みなさん、こんにちは。仕事旅行社の田中です。「リスキリングの4つのフェーズ」について、これまで連載させていただきましたが、ついに今回で最終回となります。長い間おつきあいいただき、ありがとうございます。
さて、今回は「学んだことを実際の成果に結びつける」という、リスキリングの最後の難関について話します。実はこれが曲者なんです。
執筆者田中 翼氏株式会社仕事旅行社 代表取締役
1979年生まれ、神奈川県出身。株式会社仕事旅行社代表取締役。米国ミズーリ州立大学を卒業後、国際基督教大学へ編入。卒業後、資産運用会社に勤務。在職中に趣味で様々な業界への会社訪問を繰り返すうちに、その魅力の虜となる。「働く」ということに対する気づきや刺激を多く得られる職場訪問を他人にも勧めたいと考え、2011年に仕事旅行社を設立。700か所以上の職場と仕事をする中で得た「仕事観」や「仕事の魅力」について、大学や企業、地方自治体を対象に講演も多数実施。著書「働くコンパスを手に入れる: 〈仕事旅行社〉式・職業体験のススメ」。
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目次
リスキリングの実践:5つの方法
私は、数年前にマーケティング論を勉強していました。4Pの理論からはじまって、最新のデジタルマーケティングまで手を出し、本棚には分厚いマーケティングの本が山積みになってます。でも、実際の仕事でどう使えばいいのか分からずに結局、しばらくそのスキルはお蔵入りとなってしまいました。
「顧客志向」「ブランド戦略」なんて言葉は頭に入ってるのに、「目の前の仕事にどう活かせばいいの?」と、そんな悩みを抱えてた時期がありました。似たような経験をされた方は、多いのではないでしょうか?
「じゃあ、どうすれば新しく学んだことを活かせるのか?」ここがリスキリングの正念場になるのですが、実は身近なところに実践のチャンスがたくさん存在しています。
ここでは、リスキリングを実践するための5つの方法を紹介します。どれも「えっ、そんなのでいいの?」と思うかもしれませんが、実はこれが結構効果的なのです。
1. 社内セカンドプロジェクト
Googleの「20%ルール」について聞いたことはありますか?社員が就業時間の20%を自由なプロジェクトに使えるという制度です。
実は日本でも、似たような制度を取り入れている企業が増えてきており、弊社のクライアントでは「15%ルール」を実施している会社があります。
「え?仕事の15%を好きなことに使っていいの?」と感じるかもしれませんが、これがすごく効果的なのです。社員のやる気もアップしますし、思わぬアイデアが生まれたりします。
2. 社内公募制度
こちらも多くの会社で導入されており、厚生労働省の調査によると、なんと約30%の企業がこの制度を導入しているとのことです。特に従業員数が5,000人以上の大企業では、約7割がすでに導入しているようです。
この制度があれば、「あ、あの部署で働いてみたい!」と思った時にチャンスが広がるわけです。新しいスキルを違う部署で試せることは、リスキリングの実践にピッタリです。
3. 副業の許可
副業についても、dodaの調査によると、27.5%の企業が副業を認めているそうです。4社に1社以上が副業をOKにしているんです。
私の知り合いにも、平日はIT企業で働きながら、週末はWEBデザイナーとして活動している人がいます。面白いことに、副業でWEBデザインをはじめたら、その噂を聞きつけた本業の会社でもデザインの仕事を回してもらえるようになったとのことでした。気がついたら「社内副業」状態になっていたみたいで、すごく楽しそうに話してくれました。
このような相乗効果は、ちょっと前までは考えられませんでした。でも今は、新しいスキルを身につけることで、思わぬところで評価されたり、活躍の場が広がったりする可能性がたくさんあるのです。
4. ボランティア活動の奨励
ボランティア活動は一見すると仕事とは関係ないように思えます。でも、これが意外とビジネススキルの向上に効果的なのです。
ある食品メーカーの営業マンの話を聞いて驚いたのですが、この人は休日に子ども食堂でボランティアをしていて、そこで面白いことが起きてるんです。ボランティア先にはプロの営業マンがいないから、新規開拓を任されているんだそうです。
そして、驚くのがここからです。なんと、会社の名刺ではなかなかアポイントが取れない会社に、ボランティアの立場でアポイントが取れ、そこからつながりができて、本業の仕事のアポイントにもつながったとのこと。
このような予想外の展開が、ボランティア活動の隠れた魅力だと思います。一見、仕事とは関係ないように見える活動が、実は新しいスキルや人脈を生み出す宝の山だったりするのです。
リスキリングの観点から見ると、ボランティア活動は「実践の場」として最適なのです。普段の仕事では使わないスキルを試したり、違う立場で人と接したりする機会が得られます。そこでの経験が、思わぬところで仕事に活きてくる。
つまり、ボランティアを通じて新しいスキルを身につけ、それを仕事に活かす。これぞまさにリスキリングの実践と言えるのではないでしょうか。
5. 長期越境学習
ここで言う越境は、ちょっと特殊です。私たち仕事旅行社がやっているような短期のものではなく、もっと長期のプロジェクト参加型のものになります。
例えば、ある製造業の会社では、半年間、全く違う業界の会社にプロジェクトメンバーとして参加できる制度があります。最初は「半年も?」と思うかもしれませんが、これがすごく効果的なんです。
この長期越境学習は、新しいスキルを身につける場所というよりも、リスキリングで学び始めた知識を活かす実践の場となります。つまり、経験を身につける場所として活用するんです。
特に最近は面白い動きがあって、地域の中小企業でオンラインで挑戦できる機会が増えてきているんです。これは、地方にいながら都会の企業のプロジェクトに参加できたり、逆に都会の人が地方の企業の課題解決に携われたりすることができ、場所の制約がなくなるため、可能性がグッと広がるわけです。
この方法は、本格的にリスキリングに取り組みたい人にはピッタリだと思います。長期間、異なる環境に身を置くことで、学んだ知識を実際のビジネスシーンで活用できる。それだけではなく、新しい視点を得たり、自分自身の可能性も再発見できたりします。
要するに、ここでの越境学習は、座学で得た知識を実践に移す絶好の機会です。理論と実践をつなぐ橋渡しの役割を果たすわけです。
組織の役割:リスキリングを支援する環境づくり
さて、ここまで個人ができることを見てきましたが、会社の役割も重要です。リスキリングを成功させるには、組織のサポートが欠かせません。
1. 柔軟な働き方の提供
社員が新しいことにチャレンジできる時間と環境を整えることが大切です。先ほど紹介した20%ルールや社内公募制度も、こういった柔軟な働き方の一環と言えるでしょう。
2. 長期的視点での人材育成
すぐに成果が出なくても、多様な経験を評価する姿勢が必要です。失敗を恐れずにチャレンジできる文化をつくることが、リスキリングの成功につながります。
3. 学びの共有を促進する仕組み
最近は、社内で学習報告ややっていることを書き込むコミュニティを運用している会社も多くあります。「先週末、子ども食堂でこんな面白いことがありました」みたいな投稿から、新しいアイデアやビジネスチャンスが生まれたりします。
成果を急がない:長期的視点の重要性
ただ、ここで注意したいのが、すぐに成果を求めすぎないこと。新しいスキルや経験が、すぐに目に見える成果につながるとは限りません。
例をあげると、ある食品メーカーの営業担当者が趣味ではじめたプログラミングが、数年後に社内のデータ分析プロジェクトで大いに役立ったとのことです。
ただし当初は、「営業なのにプログラミング?暇なの?」みたいに思われていたのです。それでも根気強く継続したからこそ、結果的に会社に大きく貢献できました。
こういう例を見ると、長期的な視点で人材育成を考えることの大切さが分かりますよね。すぐに成果が出なくても、その経験が将来どのように活きるか分からないのです。だから、「今すぐ役に立たないから」と、安易に切り捨ててはダメなのです。
おわりに:これからの皆さまへ
5回にわたるこのリスキリングシリーズ、いかがでしたでしょうか。個人的には、書いていて楽しかったです。自分自身のキャリアについても、改めて考えるきっかけになりました。
少しでも皆さんのキャリアについて考えるきっかけになれば嬉しいです。「うーん、でも実際どうすればいいんだろう」って思った人もいるかもしれません。そんな時は、周りの人に相談してみるのも良いかもしれません。意外なアドバイスがもらえるかも。
変化を恐れず、新しいことにチャレンジする勇気を持ち続けること。そして、一見無駄に思えることでも、長期的な視点で捉える柔軟性を持つこと。これらが、これからの時代を生き抜く鍵になると私は信じています。
皆さまのリスキリングの旅は、ここからが本当の始まりです。興味を持ったことに飛び込み、失敗を恐れず挑戦し、そして学び続けてください。その過程で得られる気づきや成長が、きっと皆さまの人生をより豊かなものにしてくれるはずです。
長い間お付き合いいただき、本当にありがとうございました。皆様の更なる飛躍を心よりお祈りしています。また何かの機会でお会いできることを楽しみにしています!
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