労働基準法の第5条とは?条文の内容や罰則を詳しく解説 |HR NOTE

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労働基準法の第5条とは?条文の内容や罰則を詳しく解説

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労働 法律

労働基準法第5条では、強制労働の禁止について規定しています。条文や制定された背景を見ると前時代の奴隷的労働が禁止されているように見えますが、実は現在でも強制労働につながる事態が起きているため注意しなければなりません。

本記事では、労働基準法第5条の内容について詳しく解説します。さらに、法律に違反しないよう気をつけたいポイントもご紹介します。

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人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。

今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。

労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。

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1. 労働基準法第5条の内容

法律を説明する女性

労働基準法第5条は強制労働の禁止について定めています。条文は以下のとおりです。

第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

[引用]労働基準法|e-Gov法令検索

働く意思のない労働者を無理に働かせてはいけない、労働を強いる行為をしてはいけないと法律で決められている形です。条文の意味について、詳しく見ていきましょう。

1-1. 精神又は身体の自由を不当に拘束する

「精神又は身体の自由を不当に拘束する」というのは、労働者の精神の作用や身体の行動を、何かしらの形で妨げることです。「不当に拘束」は個々のケースを判断することになります。社会通念上、受け入れがたい程度の手段を指します。

労働基準法第5条で禁止されている労働者の精神や身体の自由を不当に拘束する手段として、以下のようなものが挙げられます。

【長期労働契約】
長期労働契約は長い間労働者を拘束するため、不当な拘束になるケースがあります。

【賠償額予定契約】
労働基準法で禁止されている賠償額予定契約も、労働者を不当に拘束する手段です。賠償額予定契約とは、労働契約が履行されなかった場合に違約金や損害賠償額を支払うことを予定する契約を指します。たとえば、「退職時に違約金として○万円支払うこと」と決めている契約は違法です。

【前借金相殺契約】
前借金相殺契約も、労働者を不当に拘束するため労働基準法で禁止されています。前借金相殺契約とは、働くことを条件に労働者にお金を貸しつける契約のことです。たとえば、労働者の給料から借金を天引きする契約などが該当します。

【強制貯蓄】
強制貯蓄も不当に労働者を拘束することになるため、禁止されています。強制貯蓄は労働者が退職しないよう足止めするために利用されたり、経営状況の悪化などの理由で貯蓄の払い戻しが受けられなくなったりするため、労働者のリスクが大きいことから禁止されているものです。

1-2. 労働者の意思に反して労働を強制

労働者にその意思がないにもかかわらず長時間労働を強制することも、労働基準法第5条に違反します。日本では従来から労働者が拒否できない長時間労働が問題となっていますが、実は法律違反であるため使用者は解決に向けて動かなければなりません。

なお、条文で「強制してはならない」と定められていることから、労働者が実際に強いられて労働をしたかどうかは関係なく、労働を強制した時点で労働基準法違反となります。

1-3. 労働基準法第5条が誕生した経緯

労働基準法第5条は、憲法第18条の「奴隷的拘束及び意に反する苦役の禁止」を受けて作られた条文です。

戦前の日本において、労働者は過酷な肉体労働を強いられていました。とくに、北海道や樺太の炭鉱では、労働者を長期間身体的に拘束し、劣悪な環境で働かせるのが当たり前になっていたのです。労働者を収容する宿舎は監視されており、一度入ると出られないことからタコ壺になぞらえてタコ部屋と呼ばれていました。

タコ部屋のような悪しき強制労働の風習を排除するために、憲法では奴隷的な拘束や意に反する苦役を禁止したのです。そこから、労働基準法でも、労働者の意思に反する労働を禁止することになりました。

2. 労働基準法の第5条に違反したときの罰則

注意する男女

労働基準法第5条に違反した場合の罰則は、労働基準法で定められているなかでは最も重くなっています。罰則は労働基準法第117条で決められており、「1年以上10年以下の懲役」または「20万円以上300万円以下の罰金」です。

使用者は労働基準法第5条に違反した場合、上記の罰則が科せられます。労働基準法ではさまざまな罰則が定められていますが、第5条違反時の罰則が最も重いことから、強制労働が重罪であると理解できるでしょう。

2-1. 違反発覚の経緯

会社が労働基準法第5条に違反していると発覚するのは、多くの場合労働者の通報によります。労働基準監督署への通報や、総合労働相談コーナー・弁護士への相談など、労働者が行動を起こすことで発覚するケースが基本です。

厚生労働省が運営している総合労働相談コーナーに相談があったときは、助言で済むことも労働基準監督署に取り継がれる場合もあります。労働基準監督署は調査だけでなく、犯罪捜査や逮捕、送検といった権限を持つ機関なので、通報があれば事前通告なしの立ち入り調査が行われることも。つまり、労働基準法に違反していないか日頃から注意する必要があるのです。

3. 労働基準法第5条の違反になり得る事例

項垂れる日本人

実際に労働基準法第5条違反として罰則が科された事例だけでなく、強制労働をさせていると批判された事例も存在します。従来のタコ部屋のように労働者を監視して無理やり働かせる行為だけでなく、労働者が希望しているにもかかわらず退職を認めない行為なども強制労働にあたる可能性があるため注意が必要です。

たとえば、従業員が退職を申し出た際、職務上必要な免許の取得費用の返済を求めた事例は強制労働にあたる可能性があります。

資格取得費用を返還するように決める契約は、使用者が労働者を不当に足止めすることにつながるため、労働基準法で禁止されている損害賠償を予定する契約に当たります。実際に費用の返済を求める行為が法律違反となるかどうかは形式面や実質面を考慮したうえで判断されますが、問題とならないよう社内規定や誓約書などの内容には注意しておきましょう。

また、労働者にノルマを課して達成するまで帰らせないようにする行為も、不当な拘束に当たり強制労働と判断されます。昔ながらの日本の会社に多く見られますが、実は法律違反の可能性があるため改めて労働環境を見直す必要があるでしょう。

4. 労働基準法の第5条を遵守するためのポイント

ポイント

労働基準法第5条を遵守し法律違反をしないようにするためには、労働者の意思を尊重する環境を整えることが大切です。具体的には、以下の3つを心がけてみましょう。

4-1. 労働者を精神的または身体的に拘束しない

労働基準法第5条に明記されているとおり、使用者は労働者を精神的または身体的に拘束してはいけません。使用者が暴力や脅迫、監禁などを行っていなくても、現場の上司や同僚などからこれらの行為を受けたと通報があった場合は、使用者が罰せられます。

使用者が労働基準法の内容を理解するだけでなく、全従業員に周知して不当な拘束が起こらないようにしましょう。

4-2. 問題発生時に相談できる場をつくる

労働基準法違反となり得る行為を受けているかどうか、使用者や人事労務担当者だけでは把握できないこともあります。

迅速に実態を把握できるようにするためには、被害を受けた従業員が相談できる窓口や課を設けるのが効果的です。問題が起きてもすぐに対処できれば従業員を守ることができ、風通しがよい会社になれば強制労働の問題を防げるでしょう。

4-3. 労働者の退職意思を尊重する

労働基準法違反とならないために、労働者の退職意思を尊重することも大切です。日本では労働者の退職したいという意思を無視して働かせ続けるケースもめずらしくありませんが、働く意思のない労働者を引き止めて働かせることは不当な拘束となり、強制労働に当たります。

会社が退職希望の労働者を引き止めるのは、人手不足やノウハウの未承継などの問題があるからです。労働者を不当に拘束して解決しようとするのではなく、人員の見直しやノウハウの共有などによって根本的な問題を解決できるようにしましょう。

5. 労働基準法第5条に違反しない

注意 黄色のビックリマーク

労働基準法第5条では、強制労働を禁止しています。奴隷的拘束で肉体労働を強いるケースはほとんどなくなりましたが、退職したい労働者を不当に引き止めたり資格取得にかかった費用の返還を求めたりすることは、強制労働にあたる可能性があるため注意が必要です。

労働基準法第5条に違反した場合、使用者は労働基準法で定められているなかでも重い罰則を科されることになります。強制労働につながる事態が起こらないよう、環境の整備を徹底しましょう。

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今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。

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