オフィス環境と人・組織成長支援について|イトーキ二之湯 |HR NOTE

オフィス環境と人・組織成長支援について|イトーキ二之湯 |HR NOTE

オフィス環境と人・組織成長支援について|イトーキ二之湯

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本記事は、株式会社イトーキ 執行役員 中央研究所上席研究員 二之湯氏より寄稿いただいたものになります。

寄稿の機会を3回いただき今回はその最後となる。この3回を通じお伝えしたかった内容はオフィス環境を整備することが人事施策実践に貢献できること、その中でもとくに生産性・エンゲージメント・健康の向上に有効であることである。

シリーズ最後の本稿はまとめとしてオフィス環境と人・組織の成長支援に関し論じてみたい。「オフィスで毎日活動することが組織・人の成長支援につながる」このような環境づくりができればメリットが大きいと考えたからだ。

この論点を考えるにあたり

  1. オフィスでの活動とオフィス環境の関係性から成長に関与する重要な観点を明らかにし、
  2. 成長支援を行うオフィス環境を有効な論説を用いながら考察する

というプロセスを取った。

1.については活動の習慣化が成長支援になることを論じたい。

たとえば多くのオフィスワーカーはオフィスに出社した時、どのように仕事を始めるだろうか。多くのオフィスワーカーは決まった自席に座りPCを起動しスケジュールでタスクを確認し業務を始め、会議がある場合は予約が取れる人数に合わせた適切な大きさの会議室でプロジェクターの位置を確認しながら会議をはじめるかもしれない。この時、習慣化による成長支援を考慮したオフィスとでは少しばかりの差が生まれる。まずはこの差の原因を明らかにし解決する施策を考える。

2.についてはダニエルキム氏の成功循環モデル※1を手本に①関係性の質②思考の質③行動の質④結果の質、これらをグッドサイクルで循環させるスペースについて考察したい。

この成功循環モデルは組織が成果を上げ続けるために何をすべきかをモデル化したものでこのモデルの実践が成長支援につながると考えた。この実践ができるスペースの在りかたを提案したい。そして1.で論じたようにこのスペースでの活動が習慣化されることが成長を支援しつづけると考察していきたい。

【執筆者】二之湯 弘章 | 株式会社イトーキ 執行役員 中央研究所上席研究員

1990年イトーキ入社後、デザイン設計を中心に様々なオフィス・公共施設構築の業務に携わる。ワークショップ開催からプログラミング、コンセプト立案、デザイン設計、現場監理まで一貫して行うことで満足の高い施設作りを得意とする。入社当初はイトーキ中部支社にて勤務。東京勤務後は自社オフィスのSYNQA、XORKの企画・ 設計に携わる。日経ニューオフィス賞他、デザインアワード入賞多数。2023年より中央研究所所属。2024年より同社執行役員。

1. オフィスでの活動と環境の関係性から生み出される習慣化

①オフィス活動の習慣化が成長のきっかけとなる。

オフィスの役割として「生産性を最大化させ、価値を生み出す」というこたえはゆるぎないひとつであると考える。

これを達成するためには2つの側面が必要になる。ひとつは前回の寄稿ですでに書かせていただいているが、何より重要な点は目指す活動が行えるスぺースが揃っていること※2、そして今回追記したいことはそのスペースを最大に使いこなすスキルが培われていることである。

このスキルは2つからなり、業務を行う際、自分・組織(チーム)の成果を最大化する活動方法は何かを考え、その活動を行う場を適切に選択するスキルとその場所を狙いどおり使いこなすスキルである。

この習慣するスキルができているかどうかは生産性に大きくに影響する。スペースが揃っていてもこの選択・使いこなすができていないことも多い。

たとえば直近事例では複数の大型モニターが実装されたWEB会議室ですべて同じ画面が映し出されていることはないだろうか。また1面だけしか使っていないことはないだろうか。これら本来と違う利用の原因は使いかたが説明されていないことかもしれない。

この場合は利用方法を理解すればよいが、利用方法を知っているが適切に場所を選ぶことをしないケースもある。この場合は少し根が深い。何故なら、選択するには業務への理解とそこで目指すゴールが意識され、行う活動の明確なイメージができている必要がある。これがないと参加人数・時間等物理要件のみで場所を選びがちになる。

行うべき業務の意味を加え考えて選択できれば効果もはっきりとでるはずだ。そしてこの意味を考え選択する習慣化は個人・組織の成長のきっかけになるはずだ。※3

②成果を上げるに必要な場を構築し、選択すること、使いこなすことの重要性

できるなら以下をお読みいただく前に自社オフィスの構成を思い浮かべてほしい。自席があるなら自席スペースはどこに、どの規模であるだろうか。コミュニケーションを取るスペースはどれほど種類があり、設えはどうだろうか。さらに一番面積の大きくとれているスぺースはどのスペースだろうか。

オフィスが最大の成果をあげる場とすれば、その成果を最大化する活動のスペースの集合体となり重要な活動を行うスペースが面積的にも仕様的にも特徴がでるはずである。ここができていることがまず重要である。

そしてもうひとつ、オフィスがそのような集合体である場合、オフィスを俯瞰するとその企業の重視していること、文化が見えてくる。成果をあげるスペースを落とし込むことは結果だけでない側面もあり重要な観点である。皆さまのオフィスはどうだったろうか。

次の選択であるが、選択とは前述のオフィスにある各スペースをその役割を理解し、最適な場所を選択することであるが実情はハードルが高い。

通常、オフィスづくりの冒頭にコンセプトづくりが行われ目指すゴールを決め現状とのGAPを解決する方法がとられるため、前述のようなスペースの構築は実践できるケースが多い。

これには通常外部コンサルが入り調査・分析、さらにPJチーム・経営陣が加わり議論が繰り返され作成される。そのため、工数も費用も膨大になるケースが多い。しかし、実際に使うオフィスワーカーから実は理解が得られていないことが多い。※4

多くのオフィスワーカーはこのように作成されたコンセプトの理解が不十分になりがちと考える。これは啓蒙の問題もあるだろうが、リスクはオフィスが狙いどおりに使われていないことにある。

膨大な予算と時間が使われるオフィス構築においてその効果が十分に出ていないことは大きな損失になってしまう。それゆえ、選択は非常に重要な観点といえる。最後に使いこなすという点であるが各設備の使用方法の理解はもちろんであるがコンセプトの意味を理解し使いこなすことでそのスペースにおける個人の活動も変わり成果も最大化できるはずである。

コンセプトの概念的な理解ではなく、毎日のオフィスでの活動の中でコンセプトを実感することが唯一このリスクを無くすことができると思う。狙った時間であげたい成果を考え、活動をすべき部屋・スぺースを選択し、設備を使いこなし時間を最大限効果的に使う。この習慣化がオフィスコンセプトの本当の意味での理解と考える。

③習慣化を実践するには適切なルールとPDCAが必要

オフィスでは狙った活動(働き方)をオフィスワーカー全員が実践し、習慣化できることで人・組織における成果の質と量が向上し成長していく。このことは慣れ親しんだ働き方を変化させることでもあり、マインドチェンジが必要となる。変化へのハードルも高い。いくら事前に啓蒙活動をしていても実際は先に示したように理解していても実践できるとは限らない。

ならば毎日の活動を見直すことでこの達成ができると考える。オフィスづくりの完成は全員が狙った働き方を実践することであり、いわゆる環境としてのオフィスが完成した後、次のフェーズが始まる。いわば完成してからが本番である。

その時に必要なことはオフィスを使いこなす適切なルールである。この適切な意味は厳しくペナルティ等が設定されたものでなく、行うことで自身にどのようなメリットがあり組織としてどのような成果を生み出すか、が明示されているとよい。そして一旦決めたルールもその後の利用実態等でゴールは変えず運用を変えながら進化することが望ましい。そのために定期的なアンケートも必要であるし、直近では行動データの見える化からアジャスト方法を導き出すソリューションも存在する。

ゴールに向かいオフィスワーカー全員の行動が変わるようにアクションを繰り返す。このPDCAができることがオフィスワーカーの行動を変え習慣を根づかせる。この実現のためには 運営委員会が組織されることが多くメンバーはそれぞれの全部門から選出し対策を協議し改善案や表示案を作成する。その承認者を経営者が担うことでガバナンスがある適切なルールとなる。

2. 成長支援を行う活動とスペースの考察

人・組織の成長支援はそれぞれの環境でも違い、一律に考察することは困難であるが先行研究を基本に環境の関与を考察することは有効であると考える。

ここではダニエルキム氏の成功循環モデルをベースに考察したい。多くの企業に取りあげられていること、多くの考察もされていることから有用であると考えた。

成功循環モデルでは組織の結果の質を高めるためには第一に①関係性の質を高めることで組織がより能動的に活動することが、最初に取り組むべき課題とし、この達成で②思考の質③行動の質④結果の質がグッドサイクルで回るようになり、さらに関係性の質が高まり成長するというスパイラルアップのモデルとなっている

①関係性の質を高める活動とスペース

関係性の質を高める方法としてコミュニケーションマネジメントが有効である。リアルコミュニケーションはもちろんのこと、WEBコミュニケーションを絡め総合的にみる必要がある。

活動種類としてはインフォーマルグループでは -1業務に関するフランクな会話 -2業務に関係しない軽い会話、フォーマルグループでは-31on1のようなプライベートな相談-4WEBを含む共有連絡会議 -5ブレスト等のアイディアを出す会議-6突発的な予定・予約のないミーティングがあげられる。

恐らく機能的にはこの6種類に分類されるが重要な点はこの6つがオフィスにすべて展開されていることが重要になる。これらは機能や役割、何よりも得たい成果が違うからだ。スペースを適切な方法で利用し得たい成果を出すことが繰り返し可能になることで信頼関係が作られる。※5

②思考の質を高める活動とスペース

関係性の質が高まったことでチームではより積極的な意見が出るようになりチームでの思考の質は高まってくる。その意見を収束させる個人思考力も一層高まるはずである。ここではチームでの思考を収束させる活動と思考の質を高める活動とスペースが必要になる。出されたさまざまなアイディアをまとめるスペース、全員に共有するスペース(プレゼンスペース)があげられる。これらの多くは個室で行われるが実際行われている活動を第3者がみて刺激を受けることも重要になるため、オープンな場でも積極的に設置したい。

また個人で集中し熟考するスペースも必要だ。さらに見落としがちになるがパフォーマンスを下げず集中するためには個人ベースでリチャージするスペースも必要になる。※6

③行動の質を高める活動とスペース

よい関係性と思考が高い次元でまとまるとおのずと積極的な行動がでるようになる。さまざまな事象も共有されるだろう。その時の必要なスペースとしてそれぞれの専門スペースに行かずとも1日を通してチームで会話した時には自分の業務に軽く集中するマルチタスクのスペースが必要になる。会話にでたことを広げられればそこでアイディアまでブラッシュアップできるかもしれない。さまざまな有用なコミュニケーションが発生するはずだ。※7

④結果の質を高める活動とスペース

ここまでの活動で4つの活動がサイクルとして成立すれば成果は向上すると考えられるが、ダニエルキム氏によると、相互の関係を把握することが重要としている。

確かに漠然とこれらスペースが存在するだけではサイクルは回らない。まずはそれぞれのスペースがどの様な意味を持つか。オフィスワーカーが知る必要がある。

しかし理念を繰り返し朝礼で発信するのだろうか。読み合わせを行うのだろうか。前章で書かせていただいたとおり習慣化がそのカギを握る。であるならばこのスペースはこうして使う、こんな成果があるというチャートの表現が一番良く、それをビジュアルデザインとしてスペースに掲げるのがよいと考える。※8

そして書かれた成果がほんの少しでも実感できれば習慣化が始まるはずだ。各スペースの配置も重要だろう。各スペースがバラで遠くにあっても中々プロセスは完成しないはずだ。(オフィスでの実際の活動状況からモデルゾーニング図を作成してみた参考になれば幸いである※9

この結果の質を高めるに重要な点は結果がでたことによるさらなる関係性の向上にある。さまざまなフィードバックができる空間が必要になるだろう。オフィシャルでも、フランクにでも評価しあうスペースもあるとよい。成長は他人に認められるフェーズも重要である。※10

3. 成功循環モデルとワークエンゲージメントの考察

現在、人事施策においてもワークエンゲージメントの向上は重要な施策であると認識している。成功循環モデルでスペースを考察した時、非常にワークエンゲージメントと相関が強いと感じた。

そこで成功循環モデルとワークエンゲージメントと重要とされる3要素(活力・熱意・没頭)※11についてまとめてみた。※12

①活力(仕事をしていると活力がみなぎると感じる)

関係の質向上が社会的安全性を生み出し不安なく業務を進捗させる。結果として活動が高まり、個人・組織の活力は高まるだろう。

②熱意(仕事にやりがいを感じる)

結果の質であげたように自分・自組織の達成感によるやりがいの創出や他者からの評価によりさらに高くやりがいを感じると推察する。

③没頭(集中している状態)

活動するカテゴリーでもある思考の質・行動の質と相関が強く、より集中して活動することで「没頭」している状態に入りやすく、思考・行動の質も高まると推察できる。

このように人事施策としても関心度が高い指標(エンゲージメント)にも影響があると考える。

4. 最後に

今後、労働年齢人口が激減する日本において人事施策は要となってくる。

高度なさまざまな施策が必要だと考えるがオフィス環境を整備することはデザイン性の高い高環境からくるモチベ―ション等の向上だけでなく、機能的に寄与できる施策だと考える。

参照

※1 ダニエルキム「成功循環モデル」
ダニエルキム氏は元MIT(マサチューセッツ工科大学)教授であり組織学習センターの共同創始者。提唱された成功循環モデルは結果から追い求めると短期的な効果はあるが長期的には組織がプレッシャーにさらされ関係性が悪化し成果は継続しないとし最初に取り込むのは①関係性の質の向上であり結果チームが能動的になりその達成により②思考の質③行動の質が向上し④結果の質が達成されるというグッドサイクルを回し続けることが重要とし、逆に結果の質から始めると悪循環に陥るというモデル。

※2 HR NOTE
オフィス環境から感合える人事施策とワークエンゲージメント
「変わりゆくオフィスの価値」現在に求められる新しいオフィスの価値とは

※3 参考:GLOBIS学び放題×知見録 「成長とは何か」を自分の力で定義せよ 成長を考えるヒント:豊かな仕事 

※4 イトーキ2023年コロナ後オフィスの意識 追加調査(2023年10月実施)

※5 イトーキXORK・各支店事例写真より

※6 イトーキXORK・各支店事例写真より

※7 イトーキXORK・各支店事例写真より

※8 イトーキXORK・各支店事例写真より

※9 本稿のため考案

※10 イトーキXORK・各支店事例写真より

※11 ワークエンゲージメントの3要素
・厚生労働省労令和元年版労働経済の分析
・第Ⅱ部人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について
・第3章「働きがい」を持って働くことのできる環境の実現に向けて 参照

※12 図案は本稿のため考案

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