今、世界では「フィンテック」がブームとなり、技術の開発・発展が急速に進んでいます。東南アジアでもフィンテックへの関心が高まり、関連ビジネスが次々と登場しています。インドネシアでは、銀行口座を持っていない人が多いものの、携帯端末を持っている人が多いためか、電子決済やeウォレットなどのフィンテックの領域がますます発展してきています。
そんなフィンテックを活用したサービス「給与前払いサービス」をご存知でしょうか。従来の給与支払いの制度に加え、新たに「給与前払いサービス」を導入する企業が増加しています。本記事では、「給与前払いサービス」について、その仕組みから導入するメリットまで詳しく解説していきます。
目次
給与前払いサービスとは?
給与前払いサービスとは、その名の通り「給料を給料日前に受け取ることができるサービス」です。通常、従業員は月に1度、給料日に会社から指定口座に振り込まれた給料を受け取ります。しかし、従業員に急な支払いが発生した際に、給料日を待つこともなく、必要な額を給料から受け取ることができるのがこのサービスの特徴です。友人の結婚式や旅行、急病など手元の現金では足りなくなったときに便利です。
給与前払いサービスの仕組み
企業が給与前払いサービスを導入するためには、サービス提供者と契約する必要があります。PT. Reeracoen Indonesiaが提供している給与前払いサービス「Ultra tech」を例にして解説します。
Ultra techとは、勤怠打刻データをもとに、従業員からの前払給与を実現するフィンテックサービスです。従業員は、PT.Reeracoen Indonesiaが提供しているアプリを通して、Ultra techに前払い申請をすると、前払い給与が即日もしくは翌日までに指定口座に振り込まれる仕組みになっています。この際、振り込まれる金額は、「申請額から手数料を差し引いた金額」です。また、その後、従業員は給料日に、「給与」から「申請費」を引いた額が、企業から振り込まれるというサービスです。
Ultratechを運営するPT.Reeracoen Indonesiaは、導入企業から従業員の勤怠打刻データと給与データを受け取り、それらをもとに、企業に代わって申請のあった金額を、給料日前に従業員の口座に振り込むという仕組みです。
カードローン・オンライン貸金・給与前払いとの違いは?
インドネシアでは、急に現金が必要になったときに利用できる方法として「カードローン」と「オンライン貸金」そして「前払い」があります。それぞれに分けて特徴を確認してみましょう。
1.カードローン
カードローンとは、現金の借り入れ方法のひとつで、カードを使ってATMなどの機械から現金を引き出します。個人は、銀行をはじめとした金融機関に個別で申し込み、審査に通った場合にサービスを利用することができます。給与前払いサービスとの違いは、利用者の就業先の企業が関わっていない点が挙げられます。そのため、利用者は自身の給与額に関係なく現金を借り入れることができます。(ただし、ほとんどの金融機関による申し込み時の審査には「安定した収入」が条件に入ります。)
また、カードローンを利用した場合は「返済」する必要があり、借り入れた金額に対して年1.8%~14.6%の利息が付きます。前払い給与サービスと違い限度額が大きいため、借入額の設定には注意が必要です。
2.オンライン貸金
インドネシアには銀行口座を持つことできない人が多いことから、オンラインやアプリで簡単にお金を借りることができるサービスがたくさんあります。こういった貸金アプリはインストールをし、個人情報を入力するだけで、物理的な担保なしに、即座の現金を借りることができます。このようなアプリは、ローンの申し込みのため、もしくはアプリにアクセスするためだけに、アプリがスマートフォン内のデータにアクセスする大きな権限を持つものもあるようです。
このようなオンライン貸金ももちろん「返済」の必要があります。カードローン等と比べても金利も高いのにも関わらず、支払期日を過ぎるとさらに高くなるものもあります。これらの金利は、貸金業者が請求する事務手数料に加えられますが、場合によっては貸付総額の25%に達するケースもあるようです。
3.給与前払い
給与前払いサービスの多くは、会社の福利厚生サービスの1つであるため、従業員が違法な金利や返済期限等があるサービスを利用することなく、従業員が来月自分が受け取る予定のお金を必要なときに利用することができます。このように、前払いサービスは、従業員にお金を貸す制度ではないため、従業員は「返済」する必要がありません。また、前払いサービスを利用する場合は、スマートフォンやパソコンから申請が可能で、申請後、従業員の口座に即日もしくは翌日には前払い給与が振り込まれます。
給与前払いサービスを導入するメリットは?
企業が福利厚生として給与前払いサービスを導入することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
企業側と従業員側それぞれにとってのメリットを解説します。
企業側のメリット
求人応募数の増加
今、日本の求人業界では、応募数を増やすための方法として、「日払い」のキーワードが非常に注目されています。実際に、アルバイト求人の給与支払い方法を「日払い」にする、また「給与前払い」というような福利厚生サービスをつけることによって、”応募数が約3.7倍になる”というデータもあるようです。このように、給与の支払い方法を工夫するだけで、応募喚起に役立てることができるようです。そのため、給与前払い制度があることをアピールすることで、人手が不足している業界でも求人応募者を増加させ、優秀な人材を獲得しやすくなるかと思います。
離職率低下・定着率アップ
インドネシアでは、「昇給」を理由に転職活動をされる方がたくさんいます。しかし実際には、日本円で3000円~5000円程度の昇給で転職先を決める方がほとんどです。そのため、緊急でお金が必要になったときに利用できるような社内のローンや福利厚生が充実していれば、日常的にインドネシア従業員の仕事への満足度が向上し、離職率の低下につながります。さらには従業員勤続年数が上がることにより、離職を前提とした採用や人員配置などが必要なくなり、生産性向上が期待できます。
採用にかかる手間・コストの減少
インドネシアでは、多くの求職者が約2年ごとに、昇給目的で転職を繰り返す方が多いです。そのため、多くの企業が採用・採用後の研修等にたくさんの時間・手間をかけていることかと思います。しかし、このようなサービスを利用し、福利厚生を充実させることで、定着率も向上すれば、採用にかける手間やコストを削減することができます。
業務の手間がかからない
インドネシアには社内のローンを設定している会社もあると思いますが、支払い手続きを行い、返済の管理もしくは給与からの天引き等、経理・給与担当部署の手間がかなり増え通常、自社のみで対応すると管理部門の煩雑な作業を生む原因となります。
従業員側のメリット
支払いに間に合う
インドネシアでは、急にお金が必要になってしまうことがよくあります。たとえば、急に天候が悪化した際に、洪水がおき、自宅が被害を受ける、または、出勤中にバイクや車が故障し、修理にだす必要がある、など大金ではないものの、急な支払いが発生する場合があるようです。このような緊急事態が発生した際、従業員から「お金を貸して欲しい」という相談を受けたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、給与前払いのような福利厚生サービスが自社にあれば、誰にも迷惑をかけず、自分の未来のお金から、すぐに支払いを完了することができ、トラブルに巻き込まれることもなくなるかと思います。
登録から利用までのプロセスが簡単
新しい銀行口座を開設することなく、いつも使用している口座から利用できるため、登録に手間がかかりません。また、アプリ等からアカウントを作成するにしても、余分な個人情報の登録をする必要がないため、安全に利用することができます。
どこからでも申請可能
日系企業で多く見られる、口頭→書面→印鑑というプロセスなしで、PC・スマートフォンからいつでも、どこからでも申請できます。またこういったアプリを利用すると、即日もしくは翌日にはお金を受け取ることができるようになります。また、自分の携帯端末から申請ができるため、他の従業員に自分の金銭状況がばれることもないため、社内でのトラブルも減らすことができるでしょう。
まとめ
給与前払いサービスは、カードローンや給与の前借りとは異なり、従業員は働いた分の給与を受け取るため返済できない事態に陥ることがありません。また、企業にとっても「求人応募数の増加」や「定着率の増加」「採用コストの減少」というメリットがあります。今後、サービスの改良が重ねられていき、 より使いやすく便利になっていくと考えられます。ぜひ、チェックしてみてはいかがでしょうか。