社会保険の保険料を計算するためには、保険料率について正しく理解しておかなければなりません。また、保険料率は常に変更される可能性があるため、最新の保険料率を知っておくことも非常に重要です。
当記事では、社会保険の料率計算や改定の時期について解説していきます。
給与計算業務でミスが起きやすい社会保険料。
保険料率の見直しが毎年あるため、更新をし損ねてしまうと支払いの過不足が生じ、従業員の信頼を損なうことにもつながります。
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1. 社会保険の料率とは?
社会保険の料率とは、社会保険料を計算するための割合のことです。料率は社会保険の種類によって異なるため、注意しなければなりません。
たとえば健康保険料については、以前は全国で同じ社会保険料率が用いられていましたが、現在では都道府県ごとに異なる社会保険料率を採用しています。
1-1. 社会保険料率を考えるべき保険は5つ
社会保険料率を考慮すべき保険はひとつではありません。
会社の従業員が加入する社会保険にはさまざまなものがあり、それぞれに料率が設定されています。
社会保険のなかには厚生年金、健康保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5つが含まれているので、すべての保険において料率を考慮します。
それぞれに料率が設定されているので、保険料を計算する際には注意しましょう。
1-2.【2024年度改定版】最新の社会保険料率
最新の社会保険の料率は、厚生労働省や全国健康保険組合のホームページから確認できます。2024年の社会保険料率は以下の通りです。
厚生年金保険料率
厚生年金は、従業員の退職後の生活を支えるための制度です。厚生年金の保険料率は、平成16年以降、少しずつ引き上げられてきましたが、平成29年以降は18.3%で固定されています。
介護保険料率
介護保険とは、高齢者の生活を社会全体で支えるための仕組みです。協会けんぽの場合、令和6年3月からの介護保険料率は1.6%に変更されました。
雇用保険料率
雇用保険料率は、業種によって異なります。一般の事業では1.55%、農林水産・清酒製造の事業では1.75%、建設の事業では1.85%となっています。
健康保険料率
健康保険とは、病気やけがに備えるための公的な医療保険制度です。健康保険料率は都道府県によって異なるため、保険料を計算する前に確認しておきましょう。
労災保険料率
労災保険とは、業務上の事故やけがに対して必要な給付をおこなう仕組みです。労災保険料率は業種によって異なるため、計算の際は注意しましょう。
参照:労災保険率表|厚生労働省
2. 社会保険の料率が改定されるタイミング
社会保険の料率は、常に改定される可能性があります。最新の社会保険の料率を知っておかないと、保険料がいくらになるのかわからないので注意が必要です。
では、社会保険の料率の改定時期について見ていきましょう。
2-1. 社会保険料率の改定は不定期
社会保険料率の改定は不定期におこなわれます。
一般的には4月に改定されることが多いのですが、2022年度のように、雇用保険料が10月に改定されることもあります。そのため、社会保険料率が変更されていないかを厚生労働省などのホームページで適宜確認するようにしましょう。
社会保険料率を誤ると給与計算を正しくおこなえないため、労使間のトラブルにもつながりやすいです。最新の保険料率を必ず確認しておきましょう。
2-2. 社会保険料率の推移
社会保険料のうち、協会けんぽの健康保険料率と介護保険料率の直近10年間の全国平均は、以下のように推移しています。
年度 | 健康保険料率(%) | 介護保険料率(%) |
平成27年度 | 10.00 | 1.58 |
平成28年度 | ||
平成29年度 | 1.65 | |
平成30年度 | 1.57 | |
平成31年度 | 1.73 | |
令和2年度 | 1.79 | |
令和3年度 | 1.80 | |
令和4年度 | 1.64 | |
令和5年度 | 1.82 | |
令和6年度 | 1.60 |
健康保険料率は平成24年度以降、10%となっています。介護保険料率は不定期で改定があり、表に記載のように推移しています。
3. 社会保険料率を用いた社会保険料の計算方法
社会保険を計算する手順としては、まず標準報酬月額や月給を算出して、次に社会保険料率を確認します。本章では、社会保険料の計算方法を具体的に解説しますので、ぜひ参考にしてください。
3-1. 社会保険料率の算出に必要な標準報酬月額を求める
標準報酬月額とは、給与などの平均額を区切りの良い幅で区分した金額のことです。従業員ごとの標準報酬月額は、年度別・都道府県別の保険料額表で確認しましょう。
保険料額表はかなり細かく分かれているので、各従業員がどの区分に属するのかをしっかり見ておくことが重要です。さらに、各都道府県によって区分や料率が変わることがあるので、会社が所属している都道府県の表をチェックしておきましょう。
保険料額表は、下記リンクから確認できます。
標準報酬月額に含まれる手当
標準報酬月額には毎月の給与だけでなく、さまざまな諸手当が含まれます。たとえば、残業手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、賞与などです。一方で、見舞金や祝い金、退職手当、臨時に支給された賞与、出張費などは標準報酬月額の算定に含まれません。
- 標準報酬月額に含まれる手当:残業手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、賞与など
- 標準報酬月額に含まれない手当:見舞金や祝い金、退職手当、臨時に支給された賞与、出張費など
標準報酬月額は、4〜6月の3カ月の報酬月額の平均に基づいて決定され、9月から翌年8月までの保険料計算に適用されます。したがって、4〜6月にかけて長時間の残業が発生し、残業代が多くなった場合などは、標準報酬月額が高くなり、保険料の負担が9月から重くなるケースがあります。
3-2. 社会保険料の計算例
社会保険料の計算方法は、社会保険の種類によって異なります。それぞれの計算方法を確認しておきましょう。
健康保険料
健康保険料は「標準報酬月額 × 保険料率 ÷ 2」で計算されます。この計算で出た金額が、従業員と企業がそれぞれ負担する保険料です。
たとえば、健康保険料の料率を10.0%、標準報酬月額を30万円とすれば、従業員の保険料負担額は「30万円 × 10.0% ÷ 2 = 15,000円」となります。
介護保険料
介護保険料も同様に計算可能です。介護保険料の料率を1.64%、標準報酬月額を30万円と仮定すると、従業員の負担額は「30万円 × 1.64% ÷ 2 = 2,460円」となります。
雇用保険料
雇用保険料は、従業員と会社が折半するわけではありません。令和6年度における雇用保険料率は、一般の事業の場合は1.55%ですが、会社側が0.95%、従業員側が0.6%を負担することが定められています。
したがって、標準報酬月額が30万円であれば、会社側の負担が「30万円 × 0.95% = 2,850円」、従業員側の負担が「30万円 × 0.6% = 1,800円」となります。
労災保険料
労災保険料は、すべて会社側の負担で、従業員の負担はありません。労災保険料率を0.30%、標準報酬月額を30万円とすれば、労災保険料は「30万円 × 0.30% = 900円」です。
以上のように、月給と標準報酬月額、社会保険ごとの料率、会社と従業員の負担割合がわかれば、誰でも保険料の計算をすることができます。
4. 社会保険料率に関する注意点
社会保険料率を調べたり、社会保険料を計算したりする際は、以下のようなポイントに注意しましょう。
4-1. 標準報酬月額が変更されるケースもある
標準報酬月額は、4〜6月の給与の平均に基づいて決定され、基本的に変更されることはありません。しかし、昇進や昇給などによって、給与額が大きく変動することも考えられます。
その場合、連続する3カ月の賃金の平均と、現在適用されている標準報酬月額を比較して、2等級以上の差が出ているときは標準報酬月額を改定する必要があります。
繁忙期や季節によって労働時間や報酬額が変わるような業種の場合、保険料の負担が増えるかもしれない点に注意しましょう。
4-2. 新入社員の標準報酬月額は見込みで算出する
標準報酬月額は、3カ月の給与の平均を取って計算されますが、新入社員の場合にはどうすればよいのでしょうか。新入社員は、まだ3カ月間働いていないので、平均を算出することはできません。
新入社員の場合、1カ月の報酬見込み額を計算し、標準報酬月額等級表に当てはめて標準報酬月額を決定します。
4-3. 育児休業などでも改定があり得る
標準報酬月額は、育児休業などでも改定される場合があります。産休や育児休業によって報酬が大幅に低下した場合、現在の標準報酬月額と1等級以上の差が生じたのであれば、社会保険料の改定をすることができます。
育児休業以外の場合でも、報酬が3カ月以上連続で大幅に増加・減少した場合には、標準報酬月額の随時改定があり得るので注意しましょう。
4-4. 標準賞与額にも注意する
標準報酬月額は社会保険料の計算に不可欠ですが、標準賞与額も忘れてはなりません。標準賞与額とは、賞与額の1,000円未満を切り捨てた額のことで、その標準賞与額に保険料率をかけたものが保険料となります。
給与と賞与の違いは、名称ではなく、労働の対象として年間3回以下の回数で支給される点です。賞与の支給があった場合には、健康保険・厚生年金・介護保険に対して賞与金額を加味した金額を基に算出した保険料が発生することを忘れないようにしましょう。
5. 社会保険の料率を正しく理解しておこう!
今回は、社会保険ごとの料率について解説しました。保険料率は、社会保険料の計算に不可欠な要素です。保険料率さえ理解していれば、従業員ごとの社会保険料を正しく算出できます。
ただし、保険料率は社会情勢などに応じて変更される可能性があるため、保険料を計算する前にしっかりとチェックしておくことが大切です。社会保険料率の仕組みを理解し、正しい社会保険料の納付に役立てましょう。