働く場所が離れても心が離れないテレワークの真髄#4|従業員の立場から取り組むべきこと |HR NOTE

働く場所が離れても心が離れないテレワークの真髄#4|従業員の立場から取り組むべきこと |HR NOTE

働く場所が離れても心が離れないテレワークの真髄#4|従業員の立場から取り組むべきこと

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※本記事は、グロービス経営大学院の「グロービス・ライブラリー」より、語句などを一部修正したものを転載しております。

「長期間にわたるテレワークは、ヒトの心やパフォーマンスにどのような影響をもたらしているのだろうか?」という疑問をきっかけとしてスタートしたこの連載では、「従業員一人ひとりが価値を最大限に発揮し、企業の持続的成長に貢献できるテレワークとは何か」を考えます。

最終回となる今回は、アンケート及びインタビューにおいて「個人」が長期テレワークに向き合う際の悩みとして、数多くの声があがったテーマである「セルフマネジメント」について取り上げます。(前回はこちら

※本連載はグロービス経営大学院に在籍した3名(中山、林、栗原)が、舞田講師の指導の下、研究プロジェクトとして取り組んだ成果をまとめ、この研究結果を広く世の中に還元することを目的としています。

舞田 竜宣 | グロービス経営大学院 教員

東京大学経済学部卒業(学位:経済学士) 世界最大級の組織人事コンサルタント、ヒューイット・アソシエイツの日本代表(社長)を経て、2008年にHRビジネスパートナー社を創業し現在に至る。著書は、「MBB:「思い」のマネジメント実践ハンドブック」(東洋経済新報社)、「行動分析学で社員のやる気を引き出す技術」(日本経済新聞出版社)、「行動分析学マネジメント」(同)、「社員が惚れる会社のつくり方」(日本実業出版社)、「10年後の人事」(日本経団連出版)、「18歳から読む就『勝』本」(C&R研究所)、「24時間の使い方で人生が決まる」(ファーストプレス)、「A&R優秀人材の囲い込み戦略」(東洋経済新報社)、「技術開発部門を活性化させ、創造力を高める『技術人材の開発とマネジメント』」(企業研究会)など多数。

舞田講師 研究プロジェクトメンバー(2021年卒)

中山 智弘
グロービス経営大学院2021年卒業(東京校セクションF所属)。重工業メーカーに新卒で入社し、主に人事・労政部門の業務に従事。現在はグループ会社の人事・総務マネージャーを務める。

林 亨
グロービス経営大学院2021年卒業(東京校セクションF所属)。半導体製造装置メーカーのIT部門に所属。

栗原 章二
グロービス経営大学院2021年卒業(東京校セクションF所属)。BtoBソフトウェアの商社に新卒で入社。データベースエンジニア、人事、カスタマーサクセスを経て、現在はプロダクトマーケティングに従事。

1.長期テレワークでセルフマネジメントの難易度があがった

長期テレワークによるストレス面に関わる影響には、「通勤が減った」「突然周囲の人から話しかけられることがない」等があります。その結果、ほとんどの個人がポジティブな状況にあることがアンケート結果からもわかりました。

一方、自宅で仕事を行うことによるネガティブな影響の1つがセルフマネジメントです。

セルフマネジメントとは、「目標達成や自己実現のために、自分自身を律し管理すること」です。この自分自身を律し管理する上では、オフィスワークとは違い、他人から自分が見えづらいからこそセルフマネジメントの難易度があがってくるのではないでしょうか。

我々の行ったアンケートでも「組織の規律を守る難易度」がどう変化したかという点を調査しました。すると、下記のグラフの通り、難易度が高くなった:46.2%、難易度が低くなった:7.7%、変化なし:46.2% となっています。

そこで「難易度が高くなった」と回答された方を中心に追加でインタビューを実施し、どのような問題が発生しているのかを特定しました。

2.セルフマネジメントの障壁

セルフマネジメントにおいて発生している問題は、「気持ちの切り替え」と「集中力が続かない環境」の2つに分けられます。

1.仕事とプライベートの時間や気持ちの切り替えがうまくいかない

オフィスワークと違い、テレワークでは多くの場合、働く場所と生活する場所が同じ空間となります。すると、『プライベートから仕事へ気持ちが切り替わらない』という悩みを抱えている方が多くいました。

  • 「仕事の時間にプライベートの用事を片付けてしまう。誰も自分のことを見ていないので、午前中サボっても夜に仕事すれば良いと思うようになった」
  • 「通勤時に電車で音楽を聞き、プライベートから仕事モードへ気持ちを切り替えるルーティンを行っていた。しかし、通勤という行為がなくなったので、ルーティンを行うきっかけがなくなってしまった。自宅で同様のことを行えばいいのだが、なかなか実施する気持ちにならない」

2.集中力が続かない環境

セルフマネジメントが難しい背景にある問題の2点目は、集中力が続かない環境です。

アンケートで「仕事への集中力の変化」について質問をした結果は、下記のグラフの通り、集中し易くなった:38.2%、集中しにくくなった:35.7%、変化なし:26.1% となっています。

自宅では、同僚や上司から気軽に声をかけられるような状況が発生しないため、集中し易いという声があります。一方で、それらとはまた別の、自宅特有の集中力が続かない問題がありました。

  • 家族からの横やりで仕事に集中できない。
    「配偶者からプライベートの話や用事で話しかけられる。子供が保育園や学校から帰ってきて話しかけられる。家族との時間が増えたのは嬉しいが、仕事の集中を阻害される点では困っている」
  •  自宅というプライベート空間で仕事をすることに違和感がある
    「学生時代に家では、色々な誘惑があり勉強に集中できないタイプだった。そのためテレワークを始めるまでは、仕事のスタンスとして、自宅では仕事をしないと決めていた。テレワークの制度が始まって、急に自宅で仕事しなさいと言われても難しい」

3.テレワークでセルフマネジメント力を高めるための解決策

ではテレワークで「集中し易くなった」「仕事と休憩のバランスを取り易くなった」と回答された方は、どのようなことを行っているのでしょうか。インタビュー結果よりまとめました。

ルーティン作り

気持ちの切り替えが難しいという問題の解決策として多くの方が行っていたことは、「ルーティン作り」です。インタビューでは以下のような声が聞かれました。

  • 通勤の代わりに、毎日仕事をする前に散歩をする。散歩が、通勤という行為の代わりになり、「よし、仕事をするぞ」と気持ちを切り替えるスイッチとなっている
  • 仕事を始める前には、必ず仕事モードに切り替えるために、毎日決まった音楽を聞く

これまで何気なく行ってきた『毎日、同じ時間に起きて、朝ごはんを食べて、通勤する』というルーティン作りは、気持ちの切り替えだけでなく、モチベーション維持にも重要であるようです。

仕組みや環境面での解決

集中力が続かない環境という問題に対しては、前項であげたルーティン作りという自分に閉じた解決策ではなく、周囲との関係性という観点での解決策も必要です。

この問題の具体的な解決策とインタビューで得られた声も合わせてまとめると、以下のようになります。

  • 家の中で仕事をする部屋(場所)を決める。
    「家族には、その部屋にいるときには緊急の用事以外では、話しかけないようにお願いをしています」
  • 家以外で仕事をする。
    「近所にあるサテライトオフィス(時間貸しなど定額でオフィスと同様の設備を用意しているサービス)を借りています。近所にあり軽い散歩代わりにもなるため、気持ちの切り替えもでき一石二鳥かなと思っています」
  • 20時以降は、メールやチャットの発言を禁止するという独自のチームルールを作る。
    「会社全体ではなく、課やチーム単位で仕事内容に応じてローカルルールを作り、同僚と一緒に集中力を高める取り組みを行っています」
  • これらの事例から、仕事とプライベートを意識的に分けられる環境を作り、より仕事に集中できるようにしていくことが、効果的だということが見て取れます。

4.個人としての働き方のアップデート

上記のアンケート結果から、今回テーマとした個人の観点からテレワークに上手く対応するためには、「仕事とプライベートを意識的に分けられる環境を作り、より仕事に集中できるようにしていくこと」、「日々のルーティン作りで気持ちの切り替えとモチベーション維持を図ることが重要」ということがわかってきました。

そして、うまく順応している人の共通点は、自分に対する変化が何であるかを考え、変化を柔軟に受け止めていることです。

個人という観点で考えた際には「心技体」の「技」であるテレワークを支えるITツールを整えることも大事ではあります。

しかし世の中の変化に合わせるためには、心(モチベーション・集中力)と体(働く環境)を、覚悟を決めてアップデートしていくことも必要なのかもしれません。

5.長期テレワークに対する提言についての総括

これまで全4回を通じて、長期テレワークにおけるヒトの心のマネジメントについて経営者、マネジャー(ミドルマネジャー)、個人と各々の立場で発生している問題と解決策についてまとめてきました。

数多くのアンケートやインタビューを通じて、本稿の執筆者である研究プロジェクトのメンバーで出した結論は、「テレワークが当たり前の働き方になる上では、経営者、マネジャー、そして個人も、これまでの常識に囚われることなく、考え方や働き方を変えなければならない」ということになります。

それぞれの立場に落とし込むと、経営者は『テレワークの推進に向けた積極的な方針の提示と自らの言葉による情報発信』、マネジャーは『部下を信頼することを前提とした上で、コミュニケーション機会を意識的に作るようにマネジメントスタイルを変化させていく事』、そして個人は『周囲とも協力しながら自分が集中出来る環境の構築』が重要です。

長期テレワークがうまくいっている組織・人達の共通項として挙げられるポイントは、「変化した事実と向き合い、問題をごまかすのではなく解決する覚悟」と言えそうです。これはテレワークについては勿論のこと、経営全般に当たっていく上でも不可欠な内容と言えるものです。

本稿では、改めてテレワークで何が変わったのか?を明らかにし、その解決策を我々なりに提言してきましたが、この内容が経営者、マネジャーそして個人がそれぞれの立場でテレワークを行う際の解決策を考えていく上での材料になれば、幸いです。

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