の従業員のキャリア支援、D&Iのさらなる加速、働き方の柔軟化といった、従業員の成長とウェルビーイングのための支援をおこなう。
そして、これまでのタスクマネジメントからピープルマネジメントの強化を図ることで、チームのパフォーマンスを最大化する。
この3つの取り組みを人材力の最大化の中心に置いています。
また、根本的には人事プラットフォームのアップデートが必要だと考えていて、これから我々が進めていきたいと考えているものです。
プロフェッショナルな人材が、自分たちの働き方や専門性を磨いていくキャリアを自律的に選択していく。 そのことを中心に考えると、いかに一律の年次運用から脱却できるか、が最も大きなポイントだと思います。
そして、このような取り組みは人事だけでは進みません。 経営や事業部門と一緒に融合した形で、どのようにやっていけるか。 中央集権的な人事と言われる金融機関、特に銀行の人事にとっては非常に大きなチャレンジですが、トライアンドエラーを繰り返しながら挑戦を続けていきたいと思います。
全体最適な経営に向けて企業理念を浸透させる|元オムロン日戸氏
私がオムロン株式会社で何をおこなっていたかというと、既存事業の収益力を強化し、その収益から新たな投資を行って成長事業に挑戦するという「ROICマネジメント」です。
オムロン(株)でCFO兼グローバル戦略本部長として、ビジョン策定/中期経営戦略策定/ROIC経営の責任者としてリードするとともに、各種戦略策定/推進においても経営チームのコアメンバーの一人として策定に参画。現在はオムロンを退任し、要請があった企業の業績向上取り組みや、経営者/CFOへのアドバイス、コンサルタントを行い、日本企業の発展に貢献する活動をおこなっている。
ROICマネジメントを起点に既存事業の収益性を向上させる。そこで稼いだ金を原資に成長事業への再投資を行い、成長/新規事業を創出し、事業化/拡大を実現する。さらに成長事業の収益力を向上させる。
このような持続的な企業価値最大化のサイクルを回すことは、投資家からの信頼だけでなく、社員に対する新たなチャンスを生み出すことができます。
私は、人材育成において重要なことは、様々な制度設計の他に、社員にチャレンジする機会を与えることだと考えています。
そのため、持続的な企業価値最大化のサイクルを回し、ステークホルダーとのWin-Winの関係を築くために努力していました。
このサイクルを回す上で分かりにくいのは、課題や指標を分解して、様々な施策を各部門や個人ごとに実行する個別最適の傾向が強くなると、多くは部門最適/対処療法となってしまうことです。各部門や個人の目標は達成されていても、部門/取組間のコンフリクトが発生し、全体としての業績や企業価値が向上しないケースがあります。
私は全体最適なマネジメント理論であるTOC(制約理論)を勉強して活用しています。その理論を生み出したゴールドラット博士は、
「どのような尺度で私を評価するのか教えてくれれば、どのように私が行動するのか教えてあげましょう。もし不合理な尺度で私を評価するなら、私が不合理な行動をとったとしても、文句を言わないでください」
と言っていますが、その通りだと思います。個別最適→全体最適な取組にトランスフォームする事がきわめて重要です。
全体最適なROICマネジメントへのトランスフォームをいかに実現するかですが、多くある課題の中で、根本となる原因(制約)は1つまたは2つに絞られています。
そのため、その原因(制約)を解決するために、全ての部門が共通の目標に向けて、共通の実行計画を策定する。全部門が前提・目的・目標・実行計画を共有し、全体目標達成に向けて、部門間が協力して取り組むこと自体をどのようにリードできるかが重要です。
「人」をベースに持続的な企業価値最大化のサイクルを回すために、どのように根本的な課題にアタックし、どのような成果を出すのか。これが、人的資本経営をおこなう上での重要な問いだと考えています。
その中でもオムロンは、企業理念を中心に全体最適を徹底的に浸透させ、全体と個の調和を実現し、各組織のコミットメントに基づく自律的な会社運営を目指しています。
経営陣は、経営チームとして協力関係を築くために、時間をかけて徹底的に議論を行っており、人事評価や報酬においても全体最適を重視し、企業理念と実践を一体化させています。
組織間の連携においてもコラボレーションを重視し、チーム志向の人材を登用し、チャレンジを奨励しています。
これらの経営方針や行動を通じて全体最適を追求し、企業価値向上に貢献しているのです。
そして、このプロセスの中で、人的資本が蓄積されていきます。人的資本はサステナビリティ経営推進を考える上でも重要課題なっており、オムロンでは5つのテーマに絞り込んで具体的な議論を行っています。
この5つの中で中核となるものは、3つ目の「価値創造にチャレンジする多様な人財づくり」です。
異なるバックグラウンドを持つ人財を受け入れるダイバーシティはもちろん重要ですが、オムロンでは特にチームとして働くことができるようにするインクルージョンに力を入れています。
たとえ人的資本経営に取り組んでいても、企業利益に繋がらなければ本当の成果は出ていません。
さまざまな人財施策をおこなう中で、人事のバリューチェーンを明確にして、人的創造性の向上に繋げています。
人的資本経営で「意欲ある社員」を見つけ出す仕組み作りを|パネルディスカッション
ありがとうございました。ここからお二人にお話を伺っていきたいと思います。
証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、米国でMBA取得。その後、日経CNBCキャスター、同社初の女性コメンテーターとして活躍。4000人を超える世界のVIPにインタビュー実績があり、国内では多数の報道番組に出演。現在、経済系シンポジウムのモデレーター、政府系スタートアップコンテストやオープンイノベーション大賞の審査員、企業役員・アドバイザーとしても活動。2016年2月よりForbes JAPAN参画。2022年1月1日より現職。
まず、小林さんにお伺いします。一口に人的資本経営と言っても、様々な背景や目的があって取り組まれているのではないかと思います。最も初めに取り組まなければならないと考えていることは何でしょうか?
「多様性」です。これはイノベーションや将来的な人材確保に関わる重要な要素です。
ただし、バラバラの組織にはならないように注意しなければなりません。
日戸さんのお話にもありましたが、様々な施策が相互依存しているので、単一の施策を先に進めるのではなく、全ての施策を一緒に進めていくことが求められています。
特に、私たちはグループ経営ですので、グループ全体で連動して進める必要があります。
多様性に関しては、最近「DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)」という言葉が盛んに取り上げられています。
その中でも、特に実際の具体的なアクションで表現しなければならないインクルージョンの段階で、多くの企業が苦しんでいる印象を受けています。
インクルージョンを進める上では、どういった要素が必要になると思いますか。
我々のような非常に人数が多く在籍する大企業では、特に経営理念や人財ポリシーを浸透させることが重要です。
そのためには、各組織内で実際に働くマネージャーが、それを自分たちの組織に適用し、部下やスタッフに伝えていかなければなりません。マネージャー強化も大事な施策の一つです。
日戸さんに伺います。オムロンさんでは、人的資本経営をおこなうための企業文化作りが既に強く根付いているように感じますが、どのようなプロセスで作られていったのでしょうか。
企業理念自体は昔からありましたが、2011年頃に、その企業理念が形骸化してしまっているという点が問題としてあがるようになりました。
そこで、「企業理念を本当に実践し、それを中心に据えて、徹底的に実行しよう」という方針が確立されました。
改めて社員と会社の関係を考える中で、企業価値を向上させる人の処遇が良くなってチャンスが回ってくるようになる一方、今はしがみついているだけの人は仕事がなくなるサイクルが現れるようになっています。
なるほど。企業理念を社員の方に本当に腹落ちするように、そして自分自身の理念とも結びつけて浸透させることは難しい課題ですね。
特に、今どの企業でも企業理念に「人に優しく」「地球に優しく」といった内容を書いてしまいがちで、社員一人ひとりからすると「なぜ私がこの会社で働いているのか」という意味が伝わりにくいのではないかと思います。
小林さんに伺いたいと思いますが、そのような中で工夫されてきたことや考えていることはありますか。
「ありたい姿」がどの企業でも同じような形になり、それに伴って施策やKPIも同じような形になってしまう傾向があると私も強く感じています。
これまでの取り組みだけでなく、お客様の変容していくニーズもしっかり拾いながら、私たちが一体何者なのかをしっかり考えて打ち出さないといけないと考えています。
これから大企業では人的資本経営が本格的になっていくと思います。お二人にお伺いしたいのですが、人的資本経営はどんなところからスタートするべきでしょうか。
企業として、とにかく高い目標を掲げる。その目標は「なぜこの目標なのか」ということまで明確に掲げる。その目標をを実現したいということを共有する。これがスタートかなと思います。
そして、目標やありたい姿に対しての現状を明らかにすることで、課題が明確になり、打ち手が見つかっていくのだと思います。
経営者も人なので、どうしても自分たちの企業の実態を「見たいように見てしまう」という部分は、少なからずあると思います。
ある意味で楽観的に見てしまっていると思うので、そこを客観的に見ていくこと、そして現在の姿とありたい姿をしっかり捉えていくことがスタート地点ではないかなと思います。
なるほど、ありがとうございます。その中で、人的資本の開示は客観的に数字で表すこともでき、本当の意味での企業価値がわかるものになると思います。
社員のスキルを高めたり、可視化したりしていくこともとても難しい課題だと思うのですが、これはどのように行っていけば良いか、日戸さんはどのようにお考えでしょうか。
やるべきことが明確であれば、それに必要なスキルは、本当に真剣になれば、結構短期間で身につくと思うんですよね。
だから、スキルを身につけてもらうことを考えるより、意欲ある人にチャンスや場を与え続けるサイクルを回すことで、必要なスキルを持った人はどんどん蓄積されていくと思います。
アメリカのギャラップ社が行った調査によると、日本において仕事に対するやる気や熱意のある社員が5%しかいないというデータもあります。
なので、企業としては、その5パーセントを逃さない仕組みも大事になると思いますが、いかがでしょうか。
そうですね。この会社をこれから守っていく人が誰なのか見極めることは、やっぱり人事として必要だと思っています。そこは絶対失ってはいけないですね。
オムロンでは「The OMRON Global Awards」という企業理念を実践するためのイベントをやっています。
社員の人柄が良く見えるので、こういった仕掛けはあると良いのではないかと思います。
SESSION #2|注目企業の人的資本開示と取組み〜日本の先進事例 /Growth case〜
2つ目のセッションでは、「Growth case」として株式会社メルカリ執行役員CHROの木下氏、株式会社SHIFT上席執行役員兼人事本部本部長の菅原氏が登壇。
JPモルガン証券株式会社のマネージング・ディレクターである森氏がファシリテーターとなり、成長段階の企業が経営戦略と人事戦略をどのように統合させて人的資本開示を実践し、成長に繋げているのか議論しました。
優秀なグローバル人材を採用するためにフェアな機会と報酬制度を設計|メルカリ木下氏
メルカリは、事業拡大が進む中で「人材」が最大の投資先であり、常に経営会議で「どこに何人配置するか」といったことを検討しています。
P&Gジャパン人事部に入社し採用・HRBP(HRビジネスパートナー)を経験。2001年日本GEに入社、北米・タイ勤務後、プラスチックス事業部でブラックベルト・HRBP、2007年に金融部門の人事部長、アジア組織人材開発責任者を務めた。2011年に8ヶ月間のサバティカル休職取得。2012年よりGEジャパン人事部長。2015年にマレーシアに赴任し、アジア太平洋地域の組織人材開発、事業部人事責任者を務めた。2018年12月にメルカリに入社、執行役員CHROに就任。
重要だと考えているのは、各人のポテンシャルを最大限に引き出すことです。
それを組織として実現することを人事戦略の柱としており、そのために「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」という3つのバリューの行動を最大化する人事施策を進めています。
我々が進めているソフトウェアエンジニアの採用は非常に高難易度であり、国内では十分な人数を確保することが難しいため、グローバルで優秀な人材の採用を積極的におこなっています。
現在では、ソフトウェアエンジニアの半数以上は外国籍の方で、採用活動も英語でおこなわれており、メルカリの魅力やミッションに共感した優秀な人材が日本にリロケーションしています。
外国籍の社員からの紹介も行われており、これにより事業成長に必要な人材を獲得することができています。
その中で、特に外国籍の社員の方は「フェアな報酬」を貰うことをとても大事にしているので、この数年を掛けて自分たちの人事制度をアップデートしてきたというわけです。
男女の賃金格差についても、当初はほとんど無いと想定していたのですが、実際に統計的な分析を行った結果、同じ職種・等級の男女で女性の方が7%低いという結果が得られたので、是正をおこなっています。
こういったことを行動に移していかないと、優秀な人材は他にどんどん流出してしまいますので、継続的に取り組んでいくことが重要だと考えています。
そして、これらの取り組みによる人材獲得、報酬のフェアネスが事業成長の重要なドライバーとなっています。
ありがとうございます。この流れで、一つ質問をさせてください。
上智大学法学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社し株式調査に従事。その後、バークレイズ証券を経て、2013年4月よりJPモルガン証券にてゲーム・インターネットセクターを担当。Institutional Investor誌アナリストランキングでは、Gaming & Internetセクターにおいて2019~2023年連続で個人またはチームランク1位を獲得。2022年3月より株式調査部共同部長を兼任。
男女での賃金格差について、社員の方にはどのように発表していったのでしょうか。また、実際に発表した後の社員の反応はどうでしたか?
発表にあたって、社内では「ネガティブなフィードバックも多いのではないか」といった懸念もあがりました。ただ、実際に取り組んでみて良かった点があります。
それは、この賃金格差が起こっていた原因が入社時であったことが分かった点です。入社時の年収に既に9%の男女差があり、それが徐々に改善されて7%になっていたことがわかりました。
我々も、前職の給与を一定参考にしながらオファーを出しています。そのため、このような外的な環境によって起こってしまっていることを公表することで、社会全体に対しての働きかけになったのではないかと思っています。
また、男性社員の反応は予想以上にポジティブでした。フェアでないことが起きたときにアクションを起こしてくれる会社だと、我々に対する信頼度は高まったと感じています。
人材の市場価値を正確に評価することは非常に難しいですが、フェアな評価を心掛け、優れた成績を収めた社員には昇給の機会を提供していく。こうしたアクションを通じて、社内外でのコミュニケーションを強化し、投資としての意味合いも含めて、従業員の信頼を築いています。
事業成長を構造化し「投資家目線」で開示する|SHIFT菅原氏
今日は、人的資本の開示に焦点を当てた話をしたいと思います。
慶応義塾大学大学院 理工学研究科修了。製造業向けコンサルタントをバックボーンにもち、創業期よりSHIFTの成長に事業サイドから寄与。その後、新規事業の立ち上げを経て、2018年より事業成長のエンジンとなる人事部門を掌握。採用・人事施策・人材マネジメントなど、データに基づく戦略的な人事施策を推進し、1万人を超える従業員がより良く働ける組織の創造にまい進する。現在は、IRなどを含めたSHIFTグループ全体の事業成長を牽引している。
まず、そもそも開示をなぜ行うのかというと、投資家の皆様に会社の現状や将来の展望をしっかり理解してもらうためです。
投資家の皆様が経営に対して期待を持ち、信じてくれることは非常に重要です。そのため、年に4回ある決算説明資料は、緻密な対話のために力を入れて作成しています。
例としては、次のように数字などを用いてより具体的な情報を開示しています。
開示はただ情報を出すだけではなく、その前提に事業成長が構造化されている、シンプルな数式になっていることが大切だと考えています。
その中に、人的資本のKPIや人事施策の結果が組み込まれていることが重要で、これを投資家の皆様やステークホルダーにわかりやすく伝えることが求められていると思っています。
SHIFTさんは、M&Aが事業成長のドライバーになっていると思います。グループ企業には、ミッションやビジョンをどのように浸透させているのでしょうか。
いきなり「こうしたい」という価値観を押し付けることはしていません。
経営層や人事、各部署のマネージャーの方々と交流を進めていく中で、少しずつ浸透させていくような動きを取っています。
無理に一気に変えるのではなく、じわじわと大事なことだけ共通化していく、という戦略です。
ありがとうございます。もう1点、「社員のやりがい」については、どのように測定しているのでしょうか。
ストレートな会社なので、「やりがいありますか」と直接聞いてますね。社内アンケートができる仕組みがあり、まずそこで聞いて、実際にグラフ化しています。
これは弊社の特徴的なカルチャーだと思いますが、アンケートの回答率が非常に良く、約1週間で95%、翌週には100%の回答を集めることができます。これは、人的資本に関する情報の収集を考える上で、結構大事な観点だと思います。
従業員の方を把握する「ヒトログ」についても、ぜひ教えてください。
はい。SHIFTでは、独自にタレントマネジメントシステム「ヒトログ」を作成しています。ここには、基礎的な人事情報やパーソナルに関すること、その他従業員の給与、やりがい、仲間といったさまざまな軸で一人あたり計450項目の情報が入っています。
これをもとに年2回評価をおこなっていて、 社長や役員が全員の評価方針を見て、全員分の年収を決めています。
メルカリが実践する外国籍社員のマネジメントの裏側|パネルディスカッション①
メルカリさんは、外国籍の社員の方が多くいらっしゃると思います。彼らのマネジメントはどのようにおこなっているのでしょうか。
現在、外国籍の方の退職率と日本国籍の方の退職率は、ほとんど変わりません。彼らの定着にとても成功していて、昨年はインドに拠点を立ち上げたのですが、こちらも非常に良い立ち上がりをしています。
インド拠点を作った背景は、どうしてもリロケーションできない方がいて、それが採用キャパシティを制限してしまっていることでした。そこで、最もIT人材が多いインドに拠点を作り、よりエンジニア獲得ができる手を打ちました。
上手くいっている大きな要因は、6年前にインド工科大学(IIT)で新卒採用をおこなった際に入社いただいた方々です。彼らは市場価値が高く、転職や引き抜きも非常に多いですが、今でも約7割がメルカリに残ってくれています。これは、本当にすごいことです。
これまでに、彼らは自分たちが仕事しやすいように社内の英語環境をどんどん整えていってくれました。そして、パフォーマンスを出して、しっかり昇格しています。
その彼らは、今、インフレも相まって、実はインドに帰った方が給料が高いという現象が起きています。なので、今はインド拠点を立ち上げる中核メンバー として活躍してくれています。
日本のメルカリでバリューを体現して昇格してきた方々が、インド拠点の立ち上げメンバーとして、現地の方の採用もオンボーディングもカルチャー浸透もおこなっています。
評価制度は、グローバルで一つに決められているのですか?
インドと日本の評価制度は全く一緒にしています。ただし、アメリカは少し異なります。
アメリカは、創業して約2年で立ち上げた拠点です。現在、シリコンバレーの様々なテック企業で働いた方々がリーダーシップを取りチームを作っているので、もう完全に日本企業ではありません。
既に、ある程度のシリコンバレーのテック系企業のスタンダードプラクティスが導入されているので、その人事の仕組みを日本のメルカリに逆輸入しています。そのため、今はとても親和性のある仕組みを作ることができています。
やはり「ローコンテクスト(前提となる知識やカルチャーの理解がなくても分かるシンプルで明快なコミュニケーション)」にシフトするためには分かりやすい仕組みが必要です。
そのため、グローバルテックカンパニーを参考に準備しておくことで、外国籍の方が違和感なく働くことができるようになります、
メルカリが拘りたい部分は、先ほどの3つのバリューなので、これはメルカリ独自なものとして最も体現している人が1番評価されるように設計し、仕組み自体はグローバルテックカンパニーをスタンダードに準備しています。
人的資本投資で「オフィス」をアップデート|パネルディスカッション②
もう1点、お二人に質問です。今後の人材戦略において、オフィスのあり方はどのように考えていらっしゃるでしょうか。
弊社は、現在約6割が在宅で、チームごとに働く場所を決めることができるような環境ですが、今回、新たに移転した本社にも人的資本の観点で投資しました。
この本社は、従業員が働くための場所ではなく、人的資本を最大化するための場所だと捉えてつくりました。そのため、ただ空間を作るのではなく、従業員の方々の感情が何かしら動くようなイベントやコンテンツを行うことをセットで考えて設計しています。
将来的には、月間で延べ1万人の社員が、23種類・266回のイベントに参加し、3万回ぐらいの接点を生み出そうということをKPIに置き、売上や利益の向上につなげるものはもちろん、やりがいや仲間作りといった効果を生み出そうと考えています。
我々は、これからより成長していくために、新しい新規事業に踏み出していく必要があります。そのため、オフィスで集まってアイデアを出し合ったり、コラボレーションを生み出す機会を作ったりすることは、とても大事だと考えています。
もちろん、エンジニアの採用やパフォーマンス最大化のため、フルリモートはできるようになっています。ただ、同時に、チーム単位で定期的に集まる仕掛けはとても多くおこなっていると思います。
バリューを体現するために、上手く対面の機会を取り入れていく。そのために、オフィスも昨年リノベーションしています。
コラボレーションスペースを増やし、固定席を全てフリーアドレスに変え、基本的にはプロジェクトチーム単位で動けるスペースを多く作っています。
ありがとうございます。最後に、参加者の皆さまにメッセージをお願いします。
メルカリでは、バリューの体現にこだわりを持っています。それを、人事領域でも体現していることを、これからもしっかり示していきたいと思っています。今日はありがとうございました!
データが見えなければ、改善はできません。私たちは人事情報を100%取ることにこだわっていて、それを施策に生かしていくことが大事だと思っています。
このような「人」に対する取り組みを続けていくことで、世の中がもっと良くなるといいなと思ってます。今日はどうもありがとうございました!