出向という言葉を一度は耳にしたことがある方は多いと思います。しかし、その細かな内容や、「派遣・左遷」といった制度との違いはあまり理解できていないという方も多いのではないでしょうか。
本記事では、出向について、そもそもどういった制度なのかということから、従業員に出向命令を出す際におこなう手続きについて、および注意が必要なことなどについて解説します。
取り組みに向けたファーストステップを事例中心に解説!
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1. 出向とは
出向とは、出向元企業のグループ会社や子会社などといった、関連する別の企業に異動することを指し、その実施目的は企業によって様々です。
また、出向には「在籍出向」と「転籍出向」とがあり、それぞれによって意味が異なります。
以下でそれぞれについて詳しく解説していきます。
2. 在籍出向と転籍出向の違い
ここでは先ほど紹介した、在籍出向と転籍出向との違いと特徴を解説します。
2-1. 在籍出向
一般的に出向としてイメージが付いているのは、こちらになるかもしれません。
在籍出向とは、出向元に籍を置いた状態で、出向先とも雇用契約を結ぶことです。
この出向では、出向先で一定の期間働いた後、出向元企業へ復帰すること(帰任)が前提となっています。
2-2. 転籍出向
在籍出向に対して、転籍出向とは、出向元との雇用契約を解消し、新たに出向先と雇用契約を結ぶことです。
出向元の企業から籍を外した状態で出向先と雇用契約を結ぶことになるため、出向元への復帰が前提となっていないという点が異なり、実質的に転職のような形態になります。
3. 派遣・左遷との違い
出向と似た言葉として「派遣・左遷」などが挙げられます。では、これらの言葉と出向とはどのような違いがあるのでしょうか。
3-1. 派遣とは
派遣は、派遣会社(派遣元)から紹介された企業(派遣先)にて労働を行うという点において出向と似ています。しかし、雇用契約は労働者と派遣会社との間で結ぶことになるため、この場合における雇用主は派遣会社のみとなります。
一方で出向の場合には、出向元及び出向先の企業の両方と雇用関係を持つことになることになり、この点において派遣と異なります。

3-2. 左遷とは
左遷とは一般的に、地位の降格を伴う人事異動や、本社から地方の支社への異動といったことを指す際に使用されます。
出向は左遷に近いような意味として捉えることができそうですが、出向の目的の中には前向きなものもあり、地位の降格を伴わないこともあるため、この2つは異なるものであるといえます。
4. 出向の目的
ではなぜ企業は出向制度を導入しているのでしょうか。目的としては以下の3つが考えられます。
4-1. 雇用の調整
目的の1つ目として挙げられるのは、雇用の調整です。
何かしらの理由によって自社での雇用の維持が難しくなった場合に、社員の生活を守るために雇用を維持したり、企業が支払うコストを減らすための方法として出向をおこなうことが考えられます。
4-2. 人材の育成
出向を社員の能力開発などといったキャリア形成の支援として行うこともあります。
グループ会社や子会社のほかにも、今いる企業とは異なる業界の企業へ出向させることで、新しい経験を社員に積ませることができます。
そしてこれによって社員が帰任した際、その企業にとってのプラスになるだけでなく、出向した社員にとっても将来的に大きなメリットを得ることができます。
4-3. 企業間での交流
新たな関連会社・子会社、取引先などとの関係性を築くために社員を出向させるという場合もあります。
それによって、その社員が帰任した際に、その社員が築いた人脈を活かした活動が可能になり、企業にとってプラスになります。
5. 出向社員の給与の支払いはどちらの負担になるのか
出向社員の給与の負担は出向元企業と出向先企業のどちら負担になるのでしょうか。
結論としては、どちらかが支払わなければいけないということはありません。
出向社員への給与の支払い方法としては直接支給と間接支給の2種類があり、それぞれ、
- 直接支給の場合には、出向先企業が従業員に対して給与を支給し、差額分を出向元企業が負担をする。
- 間接支給の場合には、出向元企業が従業員へ給与を支給し、出向先企業が出向元企業へ給与額を支払う
という2つのパターンに分かれています。
その他、健康保険と厚生年金保険は給与を支払う企業(直接支給の場合は出向先企業、間接支給の場合は出向元企業)が負担、雇用保険は直接給付の場合には出向先企業が、間接支給の場合もしくはそれぞれの企業から支給する場合には支払額が多い企業が、労災保険は出向先企業が負担する必要があります。
6. 在籍出向命令を出す際の注意点

ここで注意しておきたいことが、在籍出向命令を出す時です。出向命令が有効であるためには、以下の3つの要件を満たしているか注意する必要があります。
6-1. 企業に出向命令権があること
社員を出向させるためには、企業が出向命令権を持っていなければなりません。
出向命令権が認められるには、具体的に以下の2つの条件を満たしている必要があります。
6-1-1. 雇用契約書に出向命令権について記載していること
1つ目に、企業と社員とで交わす雇用契約書や就業規則などに出向命令権についての記載があり、それに社員が同意をしている場合です。
企業と社員の間で雇用契約が結ばれていると、社員は規則に従う必要があるため、出向命令に従わなければならなくなります。
6-1-2. 出向社員が不利益を被らない
また、出向した社員が出向先の労働条件などによって不利益を被る場合には、出向命令権は認められません。
6-2. 法令違反の出向命令は無効になる
出向命令が、思想信条を理由とする出向命令(労働基準法3条)または、不当労働行為(労働組合法7条)に該当する場合、その命令は無効となります。
6-3. 権利濫用にならないこと
出向命令権が権利の濫用になっていないかどうかについても注意をする必要があります。また、出向命令が権利の濫用に当てはまるかどうかは、労働契約法14条によって判断されます。(労働契約法14条は以下の通り)
使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000128
7. まとめ
いかがでしたでしょうか。
本記事では、2種類の出向についての解説から、出向に似たほかの制度との違いや出向の目的などについて解説しました。
社員の出向を検討する際には今回解説した3つの注意点に気を付けて手続きを行うようにしましょう。
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