プロアクティブ人材育成 実践ステップ②:自社にとって「意味のある」ターゲット&テーマを定めよ!|「プロアクティブ人材」育成実践術 #4 |HR NOTE

プロアクティブ人材育成 実践ステップ②:自社にとって「意味のある」ターゲット&テーマを定めよ!|「プロアクティブ人材」育成実践術 #4 |HR NOTE

プロアクティブ人材育成 実践ステップ②:自社にとって「意味のある」ターゲット&テーマを定めよ!|「プロアクティブ人材」育成実践術 #4

  • 組織
  • キャリア開発

※本記事は、株式会社日本総合研究所様より寄稿いただいたものになります。

前回の第3回連載では、プロアクティブスコアの測定方法と因果モデルについて触れました。第4回連載では、プロアクティブスコアを利用して、自社にとって「意味のある」ターゲットとテーマを特定する方法を紹介します。

ここで「意味のある」とは、プロアクティブ人材を育成・強化していく上で、自社にとって投資対効果が高いターゲットとテーマを検討するということです。

【連載】「プロアクティブ人材」育成実践術

寄稿者下野 雄介株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアル デザイングループ 部長

「プロアクティブ行動の促進」研究・ソリューション開発責任者を兼任。オンライン公開講座「2023年人的資本経営の総括と、2024年に向けた展望」(日本CHO協会 2023年度)をはじめ人的資本経営・プロアクティブ行動に関する講演実績多数。専門は組織開発、組織行動論。著書「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略」 (KINZAIバリュー叢書)。

寄稿者宮下 太陽株式会社日本総合研究所 未来社会価値研究所兼リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアルデザイングループ シニアマネジャー

立命館大学客員研究員。組織・人事領域のコンサルタントとして学術の知見も駆使し、顧客の本質的な課題を捉えた科学的な組織変革を支援。専門は文化心理学、社会心理学、キャリアディベロップメント。著書「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略(KINZAIバリュー叢書) 」他共編、監訳、共著多数。

寄稿者佐賀 輝株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジメント&インディビジュアルデザイングループ アソシエイト・コンサルタント

入社以来、民間企業の人事制度構築や人材開発に関するコンサルティングに従事。現在、「プロアクティブ行動の促進」に関する研究・実証を行っている。著書「プロアクティブ人材: アカデミアとビジネスが共創したVUCA時代を勝ち抜くための人材戦略」 (KINZAIバリュー叢書)

「意味のある」ターゲットとテーマを選定するには

「意味のある」ターゲットとテーマを選定するポイントは、チームに焦点をあてるということです。

人材のプロアクティブ化は個人単位で実施するものであると一般的には想像されます。しかし、我々の調査と企業実証において、組織の成果を向上させるためには、個人のプロアクティブ化に加えてチームのプロアクティブ化が重要であることが分かっています。そのため、チームのプロアクティブ化を目指すアプローチが重要となります。

具体的には、数人から多くても十数人規模のチーム単位で検討を実施していくことが望ましく、通常は「課」単位のレベルをイメージしていただければ大丈夫です。十数人規模が望ましいのは、それ以上の大規模な人数になると、プロアクティブスコアがチームメンバーの特性を充分に反映しきれず、チームとしての特徴も現れづらくなり、検討した施策が効果的にならなくなるからです。

また、施策の起点が直属の上司になることを考慮しても、十数人規模のチームであれば、上司が育成施策による介入を行いやすくなります。

ターゲット選定のファーストステップ

ターゲット選定のファーストステップでは、チーム単位のプロアクティブスコアの平均(以下、「チームプロアクティブスコア」)と分散を算出し、図表1のようなフレームワークの中にプロットしていきます。平均だけでなく、分散にも着目している点がポイントです。

黒田らの研究(2021)によると、チーム内でワーク・エンゲイジメントのばらつきが大きい場合に生産性が低くなることが分かっています。具体的には熱意ある従業員とそうではない従業員がチーム内に混在することによって、チームワークが悪化し、生産性が低下する可能性が示唆されています。プロアクティブはワーク・エンゲイジメントと別の概念ではありますが、やはりチーム内でのばらつきが大きいと成果に悪影響が出ることが想定されるのです。

図表1は、チーム単位のプロアクティブ状態を可視化する4象限のフレームワークで、チームプロアクティブスコアが高いほど右側に、チーム内のプロアクティブスコアの分散が大きいほど下側にプロットされます。4象限の左上から反時計回りに「不活性」「兆し」「変革期」「協創状態」とチームの状態を名付けています。

例えば、図表1のAチームやGチームは、「不活性」のチーム状態にあります。「不活性」のチームはチームプロアクティブスコアが低く、バラツキも小さいことから、チーム内にプロアクティブな人材がいない状態です。一方で、EチームやJチームのチーム状態である「兆し」は、チームプロアクティブスコアは低いですが、チーム内でもバラつきがあり、一部プロアクティブな人材がいる状態となります。同様の見方で、「変革期」は、チームプロアクティブスコアは高いですが、まだチーム内でバラツキがあり、一部プロアクティブではない人がいる状態、「協創状態」はチームのほぼ全員がプロアクティブな状態にあります。

基本的にチームのプロアクティブ状態は、「不活性」→「兆し」→「変革期」→「協創状態」の順で変遷していくと考えられており、各状態での施策を検討することが重要です。

ターゲット選定のセカンドステップ

チーム単位で全社的な分布の傾向を把握した後は、チームが所属する本部や部レベルの大きな組織単位で特徴がないかを検討します。特に「不活性」や「兆し」のチームが多い傾向にある本部や部を特定し、プロアクティブ化のターゲットにしていきます。

例えば、図表1のX本部はY本部と比べて、「不活性」や「兆し」のチームが多い状態にあります。そのため、プロアクティブ化のターゲットにするべきは、Y本部ではなく、X本部であるという見方ができます。

ただし、実際の企業実証では、「不活性」や「兆し」が多いからという理由だけでターゲットにするのではなく、本当にプロアクティブ化する必要がある本部や部をターゲットにすることも重要となります。

例えば、一定の業務を効率よく遂行することがメイン業務である本部と新規事業開発がメイン業務である本部が同様の傾向で「不活性」だった場合、まずターゲットにするべきは後者であるということは理解できるかと思います。このように限られたリソースの中で最大限の施策の成果を上げていくためには、今後の事業展開等も踏まえて、より丁寧なターゲット選定が必要となります。

因果モデルを活用し、優先順位の高いテーマを検討

ターゲットを選定した後は、因果モデル(図表2)を活用して、ターゲットのチームでプロアクティブ人材を育成するために優先順位の高いテーマを検討します。「テーマ」とは、自己効力感や職務特性、職場環境といった各要因のうち、優先して向上させていくべき要因のことを指します。

なお、実際の企業では統計分析を行った経験がないことや共分散構造分析のような統計分析の社内リソースがないことによって、因果モデルを用いた統計分析が実施できないことも想定されます。そのような場合でも簡単にできる分析の方法として、次の2つの方法があります。

1つ目は、プロアクティブスコアとエンゲイジメントサーベイ等で取得したスコアの相関係数を算出することです。プロアクティブスコアと相関が高いサーベイ項目が意味のある「テーマ」である可能性が高いということです。相関係数はExcelを用いて簡単に算出することができるので、手軽に実施できる手法です。

2つ目は、日本総研の大規模調査において、プロアクティブスコアを高める要因であると判明している「自己効力感」「職務特性」「集団凝集性」「職場環境」「ワーク・エンゲイジメント」の5因子のうち、自社適合的な因子が何であるかを定性的に検討することです。

具体的には、自社が弱い因子は何であるかを、現場へのヒアリング等を通して検討することで、プロアクティブ行動を促進する意味のある「テーマ」選定につながります。因果モデルを用いた分析を実施できない場合の簡易的な方法として、上記の2つを検討してみて下さい。

因果モデルを活用した分析に取り組む際の注意点

因果モデルを活用した分析に取り組む際には、ターゲットとなる組織の特徴によって、因果モデルの関係性に違いが出ることを留意する必要があります。全社的なモデルでは効果がない場合でも、ターゲットとする組織では効果があるといったことが起こりうるのです。そのため、テーマを検討する際はターゲットとする組織の特徴を踏まえて、よりプロアクティブ行動に効果がある要因を特定することが重要となります。

例えば、全社的には自己効力感がプロアクティブ行動を促進する効果が高いとしても、ターゲットとした組織では自己効力感に加えて上司のリーダーシップ行動が同程度に有効であるケースがあります。この場合、ターゲットの組織では自己効力感を高めるだけでなく、上司のリーダーシップ行動を優先順位の高い検討テーマ(例:自部門のビジョンを示す力や、メンバー間の信頼を醸成しコラボレーションを促進する力の向上等)とすることで、プロアクティブスコアの低い人のプロアクティブ行動を促進できると考えられます。

以上のようにプロアクティブスコアと因果モデルを活用することによって、プロアクティブ人材育成の方針を立てることができます。方針を立てることができたら、次にすべきことは一緒に施策を検討していく経営層、管理職の理解を得ることです。

第5回の連載では、プロアクティブ人材の育成に向けた経営層や管理職との対話・共創の方法について説明していきます。

参考文献

黒田 祥子、山本 勲、島津 明人、ウィルマー B. シャウフエリ (2021) 『従業員のポジティブメンタルヘルスと生産性との関係』 働き方改革と健康経営に関する研究(独立行政法人経済産業研究所)

人事業務に役立つ最新情報をお届け!メールマガジン登録(無料)

HR NOTEメールマガジンでは、人事/HRの担当者として知っておきたい各社の取組事例やリリース情報、最新Newsから今すぐ使える実践ノウハウまで毎日配信しています。

メルマガのイメージ

関連記事

プロアクティブ人材育成 実践ステップ①:プロアクティブスコアを測定せよ!|「プロアクティブ人材」育成実践術 #3

プロアクティブ人材育成 実践ステップ①:プロアクティブスコアを測定せよ!|「プロアクティブ人材」育成実践術 #3

本連載の第2回まで「プロアクティブ人材」の概要と重要性について説明してきました。第3回以降では、実際に各企業でプロアクティブ人材を育成していくための実践方法を「プロアクティブスコアの測定」から「育成施策の展開」まで6つの […]

  • 組織
  • キャリア開発
2025.05.30
金井 一真
なぜプロアクティブ人材が重要なのか?|「プロアクティブ人材」育成実践術 #2

なぜプロアクティブ人材が重要なのか?|「プロアクティブ人材」育成実践術 #2

前回はプロアクティブ人材の定義や年齢帯別のプロアクティブスコアの特徴についてご紹介しました。 本稿では、前回ご紹介したプロアクティブ人材がなぜ企業経営に求められているかを、近年多くの企業が注力する人的資本経営の文脈に照ら […]

  • 組織
  • キャリア開発
2025.05.28
金井 一真
【ミドルマネジャーのオーバーワークを乗り越える4つのアプローチ#2】ミドルマネジャーのオーバーワークの背景|リクルートマネジメントソリューションズ

【ミドルマネジャーのオーバーワークを乗り越える4つのアプローチ#2】ミドルマネジャーのオーバーワークの背景|リクルートマネジメントソリューションズ

ミドルマネジャー(課長層、以下マネジャー)の過重負担や長時間労働、業務の難しさなどが、多くの企業で問題となっています。 「マネジャーは罰ゲームだ」「マネジャーになりたくない人が増えている」「マネジャー限界説」などの声もよ […]

  • 組織
  • 人材育成・研修
2025.05.27
金井 一真
見えない「隠れ介護」にどう向き合う?──企業人事が知っておきたいリアルと両立支援の第一歩|チェンジウェーブグループ木場

見えない「隠れ介護」にどう向き合う?──企業人事が知っておきたいリアルと両立支援の第一歩|チェンジウェーブグループ木場

企業として、仕事と介護の両立支援を行う必要性はわかっている。それでも、いま目の前で困っている社員が見えないと、「何から始めればいいのか」「どこまで踏み込んでいいのか」と迷ってしまう。そしてつい、優先順位が下がってしまう─ […]

  • 組織
  • 組織・その他
2025.05.14
金井 一真
人的資本経営を成果に結びつけるために重要な「プロアクティブ人材」とは?|「プロアクティブ人材」育成実践術 #1

人的資本経営を成果に結びつけるために重要な「プロアクティブ人材」とは?|「プロアクティブ人材」育成実践術 #1

なぜ、人の自律性が高まらないのか。なぜ、職場から新たな挑戦が生まれないのか。経営者や管理職の皆様からこうした悩みを最近特に聞くようになりました。 「自律」や「挑戦」といったキーワードは組織・人材マネジメントにおいて昔から […]

  • 組織
  • キャリア開発
2025.05.13
金井 一真

人事注目のタグ