テレワークの普及にともない、企業が直面している課題が人事評価制度の見直しです。在宅ワークの割合が増えた昨今では、今までのような評価は困難になっています。従業員の働き方が大きく変わった現在では、テレワークを前提とした人事評価制度の運用が不可欠です。この記事では、テレワークにおける人事評価制度の課題や、制度改善のために見直すべきポイントを解説します。
テレワークの急速な普及にともない、企業が直面している大きな課題が人事評価制度の見直しです。従来、日本企業の評価制度では、仕事の成果だけではなく結果に至るまでのプロセスや普段の勤務態度も重視して評価する傾向にありました。しかし、在宅ワークの割合が増えた昨今では、今までのような評価は困難になっています。
従業員の働き方が以前と比べて大きく変わった現在では、テレワークを前提とした人事評価制度の運用が不可欠です。この記事では、テレワークにおける人事評価制度の課題、そして制度改善のために見直すべきポイントを解説します。
目次
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。
テレワークを継続するためには人事評価制度の見直しが必要
テレワークを継続して実施するためには、自社の人事評価制度を見直す必要があります。本来、人事評価制度は各企業の経営方針や事業目的、そして従業員の働き方に合わせて決められるものです。一度決めた評価制度は絶対的なものではなく、企業の変化に対して柔軟に改善するものであると考えると良いでしょう。
実際にテレワークをおこなう人が増加した現在では、従来の人事評価制度の運用が難しいと感じている管理職も増えています。あしたのチーム社の調査によると、テレワークを実施している全国の企業に勤める管理職のうちじつに73.7%が「テレワーク時の人事評価が難しい」と回答しました。[注1]
一方、評価される立場の一般社員からすると「テレワークでも正しく評価されるのだろうか」という不安を抱くことになります。自身の仕事に対する意識と人事評価の結果に乖離があるとモチベーションが低下し、最悪の場合は退職という結果を招くこともあるでしょう。
人事評価制度は社員の昇給やキャリアアップにも大きく関わり、仕事に対するモチベーション、仕事の生産性にも大きな影響を及ぼします。テレワークの普及で従業員の働き方が変化したことにより、人事評価制度の見直しが求められています。
テレワークにおける人事評価制度の課題
テレワークを実施するにあたり、人事評価制度には以下のような課題が挙げられます。
- 勤務態度・業務のプロセスに対する評価が難しい
- 評価項目・評価基準が定まっていない
- 勤務時間の実態がつかみにくい
- 人事評価に必要な情報を集約しにくい
従来の人事評価制度は大抵の場合、上司と部下が同じ場所で仕事をすることを前提にしています。場所も時間も共有しないテレワークではさまざまな弊害が生じてしまいます。
1. 勤務態度・業務プロセスに対する評価が難しい
テレワークでの課題の1つが普段の勤務態度や業務プロセスに対する評価が難しいということです。テレワークではコミュニケーションの機会も少なくなります。だからといって、自宅での様子を厳しく監視するわけにもいきません。
日本企業では仕事の成果だけではなく勤務態度や結果に至るまでのプロセスも人事評価の対象としてきました。そのため、部下の仕事ぶりをチェックすることも上司の大事な仕事とされます。
しかし、テレワーク下では上司が部下の仕事ぶりを全て把握することは困難です。評価の判断材料が減ってしまうことに加え、テレワークを実施していない社員との間に不公平が生じる恐れもあります。
また、部下の立場からすると、仕事に対する熱意をアピールしにくいことから、人事評価に対して不安を抱いてしまう人もいるでしょう。人事評価において勤務態度や仕事への取り組み方を重視していた企業にとって、テレワーク実施における制度の改善は急務といえます。
2. 評価方法・評価基準が定まっていない
2つ目の課題はテレワークの実施に即した評価方法、評価基準が定まっていないことです。既存の人事評価制度はオフィス内での勤務を前提として評価のルールが定められています。しかし、テレワークでの働き方はオフィス勤務と大きく異なるため、それをそのまま適用することは好ましくありません。
人事評価のルールが定まっていなければ管理者によって評価方法にばらつきが生じてしまいます。実態に則っていないルールで評価をおこなうと、管理者ごとに異なる解釈で評価を付けてしまうことがあるためです。
先述したようにテレワークでは部下の仕事ぶりをチェックすることが難しくなります。しかし、管理者によってはWeb会議の発言や電話のやり取りから業務に対する意欲を推察し、評価に組み込む人もいるでしょう。逆に勤務態度や業務プロセスは判断できないものと割り切り、評価の基準から切り離す人もいるかもしれません。
管理者による評価のばらつきは、会社に対する従業員の不信を招いてしまいます。本来、人事評価は従業員のモチベーションを高めるためのものですが、機能不全に陥ると一転して生産性を減少させてしまうことにもなるでしょう。
3. 勤務時間の実態がつかみにくい
3つ目の課題は勤務時間の実態がつかみにくいということが挙げられます。残業の有無は人事評価にも大きな影響を与える要素です。しかし、テレワーク環境下では事前申告無しでの時間外労働をする人もいます。
日本労働組合連合会が2020年6月に実施した調査では、同年4月以降でテレワークによる時間外労働の経験がある人のうち65.1%の人が事前申告無しの残業をおこなったと回答しています。[注2]
同調査によると、申告しなかった理由で最も多かった回答が「申告しづらい雰囲気だから」(26.6%)というものでした。ほかにも「法律や労使協定の時間数を超えそうだったから」「評価が下がりそうだったから」という理由を回答した人も見受けられます。
部下からすると「テレワークでさぼっていると思われたくない」という心理から残業を申請しにくいという状況もあるでしょう。テレワーク導入後は就業時間の管理にも工夫が必要です。
4. 人事評価に必要な情報を集約しにくい
4つ目の課題が情報の集約がしにくいという点です。テレワークではコミュニケーションの手段に制限があり、自身が管理する部下からの情報の吸い上げだけではなく、ほかの評価者や人事部担当者への情報共有に支障をきたすことがあります。
人事評価を正しく実施するためには、1次評価者でもある管理者が自身の部下の情報をしっかりとまとめ上げなければなりません。そのためには電話やWeb会議による面談も必要となり、オフィス勤務時よりも時間を要する場合もあります。
また、人事担当者を含めて複数人で評価を決定する場合は、担当者同士での細かな情報交換が必要です。コミュニケーションが滞ってしまうと必然的に評価のプロセスも止まってしまい、さらに時間が掛かってしまうことになります。
日本企業が抱える人事評価制度の課題
日本企業の人事評価制度はテレワーク普及以前から課題を抱えていました。主に指摘される内容は以下のようなものが挙げられます。
- 管理者によって評価にばらつきがある
- 評価制度の仕組みが社内に浸透していない
- 評価の内容が正しく伝えられていない
テレワークの普及に伴い、これらの課題がより明確になってきたと考えられます。人事評価制度の不備は社員の不満を招くため、自社に該当する点があれば早急な改善が必要です。
1. 管理者により評価にばらつきがある
管理者による評価のばらつきはテレワーク普及以前から指摘されていた問題です。同じ制度の下で評価にばらつきが生じる原因としては、そもそもの評価基準が曖昧なこと、そして管理者の主観による評価の割合が高いことが挙げられます。
先述したように、日本企業の人事評価制度では勤務態度や業務遂行のプロセスなど、定量評価しにくい項目も人事評価の対象となります。これらの出来不出来を決めるのは管理者である上司の主観によるものも多いでしょう。実際には上司が部下のことをどのように見ているかという非常に曖昧な理由で評価を付けられているということが起こっているのです。
管理者の主観に頼る評価方法では「チームごとの評価の差が大きい」「上司が変わるたびに評価基準が変化する」といった弊害が生じることもあります。このような状態では社員の頑張りが正当に評価されているとはいえません。
2. 人事評価制度の目的が社内に浸透していない
管理者を含め、人事評価制度の目的が正しく理解されていないというケースもあります。人事評価の目的は社員一人ひとりの努力を会社が認め、昇給や昇格によりモチベーションアップとスキル向上を促すというものです。しかし、年功序列による自動昇給に慣れ親しんだ日本企業ではその重要性が現場に周知されていないことも珍しくありません。
人事評価制度の仕組みと目的を正しく理解し、活用できている人とそうでない人では、当然ながら評価の結果にも差が生じます。本来であれば、人事評価制度の評価項目や評価基準について、管理者から部下一人ひとりへ説明したうえで運用することが正しいやり方です。
現在多くの企業で採用されている目標管理制度も、社員の理解度が低いと自分で設定した目標と実際の業務が乖離していることもあります。これでは正当に評価ができないばかりか、本人の成長を促すという目的も果たすことができません。
3. 評価の内容が正しく伝えられていない
人事評価制度を導入しているものの、一方的に評価しただけで部下に対する十分なフィードバックがされていないという企業も多いようです。
2018年に企業勤めの人を対象とした「人事評価制度」に関する調査によると、人事評価制度に不満を感じる理由として「評価結果のフィードバックや説明が不十分」と回答した人が28.1%、「自己評価より低く評価され、その理由がわからない」と回答した人が22.9%となっています。[注3]
フィードバックをしない理由としては事前のスケジューリングがされていないことが考えられます。人事評価は評価後のフィードバックまでがワンセットです。部下に評価を伝える際は面談の場を設け、各評価項目の結果やその評価に至った経緯を踏まえ、今後の改善点をアドバイスしましょう。
また評価項目が曖昧であったり、あまりにも管理者の主観により過ぎた評価結果だったりすると、部下が納得するようなフィードバックができないことも考えられます。
テレワークでの課題について、こちらの記事でも詳しく解説をしています。
テレワークにおける人事評価制度の見直しポイント
テレワーク環境下での人事評価では以下の項目がポイントになります。
- 成果主義の評価制度に切り替える
- 人事評価シートを活用した目標管理制度(MBO)を導入する
- テレワークに適した評価項目を設定する
普段の勤務態度や業務プロセスが確認できないテレワークでは「成果主義」が人事評価のキーワードとなります。そして成果主義を効果的に運用する手法が「目標管理制度」です。これらについて詳しく解説します。
1. 成果主義の評価制度に切り替える
テレワーク環境下で公平な人事評価をおこなうためには、仕事の成果を評価対象とする成果主義による評価が基本です。普段の勤務態度や業務プロセスの把握が困難だったとしても、最終的な成果を判断基準とすることで客観的な視点で評価を決定することができます。
また、成果主義への切り替えは作業進行のプロセスを従業員の裁量に任せることにもつながります。評価方法の切り替えに合わせてフレックスタイム制や裁量労働制などの勤務形態を取り入れることで、残業の問題もクリアすることができるでしょう。
成果主義を導入するうえでの注意点は、成果が可視化しにくい職種もあるということです。そのような部署に配属されている従業員では、結果がすべてという人事評価に対してネガティブなイメージを持たれてしまう恐れがあります。
大切なことは従来の業務プロセス評価と成果主義のバランスです。部署ごとの特性を踏まえ、業務プロセスを重視するのか、成果を重視するのか、評価の比重を決定するようにしましょう。なお、これらを遂行するうえで重要な役割を果たすのが次に説明する目標管理制度(MBO)です。
2. 評価シートを活用した目標管理制度(MBO)を導入する
業務プロセス評価と成果主義をバランスよく実施するために用いられる人事評価の手法が目標管理制度です。英語ではManagement By Objectiveといい、略してMBOと呼ばれます。
目標管理制度の特徴はあらかじめ評価項目と評価基準が明文化されていることです。一般的には各従業員に人事評価シートが配布され、自身の評価シートに記載された目標を達成することが業務における行動指針となります。
人事評価シートの記載されている評価項目は部署や役職によって異なるため、職種間の不公平が生じることもありません。また、目標の一部は従業員自身で設定することが求められており、組織の目標と個人の目標をリンクさせることもできます。
また、評価シートという評価を決定づける明確な指標があるため、評価期間終了後のフィードバックも容易です。各従業員は自身の評価の理由を踏まえたうえで来期以降の行動計画を立てられるようになるでしょう。
3. テレワークに適した評価項目を設定する
目標管理制度を機能させるためにはテレワークに適した評価項目を設定することが大切です。従来の評価項目はあくまでオフィスで勤務していることを前提としているため、テレワークでは評価できない項目も多数含まれていると考えられます。
日本において目標管理制度はすでに広く普及しており、全体の約8割近い企業が同制度を採用しているとみられます。[注4]
しかし、既存の目標管理制度に問題を感じている企業も多く、有効活用できていないケースも珍しくありません。
先述した通り、テレワークでは成果主義による評価が基本となります。評価基準も定量評価で客観的に判断できる項目を中心に構成するように見直しましょう。成果による評価が難しい項目に関しては業務プロセスを可視化する工夫が必要です。
なお、テレワークにおける業務プロセスの可視化には以下のような方法が考えられます。
- 定期的にリモート面談の実施
- 事前に業務プロセスの計画を作成する
- 毎日の成果物や日報を提出させる
これらは特定の職種に限ったものではありません。テレワークで業務プロセス評価を取り入れる場合は参考にしてください。
テレワークでは「成果」と「業務プロセス」をバランスよく評価する
テレワーク環境下における人事評価制度では、職種に合わせて仕事の成果と業務のプロセスをバランスよく評価対象とすることが重要です。普段の業務態度が把握できないからと言って、成果主義に偏った評価では社員の不満を招く恐れもあります。
「評価項目」と「評価基準」を明確にでき、なおかつ成果と業務プロセスのバランスも取りやすい目標管理制度は、テレワーク時代にも有効な評価制度です。しかし、その内容は働き方に合わせて常にアップデートしていかなければなりません。
昨今では外部の人事コンサルタントやAI技術を利用した人事評価を取り入れる企業もあります。人事評価制度は絶対的なものではありません。時代や働き方の変化に合わせて柔軟に対応させていきましょう。
[注1]テレワークと人事評価に関する調査|あしたのチーム
[注2]テレワークに関する調査2020|日本労働組合総連合会
[注3]人事評価制度に関する意識調査|アデコ
[注4]民間企業440社にみる人事労務諸制度の実施状況|一般社団法人労務行政研究所
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。