リモートワークが浸透し始めた一方で、「リモート疲れ」「リモート鬱」と言われるようなストレスを抱えてしまう従業員が増加しています。
リモートワークでは、離れて働いているメンバーの状況を把握することが難しく、社員のエンゲージメント低下に関する課題に直面し始めている人事担当者もいらっしゃるのではないでしょうか。
社員のメンタルヘルスを良好に保ちながら効果的なマネジメントをおこなう方法を知りたい管理職やマネージャーの方々は、確実に増えていると思います。
そこで、今回のHR-Studyでは、従業員のエンゲージメントを高めるために、リモートワーク下における従業員のメンタルヘルスの重要性について考えていきたいと思います。
- メンバーがストレスを感じてしまう要因について知りたい。
- リモートワーク下における従業員のマネジメント方法を知りたい。
- エンゲージメントを高めるために、各社が実践している具体的な施策について知りたい。
- ストレスを解消・低減するためのフィードバック方法が知りたい。
といった人事担当者や経営者、マネージャー層の皆様は、ぜひ参考にしていただければと思います。
※本記事は、2021年3月16日(火)19:00~20:30に実施されたイベント内容をもとに再編成したものです。
登壇者紹介
大室 正志|大室産業医事務所代表
大室産業医事務所代表。産業医科大学医学部医学科卒業。ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社統括産業医、医療法人社団同友会産業医室を経て現職。社会医学系専門医・指導医 著書「産業医が見る過労自殺企業の内側」(集英社新書)平成ノブシコブシ吉村さんとNewsPicks動画OFFRECO出演中。
髙木 一史|サイボウズ株式会社 人事本部採用育成部兼人事労務部兼チームワーク総研事業開発部
高知県生まれ。東京大学教育学部卒業後、トヨタ自動車株式会社人事部(労務、労政)を経て現職。note記事「僕はなぜトヨタの人事を3年で辞めたのか」が話題に。
平井 孝幸|株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)CHO室、東京大学医学部附属病院22世紀医療センター研究員
慶應義塾大学卒業後、ゴルフ事業で起業。2011年にDeNAに入社。15年から働く人の健康×パフォーマンスアップサポートを開始。2019年に経済産業省と東京証券取引所から評価され、健康経営銘柄を獲得。近著に「仕事で成果を出し続ける人が最高のコンディションを毎日維持するためにしていること」
モデレーター
西村 創一朗|株式会社HARES CEO/複業研究家/HRマーケター
新卒でリクルートキャリアに入社後、法人営業・新規事業開発・中途採用などを歴任。在職中の2015年に「二兎を追って二兎を得られる世の中を創る」をミッションに株式会社HARES(ヘアーズ)を創業後、2017年に独立。今回のテーマである「オンボーディング」を含め採用・人事領域を中心に多数の企業のアドバイザーを務めるほか、人事系イベントのモデレーター/ファシリテーターとしても活躍。著書に『複業の教科書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)がある。
[勉強会の内容をまとめたスケッチノート]
LT1. サイボウズ髙木さんに聞く、従業員へのメンタルヘルス対策
はじめまして。自動車メーカーで労務担当として働いた後、サイボウズの人事に転職した髙木と申します。社会人としては6年目になります。
サイボウズは、チームの情報共有サービスであるグループウェアの開発・販売をしているIT企業です。「チームワークあふれる社会を創る」を企業理念にかかげ、100人100通りの働き方の実現にもチャレンジしています。
メンタルヘルス体制の中心にあるのは「すこやかチーム」
まず、弊社のメンタルヘルスの体制を図にしてみましたので、こちらをご覧ください。
中心にある「すこやかチーム」は、人事労務部の中にあります。
そして、そこから各拠点ごとに「すこやか推進委員会(通称:すこ推)」という、いわゆる衛生委員会が存在しています。
すこ推には産業医も在籍しており、すこやかチームメンバーが中心となりながら、すこ推メンバーとも協力して従業員のメンタルヘルスに向けた取り組みを実施しています。
またサイボウズでは1人ひとりの働き方が異なるという事情もあるため、現場のマネージャーなどとも細かな連携を図りながら進めている状況です。
可能な施策はできるだけオープンに
サイボウズのメンタルヘルスに関する取り組みは、他社と異なり比較的オープンに実施している点が特徴だと考えています。
もちろん、大前提としてメンタルヘルスの話は個人のプライバシーへの配慮が必要な側面が強く、クローズに実施していくことが基本となりますが、可能な施策に関しては、できるだけオープンな状態でおこなうようにしています。
クローズ施策 |
オープン施策 |
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オープン施策の1つ、定期的なサーベイに関しては、弊社のkintoneというサービスを使っています。
たとえば、定期的なアンケートで「今、社員が何に困っているのか」を定量・定性的に調査し、「机や椅子など、在宅勤務時の環境に改善の余地がある」といった声も、こういったアンケートから拾っていきました。
また、週に1回程度、社員が任意で回答できるパルスサーベイも用意しており、自分のコンディションの変化について、定点観測できるようにしています。
また、公開・非公開は本人が選択することができます。
公開されていればチームのメンバー同士がお互いの状態変化に気づくサポートになりますし、もちろん全てを非公開にして、自分専用のコンディションチェックに活用することも可能です。
その他にも、年に一度の実施が義務付けられているストレスチェックについて、チームごとの分析結果を産業医と一緒に見る勉強会を実施することで、チームで問題を議論するような取り組みも始まっています。
グループウェアでのオープンなコミュニケーションからチームメンバーのメンタル変化を把握
また、特に意図している訳ではありませんが、グループウェア上であらゆるコミュニケーションをオープンにしていることによって、結果的にメンタルヘルスの変化にチームメンバーが気付きやすくなっている側面もあると思います。
たとえば、日報(個人が1日にやったことを自由に記録するスレッド)や分報(個人がツイッターのように思ったことを思った時につぶやくスレッド)などで「最近、ちょっと体調悪いな……」など、自身のコンディション状況についてのつぶやきも多く見られるため、比較的早い段階で、チームメンバーやマネジャーが異変に気付くことができます。
また、業務上のコミュニケーションの殆どがグループウェア上で行われていることもあり、平時より明らかに書き込みの量が減少しているなど、アウトプット面での変化に気づきやすいという側面もあります。
ただ、グループウェアはとても便利な一方、「ここには安心して書き込める」という心理的な安全感がないと、そもそもオープンなコミュニケーションはできないので、安心して発信できる雰囲気づくりが肝になってくると思います。
イベント開催でコミュニケーションを促進する
他にも、誰でも参加できるオープンな場づくりとして、社員間のコミュニケーションを促進するイベントも多数実施しています。
結局、人とのコミュニケーションを充分にとれないことがストレスになるという声も多いため、このような場を定期的に設けています。
また、自社ならではの取り組みとして、「もやもや共有ワーク」というものがあります。
これは、中途入社した人が対象となるオンボーディング研修のプログラムの一つです。
既に社内で「信頼貯金」が溜まっている社員同士であれば、比較的、オンラインツールなどを使った非同期コミュニケーションが取りやすいのですが、新しく入社された方は職場内での信頼関係が完全には構築されていないことが多いので、不安な気持ちがあったり、コミュニケーションを取りづらかったりしますよね。
そこで、入社後3カ月~6カ月目に実施するオンボーディング研修のタイミングで、中途入社者のもやもやを吐き出す場づくりをしてます。
この研修には人事も立ち会うのですが、かなりぶっちゃけた本音が出てきます。
たとえば、「私の現状の給与が適切なのか分からないです」とか、「サイボウズの自立という言葉が強すぎませんか?」など、なかなか職場では言えないような意見が出てきます。
同時期に入社した人たち同士で、似たようなもやもやを抱えていることがわかって安心する人もいますし、こうした場を敢えて意図的につくることで、もやもやを吐き出すことはサイボウズでは悪いことではない、というメッセージにもなります。
また、ここで出てきたもやもやから具体的な人事施策につなげることもあります。
最後に
サイボウズでは、社員一人ひとりが自立して健康に働き続けるために、個人のプライバシーに配慮した「クローズ」な施策と、チームで問題を可視化して一緒に解決していくという「オープン」な施策をどちらも実施しています。
問題の原因が制度にあるのか、働き方にあるのか、人同士のコミュニケーション課題にあるのかなど、1つひとつの事例に向き合って考えながら、オープンに解決していくスタンスを取っています。
健康の形も100人100通りだととらえ、一人ひとりの自立を軸に、セルフケアをバックアップできる仕組みづくりをこれからも進めていきたいと思っています。
LT2. DeNA平井さんに聞く、従業員へのメンタルヘルス対策
DeNAの平井です。まず始めに、DeNAの直近の組織状況に関してご紹介させていただきます。
現在の勤務状況としては、1日あたりの出社人数が約5%と非常に少なくなっており、エンジニアやクリエイターを中心にほぼ全ての社員がリモートでのワークスタイルにシフトしています。
私自身もここ半年で出社したのは荷物を取りに行った時くらいで、パフォーマンスが発揮しやすい環境で働いていてOKな状況になっています。
また、2020年の緊急事態宣言前後の時期(3~5月)頃は、社員のやりがいに関する数値が下がってしまったのですが、その後は一気に挽回をしています。
職種を問わず、ほぼリモートワークで事業展開をしている今、メンタルに起因する相談、休職、退職件数は減少しているが内容や対象者の傾向に変化が生じており、これが本日のメンタルヘルスケアという議題に繋がっていると考えています。
リモートワークに移行して起こった社員の変化
私自身は、もともと健康経営や自分自身の健康に関心が高くあり、おせっかい的なニュアンスで周囲の人への健康サポートを始めました。
しかし、健康に関する活動を継続していると、社内で健康に興味がある人が自然と集まってくるようになります。
健康について自ら関心を寄せてくる人たちは、生活の中に率先してウォーキングを取り入れたり、野菜を食べる量を増やしたりなどセルフコンディショニングをしています。
しかし、もともと健康に興味のなかった層は不健康化していきやすくなるのが課題です。
リモートワークになったことで朝ギリギリに起きてしまったり、お昼は宅配やコンビニ弁当ばかりで、健康的とはいえない食事中心になってしまう傾向があります。
その他にも、出社しないため通勤時の歩数がなくなることで運動不足になったり、リモートワークで人との付き合いが減ることでメンタル不調に陥るリスクなどは高まる傾向にあります。
つまり、働き方の変化にともない、社員の健康格差が広がってしまったのではないかと感じています。
DeNAが「健康経営」を始めた理由
DeNAでは、社員のメンタルサポートに加えて、運動・食事・睡眠などに関しても改善するため、いわゆる「健康経営」を始めました。
上図の右から2番目のグラフに「気分の波で仕事に集中できないことがある」とあるように、経済的な損失に関しても見える化させながら、健康サポートに注力することの重要性を社内外に発信しています。
DeNAの健康経営の特徴としては、 下図(経済産業省の資料より)の一番右側にある「企業の持続的成長」や「企業業績向上につなげる」などを大目標として取り組んでいることです。
健康経営というと、赤枠内の『①心身の健康問題』にある「疾病リスクが減る」などにフォーカスが当たりがちですが、弊社としては下二つ、『②組織』『③企業価値』の項目も注力しています。
平井さんのこれからの取り組み
現在、個人の活動としてにはなりますが、次の3つのことに取り組んでいます。
- オーラルケア もともと歯に問題を抱えていたのがきっかけなのですが、歯医者さんの選び方や適切なオーラルケア方法を知らない人が多いことがわかり、健康経営企業にとって当たり前の活動にしようとしています。たとえば、昼磨きがリフレッシュ効果など、ワークパフォーマンス向上にもつながると感じています。
- ワーケーション 昨年から、沖縄などで積極的にワーケーションをおこなっています。メンタル面に効果があると分かっています。
- ゴルフ 健康に関心ない人でも、たとえばゴルフを活用することで、運動不足解消はもちろん、新たなつながりが増え、コミュニケーションが活性化しメンタルサポート効果も。
メンタル面に懸念がある人に向けて、産業医面談を推奨するのももちろん大切ですが、社員がポジティブな気持ちになれる施策としておすすめしたいです。
また、余談ですが、最近は下記の本も出して研修を実施していたりするので、メタボやメンタル対策を考えている方は、ぜひご覧ください。
パネルトーク/視聴者からのQ&A
お二方、ありがとうございました!
ここからは、視聴者の方に投票で質問を選んでいただきながら、大室さんとも一緒にパネルトークを進めていきたいと思います。
Q. リモートワークで求められるマネジメントスキルとは?
もともとサイボウズはコロナ前からリモートワークをしている人もいたので、「リモートワークになったからメンタルヘルスの対応が大きく変化した」というわけではありません。
先程も申し上げたとおり、サイボウズは社内の情報が非常にオープンになっているので、メンバーの状況を把握したり、オンラインでさまざまな情報を収集するのは得意です。
リモートワークになって変化したのは、他社と同様に「リアルに情報を取得する機会が減った」という点です。
こういったコミュニケーション不足を少しでもカバーするために、チームによっては、業務時間中にざつだんの機会を能動的に設定したりしていますね。
最近聞いた話だと、「1onN」という形で、一人対大勢の体制で特定の人の話を聞く場を設けているチームもあるようです。
雑談機会の作り方としては、具体的にどのような形で運用しているのですか?
チームや個人によってさまざまですね。最近耳にした事例で面白いなと思ったのは、「雑談リレー」というかたちです。
ある本部の人が別の本の人に雑談を申し込んで、その雑談した相手にまた別のざつだん相手を紹介してもらう、これをずっと繰り返していく、といった方法です。
「1onN」というのは、何でしょうか?
これも他のチームで耳にした事例ですが、1人の話を複数人で聞く、というコミュニケーション機会をつくっているみたいです。
朝会などで1onNの時間を組み込んで、1人ずつ話していって、全員でその話を聞くといった形で進めているチームもあるみたいです。
平井さんに質問です。
DeNAさんはもともと出社する方が多かった記憶がありますが、リモートワークだからこそ求められるマネジメントスキルはありますか?
社員同士、自発的にプライベート面も語り合えるような関係性の構築が大切だと私は考えています。
もちろんセンシティブな問題なので、慎重に進めなくてはいけませんが、リモートワークでは本人の居住環境や家族構成も大きく関与します。
たとえば、人数が多い家族構成で、狭い家の中で子どもを見ながら仕事をする環境の社員がいたとき、そのバックグラウンドを知らずに「リモートワークになって調子悪いね。」「いつもと違うね」と指摘してしまうのは良くないですよね。
人によって置かれている環境がまったく異なるので、プライベートな情報をお互いに話し合えるよう、率先して自分から話すよう心掛けています。
そのためには、リモートになる前に社員同士、信頼関係を作れていないと難しいということもあるのですが。
プライベートなことについて、聞き出すためのポイントはありますか?
DeNA自体がフラットな組織づくりをしていることも前提にありますが、それぞれが自己開示をすることが重要だと思います。
雑談会など、自己開示がしやすい場をつくるのも大切ですよね。
とはいえ、どうしても話しづらい内容もあると思うので、込み入った話は1on1の場で話すようにするなどコミュニケーション方法の使い分けが大事だと思います。
日本は室町時代頃から定住化が始まり、村人が顔を合わせながら生活するようになりました。つまり、「一生同じ人と上手く付き合っていくスキル」が求められる時代だったんです。
リモートワークに移行する前の日本は、この「周囲と合わせる」「出る杭は打たれる」という価値観が根付いていた、という点を改めて理解しなくてはならないと思います。
この価値観が続いてきた日本では、「たくさん自分のことを主張をしなくても、周囲の人が気付いてくれる」「一生懸命頑張っていれば、終身雇用制で仕事には困らない」「むしろ自己主張をしないほうがいいよね」という考えがコミュニケーションの最適解となっていました。
しかし、環境が変化すれば、このコミュニケーションの最適解も変化します。
今の時代は流動的かつプロジェクト型で仕事を進めることが増え、さらにはダイバーシティの観点から文化環境が違う人と過ごすことが求められるようになりました。
価値観の異なる人と共存しなくてはならない環境下に変わったのにも関わらず、いまだに「言わなくても私のことを分かってほしい」と上司・部下が考えていることが問題です。
特にリモートワークが当たり前になってきた中では「言わなくても分かってくれる」わけがありませんし、だからこそ上司と部下が言い合える1on1が重要視され始めているんですね。
もう1点、ここでお話したいのは「わからなかったら聞いてね」といった受け身のマネジメントスタイルについてです。
実は、メンタル不調を起こした人の8割が「(メンタルを)自分でコントロールできませんでした」「無理しすぎてしまいました」と回答しています。
これに対して上司が「わからなかったら聞いてねって伝えたのに!」と話すことが多いのですが、この受け身のマネジメントスタイルはもう通用しないと思ったほうが良いでしょう。
リモートワークであれば、上司のもとに「ちょっと質問しても良いですか?」と足を運ぶことが容易ではないため、「わからなかったら自分から聞いて来い!」という親方文化的なコミュニケーションは絶対にNGです。
この点を考えると、マネジメントスタイルを変えることは必然ですし、むしろリモートワークになったご時世でマネジメントが変わらないのであれば、それはもうネグレクト(マネジメント放棄)と言えるでしょう。
これからは「わからないことはない?」と、マネジメント側から聞きにいかなくてはならない時代になっていると思います。
Q. 社員の「リモートワーク疲れ」へのケアに関して
続いてのテーマですが、社員の「リモートワーク疲れ」が実際に社内で起きているのか、また起きている場合にどのようなケアをしているのかお聞きできますか?
社員向けにアンケートを取った際、「子どもに仕事の邪魔をされてしまった」「睡眠リズムがうまくいかない」「同じパーソナルスペースにいるのでオンオフの切り替えができない」「腰痛がひどい」など、さまざまな声が出ていましたが、これに対して「これをやれば絶対解決する!」といった答えはありません。
ただ、たとえばマネージャー同士で集まるMTGを人事側で設定して、その中でお互いの困りごとをシェアして、うまくいったコミュニケーションの例を出しあったり、産業医の先生にノウハウをレクチャーしてもらったりするなど、人事・マネージャー同士の連携を強化するようなことは実施しています。
絶対的な解はなく、結局は1人ひとりの悩みに対して個別に向き合っていくしかないと感じています。
具体的には、どのような向き合い方をされたのでしょうか?
他の会社さんもやられていると思いますが、在宅手当などはその一例ですね。
やはり在宅が長くなってくると、どうしても「家の椅子だと集中できない」などの声が出てきたので、オフィス環境と同水準とまではいきませんが、それに近い環境を提供できるようにサポートをおこないましたね。
平井さんは、リモート疲れに対して何か対策をされていますか?
運動不足の人には外出時の階段利用を勧めてみたり、在宅環境が整っていない人にはオフィスの椅子を譲渡したり、それぞれのニーズに合わせてサポートをおこなっていました。
リモートワークになって1つ気を付けているのは、MTG時間の設定です。
WebでのMTGは便利な一方で、どんどんMTGスケジュールが詰められてしまうことがストレスだと思います。
そのためMTGを30分・60分間隔で行うのではなく、25分・55分間隔にするなど、連続しておこなわないような工夫をしている人もいます。
サイボウズも、〇時10分開始などのMTGが増えていますね。
オンラインでのMTGが続くと、お手洗い休憩にも行きづらいし、ストレスですよね。
「リモート疲れ」の種類を分解して考えると良いでしょう。
たとえば、野球のピッチャーが肩を壊す原因を考えてみましょう。
1日200球以上投げすぎたことが要因なのか、はたまた1日50球程度なのに負傷してしまったのか、筋力不足で怪我をしてしまったのかなど、さまざまな要因が考えられます。
これをメンタルに置き換えると「ボールを投げ過ぎ=過重労働」が要因だったと考えられますし、「筋力不足=マウントに立つ能力がまだ備わっていないが、いきなり過度な負担を与えてしまった」と考えられますよね。
このように、リモート疲れは様々な原因で起こりえるものです。
先ほどお話に出てきたように、在宅環境が整っていないために疲れる人もいれば、運動不足による不調、コミュニケーションのしづらさに起因するストレス不調などがあります。
これらのリモート疲れの要因をきちんと因数分解して、それぞれに合った対策をしていくことが重要だと思います。
Q. 社員のストレス度合いをどのように管理しているか
そもそも皆さんは、社員のストレス度合いをどのようにチェックしてますか?
基本的には法定のストレスチェック、あとは自社ツールのkintoneを利用したアンケートやパルスサーベイですね。
ただ計測するだけでは改善が難しいと思うので、ストレスチェックの結果の見方について勉強会をするなどのサポートは始めています。
ちなみにパルスサーベイは社員が自分自身で回答するものかと思います。
「辛い」と回答しにくいと感じて、本音を書けない人もいるのではないかと気になったのですが、この辺りはいかがでしょうか。
まずはしんどいと感じた時に周りに共有できるような、心理的に安全な環境をつくっていくのが第一だと思いますが、メンタルヘルスという観点だと、PCのログイン時間・労働時間のデータは参考になると思います。
そもそも弊社は比較的残業が少ない方だと思いますが、やはりメンタル不調になってしまう人は、勤怠が不安定になる傾向があります。
また、基本的にコミュニケーションがオープンであるため、明らかにグループウェアへの書き込みが減っている、という形でサインが現れることもあります。
去年の6月頃に実施したリモートワーク施策検討用アンケートにおいて、自宅環境を確認(任意回答)するなど、リモートしづらい要素の確認調査をおこないました。
リモート移行後も定期的にアンケート調査をおこない、数値を追っています。
そのデータを分析しながら、どの属性の人がどのような傾向になるのかについてデータ軸で確認しながら、打ち手を検討しているところです。
両社とも、サーベイやアンケートを通してさまざまなデータを取得したり、労働時間管理を通してストレス度合いの確認をしているんですね。
ここで、一般的なストレスチェックの活用方法やポイントを大室さんにお伺いしても良いでしょうか。
日本においてストレスチェックは50名以上の企業で義務化されているものですが、実は健康診断が義務化されていて、なおかつ健診結果を会社に開示する文化は、海外ではあまり見ない手法です。
日本は解雇規制が厳しく、簡単に解雇できない以上、社員の健康状態を把握する義務があるという考え方が根本にはあります。
ただし、健康診断は企業に開示するものですが、ストレスチェックは本来、会社に情報を見せるものではなく、社員本人が自分自身の健康状態を確認するために実施することになります。
実際、ストレスチェックの結果は個人が特定できない仕組みになっていますし、会社がストレスチェックの結果を見る際は、一定の集団データでないと閲覧できないルールになってます。
「ストレスチェックの個人データを会社は閲覧できない」し、「一定規模でないと集団分析もできない」。そこで、もっと広義の健康度を測るツールとしてエンゲージメントサーベイが流行っています。
さらに、エンゲージメントサーベイよりも、より簡単に情報が集められるクイックチェックのようなサービスを用いて、組織状態(社員のストレス度合い)を確認している企業も増えてきています。
また、それ以外に社員のストレス度合いを確認する方法として有効なのは、やはり勤怠です。
勤怠、労働時間、残業時間は一番メンタルやストレスに影響が大きい部分ですので、この辺りの数値やデータをしっかり確認していくのが良いと思います。
Q. 勤怠管理はどのようにチェックしていますか?
自社の製品で勤怠管理をしています。一つはkintoneで、勤怠の自己申告をしてもらっています。また、このデータが給与計算に使われます。
もう一つはGaroonというシステムへのログイン・ログアウト時間を客観的な指標の1つとして参考にしています。
基本的にはシステムで勤怠データを収集されているんですね。ちなみに社員からの過少申告への対策はされていますか?
前提として、サイボウズでは「公明正大」の理想に共感したメンバーが集まっているはずなので、そういう人はいないと信じています。
また、そもそもメンバーに過小申告させるくらいの大量の仕事をお願いしない、というのも大切だと思います。
サイボウズの場合、現場のHRマネージャーがチームの業務量を調整する権限を持っており、メンバーが疲弊するくらいの業務量になるくらいなら、一旦、チームの理想・目標を下げる、という選択肢を持っているので、働きすぎがないように業務調整をおこなってます。
実際、長時間労働が長期間継続するようなケースはありませんね。
Q. 社員が分からないことを上司に聞きやすい職場を作るためには?
「上司から歩み寄ろう」というトレンドに合わせられない会社であれば、最初から「うちは自分から上司に質問していく文化がある会社です」と伝え、期待値調整をおこなうのが大事だと思います。
「普通はこうですよね?」という話し方ではなく、「うちの会社はこういう方針です」と示すことが重要だと思います。
社員は期待値とずれるから傷付くだけであるため、分からないことを聞きやすい環境づくりをするのではなく、会社のカルチャーを明確に定めた中できちんと伝えることがポイントでしょう。
Q. 経営者がメンタルヘルスに積極的に取り組んでくれない場合はどのようにアプローチすればいいか?
会社によって経営陣が聞いてくれるポイントが違うと思いますので、ポイントとしては「手段」と「タイミング」の2つですね。
タイミングとしては、たとえば「仕事のメンタル不調により亡くなってしまった方が出たことがニュースになった」というようなタイミングでは、経営陣が敏感になっているため聞くモードになっている場合があります。
そのタイミングで、提案できる準備ができているのかが大切です。経営陣は、常にメンタルヘルスについて考えているわけではないからですね。
また、手段としては、「安全配慮義務などのリスクの側面から提案する」「社員のエンゲージメントや生産性向上の切り口で提案する」など、経営陣が興味を持つ切り口はさまざまです。
「みんなやってるのでやりましょう!」と言うと効果的な経営者もいれば、「みんながやっていないからこそ、メンタルヘルスに取り組みましょう」と言ったほうが良い経営者もいます。
なので、経営者に合わせたメンタルヘルスに関する提案手法や手段を検討してみることをおすすめします。