在宅勤務で発生する費用は、どこまでを経費として認め、会社が負担すべきでしょうか。在宅勤務では通信費や光熱費、備品の購入費用などが多くなることが予想されます。
そのため、労使間で話し合い、在宅勤務の経費の扱いについて合意したうえで、従業員に周知する必要があります。本記事では、在宅勤務の経費の取り扱いについてわかりやすく解説します。
目次
1. 在宅勤務ではどこまで企業が経費負担すべき?
そもそも経費とは、企業が売り上げを上げるために直接的に必要なものにかかる費用のことです。在宅勤務の場合でも同じで、業務に必要なものにかかる費用は経費として企業が負担する場合があります。
ただし、どこまでを経費とするかは企業によって異なり、あらかじめ定めた規定をもとに決まります。本章では、経費となるものの代表例を取り上げて詳しく解説しますので、理解を深めておきましょう。
1-1. 通信費
在宅勤務で必ずかかる費用のひとつが「通信費」です。通信費とは、ネットワーク接続を利用する際の費用のことを指します。
たとえば、Wi-Fiの月額利用料金やインターネット環境の整備などにかかる費用は、通信費として会社負担にする企業もあります。
もし従業員の家にインターネット環境がまったくないのであれば、Wi-Fiルーターの費用や、回線の開通工事などの費用もかかるでしょう。これらすべてを従業員に支払ってもらうと負担が大きいため、経費として計上する企業もあります。
1-2. 光熱費
「光熱費」も在宅勤務で問題となる経費のひとつです。光熱費は在宅勤務をしていなくても発生する費用ですが、在宅勤務になって増えた部分においては経費として計上することで、従業員の負担を減らすことができます。
経費とする場合、光熱費全額を経費とするのではなく、「家事按分」をおこない、労働時間をもとに仕事のために発生したおおよその費用を算出し、その金額を経費とするのが一般的です。
在宅勤務になってから、電気代や冷暖房費、暖房器具のガス代や灯油代、水道代が増えることもあるでしょう。このような光熱費の一部を経費とすることで、従業員が在宅勤務をする負担を減らすことができます。
1-3. 消耗品費
在宅勤務で経費として計上されることが予想される別の出費は「消耗品費」です。
オフィスワークであれば、ボールペンやノート、ファイルなどは会社が支給します。手紙や書類を送る際の封筒や切手なども、会社が負担することが多いです。しかし、在宅勤務が始まると、こうした文房具や、封筒、切手などを個人が購入するケースが増えてきます。
一つひとつの値段は少ないかもしれませんが、大量に通信物を送る業務である場合には、企業が経費を負担する必要があるかもしれません。
1-4. ITツール費用
在宅勤務が始まると、さまざまなITツールを導入する必要性が生じます。
たとえば、自分のパソコンを使って仕事をするのであれば、情報漏洩を防ぐためのセキュリティ対策が必要となるでしょう。
さらに、他の従業員とのコミュニケーションツール、ビデオ会議システムなどをインストールしなければならないこともあります。無料で提供されているツールもありますが、有料の製品を使う場合には経費として企業の負担が必要でしょう。
1-5. 事務用品の購入費
「事務用品の購入費」も在宅勤務のなかで生じる経費です。在宅勤務を効率よく進めるために、さまざまな事務用品や機器が必要になることがあります。
ビデオ会議システムに使うためのヘッドセット、Webカメラなどが必要になるケースが考えられるでしょう。業務の内容によっては、別途パソコンやモニターを購入しなければならないかもしれません。そのような場合は企業が負担して経費として計上することが多いです。
1-6. 環境整備品の購入費
「環境整備品の購入費」も経費として認めるケースが多いでしょう。環境整備品とは、自宅で快適に作業をするために必要な物品のことです。たとえば、作業デスクやオフィスチェアなどが挙げられます。
環境整備品を購入することで仕事の生産性がアップすることも多いため、作業のために必要な物品については経費として認めるとよいでしょう。
1-7. 外で仕事をしたときの費用
従業員が自宅ではなく、カフェやコワーキングスペースなどで仕事をしたときの費用も、経費として扱うことが可能です。カフェでの飲み物代やコワーキングスペースの利用料などは経費して処理するのが一般的です。
ただし、仕事とは関係のない食事代などは、経費して処理する必要はありません。
2. 在宅勤務で発生する経費の処理方法
在宅勤務では前述したような経費が発生することがあります。企業としては、在宅勤務で発生する経費を適切に処理しなければなりません。
本章では、在宅勤務で発生する経費の具体的な処理方法をみていきましょう。
2-1. 通信費
通信費は、月の労働日数と労働時間をもとに、家事按分して算出するのが一般的です。1日の労働時間が8時間の場合の通信費は、「1ヵ月の通信費 ×(在宅勤務日数 ÷ 該当月の日数)÷ 2」で算出できます。
2で割る理由は、在宅勤務をしている時間にかかった費用だけを算出するためです。
計算の手順としては、まず「24時間 – 8時間(睡眠時間)= 16時間」で日常のなかで通信費がかかる時間を求めます。次に、通信費がかかる時間のなかに、どれだけ労働時間が含まれているかを算出しましょう。労働時間が8時間だとすれば、8/16=1/2なので、2で割ることになります。
たとえば、とある月の通信費が15,000円、在宅勤務の日数が30日のうち10日だった場合、経費となる通信費は15,000円×(10日 ÷ 30日)÷ 2 = 2,500円となります。
2-2. 光熱費
通信費の計算はそれほど大変ではありませんが、光熱費の計算式はやや複雑です。というのも、光熱費は家全体にかかるものなので、在宅勤務によって増えた分を計算するのが難しくなるからです。
電気料金の場合、一般的には、「1ヵ月の電気料金 ×(在宅勤務した部屋の床面積 ÷ 自宅の床面積)×(在宅勤務日数 ÷ 該当月の日数)÷ 2」として計算します。
床面積が入っているので計算が複雑になりますが、労働時間と日数をもとに算出するという点は通信費の計算と同じです。
たとえば、とある月の電気料金が20,000円、自分の部屋の床面積が15平方メートル、自宅の床面積が80平方メートル、在宅勤務日数が30日のうち10日だったとします。
すると、電気料金のうち、20,000円 ×(15㎡ ÷ 80㎡)×(10日 ÷ 30日)÷ 2 = 625円が経費となります。
2-3. 水道代や備品の購入費用
通信費や電気代は、明確な計算式がありますが、水道代や備品購入費用などは明確なルールがあるわけではありません。
備品を購入して、業務にしか使わないとわかっているのであれば、一度従業員に立て替えてもらい、後日経費精算するのがよいでしょう。もしくは、仮払いをしておき、後日精算することも可能です。
水道代や消耗品費などは、どこまで経費にできるか不透明な部分が多いので、労使間でしっかりと協議してルールを作っておくことが重要です。
2-4. 感染症対策費用
感染症対策費用についても明確なルールはありません。たとえば、感染症が疑われる従業員に対して自宅やホテルでの勤務を命じる場合、そのためにかかる費用は経費としても処理できます。
また、会社からの指示により各種の検査を受けさせる場合、検査費用や交通費なども経費とするのが一般的です。ただし、どこまでを経費として会社が負担するかについては社内で基準を決め、周知しておきましょう。
3. 在宅勤務の経費に関するルールが重要な理由
企業は在宅勤務を導入する場合、早めに経費についてのルールを作っておくことが重要です。
規定を設けておいた方が良い理由は2点あります。
- 企業が経費として支給する範囲を明確にしておくため
- 規定があることで労使間のトラブルを未然に防いだり、トラブルが発生した場合に素早く解決するため
それぞれの理由について簡単に確認しておきましょう。
3-1. 経費の範囲を明確にするため
企業が支給する経費の範囲を明確にしておかなければ、実際には家事按分により支給される通信費や光熱費などが、全額支給されると思う従業員もいるでしょう。
このような食い違いを防ぐためにも、何の費用に対していくら支給するか、またはどのような計算方法で支給するかをあらかじめ定めて周知しておきましょう。
3-2. 労使間のトラブルを防止するため
経費についての規定がなかった場合、支払われる経費が不透明で労使間のトラブルにつながることもあります。規定があることで、トラブルを未然に防ぐことやトラブル発生時に素早く解決することができるため、労使間で協議したうえで就業規則などの書面に残しておきましょう。
就業規則を変更した場合は労働基準監督署長に変更後の就業規則を届け出たうえで、従業員に周知をする必要があります。
4. 在宅勤務では経費に関するルールを作って周知することが大切
今回は、在宅勤務で発生しがちな費用や、経費として処理するときのポイントなどを紹介しました。在宅勤務中にかかる費用を企業が経費として負担することで、従業員が遠隔でも働きやすい環境を作ることができます。
在宅勤務中の経費に関するルールは法律で定められているわけではなく、企業によってさまざまです。あらかじめ労使間で光熱費や通信費などの経費の取り扱いについて話し合ったうえで、就業規則などに定めておくことや従業員に周知しておくことが重要です。
経費の扱いでトラブルにならないよう、在宅勤務を始める際には必ずルールを作り、周知するよう心がけましょう。