リスキリングで陥りがちな失敗とは?/「まずデジタル」でなく〝Be〟を大事に |HR NOTE

リスキリングで陥りがちな失敗とは?/「まずデジタル」でなく〝Be〟を大事に |HR NOTE

リスキリングで陥りがちな失敗とは?/「まずデジタル」でなく〝Be〟を大事に

  • 組織
  • キャリア開発

※本記事は、インタビューを実施したうえで記事化しております。インタビューは、2023年10月からライフシフトプラットフォームに参加している毎日新聞社小山氏が聞き手となり進行しています。

人生100年時代を迎え、ミドルシニア人材のリスキリングが注目されています。政府も、成長分野への労働移動を促そうと、リスキリングを進める個人や企業への助成を広げています。

〝リスキリングばやり〟とも言える状況ですが、個人や企業の中には「せっかく学んだことを生かせていない」「スキルアップした人材が他社に移ってしまった」といった悩みがあるようです。そうしたケースが生じるのは避けられないのでしょうか。

電通の100%子会社ニューホライズンコレクティブ(NH)が、ミドルシニア人材に新たな学びやコミュニティを提供する「ライフシフトプラットフォーム(LSP)」では、2023年より様々な企業が参画するという新しい動きも見られました。

そのうちの一人であり、記者である筆者が、LSPを運営する「ニューホライズンコレクティブ(NH)」の野澤友宏共同代表に、リスキリングで陥りがちな失敗やミドルシニア人材の出番について伺いました。

▼「ライフシフトプラットフォーム(LSP)」概要図

野澤友宏 | ニューホライズンコレクティブ合同会社 代表

1999年に(株)電通入社。コピーライター・CMプランナー・クリエーティブディレクターとして、東芝・UNIQLO・ガスト・三菱地所・ナビタイム・リクルートなど100社以上の企業を担当し、1000本以上のテレビCM/WEBムービーを企画・制作。2018年よりHuman Resource Management Directorとして電通の人事施策・後進育成にも広く貢献。2020年末、電通を退社。2021年1月より「ニューホライズンコレクティブ合同会社」の共同代表として「LIFE SHIFT PLATFORM」の運営を開始。人生100年時代の新しい働き方・生き方を提案している。

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「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。

本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。

1.Be Do Haveを意識して

-今のリスキリングには、おかしな風潮があるとおっしゃっています。ご説明をいただけますか。

野澤さん:

本来のリスキリングは、企業がしっかりと社員に構想を提示し、その手段として「こういうスキルを持った人材がほしい」とか「こうした出番があるから、こんなスキルを身につけてほしい」と考えて、社員に発信するものだと考えています。

ところが、今の日本ではそうなっていないケースが多々あり、「とりあえずデジタルを学ばせてみよう」などといったリスキリングが散見されます。

もちろんデジタルに強いのに越したことはありません。ただ、デジタルといっても何を学べばいいのでしょうか。

この1年だけで学ぶべきもの自体が変化しています。ChatGPTが登場してプロンプトの知識が必要になるなど、急激に学ぶものが変わりました。

こうした状況で、ミドルシニアが漠然とデジタルスキルを身につけたところで、企業側はスキルを生かせる出番を用意していなかった、ということになりかねません。「とりあえずリスキリングをさせて放置」という一番残念なパターンです。

その人材がスキルを生かすために転職してしまうと「学ばせない方がよかった」とさえなってしまいます。

 

-LSPのメンバーの皆さんは、その多くが学びを実践していると伺いました。そのような方たちと向き合う中で、残念な結果にならないためには、どのようなリスキリングをすべきだとお考えでしょうか。企業、もしくは個人にとっても有効なやり方はありますか。

野澤さん:

「Be Do Haveの法則」というのがあります。

  • Be=〇〇したい(ありたい姿、目標)
  • Do=△△する(行動)
  • Have=〇△を獲得した(結果)

です。

たとえば、Be(目標)が「幸せになりたい」だとします。Do「何か資格をとる」→Have「年収1000万円となる」→Be「幸せになる」という順序になりそうですが、Beを最初に持っていった方がうまくいくという法則です。

幸せでいれば、余裕もできて資格をとれて、仕事も回り始めるといった具合です。ミドルシニアのリスキリングも、まずBeでなければなりません。

企業側は数年後の会社のあるべき姿、ほしい人材の解像度を上げないといけませんし、ミドルシニア側は「自分がどうなりたいか」を最初に決めなければなりません。Beの解像度を上げてキャリアデザインをしてから、どんな資格やスキルが必要なのかを考えるべきです。

解像度が低いまま、新しいことを勉強しても出番があるかは分かりません。これからキャリアデザインを探ればいい若者はDoを先にしてもいいですが、ミドルシニアはBeが非常に大切になります。

Beを決めると、やりがいにもつながります。

たとえば「生まれ故郷に貢献したい」とか「地方創生をやりたい」というBeがあったとします。すると、多少やりたいこととずれた仕事に向き合っても「これをやれば、もっとやりたいことに近づける」と思えるようになります。

「私は今なぜ、これをやっているんだろう?」と悩むことが減るでしょう。

 

-現状で会社の将来像をしっかりと描き、社員をリスキリングできる企業はなかなかないように見受けられます。

野澤さん:

VUCAと呼ばれる時代、企業としては、これだけデジタルを含めて社会の移ろいが早いと、数年後の会社像を描くのが難しいのは間違いありません。だから個人の側は会社任せにしないことです。

自分で将来を考える「キャリア自律」が必要になってきます。とは言っても、政府や企業はリスキリングの責任を個人に負わせてはいけませんが。

2.主戦場はコミュニケーションスキル

-新しいことを学ぶだけでは足りないという話でしたが、ミドルシニアはまずどのようなことを始めるべきでしょうか。Beの解像度を高める以外に必要なことはありますか。

野澤さん:

LSPに参画された方とまず実践していることでもあるのですが、三つのデザインを描く必要があると思います。

一つは、お話をしてきたようにBeの解像度を上げたキャリアデザインを描くことです。そして今後、自分の専門スキルをどう生かすか、どんな事業や仕事をするかというビジネスデザインが必要です。

これらのデザインのためには、自分のスキルを棚卸しして、将来やりたいことを描き直すことが必要です。自身の専門スキルや才能を可視化し、それを生かせるか。得意分野を把握することが欠かせません。

コミュニケーションスキルも大切です。新しいことを学ぶと新しい人と出会います。これまでの仕事仲間と質の違う人がいるかもしれません。

また、若い時は自分の会社を看板にして仕事をすることが多いですが、ミドルシニアになると、個人に対して仕事が来ることが出てきます。コミュニケーションスキルとか人間同士の付き合いの重要度が増します。

ニューホライズンコレクティブでは、スキルの可視化やコミュニケーションスキルの獲得に向け、複数人でリスキリングに取り組むようにしています。

▼LSPで学ぶ3つのデザイン

自分が考える「自分」って非常に狭い。私は「才能は人が見つける」と言っていますが、自分が考える将来やこれまで手がけた仕事を人にたくさん話すと、思いもよらなかった自身のスキルや情報に気付くことがあります。

我々は学びを個で完結させずに、仲間同士で学ぶ「Co-Skilling(コ・スキリング)」を提唱していますが、仲間同士との学び合いの中で新たな自分の才能を発見するのも「Co-Skilling(コ・スキリング)」のひとつの効果だと思っています。

 

-ミドルシニアの中には「新しいことでは若者にかなわない」と考えてしまう人がいます。有効なリスキリングをすれば、ミドルシニアに新たな出番は回ってきますか。

野澤さん:

三つのデザインを描いていれば、出番は必ずあると考えています。

まずミドルシニアには培ったスキルと経験がありますし、相対的に若者よりコミュニケーション力も高いです。そのスキルを地方や中小企業、または個人ベースの事業にどんどん使っていくべきです。

大企業の一コマで頑張るよりも、人間同士の付き合いとか、多岐にわたる知見が必要な仕事に活躍の機会はあると思います。

またミドルシニアは積極的に発信をすべきです。「私は地方の手伝いをしたい」「こういうことをしてきた」と発信すると、「思いの可視化」になって仕事に呼ばれるんです。

呼ばれたらすぐに行く柔軟性やフットワークの軽さも大事で、できることが広がっていきます。

極端にいうと、使う場所が決まってからスキルを身につけてもいい。そのぐらいの大胆さや腰の軽さを持ってスキルを学ぶのが一番身につくと思います。

-LSPのニーズ、手応えはどうですか。また近未来の展望をお聞かせください。

野澤さん:

当初、プログラムの対象には、そろそろ会社を辞めるとか、すでに辞めてライフシフトするという人たちを想定していました。2021年のスタート時には229人の元電通社員がメンバーで、23年4月から電通以外の企業や個人からの受け入れも開始しました。

ふたを空けてみると、「参加させる社員に辞めてほしい」と考えている企業はありませんでした。「スキルを身につけてほしい」とか「副業のための機会を作ってあげたい」とか、企業によって活用の仕方はさまざまです。

社員に価値発揮できる場を用意するのは、企業の責任です。企業が、そうした社会的責任を意識し始めているのだと感じます。

私は「人生100年時代」にあたり、人材活用やそれぞれの生きがいのために、LSPを広げていきたいです。ミドルシニアの経験やスキルを使わないのはもったいないです。

ただ、会社を辞めていきなり個人事業主になるというのは厳しいと思います。LSPのようなプログラムで、ある程度の助走期間を持って仲間とともに新しいことを学びながら、次にすることを考えていく。そういう機会が当たり前になる社会になると面白いんじゃないでしょうか。こうした取り組みを日本の国家基盤にしていくことが究極の夢です。

編集後記(毎日新聞 小山由宇)
LSPのプログラムは、野澤代表が描いた「リスキリング・デザイン」のうえに組み立てられている。自身がLSPで学んだことの答え合わせのようなインタビュー内容に、そうした思いを強くした。とりわけメンバー同士で学び合う「コ・スキリング」の話は興味深く、「私は漠然と提供された学びではなく、相当に面白いプログラムに参加しているのでは?」と思わせてくれた。

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本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。

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