働き方改革やコロナ禍における在宅勤務要請などを受け、テレワークが普及しました。Web会議ツールやリモートデスクトップ環境も充実し、個人が時間や場所に制限されずに十分な生産性を発揮できるようになりました。一方で、組織のコミュニケーションが減った結果、業務進捗・評価などマネジメントに頭を抱える人が増えたことでしょう。そこで、今回はテレワークでのマネジメント課題と手法について解説していきます。
目次
テレワークはマネジメントに課題あり
テレワーク導入は、ワークライフバランスの充実、通勤費の節減や離職防止など、従業員と企業双方にとってメリットが大きく、長期化するコロナ禍において急速に浸透してきました。しかし、テレワーク導入後、マネジメント面に関する課題が浮き彫りとなりました。
1. 指示出しや進捗確認
チームメンバーや部下が目の前で作業をしておらず、情報共有などがリアルタイムでおこなえないため、業務指示や進捗確認・報告が、コロナ以前と比べて困難になりました。チェック&テクノロジー社が、会社員500名を対象に「テレワーク中の評価に関する意識・実態調査」(以下、同調査)を実施したところ、テレワークにより、管理職は部下への指示出しや進捗確認にやりにくさを感じていることがわかりました。
出社勤務時とテレワーク勤務時で、業務についての変化を聞くと、一般社員の36%が「上司への進捗報告」業務を「やりにくくなった」「どちらかというとやりにくくなった」と答えたのに対し、管理職の49.2%が「部下への仕事の指示出しや進捗確認」業務について同様に答え、上司がよりやりにくさを感じていることが明らかになりました。
テレワークにより、管理職は部下への指示出しや進捗確認にやりにくさを感じている。
一般社員に対し、出社勤務時とテレワーク勤務時で、「上司への進捗報告」業務についての変化を聞いたところ、「やりにくくなった」「どちらかというとやりにくくなった」が36%だった。同じく管理職に対し「部下への仕事の指示出しや進捗確認」への変化を聞くと、49.2%と「上司への進捗報告」に対し13.2ポイント高く、上司と部下とのやり取りにおいて、上司がよりやりにくさを感じている。
出社勤務時のように作業の様子を随時確認できるわけではないため、部下の顔色や感情が読み取りにくく、対面コミュニケーションのように情報や細かいニュアンスを伝達することが難しくなりました。
また、テレワーク勤務時には、育児や介護など個人で勤務時間が異なるケースも多く、時間的な制約なども考慮して指示出しや進捗確認・報告をする必要があるため、マネジメント課題の1つといえます。
2. 人事評価・考課査定
人事評価や考課査定は、ノルマや定数的な要素のみで決まることはほとんどなく、執務態度や勤怠実績、業績への貢献度などからを加味して総合的に判断されます。コロナ禍においては、新規顧客の獲得はもちろん通常業務自体が困難であり、コロナ禍以前とは異なる評価基準・査定軸が求められます。
しかし、同調査において、テレワークに合わせて人事評価の仕組みが変更されたのは1割に満たないということが明らかとなりました。
テレワークに合わせて人事評価の仕組みが変更されたのは1割に満たない。評価に対する不安を約半数が持ち、テレワークの経験が浅いと不安に感じる割合が高くなる。管理職は自分の評価よりも、部下に正しい評価を行えているかどうかに不安を持っている。
テレワークの実施に伴い、人事評価における仕組みの変化について聞くと、「変わっていない」が6割と多く、「変更された」と答えた人は1割に満たなかった。「変更された」「変更を予定している」と合わせても2割程度であった。
仕事において成果や結果を重んじることは大切ですが、その過程でどの程度貢献したかも評価・査定のポイントとして同様に重要です。自身の業務のみに没頭するのではなく、周囲への配慮や部内外の調整など、チームメンバーへのサポートは勤務態度として評価されてきました。
しかし、テレワーク勤務時においては、過程における貢献度が把握しにくく、目に見える成果や結果だけが注目されます。そのようななかで、評価制度が変更されず、人事評価・考課査定に対して不安を抱く人が増えており、特にマネジメント層である管理職は「部下に適正な評価をできているか」、強く不安を持っています。
正当な評価を受けられていないと感じた社員は、モチベーションが下がり、生産性が著しく低下する恐れがあるため、適正な人事評価・考課査定はマネジメント課題の1つといえます。
3. 労働時間管理
テレワーク勤務時は、自身のタイミングで業務を切り上げられるメリットがあるため、超過残業が減ると考えられていました。しかし、実際には、テレワーク勤務時において「仕事の終わり時がわからず長時間労働となった」という経験を約6割の方が持っていたことが、同調査で判明しました。
約6割が仕事の終わり時がわからず長時間労働となった経験がある。
テレワークで仕事をしている際、一日の仕事の終わり時がわからず長時間労働になった経験があるかを聞いたところ、全体で58.0%と約6割に経験があったと答えた。
自身のタイミングで業務を切り上げられる反面、就業時間(定時)の意識が薄れ、だらだらと続けてしまった方もいるかもしれません。また、上司や同僚からの指示があいまい、情報共有や確認が思うようにできないなどの理由から、出社勤務時に比べて作業に時間がかかってしまった方もいることでしょう。
長時間労働に対する世間の風当たりは厳しく、メンタル不調による休職や過労自殺などを起こさないためにも、超過残業だけではなく労働時間そのものの管理がマネジメント層の喫緊の課題です。
テレワーク時のマネジメント手法とポイント
テレワーク時のマネジメント課題としては、業務上の指示やプロジェクトの進捗管理、評価や査定など、双方のコミュニケーションが不十分であることに起因するものが多くありました。それら課題を解決するマネジメント手法とポイントを見ていきましょう。
手法1. テレワークツールの導入
テレワークにおいては、オフィスと自宅、自宅と自宅など双方が離れた場所で仕事を進めるため、それらの距離を縮めるテレワークツールを積極的に導入する必要があります。システムエンジニアやプログラマのように、個人で裁量を持って取り組める職種であれば問題ありませんが、協働が求められる職種では「情報共有」「進捗管理」が欠かせません。
メールだけでは文字情報のみで伝わりにくいですが、表情や声、図などを織り交ぜながら対話することで双方のコミュニケーションに漏れがなくなり、より密な「情報共有」「進捗管理」が可能になります。
手法2. 目標やタスクを「見える化」
テレワーク勤務時は、業務の進捗管理ができないことに加え、個人の目標やタスクが不明確になりやすいです。つまり、「どこまで進めればいいのかわからない」「メンバーに均等に仕事が割り振られているか(=業務に偏りがないか)見えない」という問題です。
それら不明確な業務において、「見える化」すべき項目は以下のとおりです。
スケジュール
テレワーク中はチームメンバーの動向が不透明になるため、会議時間の調整や業務の指示を出すタイミングが難しくなります。テレワーク中に「何時から何時まで」「何をしているのか」スケジュールを共有することで、メンバー同士の連携が円滑になります。
タスク
テレワークでは、出社勤務時に比べて誰がどの程度業務を抱えているのか、メンバー間で偏りがないかが見えにくくなります。個人が抱えているタスクの「納期はいつか」「どんなタスクに着手しているのか」を可視化します。タスクの優先度に応じて、メンバー間で調整することも可能ですし、業務を俯瞰的に見直すきっかけにもなります。
目標
仕事の成果や結果だけで評価を決めてしまうと、その過程でメンバーをサポートした貢献度が価値を失い、モチベーションの低下、評価に対する不満の増大につながります。そのため、個人ごとの目標や貢献度などを定量的に数値化・ポイント化し、成果や結果だけにしばられない評価基準を設ける必要があります。
業務や勤務の動向が見えにくいからこそ、目標やタスクを「見える化」し、個人ごとの業務負担の割合や達成度をしっかりと把握することが求められます。
ポイント1. こまめなコミュニケーションを心がける
データのやり取りだけではなく、報告・連絡・相談・確認などを日頃からおこない、コミュニケーションの質と量をともに高めましょう。テレワークのデメリットとして、コミュニケーション不足を感じる人は多く、業務プロセスでミスが発生するといったことも起こります。マネジメント層から積極的にこまめなコミュニケーションを図り、日頃から業務進捗管理や感謝を伝えるなどの心がけが求められます。[注1]
ポイント2. 評価を適正にする
個人の目標やタスクが「見える化」され、進捗管理や業務負担、達成度などが明確になれば、貢献度に応じた評価が適正におこなえます。チームメンバーや部下のモチベーション低下は、チームの士気を下げ生産性を下げる大きな要因となるため、成果や結果だけではなくサポートに対する評価を取り入れる必要があります。
テレワークのマネジメントはコミュニケーションにあり
テレワークの急速な浸透により、システム面の整備や働き方を大きく見直す企業が増えました。それらと同時に、マネジメント上の課題もいくつも浮き彫りになりました。進捗管理や業務指示、労働時間などを正確に把握し、適正な評価・査定をおこなうためには、日頃からのコミュニケーションが必要不可欠です。
1on1ミーティングや定期的な朝礼など、コミュニケーションの場を積極的に設け、テレワーク時代のマネジメントをより良いものにしていきましょう。