オフィスワークから在宅勤務にきり替える企業は増えていますが、その際に考慮すべきなのが通勤手当です。これまで通りに支給することもできますが、交通費として実費支給することもできます。通勤手当の変更には就業規則の変更が必要になります。さらに、社会保険料の変更が必要な場合もあるので注意が必要です。
目次
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。
1. 在宅勤務で通勤手当を支給するケース
通勤手当とは、自宅から勤務地間の通勤する際に係る費用を会社が負担する福利厚生です。ただし、在宅勤務でも通勤手当を支給しなければならないケースが存在します。どのようなケースで通勤手当を支給すべきかは、会社によって異なります。
本章ではどのようなケースで在宅勤務の通勤手当を支給すべきなのか見ていきましょう。
1-1. 通勤手当は就業規則に則って支払われる
前提として、通勤手当は就業規則に従って支払われます。そもそも通勤手当は、給与や残業代のように法的に支払いが義務付けられているものではなく、基本的には通勤時の出費は従業員が負担することになっています。
しかし、多くの企業では通勤手当を支給しており、就業規則にもその旨が記載されています。
もし、在宅勤務の導入によって通勤手当を削減したいと思うのであれば、就業規則の変更をしなければなりません。
さらに、ただ就業規則を変更すればよいわけではなく、就業規則を変更する前に労使間で合意をすることや、従業員への周知なども関係してくるので注意が必要です。
1-2. 通勤手当を出社した日数分支給する
在宅勤務でも通勤手当を支給するケースのひとつとして、実際に出社した日数分支給することが考えられます。
従業員の中には、基本的には在宅勤務であるものの、どうしても出社しておこなわなければならない仕事があり、月に数日出社している人もいます。この場合、1日の交通費×出社日数で通勤手当の金額を算出することができます。
ただし、この方法で通勤手当を支給するためには、在宅勤務の場合に通勤手当の金額が変わることをあらかじめ就業規則に記載していなければなりません。
通勤した日数×交通費の計算で実費を支給するか、在宅勤務前と変わらず定期代を支給するかは、実際に金額を計算してみて、どちらが費用をおさえられるか確認して決定すると良いでしょう。
また、実費支給にして勤務日数によっては定期代よりも高くなりそうな場合は、出社する日数に制限を設けておくなどすることができます。
1-3. 自宅を勤務地にしている場合、経費として交通費の支給が可能
在宅勤務の場合、出社を「出張」として扱い、通勤にかかった費用を支給することは可能です。このケースでも、通勤にかかった費用×出社日数で経費精算をします。
ただし、出社を出張として扱うためには、雇用契約書か労働条件通知書において勤務地が自宅になっていなければなりません。さらに、出張旅費規定がないと、経費精算をおこなうことができません。
在宅勤務になったために労働条件通知書を作り直さなければならない事態を防ぐため、あらかじめ勤務地を「本社および会社が指定した場所」としておくことで柔軟に対応することができます。
2. 通勤手当を全額支給する必要があるケースとは
出社から在宅勤務になっても、通勤手当を全額支給しなければならないケースも存在します。どのようなケースで通勤手当の全額支給が必要になるのか見ていきましょう。
2-1. 1ヵ月の定期代を支給すると就業規則に記載されている場合
就業規則に「1ヵ月の定期代を全額支給する」「勤務形態によらず全額支給する」などとだけ記載されているケースでは、交通費の全額支給が必要となります。
前述のように、通勤手当は法律で支給が義務付けられているわけではなく、支給するかどうかは各企業の就業規則に大きく依存しています。そのため、企業が定めた就業規則に通勤手当の記載がある場合は、その通りに支給することが求められます。
もし1ヵ月の定期代を支給すると記載されており、変更がないのであれば、実際の出社の日数にかかわらず全額支給が求められます。
2-2. 在宅勤務の導入で通勤手当が変わる場合は就業規則の変更が必要
企業には就業規則がありますが、在宅勤務にも対応した就業規則を設けている企業は少数です。
したがって、出社から在宅勤務に切り替えたからといって、すぐに通勤手当の支給額を変更するのは難しいでしょう。従業員の同意なしに就業規則をいきなり変更することや、就業規則を変更しないまま通勤手当を変更することはトラブルのもとになるので、避けましょう。
まずは在宅勤務の状況の把握、次いで労使間の合意の上での就業規則の変更、そして従業員への周知といったプロセスを経て通勤手当の変更をすることが重要です。
さらに、どのように通勤手当を支給すればトラブルを防げるかどうかについても考慮する必要があるでしょう。
3. 通勤手当が変動した場合の社会保険料の違い
そもそも、通勤手当は社会保険料の計算の賦課対象に含まれます。そのため、在宅勤務によって通勤手当が変更になると、社会保険料も変動する可能性があります。
では、通勤手当の変動と社会保険料の変動について見ていきましょう。
3-1. 出社日数分の通勤手当が支給されるケース
在宅勤務になったため、出社日数分だけ通勤手当が支給されるケースでは、社会保険料の変更手続きが必要になる可能性があります。
具体的な例を考えてみましょう。
出社して勤務していた際に、通勤手当を月額2万円支給されていた人が、在宅勤務開始後に出社日数に応じて通勤手当が支払われるようになったとします。出社日数が減れば、通勤手当は大幅に減る可能性があるでしょう。
直近3ヵ月の平均賃金を算出して、標準報酬月額の等級が2等級以上変動した場合、4ヵ月目から社会保険料の変更手続きが必要となります。変更手続きには標準報酬月額変更届を社会保険事務所または健康保険組合に提出する必要があります。3ヵ月の平均賃金の変動があった翌月(4ヵ月目)にすみやかに提出しましょう。
在宅勤務が終了し、通常通りの通勤手当が支給されるようになった場合も同様に、直近3ヵ月の平均賃金を計算して、標準報酬月額の等級が2つ以上変動すると手続きが再度必要となります。
もし、通勤手当が減っても平均賃金にそれほど大きな変動がなければ、社会保険料は変わらず出社だったころと同じ金額が適用されます。
3-2. 通勤にかかった費用を経費精算するケース
通勤にかかった費用を交通費として経費精算する場合は、交通費は社会保険料の賦課対象ではありません。在宅勤務になり、通勤にかかった費用を経費精算する場合は、社会保険料は変動しません。
ただし、注意すべきなのは、社会保険料は変動しないものの経費精算処理が膨大になることです。定期券分の通勤手当を支給する場合、3ヵ月や6ヵ月に一度処理をすれば良いのですが、経費にすることで、毎回もしくは毎月従業員分の交通費を計算する必要があります。
4. 在宅勤務の通勤手当は課税対象?
通勤手当とはそもそも、会社や勤務地に通勤することで発生する手当です。通勤手当は基本的に非課税となりますが、在宅勤務で支給される通勤手当はケースによって課税対象か非課税対象となるかが異なります。
非課税となる条件は以下の通りです。
・1ヵ月あたり15万円を限度とした通常の給与に加算して支給するもののうち、通勤のための運賃・時間・距離等の事情に照らして最も経済的かつ合理的な経路および方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額
参照:所得税法施行令(第20条の2 第1項)|e-Gov法令検索
通勤手当が非課税になるのは、勤務地に通勤することが前提となる場合に限ります。
労働条件通知書や就業規則で就業場所が自宅などになっている場合、通勤が発生しないので、通勤手当は合理的ではないとされて課税対象となる可能性が高いです。
ただし、労働条件通知書などで就業場所を会社などに定めていて、在宅勤務が続いている場合などに支給されている交通費は非課税として扱われます。コロナウイルスなどの影響で在宅勤務となっている場合でも、通勤の可能性はあることなどから、これらの通勤手当が課税対象として指摘されることはないとされています。
5. 在宅勤務を開始する前に通勤手当の扱いを決めておこう
出社から在宅勤務に変更すると、通勤手当について変更などの対応が生じることがあります。日数によって支給する場合も、経費精算として支給する場合も、就業規則の変更や追記をしなければ、トラブルに発展したり、労働基準法に抵触したりする可能性があります。
在宅勤務を開始することが決まったら、早めに通勤手当についての規定を変更するかどうか検討し、変更をする際には適切なステップを踏んでトラブルを防ぎましょう。
【監修者】涌井好文(社会保険労務士)
涌井社会保険労務士事務所代表。就職氷河期に大学を卒業し、非正規を経験したことで、労働者を取り巻く雇用環境に興味を持ち、社会保険労務士の資格を取得。 その後、平成26年に社会保険労務士として開業登録し、現在は従来の社会保険労務士の業務だけでなく、インターネット上でも活発に活動を行っている。
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