働き方改革の推進とともに、各企業は従業員1人ひとりが仕事とプライベートを両立できるような仕組み作りをする必要が出てきています。
このような中で注目を集めているキーワードが「ワークシェアリング」です。
しかし、実際にワークシェアリングがどのようなものなのか、知らない方も多いのではないでしょうか。
今回は、ワークシェアリングの概要、導入事例、そして取り入れる際に企業が何をすべきなのかを解説します。
目次
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。
1. ワークシェアリングとは
ワークシェアリングとは、「一定の労働量を、より多くの労働者の間で分かち合う」ことを指します。労働者一人当たりの負担を減らすことや、社会全体の労働者数の増加を目的としています。
1-1.なぜワークシェアリングが注目されたのか
日本では、2000年頃からワークシェアリングが提唱されていますが、あまり定着していません。
その大きな原因として、パートタイム労働者とフルタイム労働者の賃金格差が大きいことや、労働者の役割や勤務内容が明確化されていないことが挙げられます。
一方、海外では1980年代頃から現在に至るまで、ワークシェアリングが積極的に活用されています。
ワークシェアリングが世界的に注目を集めた理由は、「失業率の高さ」「過酷な労働による心身の健康被害」にあります。
ワークシェアリングは一人の仕事を複数人で分担するため、多くの雇用機会を創出することができます。そのため、ワークシェアリングを導入することによって失業率を低下させる効果があると言えます。
また、長時間労働によって心身の健康を崩してしまう労働者がいた場合、ワークシェアリング導入によって一人当たりの仕事量が減少し、個人の負担が軽減されます。
企業活動の効率性や生産性を上げるためにも、ワークシェアリング導入は効果があると言えます。
1-2.ワークシェアリングの種類
ワークシェアリングの目的は、労働を分担することです。その実現のために雇用機会、労働時間、賃金の3要素の組み合わせを変化させることが基本となります。
厚生労働省の調査によると、ワークシェアリングは以下4つのタイプに分類することができます。
①雇用維持型(緊急避難型)
一時的な景況の悪化を乗り越えるため、緊急避難措置として、1人あたりの労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持することを指します。
雇用を維持することで人材の流出を防ぐことができます。
②雇用維持型(中高年対策型)
中高年層の雇用を確保するために、中高年層の従業員を対象に、1人あたりの労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持することを指します。
国内では主に、定年の延長や60歳以降の再雇用などの取り組みがあります。
③雇用創出型
失業者に新たな就業機会を提供することを目的として、国または企業単位で労働時間を短縮し、より多くの労働者に雇用機会を与えることを指します。
④多様就業促進型
正社員について、短時間勤務を導入するなど勤務の仕方を多様化させ、より多くの労働者に雇用機会を与えることを指します。
短時間勤務の導入によって、育児や介護と仕事を両立しやすくなる効果があります。
2.ワークシェアリングのメリット・デメリット
ワークシェアリングを導入すると、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
企業側と従業員側それぞれのメリット・デメリットをご紹介します。
2-1企業にとってのメリット・デメリット
メリット
- 人件費のカット
労働時間を短縮した場合、一人ひとりが余裕をもって仕事に取り組むことができ、生産性が上がると考えられます。さらに、残業や休日出勤が減少することによって人件費を抑えることができます。
- 業績の変動に応じて迅速な対応ができる
業績が悪化した際に、従業員数ではなく仕事量を減らすことによって、その後市場が活性化した場合でも人員不足に陥らなくなります。
あらかじめ人材を確保しておくことによって、業績に応じて柔軟かつ迅速な対応が可能になります。
- 多様な人材を確保できる
雇用の機会を創出することで、多種多様な人材を確保することができます。
優秀な人材の流出を防ぐことができるのも、ワークシェアリング導入のメリットです。
デメリット
- 制度の見直しや給与計算の手間がかかる
多様な就業形態を取り入れる場合、社内の制度を変更する必要があります。さらに、給与形態を変更しなければならない場合もあるので、あらゆる決定、実行に時間と手間がかかります。
- 一部コストの増加
メリットとして人件費を削減できる可能性があると挙げましたが、雇用人数を増やすことで社会保険料の負担金や福利厚生費、教育費が増え、結果的にコストが増加してしまう可能性もあります。
新しく人材を採用する際には、負担する金額がどれほど変わるのかよく検討する必要があります。
- 従業員間の連携が難しい
一人当たりの仕事量を減らし従業員を増やす場合、従業員間の連携が大きな課題となる可能性があります。
誰がどの仕事をしているのか、その進捗はどうなのか、といったことを可視化し、適切なタイミングで確認できるコミュニケーション方法を考え、定着させる必要があります。
2-2.従業員にとってのメリット・デメリット
メリット
- 働くことができ、リストラのリスクが少ない
求職者にとって、各企業がワークシェアリングを導入することで就職先の候補が増えます。
さらに、ワークシェアリングでは従業員数を減らさないため、リストラの心配もありません。そのため、従業員は安心して働くことができます。
- ワークライフバランスを保つことができる
一人当たりの仕事量が削減されることで、残業時間が減少し、余裕を持って業務に取り組むことができるため、仕事におけるストレスが軽減すると考えられます。
従業員がプライベートに割ける時間が増えるため、ワークライフバランス推進にもつながります。
デメリット
- 給与が下がる
労働時間が減少することによって、一定程度給与が下がることが想定されます。
- 職種間で格差が生じる可能性がある
ワークシェアリングの対象となる職種・ならない職種が存在する場合、職種間によって待遇に格差が生じる可能性があります。
3.ワークシェアリングの導入事例
実際にワークシェアリングはどのように導入されているのでしょうか。
はやくから導入に成功した海外の事例を紹介したのち、日本における導入事例もご紹介します。
3-1.オランダ
オランダは、ワークシェアリングの考えが強く浸透している国の1つです。
オランダの働き方における最大の特徴は、フルタイムとパートタイム勤務で待遇に差をつけていないことです。そのため、多様な働き方が共存しています。
オランダは1980年代、経済危機に陥りましたが、短時間の雇用を生み出すことにより、1983年に11.9%だった失業率が、2001年には2.7%にまで低下しました。
3-2.フランス
フランスでは、法定労働時間を週35時間とすることによって雇用創出に取り組んでいます。時短の具体的実施方法は労使間に委ねられていることが特徴です。
また、時短勤務導入をいち早く実施した企業に対し、インセンティブとして社会保障負担の一時的な軽減措置を実施しています。
3-3.ドイツ
ドイツでは、1980年代から主に金属産業、自動車メーカーにおいて、業績悪化に対処する緊急避難として、時短勤務が導入されました。
近年では、パートタイム労働者に対する差別の禁止等を定めた法律が制定され、より一層の雇用拡大に努めています。
3-4.日本:トヨタ自動車
日本では、2009年にトヨタ自動車がアメリカの自動車販売数急減を受けて、アメリカの工場6つに対して時短勤務を導入しました。
労働時間を従来の2週間80時間から2週間72時間に短縮し、賃金も72時間分に減額しました。
そのほか、幹部社員含む全従業員を対象に賞与を削減し、幹部社員の給与削減、従業員の昇給見送りを実施することで、雇用の維持に対応しました。
これは雇用維持型の緊急避難型に該当します。
4.ワークシェアリング導入の際に知っておくべきこと
それでは、企業がワークシェアリングを導入する際に、何をすればよいのでしょうか。
ここからは、導入にあたってのステップや、知っておくべき補助金の制度に関してご紹介します。
4-1.ワークシェアリングの導入方法|導入の5ステップ
ワークシェアリングを導入する際には、以下のような工程が必要になります。
①目的を明確化し、現状を把握する
まず、なぜワークシェアリングを導入するのか、目的を明確化させる必要があります。
- 社員の残業時間削減
- 一時的なコストダウン
- 雇用の不安定さを解消する
など、様々な目的が考えられ、それに応じて必要な施策は異なります。
まずは、社内で何が課題なのかをはっきりさせましょう。
目的が決まったら、現在どの仕事に何人の従業員が関わっているのか、過度に負担がかかっている業務はないかなど、現状を分析し、それぞれの業務にかかっている時間とコストを把握します。
②不要な業務や無駄な業務を見直し、仕事量のバランスを整える
①を実施した上で、業務の中での無駄を洗い出し、どのように改善できるかを検討します。
同時に、①で過度に負担がかかっている業務を発見した場合は、何人足せばうまく業務が回せるか、プランを立てる必要があります。
③ワークシェアリングができる業務や職種を検討する
現状把握と無駄な業務を絞り込んだら、そのなかでワークシェアリングの実施が可能な部門・業務内容を検討します。
対象となる社員は自動的に決まってきますが、給与に関しては、一般社員だけでなく管理職や役員からカットされる可能性も検討します。
今後の業務がどのように分担される予定か、給与はどのように変更する予定かなどを管理職社員に伝え、ともに今後のワークシェアリングの内容や実施計画について考えてもらいましょう。
その後、対象となる部門の社員にもワークシェアリング導入の目的やプランを説明することで、導入後に混乱しないようマネジメントします。
④業務マニュアルを作成する
業務を分担後、誰がどのような仕事をするのか、統括する人は誰かなどを決め、業務内容のマニュアルを作成します。
実際に時短勤務を導入したり、雇用の人数を増やしたりした場合、マニュアルがあったとしても現場が混乱する可能性は十分にあります。
マニュアルを作成したら、従業員に対して十分に説明の時間を取るようにしましょう。
⑤業務の評価をおこない、進捗を確認する
ワークシェアリング導入後は、定期的に業務を振り返り、目標が達成できているかを確認します。
この際、現場で働く管理職が適宜人事部に報告する形を取ると、スムーズに進捗を確認できます。
予定通り進んでいない、業務に支障をきたしているなど、必要に応じてマニュアルの修正をおこないます。
さらに具体的なワークシェアリングの導入方法や事例に関しては、厚生労働省が発表した
をご覧ください。
4-2.補助金制度
導入にあたって準備に工数がかかるワークシェアリングですが、正しく運用できた場合は補助金を受け取ることができます。
ここでは、実際にどのような条件で補助金が交付されるのか、ご紹介します。
①時間外労働等改善助成金
時間外労働の削減やテレワークの推進など、働き方改革に取り組む中小企業事業主に支払われる助成金です。
以下5つの助成コースが存在します。
- 時間外労働上限設定コース
- 勤務間インターバル
- 職場意識改善コース
- 団体推進コース
- テレワークコース
参考:「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」厚生労働省
②雇用調整助成金
景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的な雇用調整を実施することによって、従業員の雇用を維持した場合に助成されます。
③人材開発支援助成金
労働者のキャリア形成を効果的に進めるために必要な職業訓練を実施した場合、その実施した企業に対して訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度です。
以下4つのコースが存在します。
- 特定訓練コース
- 一般訓練コース
- キャリア形成支援制度導入コース
- 職業能力検定制度導入コース
5.まとめ
ワークシェアリングへの理解は深まりましたか?
日本国内では、まだまだワークシェアリングの導入が進んでいるとは言えません。
しかし、近年注目を集める「働き方改革」を実現するためにはワークシェアリングは重要な考え方です。
働き方改革に関してはこちらの記事に詳細があります。
ワークシェアリング導入の際には、勤務形態をはじめとするあらゆる制度や待遇を見直す必要がありますので、ぜひ、この記事を参考に自社の働き方を見直してみてください。
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。