新しく職場に配属された従業員を早期に育成するためには、計画的なOJT(On-the-Job Training)が欠かせません。
しかし、新人をただ配属して目の前の業務を実践させるだけになってしまっている場合も多いのではないでしょうか。
OJTを実施する際にはさまざまなコツやポイントがあり、また、実際に業務を教えるトレーナーの役割がとても重要になります。
本記事では「OJTを導入したい」「OJTを導入する方法を知りたい」「OJTを成功させるにはどうしたらいいか知りたい」「トレーナーをどうやって育成するか知りたい」といった人事担当者の方に向けて、OJTを実施するポイントをまとめました。
1|OJTとは
OJT(On-the-Job Training)は、職場で実務を通じて従業員を育成することを言います。
業務に必要なすべてのスキルや知識を、実際の業務を通じて計画的に教育することで、従業員は実践的な能力やスキルを身に付けることができます。
平成30年度厚生労働省「能力開発基本調査」によると、計画的なOJTを実施した事業所は62.9%、正社員以外に実施した事業所は28.3%と、約9割の企業がOJTを実施していることがわかります。
1-1|OJTによる教育訓練のやり方
OJTは実際の業務を通じておこなわれ、上司や先輩がOJTトレーナーとなって部下(トレーニー)の教育をおこないます。
OJTの基本的なステップは、以下の通りです。
- トレーナーが実際の業務をやってみせる(お手本を見せる)
- トレーニーが業務を実際にやってみる
- トレーナーがトレーニーにフィードバックする
トレーナーは、後でフィードバックするためにも、できるだけトレーニーの様子を観察しておくことが大事になります。
また、業務の説明をする際には、手本だけでは伝わらないコツを補足するなど役立つ情報を伝えることも大事になります。
また、実施にあたっては、トレーナーとトレーニー両方の特性を知る人事部門が関与することが望ましいです。
人事部門はトレーナーにトレーニーの特性を知らせ、効果的な教え方の検討を一緒におこないましょう。
トレーナーによって教え方が違うのは当たり前ですし、トレーニーに合わせて教え方も変わってきます。
しかし、教え方が無計画になると、トレーナーとトレーニーの間でギャップが生じ、両方のモチベーション低下につながります。
1-2|OFFJT(Off-the-Job Training)との違い
OJTと対称的な言葉が、「OFFJT(Off-the-Job Training)」です。
OJTが「実際に業務をやってみる」ことを通じて学んでいくアウトプット型教育であるのに対して、OFFJTは教科書やマニュアルなどを用いたインプット型の教育です。
職場を離れて実施される集合教育やセミナーなどの座学を中心に、従業員が知識を体系的に学ぶことができます。
2|OJTを実施するメリット
OJTを実施する主なメリットは、次の4点となります。
2-1|即戦力を育てることができる
OJTは実務を通じて教育をおこないますので、即戦力となる人材を育てることができます。
実務をおこなうことで、マニュアルにある形式知の知識だけでなく、ノウハウなどの経験や暗黙知も習得できます。
実際の業務はチームで連携したり、他部門と調整したりすることも多くあるため、そういった経験も積むことができるOJTは、早期的な人材育成につながります。
2-2|社員1人ひとりに合わせた育成がおこなえる
従業員(トレーニー)には担当となる専任のトレーナーが付くため、トレーニーはいつでもトレーナーに質問することができます。
育成計画も、そのトレーニーに合わせたものを作成することができるため、社員1人ひとりに合わせてカスタマイズした教育が可能です。
2-3|トレーナーの成長につながる
部下や後輩の成長に関わることで、トレーナーである上司自身の成長にもつながります。
トレーニーの特性を見極め、その人にあった教え方を考えることは、効果的な部下のマネジメントをおこなう第一歩となります。
2-4|研修コストを削減できる
OJTは上司や先輩が実施することになるため、特別に外部講師を雇ったり、会場を準備したりするコストがかかりません。
研修コストを削減できるため、経営への負担は比較的少ないでしょう。
3|OJTを導入する流れ
それでは、実際にOJTを実施するポイントを押さえながら、OJTを導入する流れについての理解を深めていきましょう。
3-1|OJT計画を作成する
まずは、OJT計画を作成します。
作成する際には、以下の5W1Hを意識するようにしましょう。
what | 項目の洗い出し |
トレーニーに将来担当してもらう業務です。対象となるトレーニーの能力に応じて、無理のない与え方を検討します。 |
when | スケジューリング |
年末調整のような年に1回しかチャンスがない業務もありますから、業務の発生時を考慮して作成します。OJTは、短期と長期の計画がありますので、第1クールが終わったあと、しばらくして第2クールを開始できます。 |
where | 場所の確保 |
実際の業務がおこなわれる場所と機会を事前に押さえておくことが必要です。特に職場の座席では、トレーナーとのコミュニケーションを取りやすい席を用意すると良いでしょう。 |
who | トレーナーの選定 |
どの業務を誰が教えるのかを検討します。業務によって指導者が変わる場合は、その業務の担当者の協力を得て、全部または部分的に教育に参加してもらうようにします。 |
why | 目的 |
トレーニーへの説明時とOJTの効果の検証時に必要です。業務をどの程度できるようにするのかを事前に計画しておきましょう。 |
how | 教育方法 |
さらに、実際のシステムやデータを使うのか、テスト環境や模擬データを用意するのかなど、実際にどうやって教えるのかを明記しておきます。 |
OJTを実施するための計画書がなければ、従業員が同じ業務をいつまでも繰り返してしまい、なかなか発生しない業務のトレーニングが抜け落ちることもあるでしょう。
OJTを実施する上では、これから担当する業務を一通り習得する必要があるため、漏れが無いようなOJT計画書を作成するようにしてください。
また、この計画書はトレーナーや人事部門にとって、トレーニーの進捗確認に役立ちます。
3-2|トレーナーの選定と教育
トレーナーの選定
しっかりした計画書を作っても、実際におこなうのはトレーナーです。トレーナーによってOJTの成否を決定するといっても過言ではありません。
“仕事ができる”ことと”教える”というスキルは別のものです。しかし、ベテランで仕事ができる人は、改めてコーチングなどの研修を受けることに抵抗を持つことがあります。
人事部門は、トレーナーの対象者に自身の成長の機会であることを説明し、トレーナー研修への参加を促します。
トレーナーに向いている人は次の3つの特徴をもっています。
- 面倒見が良く、他人の成長を一緒に喜ぶ人物
- 失敗を責めずに、次にどうすればいいかを考えさせる人物
- 言葉を大切にして、どうすればトレーニーに伝わるかを考える人物
人は努力すれば成長するという成長マインドセットと、人は生まれ持った能力があり変わらないという固定マインドセットがあります。成長マインドセットをもった人がトレーナーに向いています。
トレーナー教育
トレーナー教育は、トレーナー自身の成長につながります。教えるということはマネジメントの第一歩になります。
トレーナー教育では、次の3つのスキルを身につけます。
- PDCAサイクル
- コミュニケーションスキル
- ティーチングとコーチングスキル
トレーナー教育を受けた若手社員は、PDCAサイクルを通じて目的意識を学びます。伝えたい事や相手の言いたい事、叱り方を学びます。
さらに、ティーチングとコーチングを使い分けることで、相手にとって何が問題かを考えるスキルです。
OJTの機会を既存社員の育成の機会として積極的に若手を登用しましょう。
3-3|評価方法を検討する
OJTを実施した後、うまくいったのかどうかを評価する方法を決めておきます。
OJTの目的はトレーニーの早期育成です。それがうまくいっていないのに実戦に就かせることは本人と職場に良くありません。
OJT計画書は、来年のトレーニーにもひな形として使用できます。その際にも、改善点を洗い出して次に備えることが重要です。
OJTの評価とは、”何を”、”どこまで”できるようになったかを検証することです。これは、OJTの目的にもつながりますので、計画書作成時にしっかりと検討しておきましょう。
3-4|オリエンテーションをおこなう
実習に入るトレーニーに事前にオリエンテーションをおこないます。
トレーニーは新しい職場や仕事を前にして緊張しています。まずは、トレーナーとトレーニーの信頼の構築から始めましょう。
OJT計画書に基づいて、これからの予定や、トレーナーとのコミュニケーション方法などを話し合います。
また、いつもそばにトレーナーがいるとは限りません。職場のほかの先輩の支援も欠かせません。職場の方へのオリエンテーションも必要です。
3-5|実際に運用しながら進捗を確認する
トレーナーは、定期的に進捗の確認をおこない人事部門に報告をします。
進捗の確認とは、”〇”や”×△”を付けることではありません。もともとのOJT計画書にそって、現状を把握し、これからどうしていくかを考える機会です。
OJT計画書は進捗度合いによって修正していくことがポイントです。
トレーニーの習得が著しく早く、早期に目標を達成する場合もあります。その場合は、新たな目標を設定するなどします。
また、組織貢献や成長実感をしっかりと湧かせることも、トレーナーの重要な役割です。
ある程度、仕事に慣れてくると今度は「自分は今の仕事をしていて成長しているのか?」とトレーニーが不安に感じることもあります。
そういった感情を払拭してあげるためにも、細かなフィードバックや新たな挑戦の機会を与えていきましょう。
4|OJTを成功させるコツ
4-1|メンター制度でトレーナーの負担を軽減する
OJTが失敗する要因は、トレーナーが多忙でOJTが計画通りに進まないことです。
トレーナー自身も自分の仕事を抱えながらのOJTは簡単ではないのです。
トレーナーの負担を軽減するためにメンター制度が有効です。
メンター制度とは、年齢の近い先輩社員がメンター(英語 Mentor)となり、トレーニーのサポートをする制度です。Mentorは”助言”や”指導”という意味です。
主に会社での生活や仕事の悩みなどをサポートします。通常は、トレーナーがこの役目も兼務することがありますが、負担を軽減するために、OJT制度とメンター制度の併用が有効です。
人事部門の関わりも重要です。計画通りに実施できているか、さらにトレーナーの負担はどうか、トレーニーのモチベーションなどをチェックします。
あまり介入しすぎず、といって現場だけに任せず、適度の距離とタイミングで関わります。
4-2|OJTとOFF-JTを組み合わせる
OJTは上司や先輩社員やトレーナーが実際の実務を通じてトレーニーを育成します。
しかし、ここで問題となるのが、トレーナーとトレーニーとのレベルの差です。
たとえば、人事部門でのOJTの場合、先輩は特に意識もせず”お子さんを扶養から外す”といい、その方法を教えようとします。
しかし、トレーニーには、”扶養”も”外す”も意味が分かりません。そういって、先輩がひとつひとつ丁寧に言葉の解説までしていては、OJTが進まない場合があります。
このように、OJTには上司と部下との最低限の”共通言語”が必要になります。
このような場合を回避するために、OJTを実施する前に、OFF-JTや自己啓発での知識のインプットも有効です。
効果的にOJTを実施する前に、必要な基礎知識を補完する教育も導入しましょう。
5-3|明確な目標を立てる(18文字)
OJTをスムーズに進めるためには明確な目標を立てることが大切です。目標設定の際には、SMARTの法則を活用しましょう。
SMARTの法則は、S(Specific:具体的)、M(Measurable:計測可能)、A(Achievable:達成可能)、R(Realistic:現実的)、T(Timely:期限が明確)の頭文字から構成されます。
OJTで無理な目標やあいまいな目標を立ててしまうと、トレーニーは何を目指せばいいのかを把握できず、迷走が起こりやすくなります。達成目標を明示すれば、目標に向けてどう働くべきかを把握しやすくなり、高いモチベーションを維持することも可能となります。
段階的な目標を立て、細かいフォローを行いながら目標達成を目指しましょう。
5-4|トレーナーのスキルを担保する(20文字)
OJTのトレーナーを選定する際には、十分なスキルを有しているかを確認しましょう。
OJTに求められるスキルはティーチングやコーチング、コミュニケーション力など数多くあります。とくに、双方向で対話をしながら課題を解決していくコーチングや、手本を見せた上で実務を行わせ指導するティーチングの能力は欠かせません。
また、OJTの中で繰り返し行われるフィードバックにもスキルが必要です。うまくいった部分を褒め、うまくいかなかった部分の振り返りを行い的確に指導することがOJTの成功につながっていきます。
これらのスキルを担保しているトレーナーであれば、安心してOJTを任せられます。
5|外国人社員へのOJTのポイント
外国人労働者の採用が増える中、ここでもOJTは有効な教育訓練となります。
OJTの方法は、基本的には日本人に対するものと差はありません。しかし、その準備段階で差があります。
5-1|言語の壁を超える
日本人トレーニーにおいても、基本的な用語などの共通言語は、事前にOFF-JTや自己啓発で準備します。
さらに外国人のトレーニーは言語の壁がありますから十分に時間をとって準備することが必要です。
トレーナーの負担を軽減するためにも、必要な用語を教科書などに起こし、十分に習得させてからOJTに入りましょう。
5-2|価値観の壁を超える
外国人は育った環境や文化が違うため、仕事に対する価値観も違います。それを事前に把握し、トレーナーが理解した上でOJTを実施します。
たとえば時間外作業に対する考え方や、直接関係のない仕事への取組みなどは、しっかりと説明が必要です。ここでも人事部門の役割が重要です。
5-3|会社生活の環境の整備
社内でのルールや、挨拶やマナーなどは事前にOFF-JTで教育を実施します。
外国人のOJTでは、特にメンター制度の導入を検討しましょう。外国人社員は、日本の生活に慣れるとことからスタートします。まず、生活の安定があっての仕事です。
日頃の買い物や病気になった場合、ほかの日本人社員とのコミュニケーションなど、さまざま壁に直面しています。
このことまでもがトレーナーが抱えてしまっては、OJTどことか本人の業務にも影響がでてしまいます。
生活支援のメンターと、業務を教えるトレーナーとの役割をしっかりと分けて実施することをお勧めします。
この場合でも、人事部門の役割は重要です。外国人のトレーニーをOJTに配属する前に、生活環境の整備や、業務に必要な共通知識をインプットし現地に配属します。
6|まとめ
職場で実務を通じて必要な業務やスキルを身につけるOJTはトレーニーの早期育成に必要な教育制度です。ただし、放置とならないように、OJT計画書の作成やトレーナーの育成などの準備が必要です。
離職を防止し早期のトレーニーの戦力化をはかるために、人事部門と現場とが協働しOJTを成功させましょう。