もはや、終身雇用制度ありきでキャリアを考える新社会人はいないでしょう。しかし、今のシニア世代はまだ終身雇用の時代だったはず。両者のキャリアや仕事への価値観には、どのくらい隔たりがあるのでしょうか?
今回は、60代のシニア社員、そして23卒の若手社員がそれぞれ、お互いの価値観をどう思っているのか、仕事のモチベーションや転職観などについて語り合う対談の場を設けました。
どちらかというと年齢は若手に近いものの、シニアの採用選考をする立場でもある株式会社シニアジョブの戦略人事本部長の、私・関岡央真が、シニア×若手対談のファシリテーションをしながら、シニアの仕事観を紐解きます。
関岡央真 | 株式会社シニアジョブ 戦略人事本部長 シニア就業促進研究所 所長
大学卒業後、テレビ局系列の制作会社に入社。報道・情報番組の制作に携わる。2017年から株式会社モバイルファクトリーに採用担当として入社。新卒を中心に採用活動を行うほか採用広報も兼務。「モバファク 新卒ドラフト」などのユニークな採用を行うなど、営業職からエンジニア職まで幅広い職種の採用を経験。2023年9月より現職。
目次
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。
1.社内で62歳と23歳に対談してもらうと・・・
シニアの就職を支援するサービスを展開し、自社内でもシニアが活躍する一方、社員は20代中心の構成というシニアジョブ。シニアの就業観やモチベーションの源泉や、その若手との違いを探ることは、会社の特性上、重要です。
また、人事の立場としても、シニア社員と向き合う手法はこの人生100年時代、多くの会社で遅かれ早かれ重要になるでしょう。
そこで私は、シニアと若手が並んで仕事をするシニアジョブの環境を活用し、62歳のシニア社員と23歳の若手社員に対談をしてもらうことにしました。
対談してくれたシニア社員は、62歳の杉山貴敏(すぎやま・たかとし)さんです。サービス業に分類される職場1箇所で定年まで勤め上げ、その後、2年間だけ再雇用で残り、転職。未経験の異業種でも定年までのスキルが活かせるテレホンアポインターとして、現在はシニアジョブで活躍しています。
若手側から対談に参加してくれたのは、2023年卒で今年4月に入社したばかりの23歳、鈴浦拓巳(すずうら・たくみ)さん。中学時代から続けているバドミントンを社会人になった今でも続けて大会にも参加しており、将来はスポーツ関連のある1社に入りたい夢を持っています。シニアジョブは自分が大きく成長できる修業の場だと考えています。
対談は、入社前は一切転職を考えず定年退職まで在籍するつもりだったものの、入社1年目から職場がつらすぎて転職を考えたという、杉山さんの40年前の体験談からスタートしました。
2.終身雇用が当たり前の当時、親にも言えず、転職は失敗
―今の若者は、もう転職が当たり前の中で新卒でも就職していると思うのですが、杉山さんが新卒で入社した時は、終身雇用が当たり前で転職は考えていなかったんでしょうか?
杉山さん:
はい。自分が新卒の40年前はあんまりそういう感じではなかったですね。自分は入った1年目に、いきなり月40時間の残業をずっとやらされました。「そういうつもりで入ったんじゃない」「これは耐えられない」と思って、その時初めて転職を考えました。
しかし、9時くらいに出社して日付が回るくらいに帰るような状態が続いて、自分の時間が作れず、面接も行けませんでした。面接に行くために時間給を取るのも先輩に脅されて、落ち着いて転職活動する状況ではなかったです。もうずっと、月曜日から日曜日まで働いていて、真っ青な顔をして仕事に来る人もいました。
ちょうど職場が忙しい時期で、来てくれと言われれば新入社員だから嫌と言えず、それが1年、2年と続いて、転職先も決まらないまま仕事を続けていました。それが3年目になって落ち着いたんですよね。その期間は苦しいこといっぱいあったんですが、頑張った甲斐があったと思えて、もう少し続けてみようと転職活動をやめました。
鈴浦さん:
土日も休みなく連勤ですか?それですぐ辞めずに、なんで頑張れたのですか?
杉山さん:
辞めたかったですが、次の職が決まらないと辞められないじゃないですか。また、転職せずに1箇所で働き続けるのが当時の流れでしたね。自分の親も「仕事はずっと続けなさい」という考えだったので、転職も親には言えず、こそこそ動いていました。
鈴浦さん:
すごい時代ですね。自分はもうシニアジョブに入社すると決めた時から、頑張ってシニアジョブでスキルを磨いた上で、自分の夢を追って転職する前提でしたし、それを親も肯定していました。修行期間のように捉えていました。
自分だけでなく、自分の周りでもそういう考えの子たちが多いです。シニアジョブの新卒の同期の中にもいましたが、独立したいって目標の子もいます。
自分個人としては、本当にその職場が自分に合っているなら40年勤めたい思いもありますが、同じ業務を40年間ずっとやるというのは飽きそうだし、スキルアップの面でも不安になります。40年間勤め続けると聞くと、震えます。
杉山さん:
職場の規模感にもよりますが、自分の場合はみんな役割が決まらない状態で入社して、配属されたあとも定期的に異動があって、そこで新しい知識やスキルを得る感じでした。また新たに勉強し直す大変さはあったけれど、それが刺激になって飽きは来なかったですね。
3.趣味や家庭、支えてくれる仲間が40年勤めるモチベーションに
―異動が刺激になった以外には、何か40年間続ける秘訣というか、耐えるモチベーションになったことはありましたか?
杉山さん:
私は新卒の忙しさが落ち着いたあとにテニスを始めたんですが、とても面白くてそれがストレス発散になりました。実はテニス歴も35年なんです。また、テニスを楽しく続けるにはある程度の資金も必要なので、頑張って続ければいろいろ余裕が持てるな、辞めてしまうと退職金も含めていろいろ損だな、と思って続けました。
あと、結婚もモチベーションにつながりました。結婚すると一人の時と違って家庭全体の問題になっちゃうので、これはもう簡単には辞められないなと思って、定年までずっとやり続けました。
それに頑張って続けているうちに、何回か異動すると、周りの先輩や友達もいい人が増えてきたんです。その人たちに支えられたのもありますし、こういう人たちと離れるのは嫌だなと思って頑張れたのもあります。そういう人がいなければ、本当に無理だったかもしれないです。
鈴浦さん:
確かに、自分もバドミントンやゴルフ、あとカラオケがストレス発散になってますね。職場の人があったかいのも同じくプラスになっています。誰も口を開かないえげつない職場だったら、さすがにスポーツで発散しても厳しいかなと。
それから、家族のために40年間勤め続けるっていうのも、自分からしたら本当にすごいと思います。結婚はまだしてませんが、今の自分は、正直やりたい仕事があったらそっちに行くと思いますし、むしろ、自分のやりたいことなら多少給料が下がってもいいと思ってます。
4.転職を繰り返す若手は、本当にやりたいことを見つめ直すべき
―転職を前提で考える人や、短期間で転職する人も多い今の若手について、杉山さんはどう思っていますか?
杉山さん:
確かに気になりますね、頻繁に転職してる方。人それぞれだとは思いますし、家庭の事情などあれば話は違いますが、「思っていたのと違う」みたいな理由で転職を繰り返しているとしたら、単純に今後の転職で不利になると思います。
企業の目線だと、「あー、うちの会社に入ってもまた辞めちゃうんじゃないかな」と見られてしまうのではないかと思います。
「受かったから入ります」とか「なんとなく入ります」ではダメだと思うんです、仕事って。本当に自分がしたいことは何なのか、自分には何ができるのかなど、自分をしっかり見て考える必要があるのではないでしょうか。
ただ、今の若い人の多くは、自分の人生の目標が既にあり、そこに向かってスキルを得る場所として会社を考えているように見えるので、これは良いことだと思います。自分の世代では仕事の中での目標はあっても、仕事を通じて人生の目標を追っている人は多くなかったです。
―若手と一緒に働くことや、一緒に働いている若手についてどう感じていますか?
杉山さん:
若手と一緒に働けることは、大光栄です。こういう環境を求めていました。やっぱり刺激がすごくあるので、若い人が多い職場はいいと思います。こっちもね、負けてたまるもんか、という気持ちが出てきます。
私たちの頃の若手は、かなり抑圧されていたんですよ。上司が絶対で若手は言いたいことも言えませんでした。服装一つとっても、昔の男性はどんな職場でもスーツにネクタイでした。
今は丸の内のような大手の多いビジネス街でも、スニーカーにラフな服を合わせたビジネスマンが結構多いですよね。私は今のラフなスタイルが好きです。
5.若手の変化、昭和は耐える力?令和は発言する力?
―自身が若い頃と、今の若手に違いは感じますか?
杉山さん:
昔と今では、喋り方が違います。今の若手は周りをこう、巻き込むような喋り方をみんなしています。鈴浦くんもそうですが、「自分はこう思っているけど、みんなはどう思う」みたいな喋り方で、自分だけで考えたり、自分の考えだけ言ったりするのではなく、周りに広げています。そうするとみんながそれぞれ考えるので良いと思います。
昔はそうじゃなかった。というより、さっきも言ったように若手が意見を言うことすらなかったです。上司の意見が絶対、若手はラジャー、ラジャーとしか言えません。「あなたの意見はどうでもいい」って若手は押さえつけられたんです。上司と馬が合わない若手は、泣きながら仕事してた人もいましたね。
鈴浦さん:
つらいですね。でも辞めないんですよね?僕からすると、なんで辞めないのって思っちゃいますね。
上司から押さえつけられて、泣きながら仕事をして、おそらく鬱になってる人もいる中で、それでも「はいやります」「頑張ります」としか言わずに続けるバイタリティある人は、現代の20代には少ないかなと思いました。
杉山さん:
その他の違いとして、似た内容ではあるんですが、今の若手は教えるのが上手いなと思いました。私もシニアジョブに入社してすぐの時、鈴浦くんもそうですが、新卒のメンバーが業務やツールを一緒に教えてくれました。本当にわかりやすく教えてくれたので感謝しています。自分の意見を無理やりでなく自然に周りに伝えたり、他人に働きかけたりすることが、私たちの世代と違って上手なのかもしれません。
昔と今の若手の差は、NHKの紅白歌合戦に表れていると思います。演歌歌手とかって、ずっと同じ曲ばかり歌っていると思いませんか?あれで満足できちゃうのが自分たちの世代だと思っています。聴き手もずっと同じ曲でもいい、同じものを聴いていたい。
でも、若手の歌手はヒットした曲でも次の出場では違う曲になりますよね?若い聴き手も常に新しいものを求めているように思います。
―最後に、今回62歳と23歳で対談してみての感想をお願いします。
杉山さん:
そうですね、こうして対談して、自分はもっともっと若い人と話したくなりました。
若い人がどんなことを目指しているのか、業務をやる中でどんな考えをもっているのか、空いている時間に情報共有をもっともっとしてもらえたら嬉しいし、さらに刺激になると思いました。
鈴浦さん:
自分はまず、昔の人のバイタリティはどれだけすごかったんだと思い、震えました。泣きながら90時間残業とかありえないです。
もちろん、今の若手に力がないわけではなく、力のベクトルが変化したように感じます。
一概に言えないですが、昔の人は「耐えながら続ける力」、今の若手は「自分から発言・発信する力」。この力のベクトルの変化が40年の中のどこで生まれたのか、自分はとても気になります。
6.まとめ:シニアのバイタリティと若手の創造性が重なる組織を
62歳の杉山さん、23歳の鈴浦さん、約40歳世代の離れた2人の対談では、やはり今の23歳が驚愕するような過去の働き方の話がたくさん出てきました。
今回、対談をしてくれた杉山さんはとてもしなやかな感性の人で、鈴浦さんも素直な感性の人なので、どちらも相手をリスペクトしながら話が進みましたが、もし、自分の価値観を相手に押し付けるようなタイプであれば、反発し合う結果になってしまうでしょう。これは、人事や経営者、マネージャーが注意すべき点です。
最後に、私・関岡の感想を述べると、鈴浦さんがまとめていたように、どちらかに力がある、どちらかが優れているということでなく、やはり、持つ力のベクトルが変化していると捉えることが重要だと思います。世代で重視されるものが、シニアではバイタリティ、今の若手では創造性と変化したと感じます。
そして私は、シニアのバイタリティと、若手の創造性、その2つが重なり、お互いリスペクトしながら活躍できる環境があると、企業組織として理想的だと考え、私たちも改めてそれを目指していこうと思いました。
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。