抜擢人事(読み方:ばってきじんじ)とは、年齢や性別に関係なく、実力に基づき人材配置を実施する人事制度を指します。成果主義が主流になりつつある現代において、抜擢人事が注目されています。本記事では、抜擢人事のメリット・デメリットや抜擢される人の特徴・条件、失敗しないための対策、成功事例をわかりやすく解説します。
目次
1. 抜粋人事とは?
抜擢人事(読み方:ばってきじんじ)とは、スキルや業績に基づき、責任ある重要なポストに人材配置する人事制度です。抜擢人事では実力により人材配置がおこなわれるため、「年齢」「学歴」「性別」「勤続年数」「国籍」といった情報は考慮されないことが一般的です。
そのため、実力さえあれば若手の従業員でも重要なポジションに就く可能性があり、「後輩が上司になる」などのケースも珍しくありません。ここからは、抜擢人事と年功序列の違いや、抜擢人事の種類について紹介します。
1-1. 抜擢人事と年功序列の違い
年功序列とは、従業員の年齢や経験に応じて昇進や報酬などを決定する人事方針です。抜擢人事と年功序列は、人材登用の際の評価基準が大きく異なります。抜擢人事は実力重視であり、年齢に関係なく、成果やスキルによって配置がおこなわれます。一方、年功序列は勤続年数が重視され、年齢や経験に応じて配置が実施されます。
このように、抜擢人事と年功序列は、対極にある人事制度といえます。近年では抜擢人事を採用する企業も増えています。ただし、どちらが優れているといった優劣はなく、自社にあった人事制度を採用することが大切です。
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1-2. 抜擢人事の種類
抜擢人事といっても、その採用の仕方は企業によって異なります。抜擢人事の採用方法には、次のような種類があります。
- ポテンシャルに基づく登用:高いポテンシャルを持っている若手の人材を起用する方法
- 経験実績に基づく登用:経験が豊富であったり、高い成果を出していたりする人材を起用する方法
- 社外からの登用:自社のニーズにマッチした優秀な人材を社外から採用して起用する方法
次世代リーダーを早期に育成したいと考えている場合、ポテンシャルに基づく登用が推奨されます。一方、人望が厚く、信頼できる人材を起用したい場合には、経験や実績に基づき登用する人材を決めるのがおすすめです。また、自社に相応しい人材がいない場合、外部から調達して登用する方法もあります。このように、抜擢人事の手法は複数あるので、自社のニーズにあった方法を採用しましょう。
2. 抜擢人事が注目されている理由
なぜ抜擢人事が注目されているのでしょうか。ここでは、抜擢人事が注目される背景や理由について詳しく紹介します。
2-1. 成果主義への関心の高まり
近年では少子高齢化による労働人口の減少により、人材確保に苦戦している企業が増えています。限りある人材で高いパフォーマンスを発揮するためには、成果に基づく評価が適当だと考え、年功序列制度が崩壊しつつあります。
また、若手人材を獲得し、育成しなければ、定年退職により上層部が抜けてしまったときに、マネジメントできる人材が育っていないために事業が存続できなくなる恐れもあります。そのため、若手のモチベーションを高めて、早期育成を実施するため、若いうちから裁量を与える企業も増えています。このように、成果主義の考え方が主流になりつつあることから、抜擢人事に注目が集まっています。
2-2. グローバル化への対応
昨今ではグローバル化の影響もあり、ビジネス市場は目まぐるしく変化しています。海外では実力主義がスタンダードであり、日本の企業もそれに対応しなければ、市場に取り残され、経営を存続することが困難になる恐れがあります。そのため、勤続年数や年齢、性別、国籍などに関係なく、実力のある人材を起用し、時代や社会の変化に柔軟に対応することが求められています。このように、グローバル化に対応し、組織を持続的に成長させるためにも、抜擢人事が注目されています。
3. 抜擢人事のメリット
抜擢人事を導入することで、さまざまなメリットが得られます。ここでは、抜擢人事を導入するメリットについて詳しく紹介します。
3-1. 次世代リーダーを早期育成できる
抜擢人事により、若手でポテンシャルのある人材を重要なポストに配置することで、早いうちにマネジメントやリーダーシップといったスキルを身に付けてもらい、次世代リーダーを早期に育成することができます。また、経験豊富な現在のリーダーが、抜擢人事により起用された若手を育成することで、スムーズに知識やノウハウを承継させることが可能です。
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3-2. 若手の従業員のモチベーション向上になる
年功序列制度のために、実力のある若手が昇進できない場合、若い優秀な人材はモチベーションが低下し、早期離職へとつながる恐れがあります。抜擢人事を導入することで、実力があれば、年齢や勤続年数に関係なく、責任のある地位に就けるため、若手の従業員のモチベーション向上につながります。
3-3. 柔軟な人材配置ができる
年功序列制度を採用している場合、勤続年数に応じて人材配置を実施するため、能力や価値観などの適性を考慮した人材配置を実現しにくいです。抜擢人事を導入すれば、従業員一人ひとりのスキルや考え方を把握し、それぞれにあった地位や職種に配置することができるようになります。これにより、人材の価値を最大限に発揮できるようになり、組織全体の生産性の向上が期待できます。また、社会や時代のニーズに応じて配置換えを実施すれば、変化に柔軟に対応することも可能になります。
3-4. 組織の活性化を実現できる
年功序列制度では、年齢や勤続年数に応じて人事配置がおこなわれるので、若手が大きな昇進をするといった大きな変革が組織において生じません。抜擢人事を導入し、成果を出した優秀な人材が重要なポストに就くようになれば、新たな考え方や価値観が取り入れられ組織改革が起こります。これにより、新しいアイデアやイノベーションが生み出され、組織の活性化が実現されます。
3-5. 人事担当者の意識改革につながる
抜擢人事を導入する場合、従来の人材育成や人事評価では通用しなくなります。現状の人事制度を見直さなければならず、人事担当者の意識改革にもつながります。人事担当者の考え方や価値観がアップデートされることで、新規のシステムを導入したり、トレンドの人事制度を取り入れたりするなど、人事改革が生じ、より時代や社会のニーズにあった組織を作り出すことができるようになります。
4. 抜擢人事のデメリット
抜擢人事には、メリットだけでなく、デメリットもあります。ここでは、抜擢人事を導入するデメリットについて詳しく紹介します。
4-1. 抜擢されなかった従業員の不満
抜擢人事は、選考理由を明確にしなければ、抜擢されなかった従業員から反感や不満が生まれる可能性があります。とくに、年功序列が強く根付いている企業では、勤続年数が長い中堅やベテラン層からの反発を招く恐れがあるため注意が必要です。また、抜擢された従業員が孤立するリスクや、中堅・ベテラン層の退職につながる可能性もあるので、抜擢人事は慎重におこなわなければなりません。
4-2. 時期尚早の昇進による失敗
重要なポジションに抜擢した後に、抜擢された従業員のスキルや経験不足が露呈する可能性があります。リーダーとして十分な能力を発揮できず、成果が上がらない恐れもあります。まずは抜擢人事をする場合の目的を明確にし、抜擢人事により登用する人材に期待することを明らかにしておきましょう。また、抜擢人事により想定していた成果が出ない場合のリスクも事前に洗い出しておくことで、いざという場合でも柔軟に対応することができます。
4-3. 組織風土とのミスマッチ
成果主義が加速している現代ですが、年功序列制度や終身雇用制度により、従業員に長く安心して働き続けてほしいという会社もあります。このような企業に抜擢人事を導入すると、従業員に不満が生じ、離職率の上昇や生産性の低下につながり、経営を存続することが困難になる恐れがあります。抜擢人事を採用する際は、自社の文化や風土にあっているかどうかチェックし、従業員からの理解を得たうえで、慎重に導入を進めることが大切です。
5. 抜擢人事で抜擢したい人の特徴や条件
抜擢人事により抜擢する人材は、慎重に選ばなければ、デメリットを引き起こす可能性があります。ここでは、抜擢人事で抜擢したい人の特徴や条件について詳しく紹介します。
5-1 人望
人望とは、多くの人がその人に対して寄せる尊敬や信頼、期待の心を指します。たとえ優秀な能力・スキルがあっても、周囲の人材が付いてこなければ成果を出すのは難しいでしょう。人望が厚い人を抜擢人事により登用することで、周囲の従業員はその人を信頼し、積極的に付いていこうとします。結果として、まとまりのある組織を作り出し、同じ目標に向かって一丸となり取り組むことができるようになります。
5-2. 経験・実績
ビジネスにおいて経験や実績は、信頼を高めるためにも重要な要素の一つです。成果を出していない人よりも、成果を出している人に付いていきたいと考えるのが一般的でしょう。そのため、抜擢人事では、経験や実績を考慮し、その地位や役職に相応しい人材を選ぶのも一つの手です。
ただし、変化が激しい現代において、過去に成果を出した人材が再度成果を出せるとは限りません。実績や経験だけで判断せず、スキルやポテンシャルなど、他の要素も勘案して総合的に抜擢人事で抜擢する人材を選びましょう。
5-3. スキル
チームを引っ張り、業務を遂行するためには、能力や技術などのスキルが必要です。抜擢人事をおこなう場合、その地位・役職に求められる能力を洗い出し、そのスキルを持った人材を登用することで、ミスマッチを防止し、役割を果たしてもらうことができます。
5-4. リーダーシップ
組織を引っ張る立場の人に求められる能力の一つとして、リーダーシップが挙げられます。専門的なスキルを持っていても、決断力や責任感といったリーダーに必要な能力がなければ、組織を統一し、成長につなげることはできません。そのため、抜擢人事を実施する場合、リーダーとしての適性があるかどうかもチェックしましょう。
5-5. ポテンシャル
ポテンシャルとは、潜在能力や可能性を意味する用語です。次世代リーダーを育成することが目的の場合、現状のスキルだけでなく、ポテンシャルも考慮して抜擢人事をおこないましょう。将来能力が伸びるであろう人材を早いうちに重要なポストに就かせることで、大きな成長が期待でき、次世代リーダーを早期に育成することができます。
5-6. カルチャーマッチ
外部から優秀な人材を採用し、重要なポストに起用しても、自社の文化や風土に馴染めず、成果が出せなかったという事例もあります。そのため、抜擢人事をする際は、自社の経営理念やビジョンをよく理解しているかどうか、カルチャーマッチも判断材料にしましょう。
6. 抜擢人事で失敗しないための注意点
抜擢人事で失敗してしまうと、従業員の不満や生産性の低下につながるなど、デメリットが生じるリスクがあります。ここでは、抜擢人事で失敗しないための注意点について詳しく紹介します。
6-1. 公平性のある評価基準の策定と開示
評価基準が曖昧だと、抜擢されなかった従業員から「選考基準が偏っている」「お気に入りの従業員を優先している」などの不満や不信感が生まれやすくなります。公平性を保つためには不透明な部分を排除し、評価プロセスを客観的かつ具体的にすることが重要です。選考基準が明確になれば、従業員は「なぜその人が抜擢されたのか」を理解しやすくなります。すべての従業員が納得できる環境を整えることが、抜擢人事の成功につながります。
6-2. 抜擢されなかった従業員のフォロー
年功序列制度であれば、重要なポジションに就くはずだった従業員が、抜擢人事では期待していたポジションに就けないケースもよくあります。抜擢されなかった従業員は、「自分には能力がない」「自分はダメな人間」などと考えるようになり、仕事に対するモチベーションが低下する可能性があります。
なぜ抜擢されなかったのか、その理由を伝え、今後の成長のためのアドバイスを伝えると、モチベーションの維持につなげることができるでしょう。また、次回重要なポストに就くための行動につなげられるよう、スキルアップの場を提供することも大切です。このように、ポテンシャルを評価し、抜擢した従業員のサポートをおこなうことも重要ですが、抜擢されなかった従業員に対するフォローも欠かさないようにしましょう。
6-3. 自社の文化に適しているかチェックする
抜擢人事が失敗してしまう理由に、自社の風土・文化に抜擢人事が適していない可能性があります。たとえば、終身雇用を採用し、長く時間をかけて育成をおこなうような会社の場合、いきなり抜擢人事を導入すると、これまで会社に貢献してきた従業員の不満につながり、大切な人材を失ってしまう恐れもあります。
このように、どのような会社でも抜擢人事がマッチするわけではありません。抜擢人事の導入を検討する場合、社風も考慮し、現場の従業員の意見も取り入れて慎重に導入を進めるようにしましょう。
7. 抜擢人事の成功事例
競合他社の抜擢人事の成功事例を参考に、自社も抜擢人事の導入をするか検討するのがおすすめです。ここでは、抜擢人事の成功事例について紹介します。
7-1. 某IT会社の成功事例
あるIT企業では、従業員の行動指針に「年功序列は禁止」と明記し、若手人材を育てる環境を重視した結果、3年連続で低い離職率を維持しています。2023年度の離職率は7.4%で、競合他社と比較しても低い離職率です。同企業は、全体の約80%を20~30代の若い世代が占めており、年齢や性別を問わず多くの従業員が活躍しています。社内で実施したストレスチェックでは、87.5%の従業員が「働きがいがある」と回答していることから、従業員の満足度の高さも伺えます。
7-2. 某大手総合商社の成功事例
ある大手総合商社の現在の取締役社長は、2015年に抜擢人事で32人を抜き、54歳の若さで社長に就任しました。同企業は「人」を最大の資産と捉え、若手でも管理職に抜擢する「キャリアチェンジ制度」を導入しています。挑戦意欲のある従業員が、年齢に関係なく能力や適性に応じて経験を積める環境が整えられているのです。結果として、次世代リーダーの早期育成につながっており、企業全体の成長に寄与しています。
7-3. 【ポイント】失敗事例もチェックしておこう!
抜擢人事の成功事例だけでなく、失敗事例も参考にし、リスク対策をしておくと、失敗を未然に防止することができます。たとえば、ポテンシャルのある若手を抜擢人事により重要なポジションに配置した結果、周囲の従業員は嫉妬などからフォローされないために、孤立してしまい、成果を出せなかった失敗事例があります。このような事態を生じさせないためにも、選考基準を明確にしたり、抜擢後のサポートを手厚くしたりするなど、あらかじめ対策をおこなうことが大切です。
8. 抜擢人事を採用する際は社内制度をきちんと整備しよう!
抜擢人事を導入することで、若いポテンシャルのある人材を重要なポストに配置し、早期に次世代リーダー育成をおこなうことができます。また、若手でも努力すれば昇進できる環境を作り出せれば、組織の活性化やモチベーションの向上につなげることも可能です。
ただし、抜擢人事は、組織の文化にあっていなかったり、選考基準が曖昧だったりすると、従業員の不満につながり導入に失敗してしまう恐れもあります。抜擢人事を導入する際は、社内制度を整備し、リスク対策をしたうえで、慎重に導入を進めましょう。