HR NOTE読者のみなさん、こんにちは。仕事旅行社 代表取締役の田中です。
私は、リスキリングには4つのフェーズがあると考えており、別記事で『リスキリング4つのフェーズと、従業員成長のための4段階』についてお話させていただきました。
今日は私が特に大事だと思う第一段階、「違和感・危機感を覚えるフェーズ」についてじっくり話していきたいと思います。この大切な第一歩、踏み出せなければリスキリングの旅はスタートしません。
執筆者田中 翼氏株式会社仕事旅行社 代表取締役
1979年生まれ、神奈川県出身。株式会社仕事旅行社代表取締役。米国ミズーリ州立大学を卒業後、国際基督教大学へ編入。卒業後、資産運用会社に勤務。在職中に趣味で様々な業界への会社訪問を繰り返すうちに、その魅力の虜となる。「働く」ということに対する気づきや刺激を多く得られる職場訪問を他人にも勧めたいと考え、2011年に仕事旅行社を設立。700か所以上の職場と仕事をする中で得た「仕事観」や「仕事の魅力」について、大学や企業、地方自治体を対象に講演も多数実施。著書「働くコンパスを手に入れる: 〈仕事旅行社〉式・職業体験のススメ」。
価値観が揺らぐ切っ掛け
まず前提として、リスキリングの4つのフェーズとは以下になります。
- 違和感・危機感を覚えるフェーズ
- 自分探しと拡散フェーズ
- 自分軸の獲得と収束フェーズ
- 自ら走り出すフェーズ
▼4つのフェーズに関する詳細はこちら
では、その中の第一段階である「違和感・危機感を覚えるフェーズ」とは、一体どんな時期なのでしょうか。
ズバリ、自分の価値観がガタガタと揺らぎ始める瞬間です。「あれ?私、時代に取り残されてない?」なんて不安が頭をもたげてくる時期なのです。
でも、それは新しいチャンスのサインかもしれません。違和感や危機感は、新しい挑戦への勇気を呼び覚ましてくれるのです。
だから企業には、従業員にそのサインをうまく出し続けてもらう役割があると僕は思います。具体的には、こんな3つの取り組みが効果的だと思います。
- 定期的なキャリア面談の開催
- 業界の今後と専門的な学びの機会
- 社外の刺激を受けられる機会の設置
1.キャリア面談|新たな視点を持とう
定期的なキャリア面談を開くと、従業員は自分の現状を見つめ直すチャンスがもらえます。
キャリアのプロや上司から新しい挑戦を投げかけられたり、スキルアップを後押ししてもらえば、自然と「変わらなきゃ」という危機感が芽生えてくるはずです。
面談では、自分の強みや弱みを客観的に見つめたり、将来のキャリアプランを具体的に描いたりするのが大事です。
「今の自分に足りないものは何だろう」「どんなスキルを伸ばしていこうかな」。こんな問いにじっくり向き合うことで、リスキリングへの意欲がぐんぐん高まっていくと思います。
2.業界の学び|業界の過去・現在・未来を知れば…?
それから、業界の過去から未来までの動向や、専門的な学びの機会も重要な役割を果たします。
例えばAIなどの技術が進歩して、必要なスキルが大きく変わる可能性があると具体的に示せば、「自分には対応力があるかな」と不安を感じ始めるに違いありません。
自動車業界のEVシフトやコネクテッド化、金融業界のフィンテック台頭、小売業界のECの急成長など、どの業界でも大きな変化の兆しがあります。
そういう情報を従業員にしっかり伝えることで、「このままじゃダメだ」という危機感を育てられるはずです。
3.社外の刺激|社外交流で気づきを得る
あとは、社外の人たちと交流する機会を設けるのも忘れてはいけません。
社外交流会に参加すれば、社会の最前線で活躍する人たちの熱いパッションに触れられます。僕の知り合いのAさんなんて、「自分も燃えてるかな」と客観的に自分の立場を見つめ直して、すごい危機感を抱いたそうです。
他社の優秀な人材と交流すれば、自分のスキルや経験値を客観視できるようになります。「あの人ってすごい知識持ってるなあ」「自分はまだまだだな」こんな気づきが得られれば、リスキリングへの意欲もきっと高まっていくはずです。
こんなアプローチを通して、従業員一人ひとりが自分のキャリアを見つめ直し、「変わらなきゃ」という強い危機感を呼び覚まされるのです。
でも残念なことに、この大事な第一歩が日本の多くの企業で軽視されがちだというデータが出ています。
企業の手つかずな現状
日本企業では「違和感・危機感を覚えるフェーズ」の課題が目立ちます。
令和4年度の「能力開発基本調査(※1)」によると、労働者のうち前の年にキャリアについて相談した人はたったの10.5%。従業員に自分の現状を見つめ直す機会が足りていないようです。
それに能力開発の面でも不足が目立ちます。労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査(※2)では、能力開発に「積極的である」「やや積極的な方だと思う」と答えた企業を合わせても、4割程度しかいません。企業のやる気が問われているのではないでしょうか。
しかもコロナの影響で、社外交流の機会も減ってきています。リクルートマネジメントソリューションズの調査(※3)だと、コロナ前に比べて他部署の人や社外の友達とのつながりが減っているのが実情のようです。
社員のキャリア意識の低さ、企業のサポート不足、社外交流の機会減少。こういうのは社員が違和感・危機感を覚えるのを邪魔する大きな課題だと、私は思います。
従業員に自分の現状を見つめ直したり、危機感を覚えたりするきっかけが足りていないのです。企業はこの第一段階の大切さを本当に理解しているのでしょうか。
【出典】
※1 厚生労働省「令和 4 年度の能力開発基本調査」より
※2 労働政策研究・研修機構(JILPT)「(労働政策研究報告書No.223『企業のキャリア形成支援施策導入における現状と課題』」より
※3 リクルートマネジメントソリューションズ「人的つながりに関する実態調査」
第一歩を着実に踏み出せ
リスキリングへの第一歩は、こういう土台作りから始まります。
企業には、従業員一人ひとりが自分の立場に気づいて、変化への危機感に火がつくチャンスを確実に用意する義務があります。この第一歩を間違えると、リスキリングそのものが宙に浮いてしまう恐れがあります。
違和感や危機感は、ただ不安やあせりを生むだけではありません。むしろ、新しい挑戦への意欲やバイタリティの源にもなり得るのです。
危機感なしでは、リスキリングの熱いモチベーションは芽生えません。この第一段階は本当に重要なステップなのです。
だから企業は、従業員一人ひとりにズキッと来る危機感を抱かせる対策を立てていく必要があります。それこそがリスキリングの旅路に乗る最初の一歩になるはずです。
質の高いキャリア面談の場を設けたり、業界の変化について具体的な情報を提供したり、社外の刺激を受けられる機会を作ったり。
こんな本気の取り組みを通じてこそ、従業員は初めて自分の立場に気づいて、本当の意味での変革への危機感に火がつくのではないでしょうか。
危機感は、挑戦への思いを呼び覚ます力を持っています。企業には、従業員にそのきっかけをしっかり与え続ける役割があります。この大切な第一歩を踏み出すことで、はじめてリスキリングの扉が開かれるのです。
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