HR NOTE読者のみなさん、こんにちは。仕事旅行社 代表取締役の田中です。
前回は、リスキリングの第2段階として、「自分探しと拡散のフェーズ」の重要性についてお話ししました。多様な価値観に触れることで視野を広げ、自分軸を見出すことの大切さを強調しました。
ある中堅メーカーの人事部長さんは、こんな風に話してくれました。
「うちの社員は、社内の常識に縛られすぎていたんです。でも、外の世界に目を向けたら、もっと自由な働き方があることに気づいたんですよ」
外の風に当たることで、社員の意識がガラリと変わったそうです。
さて、今回は、第2段階を十分に経験した社員を前提に、次のステージについて考えていきましょう。
執筆者田中 翼氏株式会社仕事旅行社 代表取締役
1979年生まれ、神奈川県出身。株式会社仕事旅行社代表取締役。米国ミズーリ州立大学を卒業後、国際基督教大学へ編入。卒業後、資産運用会社に勤務。在職中に趣味で様々な業界への会社訪問を繰り返すうちに、その魅力の虜となる。「働く」ということに対する気づきや刺激を多く得られる職場訪問を他人にも勧めたいと考え、2011年に仕事旅行社を設立。700か所以上の職場と仕事をする中で得た「仕事観」や「仕事の魅力」について、大学や企業、地方自治体を対象に講演も多数実施。著書「働くコンパスを手に入れる: 〈仕事旅行社〉式・職業体験のススメ」。
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第2段階を経て、次のステージへ
第2段階を経験した彼らは、職業体験イベントに参加したり、異業種の人たちと交流したりしてきました。
ITエンジニアが農家の仕事を体験したり、営業マンがNPOでボランティアしたり。社会の変化や多様な生き方に触れ、たくさんの刺激を受けてきたのです。
でも、ここで新たな壁が立ちはだかります。せっかく外で得た気づきを、どう自分の仕事に活かすか。そこで立ち止まってしまう人が少なくないのが現状なんです。
興味はあるけれど一歩が踏み出せない、情報は集めるけれど仕事には活かせない。まるで、宝の山を前にして、どれを持ち帰ればいいのか迷っているようなもの。
せっかくの経験が、キャリアに繋がっていないのが課題なのです。
言語化の2つのステップ
なぜ、彼らは行動に移せないのでしょうか。それは、自分の経験から得た学びや気づきを言葉で表現し、整理できていないからだと考えられます。
経験を言語化するには、大きく分けて2つのステップがあります。この2つのステップは、互いに関連し合っており、段階的に進めていくことが大切なのです。
- 第1ステップ:自分の価値観、強み、情熱を明確にし、それを言葉で表すこと。様々な経験から得た学びや気づきを言語化することで、自分らしさが明確になります。
- 第2ステップ:第1ステップで明確にした自分らしさを基に、経験を仕事に結びつけること。自分の価値観や強みを軸に、外で得た経験をどう活かせるかを考え、具体的な行動に移します。
第1ステップで自分らしさを言葉にすることは、第2ステップで経験を仕事に結びつけるための土台となります。
逆に、第1ステップが不十分だと、第2ステップで経験を仕事に結びつけることが難しくなるでしょう。
つまり、第1ステップと第2ステップは、リスキリングの第3段階において、どちらも欠かせない重要なプロセスであり、互いに関連し合っているのです。
第1ステップ:自分軸を言葉にする
まずは、自分軸を言葉で表してみましょう。 過去の経験を振り返り、次のような問いかけをしてみましょう。
「その経験から何を学びましたか?」「その学びはあなたにとってどんな意味がありますか?」「その経験であなたの価値観や強みは何だと気づきましたか?」
このように問いかけることで、自分の経験を言語化することができます。 ある営業マンの方は、こう話してくれました。
「ソーシャルビジネスの現場を見て、社会課題と向き合う姿勢に感動したんです。それから、どんな困難にも立ち向かう熱意を大切にしようと思ったんですよね」
経験を言葉にすることで、自分らしさが少しずつ見えてくるんです。
でも、自分の経験を言語化するのは、なかなか難しいもの。「どの経験が自分らしさに繋がるんだろう」「どう言葉にすればいいんだろう」と、悩む人もいるでしょう。
まるで、自分という宝箱を前にして、どの鍵を使えばいいのか分からないような感じですよね。 そんな時は、客観的な視点を取り入れるのが効果的です。
上司やメンターとの1on1は、自己理解を深めるチャンスです。他者の問いかけに答えることで、自然と経験の意味づけが進みます。
1on1では、第2段階で得た気づきを言語化し、自分の価値観や強みを再確認することに重点を置くといいですね。上司は部下の経験を引き出し、意味づけを手伝う役割を担います。
まるで、宝箱の鍵を一緒に探しているようなものです。 社外の人の意見も参考になります。異業種の人から、自分では気づかなかった長所を指摘してもらえるかもしれません。
例えば、「君の話を聞いていて、困難に立ち向かう勇気が素晴らしいと感じたよ」といった具合に。違う視点から見ることで、新しい発見があるんです。
第2ステップ:経験を仕事に結びつける
第1ステップで自分軸を明確にしたら、次はその自分らしさを基に、経験を仕事に結びつけていきます。 自分の価値観や強みを起点に、外での経験と今の仕事をリンクさせる発想が大切なんです。
例えば、第1ステップで「社会貢献への情熱」という自分の価値観を言語化できたとします。 第2ステップでは、その価値観を起点に、ボランティア経験から得た学び(例:コミュニケーション力、課題解決力など)を、今の仕事にどう活かせるかを考えます。
「社会貢献への情熱」という自分の価値観を満たすために、ボランティアで培ったコミュニケーション力を活かし、顧客の課題解決に尽力する。そうすることで、仕事を通じて社会に貢献できる。
このように、第1ステップで明確にした自分軸(価値観、強み、情熱)が、第2ステップで経験を仕事に結び付ける際の指針になるのです。
言い換えると、第1ステップは「自分らしさを言葉にする」、第2ステップは「自分らしさを仕事に活かす」というように、段階的に進めていくことが重要なのです。
ある営業マンの方は、こんな風に気づきを得たそうです。
「社長が地域のおじいちゃん・おばあちゃんに気さくに話しかけ、すぐに打ち解けている姿を見て、『人との距離の縮め方』を学んだんです。営業は、お客様との信頼関係づくりから始まると気づきました。社長の姿から、自然体で人に接することの大切さを学びましたね」
社外での何気ない経験からも、仕事に活きる学びを得られます。 外での経験を、今の仕事の文脈で捉え直すんですね。
例えば「職業体験で編集者から学んだ情報整理のコツは、企画書作成にこう活きるはず」「異業種交流会で培ったプレゼン力は、社内提案でこう使えそう」。
そんな風に、具体的な行動レベルまで落とし込んでいきましょう。
第2段階に立ち返る大切さ
最近、キャリア面談や1on1を取り入れる企業が増えてきました。でも、「部下との面談で話すネタがない」「対話が深まらない」といった悩みを、人事の方々からよく聞きます。
これは、第2段階で得た経験や気づきが十分でないのが原因です。
ある人事部長さんは、こう漏らしていました。
「うちの社員は、外の世界を知らなさすぎるんです。だから、自分の経験を振り返っても、言語化するネタが少ないんですよね」
インプットが少なければ、アウトプットも乏しくなってしまいます。
そんな時は、無理に第3段階に進むよりも、第2段階に戻ってインプットを増やすのがオススメです。職業体験イベントに参加したり、異業種の人と交流したりして、新しい視点や発見を得るんです。
インプットは1回だけじゃ不十分で、常に行うことが大事。個人の価値観は時間と共に変わるものだから、自分軸を見直すためにも、定期的に新しい刺激を取り入れる必要があります。
それに、社会の変化はめまぐるしく、求められるスキルも次々と変わります。AIの発達や、グローバル化の加速など、私たちを取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。
仕事に経験を活かす方法も、それに合わせて変えていかなくちゃいけない。だから、社会の変化にアンテナを張っておくことも大切なのです。
そうすることで、自分の経験を多角的に見つめ直し、仕事に活かすヒントが見えてくるはず。第2段階を繰り返すことが、第3段階での深い内省と対話の土台になります。
新たなキャリアステージに向けて
リスキリングの第3段階は、自分軸の確立と、経験を言語化する力を身につけるステージです。
まずは自分軸をしっかり言葉にして、その上で外での経験を言語化し、今の仕事に結びつけていく。この2つのステップを着実に踏んでいくことが、次のステージへの準備になるんです。
そのプロセスをサポートするのが、会社の役目。社員一人ひとりの成長を後押ししていくことが求められています。
自分らしさを大切にしながら、経験を言語化する力を身につける。そんな地道な取り組みが、やがて新たなキャリアステージへの扉を開くんです。きっとキャリアの神様が、その扉の向こうで私たちを待っているはずです。
さぁ、言語化への一歩を踏み出してみませんか。自分らしいキャリアを築くための、大切な準備運動なのですから。
『仕事旅行』は、多様な経験学習を通じて「仕事の軸」を明確にし、「仕事の幅」を広げる学びのサービスです
- 社員の視野が狭い・視座が低い。
長年同じ会社で働いてきたため、内向き思考に陥っている。視野が狭まってしまっている。 - 社員のキャリア(仕事)観がない。
会社からの指示待ち、仕事のルーティーン化の影響により「キャリア観」や「やりたいこと」がない。 - 自律意識がない。
仕事がに対する意識や積極性が低く、「働かない○○」「ぶら下がり社員」になってしまっている。
『仕事旅行』では、「遊ぶ」「学ぶ」「働く」の三位一体化で、キャリア自律を促進します。