22時〜翌5時に労働することを夜勤(深夜労働)といいます。
事業者には、この時間に勤務する従業員に対して、健康診断を受診させる義務が生じます。
本記事では、夜勤労働者の健康診断の要件や受診項目、違反した際の罰則などについて詳しく解説します。
深夜労働では健康診断が必要と知っていても、「どれくらいで必要になるの?」「深夜労働がメインではなく、残業が深夜帯に及んでしまった場合も必要?」など、具体的な基準を把握できていないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは深夜労働・深夜残業で健康診断が必要になる基準や、受けさせるべき健康診断の項目についてまとめた資料を無料で配布しております。
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目次
1. 夜勤労働者への年2回の健康診断を義務付ける法律がある
労働基準法で定められた深夜時間帯は22時〜翌5時です。
この時間帯に勤務する夜勤労働者で、一定の条件に該当する場合は、労働安全衛生法により年2回の健康診断の受診が義務付けられています。
健康診断の受診義務は従業員ではなく事業者に対して課せられているため、事業者は従業員に必ず健康診断を受けるよう指導しなければなりません。
関連記事:深夜労働に該当する時間はいつ?割増手当の計算方法や年齢の制限も解説
1-1. 企業に義務付けられている健康診断の種類
会社員など企業に勤めていれば、健康診断というと年に1回実施される「定期健康診断」のことだと思う人も多いかもしれません。しかし、労働安全衛生規則(安衛則)などの法令によって、該当する事業者は、下記のような健康診断を実施することが義務付けられています。[注1]
- 雇入時の健康診断
- 定期健康診断
- 特定業務従事者の健康診断
- 海外派遣労働者の健康診断
- 給食従業員の検便
- 歯科医師による健康診断
- 自発的健康診断
- 特殊健康診断
- じん肺健診
このように、まずは定期健康診断以外にも、さまざまな健康診断が義務付けられていることを押さえておきましょう。
[注1]労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~|厚生労働省
1-2. 夜勤労働者は「特定業務従事者の健康診断」を受けなくてはならない
22時〜翌5時の労働は深夜業に規定されます。また、労働安全衛生法では夜間の業務に従事する従業員は、下記の「ヌ 深夜業を含む業務」をおこなっていることになるので「特定業務従事者」に該当します。[注2]
特定業務には以下のようなものがあり、健康に有害であったり労災リスクが高かったりするため、健康診断の受診が義務付けられているのです。
イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
ニ 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
ホ 異常気圧下における業務
ヘ さく岩機、鋲びよう打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
ト 重量物の取扱い等重激な業務
チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
リ 坑内における業務
ヌ 深夜業を含む業務
ル 水銀、砒ひ素、黄りん、弗ふつ化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
ヲ 鉛、水銀、クロム、砒ひ素、黄りん、弗ふつ化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
ワ 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務
カ その他厚生労働大臣が定める業務引用:労働安全衛生規則第13条第1項第2号|e-Gov法令検索
1-3. 夜勤労働者で健康診断の対象者を判断する具体的な基準
健康診断の義務がある従業員は、夜間業務を常時おこなっている従業員です。
夜間業務を常時おこなっている従業員とは、週に1回以上または、1カ月に平均して4回以上の夜間業務をおこなっている従業員を指しており、この条件に該当する従業員を抱えている事業所は、特定業務従事者の健康診断をおこなう必要があります。
夜間業務に従事している従業員がいる場合でも、1カ月に1日程度の夜間業務であれば、年に1回の健康診断でも問題ありません。
年に1回の健康診断で問題ないかどうかは、実際の勤務状況を確認したうえで判断しましょう。
1-3-1. 1日1時間の深夜労働の場合は対象になる?
夜勤(深夜労働)の時間帯は、先述したように22時から翌5時までです。たとえば、勤務日の22時~23時を労働に費やしている場合は、健康診断を2回受ける必要があるのでしょうか。
「深夜業を含む業務」に就いている以上、1時間のみの夜勤であっても「特定業務従事者」に該当することになるため、健康診断を半年に1回は受ける必要があるといえるでしょう。
1-3-2. 度々残業が深夜時間帯におよぶ場合は対象になる?
普段の業務で残業が度々あり、深夜労働をおこなうことがある場合は「特定業務従事者」に該当するのでしょうか。先述したように、週に1回以上もしくは、1カ月に平均して4回以上夜間業務をおこなっている従業員は、夜間業務を常時おこなっている従業員として「特定業務従事者」に当てはまります。
そのため、突発的な残業の発生により、月に1〜2回程度、深夜労働をおこなうぐらいでは年2回の健康診断が必要になる対象者には含まれません。しかし、残業の頻度が高く、夜間業務が常態化している場合には、対象者に含まれる可能性があります。
つまり、深夜残業の回数が月3回以内であれば、年2回の健康診断は不要となります。ただし、深夜残業が月3回以内であっても、同月内に午前5時以前が始業時間となる早朝勤務が複数回あり、深夜帯の勤務が計4回を超える場合は年2回の健康診断が必要となるため注意しましょう。
1-3-3. その年の途中に夜勤労働者になった場合はどうなる?
人事異動や転職などで年の途中に夜勤労働者になる人も少なくないでしょう。このような場合、下記の労働安全衛生規則第45条より、夜勤労働者に転換したタイミングで健康診断を実施する必要があります。
事業者は、第十三条第一項第三号に掲げる業務に常時従事する労働者に対し、当該業務への配置替えの際及び六月以内ごとに一回、定期に、第四十四条第一項各号に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない
引用:労働安全衛生規則第45条第1項|e-Gov法令検索
1-4. 夜勤労働者に健康診断を実施しないリスク
一般的に、夜勤を常態としている従業員は、不規則な生活ゆえ、どうしても心身への影響が心配されます。その対策として夜勤労働者には、適切に健康診断を受診させなければなりません。
ここでは、夜勤労働者が健康診断を受けないことによるリスクについて詳しく紹介します。
1-4-1. 夜勤が常態化すると肥満や高血圧などのリスクが高まる
夜勤労働者は、不規則な食事時間や偏った食事内容から、肥満のリスクが高まります。
そのため、夜勤労働者は高血圧や高血糖などの可能性が大きくなり、結果としてメタボリックシンドロームや生活習慣病などを誘発します。
このような理由から、夜勤が常態化している従業員については、適切な時期に健康診断を受けてもらい、病気の早期発見・早期治療および、病気の予防につなげることが重要です。
1-4-2. 夜勤労働者の生産性低下や業務上ミス増加につながる
夜勤労働者は生活リズムが不規則になることで、心身が疲弊しやすくなり、集中力が散漫になりやすいです。とくに、日勤と夜勤が交互に発生するような勤務形態では、睡眠障害や自律神経の乱れなどが発生する可能性もあります。
このような生活が長く続くと、従業員によっては生産性が低下したり、業務上のミスが増加したりする恐れもあるでしょう。そのため、健康診断を適切な時期に受けてもらい、仕事への適性などもきちんと確認する必要があります。健康診断により夜勤が向いていない従業員が把握できたら、配置換えによって日勤の仕事に就かせることで、従業員の健康の悪化や業務上の大きなミスを防止することが可能です。
1-5. 夜勤労働者の年2回の健康診断を怠った場合の罰則
夜勤労働者に限らず従業員に健康診断を受診させるのは企業の義務です。これは、労働安全衛生法の66条に規定されています。なお、健康診断の費用は、個人が任意で追加する項目以外、すべて企業側で負担しなければなりません。
もし夜勤労働者に健康診断の受診をおこなわせなかった場合には労働安全衛生法違反となり、同法120条に則って、企業に対して50万円以下の罰金が科されます。
2. 夜勤労働者に対する健康診断の実施時期
健康診断の受診時期については、とくに規定はありません。対象となる夜勤労働者には、6カ月に1回、つまり年に2回健康診断を受診させましょう。
このように事業者には、対象となる夜勤労働者に対して、定期的に健康診断を受診させる義務があります。そのため健康診断の対象となる条件や頻度や、労働者の勤怠情報を正確に把握しておく必要があります。
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3. 夜勤労働者の健康診断で必要な11項目
夜勤労働者に対して義務付けられる健康診断において、検査が必要な項目は以下の11項目です。
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
- 胸部x線検査及び喀痰検査
- 血圧測定
- 貧血検査(血色素量、赤血球数)
- 肝機能検査(GOT、GPT、γ―GTP)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール,HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
- 血糖検査
- 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
- 心電図検査
ただし、上記の一部項目については、医師が不要と認める場合には省略できます。省略の基準は、基本的には年齢などで機械的に決定されるものではなく、さまざまな要素を加味して医師が総合的に判断します。
不要になる主なケースは以下の通りです。
- 身長:20歳以上の者
- 腹囲:40歳未満の者(35歳を除く)、妊娠中の女性、BMIが20未満もしくは22未満で胸囲を自己測定・自己申告した者
- 胸部エックス線検査:40歳未満で下記に該当しない者
- 5歳毎の節目年齢の者
- 結核の定期健康診断に該当する施設で働いている者
- じん肺健康診断の対象とされている者
- 喀痰検査:胸部エックス線検査を省略された者。胸部X線検査によって病変や結核発病の恐れがないと判断された者
- 貧血検査・肝機能検査・血中脂質検査・血糖検査・心電図検査:35歳未満の者、36〜39歳の者
また、医師が必要と判断した項目については、上記の11項目以外にも検査項目が追加される場合もあります。
参考:労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~|厚生労働省
4. 夜勤労働者に健康診断を実施する際の注意点
最後に、夜勤労働者に対して健康診断をおこなう際の注意点を紹介します。健康診断を実施したら終わりではなく、その後の対応も必要になるので注意しましょう。
4-1. 健康診断後に企業がおこなうべき作業
健康診断を実施した後にも、事業者には健康診断の結果を受けて、おこなう必要がある作業があります。
具体的な作業項目は下記の通りです。
- 健康診断の結果の記録
- 健康診断の結果に基づき、異常がみられた労働者に必要な措置をとるため医師の意見を聴取する
- 労働者の業務の転換、労働時間の短縮等の対処
- 健康診断結果の労働者への通知
- 健康診断の結果に基づく労働者への保健指導
- 健康診断の結果の所轄労働基準監督署長への報告
4-2. 労働時間によっては面接指導を受けさせる
労働時間が一定の基準を超える場合、産業医による面接指導を受けさせなければなりません。具体的には、月に80時間を超える時間外労働や休日労働をおこなっており、従業員本人からの希望があった場合は、面接指導を実施しましょう。
また、時間外労働や休日労働が月80時間を超えた場合、従業員本人に伝えるとともに、労働時間や深夜労働の回数などの情報を産業医へ提供する必要があります。
4-3. 夜勤労働者に対し適切なシフト管理をおこなう
夜勤労働者の健康状態を維持するためには、適切なシフト管理が重要です。
シフトを検討する場合には、諸外国で取り入れられている夜勤・交代制勤務に関する基準(「ルーテンフランツ9原則」や「ポワソネのヘルスワーカー6原則」など)を参考にするとよいでしょう。
これらの基準では、夜勤の継続を最小限にとどめること、夜勤はほかの勤務よりも少ない時間でおこなうこと、また、規則正しいシフトの循環をおこなうことなどが定められています。
4-4. 時間外労働の上限規制にも注意する
夜勤が多い場合は、時間外労働の上限規制にも注意しましょう。法定労働時間を超えて働かせる場合は、まず36協定を締結しなければなりません。
36協定を締結した場合でも、原則として月45時間・年360時間以上の時間外労働を命じることはできないので注意しましょう。特別な事情がある場合はこの基準を超えることも可能ですが、年720時間以内、複数月平均80時間以内、月100時間未満といった基準を守る必要があります。
4-5. 「自発的健康診断」にも適切に対応する
深夜業に従事する労働者においては、年2回の健診の他にも労働安全衛生法の定めによる「自発的健康診断」があります。 自発的健康診断とは、夜勤労働者が自分の健康不安を理由に、企業が実施する健康診断を待たずに自発的に健康診断を受け、その結果を会社に提出するものです。
会社は、健康診断の結果次第では医師から意見を聴取し、必要に応じてシフトの変更など適切な対策を講じなければなりません。
なお、自発的健康診断の対象となるのは「過去6カ月間を平均して月4回以上深夜に働いた労働者」とされています。このように企業は、とくに夜勤労働者の健康に配慮する必要があることを自覚しておかなくてはなりません。
4-6. 健康診断の実施対象となる夜勤労働者を正しく把握する
通常の定期健康診断は、基本的に全従業員が対象(短時間労働者などを除く)となりますが、夜勤労働者の場合は対象者の基準が複雑なため、シフト管理や勤務状況の把握を徹底しなくてはなりません。
そのため、勤怠管理システムなどを導入して効率的かつ正確に勤怠を把握しましょう。また、健康診断の受診状況や受診結果の管理、産業医連携も可能な健康管理システムもおすすめです。
夜勤労働者の健康診断を怠れば罰則の対象となるだけでなく、従業員の健康にも悪い影響を及ぼしかねません。さまざまなシステムを活用した健康管理を検討してみてはいかがでしょうか。
4-7. 健康診断のスケジュールをしっかりと管理する
健康診断のスケジュールをしっかりと管理することも重要です。とくに夜勤労働者に対する健康診断は半年に1回実施する必要があるため、管理が煩雑になってしまいます。年間スケジュールを立て、従業員への通知も忘れないようにしましょう。
従業員数が多く、管理の手間がかかっている場合は、アウトソーシングを活用するのもおすすめです。健康診断に関する業務を外部へ委託することで業務の効率化を図れます。
5. 夜勤労働者の健康診断を適切に実施しよう
夜勤の労働者は生活リズムが乱れ、心身の健康に影響が出やすくなります。
6カ月に1度、従業員に健康診断を受けさせることで、従業員の健康状態を正しく把握して管理をおこないましょう。
また、残業によって深夜時間に業務が発生している場合は、従業員に深夜時間の残業が発生しないよう指導することも大切です。
夜勤労働者に年2回の健康診断を適切に実施するためには、勤務時間の把握や健康診断の実施状況や結果を管理できるシステムの導入をおすすめします。
深夜労働では健康診断が必要と知っていても、「どれくらいで必要になるの?」「深夜労働がメインではなく、残業が深夜帯に及んでしまった場合も必要?」など、具体的な基準を把握できていないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは深夜労働・深夜残業で健康診断が必要になる基準や、受けさせるべき健康診断の項目についてまとめた資料を無料で配布しております。
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