在宅勤務(テレワーク)制度の導入にあわせて、独自の福利厚生を整備する企業も増えています。福利厚生を整備せず、在宅勤務の労働環境の構築を従業員に一任すると、さまざまな問題が生じる可能性もあります。本記事では、在宅勤務で働く従業員に対して福利厚生が必要な理由をわかりやすく解説します。また、在宅勤務におすすめの福利厚生も紹介します。
目次
1. 在宅勤務(テレワーク)に福利厚生は必要?
在宅勤務(テレワーク)の導入にあわせて、福利厚生を見直すことが望ましいです。ここでは、在宅勤務(テレワーク)に福利厚生が必要な理由について詳しく紹介します。
1-1. そもそもテレワークやリモートワークとは?
テレワークとは、「tele(遠隔で)」と「work(働く)」を組み合わせた造語で、情報通信技術(ICT)を活用して、オフィスから離れて場所を問わず働くことです。テレワークは、リモートワークとほとんど同じ意味合いで用いられます。
近年の働き方改革の影響も受け、柔軟な働き方を導入し、従業員のワークライフバランスを推進するため、テレワーク制度を導入・運用している企業は多いです。なお、テレワークには、次のように、さまざまな種類があります。
- 在宅勤務:自宅を勤務場所とする働き方
- モバイルワーク:移動中やカフェなど、オフィス外を就業場所とする働き方
- サテライトオフィス勤務:会社の本拠地から離れたオフィスを勤務場所とする働き方
- ワーケーション:旅行先で仕事をする働き方
このように、在宅勤務制度は、テレワーク制度の一つであることを理解しておきましょう。
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1-2. 在宅勤務(テレワーク)に福利厚生が必要な理由
在宅勤務(テレワーク)制度を設ける場合、福利厚生を導入するのが望ましいです。在宅勤務で働くには、パソコンやスマホといったデバイス、インターネット環境、デスク、椅子などの環境整備が必要です。また、オフィスで働いていれば不要な通信費や光熱費なども発生します。これらの費用をすべて従業員自身で負担するとなれば、家計を圧迫し、生活に支障を来す恐れもあります。
在宅勤務の場合、上司や管理者からの目が届きにくいため、コミュニケーション不足や長時間労働が発生しやすくなります。また、通勤が生じないことから、運動不足にもなりやすいです。そのため、ジム補助やメンタルヘルスサポートなど、在宅勤務に特化した福利厚生を用意することで、従業員の健康管理を促進し、会社への帰属意識や仕事へのモチベーションも高めることが可能です。
このように、在宅勤務では、オフィスとは違った環境で働くことになり、従業員の負担が違った形で増えます。そのため、在宅勤務制度を導入する場合、現場で働く従業員にもヒアリングしながら、福利厚生制度を見直すことが推奨されます。
2. 在宅勤務(テレワーク)の環境構築を従業員に任せる場合の問題点
在宅勤務(テレワーク)の福利厚生を導入せず、労働環境の構築を従業員に一任する場合、さまざまな問題が生じる可能性があります。ここでは、在宅勤務(テレワーク)の環境構築を従業員に任せる場合の問題点について詳しく紹介します。
2-1. 労働基準法違反が発生する
労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条に則り、使用者は労働者に業務に必要な備品などの負担をさせる場合、あらかじめ労働条件として明示しなければなりません。たとえば、在宅勤務中の通信費や光熱費を従業員に負担させるのであれば、そのことを事前に明示しておく必要があります。なお、このことは、就業規則にも明記が必要です。
労働条件通知書・雇用契約書や就業規則に記載がないにもかかわらず、在宅勤務に必要な費用を従業員に負担させた場合、労働基準法違反となる可能性があります。労働基準法に違反すると、懲役や罰金などの罰則が課せられる恐れもあるので注意しましょう。
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。(省略)
第五条 使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。(省略)
(省略)
六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
(省略)
2-2. 従業員のモチベーションが下がる
在宅勤務(テレワーク)の労働環境を従業員自身で整える場合、パソコンや椅子などの備品を購入するため初期費用がかかります。また、月々の通信費や光熱費なども増える可能性があります。
このように、従業員の金銭的な負担が増えると、手取りが少なくみえて、仕事に対するモチベーションが低下する恐れがあります。その結果、労働効率が下がり、会社全体の生産性が低下する可能性もあります。従業員が気持ちよく在宅勤務(テレワーク)でも働けるよう、福利厚生や手当を設けてサポートしましょう。
2-3. セキュリティトラブルが生じる
従業員自身で在宅勤務(テレワーク)の労働環境を整備する場合、パソコンなどの端末やネットワーク機器のセキュリティ設定が甘くなってしまう可能性があります。不正アクセスなどのセキュリティ攻撃を受ければ、社外秘の情報が外部に漏洩してしまう恐れもあります。福利厚生として在宅勤務に必要な備品を会社から貸し出せば、従業員の時間や手間を削減できるだけでなく、セキュリティトラブルも未然に防止することが可能です。
3. 在宅勤務(テレワーク)に特化した福利厚生を導入する際の注意点
ここでは、在宅勤務(テレワーク)に特化した福利厚生を導入する際の注意点について詳しく紹介します。
3-1. 福利厚生と認められる要件を理解しておく
福利厚生とは、給与・賞与などとは別に、従業員やその家族に対して提供される生活や健康のサービスを指します。福利厚生と認められるには、原則として、次のいずれもの要件を満たす必要があります。
- すべての従業員を対象とする
- 金額が社会通念上相当と認められる
- 現物支給でない
たとえば、在宅勤務(テレワーク)で働く従業員のため、会社側でパソコンを購入し、それを当該従業員に支給した場合、現物支給に該当し、給与とみなされ、課税対象になる可能性もあるので注意しましょう。
3-2. 就業規則の見直しが必要
労働基準法第89条に基づき、常時従業員数10人以上を雇用する事業者は、就業規則の作成・届出義務があります。当該事業場で働くすべての従業員に適用される定めをする場合、その事項について就業規則に定めなければなりません。
そのため、在宅勤務(テレワーク)に特化した福利厚生制度を新しく設ける場合、就業規則を見直し、「相対的記載事項」として明記が必要です。また、就業規則を変更したら、所轄の労働基準監督署に届け出をして、従業員にきちんと周知しましょう。
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
(省略)
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
3-3. 不公平を生まないようにする
在宅勤務(テレワーク)に特化した福利厚生を導入する場合、従業員間で不公平を生まないように設計することが大切です。たとえば、オフィスで働く人と、テレワークで働く人で受けられる手当や福利厚生に大きな差があると、会社への不満につながり、仕事に対するモチベーションが低下する恐れもあります。福利厚生を導入した後も、従業員満足度を調査し、定期的に制度を見直すことが重要です。
4. 在宅勤務(テレワーク)におすすめの福利厚生
ここでは。在宅勤務(テレワーク)におすすめの福利厚生について詳しく紹介します。自社のニーズにあった福利厚生をぜひ取り入れてみましょう。
4-1. 在宅勤務手当(テレワーク手当)
在宅勤務手当(テレワーク手当)は、現物支給に該当するので、福利厚生費として非課税にならず、給与として課税されることになります。しかし、自宅などのオフィス外で働く従業員は、労働環境を整えるため、備品や消耗品などの購入が必要です。また、通信費や光熱費などの負担も必要になります。
このような負担を考慮し、リモートワークで働く従業員に対して一律で手当を支給する企業も多いようです。在宅勤務手当(テレワーク手当)の相場は、月額3,000円~10,000円程度です。また、子どもがいる従業員の場合は、ベビーシッター手当など、子どもが自宅にいてもストレスなく働けるような福利厚生を考えても良いでしょう。
4-2. 自宅での勤務環境づくり補助
自宅でもオフィスと同じように働くためには、デバイスや通信機器、デスク、椅子などの備品の用意が欠かせません。そのため、在宅勤務(テレワーク)で必要な備品の購入費用を補助する福利厚生の導入もおすすめです。
ただし、現物支給とする場合は、在宅勤務手当(テレワーク手当)と同様で、給与所得として課税されます。しかし、会社が所有するものを貸与するのであれば、福利厚生として非課税になります。そのため、在宅勤務に必要な備品を従業員自身で購入してもらい、後に実費清算したうえで、使わなくなったら返却する形をとるのも一つの手です。
従業員の在宅勤務の環境整備のために企業が所有する物品等を従業員に貸与する場合には、従業員に対する給与として課税する必要はありませんが、企業が従業員に環境整備に係る物品等を支給した場合(その物品等の所有権が従業員に移転する場合)には、従業員に対する現物給与として課税する必要があります。
4-3. コミュニケーション促進イベント
在宅勤務の問題の一つとなっているのが、社員間のコミュニケーション不足です。出社する場合、休憩時間に雑談をするなど、コミュニケーションを取る機会が少なからずあります。しかし、在宅勤務の場合、意識しないと、コミュニケーションがなくなり、孤立感を感じる従業員も出てきやすくなります。
そのため、社員旅行やオンライン飲み会を定期的に開催するなど、コミュニケーションを促進するためのイベントを福利厚生として導入するのもおすすめです。ただし、旅行やレクリエーションが福利厚生と認められ、それにかかった費用が給与として課税されないためには、旅行の日数や従業員の参加割合などが関係してくるので注意しましょう。
参考:No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行|国税庁
4-4. 運動不足解消支援
通勤のストレスがなくなる在宅勤務ですが、長時間同じ椅子に座って仕事をすることになるため、運動不足に悩んでいる人も多いでしょう。また、運動不足は精神的なストレスにもつながります。
そのため、ジム補助やオンラインフィットネスなど、運動不足を解消するための福利厚生を導入するのもおすすめです。また、従業員によってニーズが異なることから、多彩な福利厚生を用意するため、福利厚生代行業者が提供しているサービスを利用するのも一つの手です。
関連記事:カフェテリアプランとは?注目の理由や導入メリット・使い道を解説
4-5. 食事補助
出社して働く人は、社員食堂の福利厚生を利用したり、オフィス近辺のレストランを利用したりするなど、食事の選択肢が複数あります。しかし、在宅勤務で働く場合、外に出ないため、食事がマンネリ化しがちです。自宅なら好きなタイミングで食事を取れるものの、食事をおろそかにしてしまう従業員も少なくないでしょう。
そのため、在宅勤務で働く人に対しても食事のサポートをするため、食事補助の福利厚生を導入するのがおすすめです。最近は自宅にお惣菜やお弁当を配達してくれるサービスや、食材とレシピを届けてくれるサービスなど、食に関するサービスも増えてきています。従業員が業務の間に食事のことを考える手間が省けるほか、健康面のサポートという意味でもおすすめです。ただし、食事補助が福利厚生と認められるためには、次のいずれもの要件を満たす必要があります。
- 従業員が食事価額の50%以上を負担している
- 食事価額から従業員の負担した金額を控除した金額が月3,500円(消費税等を含まない)以下
もしも要件を満たせない場合は、食事価額から従業員の負担した金額を控除した金額が給与として課税されることになるので注意しましょう。
4-6. eラーニング
eラーニングとは、インターネット環境を活用して学ぶ学習形態のことです。eラーニングは、時間や場所を問わず学習できるメリットがあります。そのため、在宅勤務(テレワーク)とも相性がよいです。eラーニングによって身に付けた知識やスキルを実務に活かしてもらえば、会社全体の生産性も向上します。また、スキルアップを促進するため、資格取得手当などもあわせて導入するのがおすすめです。
関連記事:eラーニングとは?必要性やメリットとデメリットをわかりやすく解説
5. 福利厚生を導入する会社側のメリット
福利厚生は従業員側に大きなメリットがあるように思えますが、会社側にも多くのメリットがあります。ここでは、福利厚生を導入する場合に会社側が得られるメリットについて詳しく紹介します。
5-1. 優秀な人材の確保につながる
福利厚生を重視する求職者も多くいます。在宅勤務(テレワーク)の福利厚生を充実させれば、リモートで快適に働きたい人の求人応募の増加が期待できます。応募者数が増えれば、それだけ優秀な人材を獲得できる可能性も高まります。
5-2. 会社のイメージ向上が期待できる
福利厚生によって従業員満足度を高めることで、会社への帰属意識も向上し、離職率の低下や定着率の上昇が期待できます。また、独自の福利厚生を導入すれば、社外から目に留まりやすくなります。これにより、会社のイメージアップにつなげることも可能です。
5-3. 福利厚生費は損金算入できる
給与や賞与だけでなく、福利厚生費も損金算入できます。たとえば、接待交際費や寄付金は、損金算入が認められないケースもあります。福利厚生費であれば、損金算入により、課税対象となる額を減らし、税金の負担を抑えることが可能です。
また、福利厚生費と認められれば、従業員も給与として課税されません。そのため、福利厚生は、従業員と会社ともにメリットが大きいといえます。
6. 在宅勤務(テレワーク)で働く従業員にも福利厚生を整備しよう!
在宅勤務(テレワーク)で働くには、端末やネットワーク機器、デスク・椅子などの備品の準備が必要です。また、在宅勤務には、コミュニケーション不足や長時間労働になりやすいという特徴があります。このような従業員の負担を考慮し、在宅勤務に特化した福利厚生の導入も検討することが推奨されます。福利厚生と認められるには細かな要件もあるため、慎重に導入を進めましょう。