1on1の進化──“上司と部下”を超えて広がる対話のかたち 目的・関係性・活用の再設計が、組織と個人をつなぎ直す|KAKEAI皆川 |HR NOTE

1on1の進化──“上司と部下”を超えて広がる対話のかたち 目的・関係性・活用の再設計が、組織と個人をつなぎ直す|KAKEAI皆川 |HR NOTE

1on1の進化──“上司と部下”を超えて広がる対話のかたち 目的・関係性・活用の再設計が、組織と個人をつなぎ直す|KAKEAI皆川

  • 組織
  • エンゲージメント

※本記事は、株式会社KAKEAIの皆川恵美様より寄稿いただいたものになります。

コロナ禍によって対面の機会が減り、組織の“つながり”が見えにくくなった時期、多くの企業が、対話の機会を補う手段として1on1を導入しました。私たちKAKEAIも、500社・150万回以上の1on1支援を通じて、この変化を間近に見てきました。

当初は「とにかく話すこと」が目的だった1on1。しかし今、「どのような対話を、なぜ行うのか」を問い直すフェーズに移行しています。

実際、多くの企業が「目的の再定義」をテーマに挙げており、形式を整えたその先にある“本質的な価値”を模索し始めているのです。

エンゲージメント、パフォーマンスマネジメント、組織文化の醸成。目指す状態と現状のギャップを埋める手段として、1on1を“仕組み”として再設計する動きが加速しています。

本稿では、1on1が「目的」「関係性」「活用」の3つの観点でどのように進化しているのかを整理し、実務と文化のあいだにある“対話の可能性”をひもときます。

執筆者皆川 恵美株式会社KAKEAI 代表取締役社長

東京大学卒業後、2002年株式会社リクルート入社。リクナビ・じゃらんの商品企画を担当。その後、株式会社セルム、PMIコンサルティング株式会社にて管理職育成・組織開発コンサルティングに携わった後、同領域にて独立。2010年から株式会社ミナイー代表取締役として、内閣官房主導での中央官庁の働き方改革プロジェクト、大手企業の人事制度構築や、ミドルマネジメント強化プロジェクトなどに従事。2018年、株式会社KAKEAIを共同創業。

目的の進化|正解のない時代を動くために、“何のために話すか”を再定義する

かつてのマネジメントは、「正解を持つ上司が部下に伝える」という構図でした。しかし、変化のスピードが増し、予測がつかない状況が常態化する中で、上司と部下は”共に考え、共に進む”関係性へと変化しています。この前提の変化は、1on1の目的そのものに影響を及ぼしています。

私たちKAKEAIが支援してきた企業の現場で見えてきた変化を、具体的にお伝えします。

コンディション把握 → 主体的な行動の引き出し

製造業のA社では、当初はメンバーのコンディション把握や精神的なケアを目的として1on1を活用していました。ただ、対話を継続するなかで「安心感を与えるだけで終わらせて良いのだろうか」という問いが生まれ、1on1の目的を“行動の主体性を引き出す場”へと再定義する動きが始まりました。

現在では、本人の価値観や内発的動機に寄せたテーマ設定を重視し、「どうしたいと思っているか」「それを実現するには何から始めるか」といった内省を促す問いかけを通じて、行動の後押しを図っています。こうしたアプローチにより、メンバーの視点や行動に前向きな変化が生まれ、結果としてチーム全体の推進力も高まっているといいます。

業務支援 → 意志決定の質の向上と成長支援へ

IT業界のB社では、当初は業務進捗や課題の整理を目的として1on1を運用していましたが、対話の形骸化を防ぐため、1on1の位置づけを“意志決定と成長の支援”へと再定義しました。

その中で特に重視したのが、「どう考えたか」「なぜそう判断したのか」を部下自身の言葉で掘り下げる時間です。上司は“問いかけ役”として部下の思考に伴走し、現場の判断力と自律性の底上げを図っています。

実際に、部下からは「自分の考えを整理する習慣がついた」「迷った時に立ち返る判断軸ができた」といった声が上がるなど、日々の対話が意思決定の質や成長促進に着実につながっていることが窺えます。

エンゲージメント向上 → キャリアの自律支援

IT業界のC社では、当初はエンゲージメント向上を主な目的として1on1を導入し、まずはメンバーの声に耳を傾けることに重点を置いていました。しかしここ2年ほどで、キャリア自律の支援を軸に据え、1on1の目的や内容を見直しています。

「会社の中でどう成長したいか」という視点から一歩踏み込み、「どのような価値を社会に提供していきたいか」といった中長期的なキャリアビジョンを、対話の中で共に描く設計へとシフト。上司も、単に話を聞くだけでなく、メンバーが自らのキャリアを主体的に捉え、選択・行動できるよう、積極的に後押しするようになりました。

この変化により、1on1は“傾聴の場”から“キャリア形成を後押しする場”へと進化し、結果として優秀な人材の定着率向上にもつながっています。

個別の対話による育成支援 → 組織としての育成支援へ

商社のD社では、これまで1on1を個人の育成支援の場として活用してきましたが、現在ではその対話を組織的な育成支援の仕組みへと発展させています。個々の1on1で見えてきたスキルや経験、志向性といった情報は、直属の上司だけでなく、部門全体の管理職で共有され、場合によっては人事部門とも連携される仕組みが整いつつあります。

たとえば、「あなたの強みをどのプロジェクトで活かせるか」「この経験をどう次の成長につなげていくか」といった具体的な接続点を1on1の中で見出し、それをもとに育成の方向性を部門全体で検討するような取り組みが進んでいます。

個別の対話を起点に、育成を“組織ぐるみ”で支えるしくみが導入され始めており、メンバーの貢献機会の拡大と、組織成果への接続が着実に進んでいます。

関係性の進化|“上司と部下”だけではない関係性が生む、多様な学びと支援

1on1はもともと、直属の上司と部下の間で行われる“縦の関係”を前提とした仕組みとして広がってきました。しかし、組織の構造や働き方、個人のキャリア観が多様化するなかで、上司1人がすべての対話ニーズを担うことは難しくなっています。

実際に、多くの企業で「上司と部下だけで完結しない対話設計」への関心が高まっています。そこで注目されているのが、縦・横・斜めといった多様な関係性を活かした1on1の設計です。

ここでの分類は以下の通りです:

1on1設計の分類
  • 縦の関係性:直属の上司や、上司の上司といった階層的な関係による対話
  • 横の関係性:同じ役職・年次の同僚や同期同士によるフラットな対話
  • 斜めの関係性:他部門や異なるラインに所属する先輩社員やメンターなど、直接的な上下関係や評価関係のない相手との対話

このような多様な関係性を通じて、1on1は「育成の場」から「信頼をベースにした学び合いのネットワーク」へと進化を遂げつつあります。

縦の関係性の拡張:中長期視点を持つ上位者との対話

ある製造業E社では、メンバーが「上司の上司」や役員といった視座の異なる上位者と1on1を行う機会を意図的に設計しています。 これは、短期的な業務指導とは異なり、メンバーの中長期的なキャリア支援や組織理解の促進を目的とした対話の場として機能しています。

実際、こうした1on1では、直属の上司では見えにくい組織全体の戦略や構造について語られることも多く、将来のリーダー候補となる中堅層にとって、視野を広げるきっかけとなっています。そうした効果を受けて、上位者との1on1は、個人の成長と組織の将来像をつなぐ対話として価値が評価されつつあります。

横・斜めの関係性の活用:力関係を超えた多様な学びの場

金融系F社では、課長層や先輩社員、他部門のメンターなど、“力関係のない相手”との1on1も活用されています。とくに異なる部門や職種をまたぐ対話では、自分のキャリアを客観的に見つめ直す機会や、視点の転換が起きやすくなります。

「営業から人事に異動した先輩との対話で、キャリアの可能性が広がった」といった声も聞かれるなど、部署を超えた対話が、キャリア自律の支援にもつながっていることが窺えます。

背景にある構造的な課題

こうした“関係性の進化”の背景には、現場の実態に基づく次のような構造的課題があります。そして今、それらにどう応えていくかが、1on1のあり方を再設計する出発点になっています。

管理職への過度な負荷集中

全メンバー分の1on1を管理職1人が担う体制では、物理的にも心理的にも余裕がなくなり、対話の質が維持しづらくなっていきます。今後は、多様な対話の組み合わせによって1on1の機能を分散し、担い手を増やしていく設計が求められます。

キャリア観・価値観の多様化

個人の志向や成長の描き方が多様化するなかで、すべての部下に同じスタイルで向き合うのは限界があります。だからこそ、複数の関係性の中で異なる視点やフィードバックに触れられる“開かれた支援環境”が必要とされています。

「直属の上司には言えない声」の存在

評価や上下関係を気にして、本音を伝えることに躊躇がある──これは多くの現場で聞かれる声です。これからの対話は、上下関係を超えた“安心して話せる関係性”を組織の中にどう織り込むかが鍵になっていきます。

 

1on1は単なる「個と上司の会話」ではなく、“個が信頼を感じられる関係性をどう設計するか”という組織課題そのものへと広がりつつあります。信頼を基盤とした多様なつながりの中で、学び、気づき、支え合える関係性をどう組織としてデザインするか。この視点こそが、1on1設計の次のステージで求められています。1on1は今、“個を起点とした信頼ネットワーク”として再構築されるフェーズに入っているのです。

活用の進化|点ではなく”しくみ”へ。1on1が変えるマネジメントと風土

以前は、1on1のKPIとして「実施率」や「実施回数」がよく語られていました。しかし、制度として整ってきた今、問われているのは「この対話が、組織の中で何とつながっているか」です。

様々な施策との連動による価値創出

Kakeaiで支援してきた企業では、1on1の対話内容を組織の様々な仕組みと連動させる取り組みが進んでいます。

たとえば、ある通信系G社では、1on1で話された内容を目標設定・振り返り・評価面談と連動させる設計に再構築しました。これにより、対話が”結果評価”ではなく”成長支援”として組み込まれるようになり、評価面談がより納得感のあるものになったといいます。継続的な対話の中で蓄積された情報により、より精度の高い目標設定と公正な評価が可能になっています。

また、サーベイのスコアや定量的なエンゲージメント指標と、1on1で出た定性的な気づきを照合し、「なぜそのスコアになったのか」をチームで読み解く試みも増えています。テクノロジー企業H社では、エンゲージメント調査やパルスサーベイの結果と1on1の対話内容を組み合わせることで、数値では見えない背景や具体的な改善点を明らかにしています。ここでは、1on1は単なる個の問題を話し合う場ではなく、「組織の状態を把握し、現場から改善の一手を打つための手段」として機能しています。

加えて、H社では1on1で把握した個人の強みや興味、キャリア志向を人材配置や育成計画の策定に活用しています。組織のニーズと個人の希望を効果的にマッチングさせることで、双方にとって価値のある人材活用が実現しています。

つまり、1on1はもはや”回数”だけで語るものではなく、「どのような変化を生んだか」「何と接続されているか」で価値が決まるものへと進化しています。

おわりに|“問いをもって話す”時代へ

1on1という言葉が組織に定着して久しくなりました。実施率やテンプレートの整備といった“制度としての1on1”は、すでに多くの企業で確立されつつあります。

けれども今、あらためて見直されているのは、「この対話を通じて、何を実現したいのか?」という問いです。目標設定、評価、育成、キャリア支援、エンゲージメント、組織文化の醸成──。1on1は、あらゆる組織課題と接続しうる変革の起点として、再設計されるフェーズに入っています。

私たちKAKEAIは、500社・150万回以上の1on1を支援するなかで、こんな変化を実感しています。それは、形式に頼るのではなく、問いをもって設計された1on1は、組織に確かな変化をもたらすということ。

  • なぜこの対話が必要なのか?
  • 誰と話せば、どんな気づきや行動が生まれるのか?
  • その対話は、組織のどんな動きと結びついているのか?

こうした問いに向き合いながら1on1を設計することが、マネジメントの質を高め、組織の変化を支える基盤となるのです。

1on1は、事業変革の推進、管理職の役割転換、若手の離職防止、多様なキャリア観への対応といった、今まさに多くの企業が直面している課題に対しても、等身大変化を生み出す“しくみ”として機能します。そうした変化は、現場で交わされる一つひとつの問いと答えの積み重ねから始まります。

変化の時代に、組織と個人が“信頼と学び”でつながるために。 1on1の進化は、制度や形式の話ではなく、一人ひとりの問いかけから始まるのだと、考えています。

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