ゴーレム効果とは、周囲や他人からの期待・評価が得られなくなると、パフォーマンスが低下する心理学的現象のことです。ゴーレム効果の反対語として、ピグマリオン効果があります。この記事では、ゴーレム効果の由来や種類、ゴーレム効果と類似する心理学用語との違い、ゴーレム効果がもたらす影響とその対策について解説します。
目次
1. ゴーレム効果とは?
ゴーレム効果とは、周りからの関心や期待、評価の低さが原因でパフォーマンスが悪くなることです。ゴーレム効果は、スポーツやビジネスなど、結果が重視される場においてよく見られます。ここでは、ゴーレム効果の由来や種類について詳しく紹介します。
1-1. ゴーレム効果の由来
ゴーレム効果は、アメリカの教育心理学者、ロバート・ローゼンタール氏が名付けた現象です。呪文で動き、額にある文字を消されると泥に戻る人形の「ゴーレム」から名前が取られました。教師と生徒を対象にした実証実験では、教師からの期待度が低い生徒ほど、成績が低くなるという結果を導き出しました。このように、他者からの悪い評価や影響により、自分の能力や成果が抑えられてしまう現象をゴーレム効果とよびます。
1-2. ゴーレム効果の種類
ゴーレム効果には「絶対的ゴーレム効果」と「相対的ゴーレム効果」の2種類があります。絶対的ゴーレム効果とは、他者からの期待や評価が低いと、その本人のパフォーマンスが下がることです。一方、相対的ゴーレム効果とは、周囲からの期待や評価が低い人が属している集団の別の優秀な人材のパフォーマンスが下がることです。このように、ゴーレム効果は、当事者だけでなく、その周囲にいる人にも影響が及ぼされることを押さえておきましょう。
2. ゴーレム効果と類似する心理学用語との違い
ゴーレム効果には、類似する心理学用語がいくつかあります。ここでは、ゴーレム効果とピグマリンオン効果、ハロー効果、ホーソン効果それぞれの違いについて詳しく紹介します。
2-1. ゴーレム効果とピグマリオン効果の違い
ピグマリオン効果とは、褒められたり、期待されたりすることでパフォーマンスが上がる現象のことです。ピグマリオン効果は、ゴーレム効果と同様で、アメリカの教育心理学者、ロバート・ローゼンタール氏によって提唱されました。
ゴーレム効果とピグマリオン効果の違いは、相手に与える影響がポジティブかネガティブかである点です。ゴーレム効果はネガティブ、ピグマリオン効果はポジティブな影響を与えます。ピグマリオン効果は、ネガティブな言動がネガティブな結果をもたらすゴーレム効果と正反対の現象であり、教育や指導に積極的に導入したい効果といえます。
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2-2. ゴーレム効果とハロー効果の違い
ハロー効果とは、一部の目立った印象や特徴に引きずられて全体の評価が歪んでしまう心理現象のことです。ハロー効果は、アメリカの教育心理学者、エドワード・ソーンダイク氏によって提唱されました。ゴーレム効果とハロー効果の違いは、評価される側と評価する側のどちらに影響があるかです。ゴーレム効果は評価される側、ハロー効果は評価する側に影響があります。
なお、ハロー効果にはポジティブハロー効果とネガティブハロー効果があります。ポジティブハロー効果とは、外見がよいことで人間性もよいと評価されるような、一部の特徴が全体の評価をよくする効果です。一方、ネガティブハロー効果では、服装がだらしないために仕事もできないと評価されるように、一部の特徴が全体の評価を下げる効果のことをいいます。ハロー効果は、ゴーレム効果と異なり、メリットもあります。ビジネスに上手く活用しましょう。
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2-3. ゴーレム効果とホーソン効果の違い
ホーソン効果とは、周囲から注目されているという事実だけで、それに応えようと行動に変化が生じ、その結果も変わる効果のことです。ホーソン効果は、ハーバード大学のジョージ・エルトン・メイヨー教授によって提唱されました。ゴーレム効果とホーソン効果は、どちらも注目や関心、観察に関係した心理的現象ですが、注目度に違いがあります。
ゴーレム効果は、期待度が低いほど、パフォーマンスは下がる効果をいいます。一方、ホーソン効果は、期待度の大きさに関係なく、注目されているというその事実があれば効果は発生します。そのため、ホーソン効果の場合、実際に期待されているかどうか、どの程度期待されているかどうかは関係ありません。
3. ゴーレム効果の具体例
ここでは、職場、子育て、恋愛それぞれにおけるゴーレム効果の具体例を紹介します。
3-1. 職場
職場でゴーレム効果が生じるコミュニケーションの具体例として、以下が挙げられます。
- 「あまり期待していないから気楽にやって」
- 「あなたに任せるのは不安なんだけど」
- 「どうせ無理だろうとは思っていたよ」
とくに上司の部下に対する言動によって、ゴーレム効果は引き起こされやすいです。また、ゴーレム効果の原因となる言動を受けた本人だけでなく、同じチームに属するメンバーも影響を受けて、パフォーマンスが下がる恐れもあります。
3-2. 子育て
子育てでは、次のような親の発言がきっかけで、ゴーレム効果が引き起こされます。
- 「まだ小さいからできないよね」
- 「どうしてそのようなこともわからないの」
- 「お父さんも下手だからお前も下手なはずだよ」
親の先入観により、期待していない言動をすることで、ゴーレム効果が生じます。子どもは「どうせ自分にはできない」と思い込み、一生懸命になるのをやめ、自らの能力を伸ばそうとしなくなります。
3-3. 恋愛
恋愛では、次のような言葉がけにより、ゴーレム効果が発生します。
- 「あなたは本当にダメな人だよね」
- 「前の彼氏/彼女は〇〇だったのに」
- 「隣にいて恥ずかしいよ」
好きな相手からの評価が低いと、ゴーレム効果により、「自分は愛される価値のない人間だ」という考えにつながります。結果、見た目に気を遣うのをやめたり、異性に対して消極的になったりするなど、悪影響が発生する恐れもあります。
4. ゴーレム効果を引き起こす原因
なぜゴーレム効果は生じるのでしょうか。ここでは、ゴーレム効果を引き起こす原因について詳しく紹介します。
4-1. 適正でない人材配置
従業員の能力や価値観、将来のキャリアなどを考慮して、適材適所の人材配置を実現することで、従業員のモチベーションを高めて、パフォーマンス向上につなげることができます。一方、自分の性格やスキルにあっていない人材配置をおこなうと、従業員は自分に期待されていないと感じ、ゴーレム効果を引き起こします。このような事態が生じないよう、従業員の適性を考慮した人材配置を実施するようにしましょう。
4-2. 不公平で曖昧な人事評価
同じような成果を出したにもかかわらず、評価が大きく乖離している場合、従業員は不公平に感じます。低い評価を付けられた従業員は、ゴーレム効果により、仕事へのモチベーションが低下してしまいます。また、人事評価の基準が曖昧な場合も、自分に求められている役割や成果がわかりにくいために、ゴーレム効果を引き起こす原因になります。ゴーレム効果を発生させないためにも、人事評価制度の見直しも検討しましょう。
4-3. 否定的なフィードバック
従業員の困っていることや悩んでいることに対して、適切なフィードバックをおこなうことで、改善につなげられ、従業員のパフォーマンスは高まります。一方、「ミスが多い」「タスク一つひとつの対応が遅い」などのように、否定的なフィードバックのみだと、自尊心が傷つき、ゴーレム効果を引き起こす原因になります。目的を明確にし、否定的なフィードバックだけでなく、肯定的なフィードバックを実施することも大切です。
4-4. マイクロマネジメント
マイクロマネジメントとは、上司や先輩が部下・後輩の行動を細かくチェックすることで、過干渉になってしまう管理手法のことです。マイクロマネジメントを上手く活用すれば、迅速にフィードバックができるため、部下や後輩の成長、生産性の向上につなげることができます。しかし、マイクロマネジメントにより、部下や後輩は常に監視されていると感じ、ゴーレム効果が生じてしまい、仕事へのモチベーションが低下する恐れがあります。このように、マイクロマネジメントが原因で、ゴーレム効果が発生する可能性があります。
4-5. パワハラとなる発言
パワハラ(パワーハラスメント)とは、職場での優位的な立場を利用して、業務に不必要な言動を取り、労働者に身体的・精神的苦痛を与えることです。上司が部下に過度の要求をしたり、人格を否定・侮辱したりすることは、パワハラに該当し、部下の仕事に対する意欲が低下するだけでなく、労働災害や損害賠償などのトラブルにつながる恐れもあります。ゴーレム効果を引き起こすかどうかに関係なく、パワハラやモラハラといったハラスメントが職場で生じないよう、労働環境をきちんと整備することが大切です。
5. ゴーレム効果がもたらす職場への影響
ゴーレム効果によって、職場には悪影響が生じます。ここでは、ゴーレム効果がもたらす職場への影響について詳しく紹介します。
5-1. 自己肯定感が下がる
ゴーレム効果が生じることで、自分に対する肯定的な気持ちが薄れていきます。場合によっては、能力があるのにもかかわらず、過小評価するようになり、持っている価値を発揮できなくなります。このように、ゴーレム効果は、従業員の自己肯定感を下げるきっかけとなります。
5-2. 成績の継続的な低下
ゴーレム効果により、自己肯定感が下がった従業員は、自分の能力を低く見積もって仕事をするようになります。これにより、仕事の評価は下がります。低評価を受けることで、さらに「自分はだめだ」と思い込み、実際に評価を受けた仕事だけでなく、その後の業務へのパフォーマンスも下がります。このように、ゴーレム効果は、自己肯定感の低下によるパフォーマンスの低下、パフォーマンスの低下による自己肯定感の低下という悪循環を引き起こし、成績が継続的に悪化する恐れがあります。
5-3. 組織全体のパフォーマンスの悪化
ゴーレム効果は、特定の社員一人だけでなく、組織全体のパフォーマンス悪化にもつながります。たとえば、営業チームのリーダーにゴーレム効果が発生すると、個人の成績に加えて、チームの成績も下がります。また、自己肯定感が低くなっているため、ネガティブな言動を取るようになり、ゴーレム効果が広がってチーム全体のパフォーマンスが低下していきます。
5-4. 成長機会や挑戦意欲の喪失
ゴーレム効果が生じると、パフォーマンスの低下により、新しい仕事が任されにくい環境になります。また、自己肯定感の低下により、困難な仕事にチャレンジする意欲も低くなります。このような環境では、従業員の成長につながらず、新たなアイデアやイノベーションも生まれません。
6. ゴーレム効果への対処方法
職場でゴーレム効果が起きていると、さまざまな悪影響が発生します。ここでは、ゴーレム効果への対処方法について詳しく紹介します。
6-1. 能力を発揮するチャンスを与える
仕事上、失敗を注意することはよくあります。しかし、そのまま失敗した状態で放置したままだと、従業員は「自分にはできない」と感じてしまい、自己肯定感が下がり、ゴーレム効果によってパフォーマンスがますます低下していきます。失敗を許容し、再度挑戦できる環境を作り出しましょう。その際、期待していることを伝えることで、ゴーレム効果でなく、ピグマリオン効果につながり、仕事へのモチベーションを高めることができます。
6-2. 実力に合わせた目標を設定させる
目標が高すぎると、達成が難しく、成功体験が得られません。一方、簡単すぎる目標だと、物足りないと感じ、成長を実感することができません。そのため、部下の能力や価値観を考慮して、実力に合わせた目標を設定させるようにしましょう。目標を達成し、達成感や自己成長を感じられることで、自己肯定感も高まり、ゴーレム効果を防ぐことができます。
6-3. 加点式でフィードバックする
フィードバックは加点式で実施しましょう。減点式ではミスばかり目に入り、無意識に注意ばかりになります。加点式でのフィードバックを心がけることで、できたことや改善したことに意識が向くようになり、ポジティブな声かけを増やすことが可能です。これにより、本人は周囲から前向きに期待・評価されていると感じやすくなり、ゴーレム効果を対策することができます。
6-4. サンドウィッチ型フィードバックを活用する
サンドウィッチ型フィードバックとは、「褒める・改善点を伝える・褒める」のようにネガティブなことを伝える際に、前後にポジティブなことをはさむことです。ポジティブなことを伝えてからネガティブなことを伝え、最後もポジティブなことで締めることにより、相手が前向きな気持ちで注意を受け入れやすくなります。これにより、ゴーレム効果の引き起こしを防止することが可能です。何か注意するときは、その前に何か褒められる点がないか考えてみましょう。
6-5. マネジメントの研修を実施する
管理職が間違った方法でマネジメントを実施しており、意図せずゴーレム効果が生じている可能性もあります。部下のモチベーションを引き出し、成長や成果につながるためにも、管理職向けにマネジメント研修を実施してみるのも一つの手です。マネジメント研修をおこなうことで、管理職のマネジメントスキルが高まり、ゴーレム効果を対策することができます。
7. ゴーレム効果の予防方法
ゴーレム効果を予防するためにも、部下自身のセルフ管理能力を高めることが大切です。ここでは、ゴーレム効果を予防するために今すぐできる取り組みについて詳しく紹介します。
7-1. 休息をきちんと取る
長時間残業や休日出勤により、十分な休息が取れていないと、集中力が低下し、ミスやトラブルが生じやすくなります。結果として、周囲からの期待・評価が下がり、ゴーレム効果によって自己肯定感も下がっていきます。このような悪循環を生み出さないためにも、休息を意識してきちんと取るようにしましょう。自分のパフォーマンスを最大限に発揮することで、周りからの期待・評価が得られるようになり、ゴーレム効果でなく、ピグマリオン効果を生じさせることができます。
7-2. スモールステップで取り組む
周囲から満足のいく期待や評価が得られなくとも、自己肯定感が高ければ、仕事へのモチベーションを高く維持できることもあります。そこで、ゴーレム効果を予防するためには、自己肯定感を維持・向上させるための取り組みが必要です。目標管理において、難易度が高い目標を設定すると、なかなか成功に至らず、達成感が得られません。スモールステップを意識して、小さな成功を積み上げることで、成功体験が得られ、自己肯定感も高まっていきます。
7-3. 目標の進捗管理を実施する
周囲からの期待がなく、納得のいくような評価が得られないと、どうしても自己肯定感が下がり、自分を過小評価してしまいがちです。客観的に自分を評価するためにも、目標の進捗管理をおこないましょう。定量的かつ具体的な目標設定をおこなうことで、数値を用いて進捗状況を把握することができます。これにより、周りからの評価に関係なく、主観を排除して評価を実施することが可能です。周囲からの評価が低くても、実際はできていることが多いケースもよくあります。
7-4. 他人と比べ過ぎない
他人と比較し、真似できる良い点を取り入れたり、改善点を洗い出したりすることで、自分の成長につなげることができます。しかし、他者と比べることが当たり前になり、劣っていると感じるようになると、自己肯定感は下がります。他人と比べるだけでなく、自分の過去や将来の自分などとも比べてみましょう。そうすれば、成長している部分や不足している部分が明らかになり、モチベーションの維持・向上へとつながります。
7-5. 前向きなセルフトークを意識する
セルフトーク(自己対話)とは、自分自身に心の中で会話しているコミュニケーションのことです。セルフトークには、ポジティブなものと、ネガティブなものがあります。「自分はできる」「目標達成できる能力がある」などのように前向きなセルフトークを意識することで、自信が付き、行動につながりやすくなります。結果として、成功体験が積み重なって、自己肯定感も高まり、ゴーレム効果から抜け出せるようになります。
8. ゴーレム効果が生じないような職場環境を作り出そう!
職場において周囲や他人からの期待・評価がなくなると、ゴーレム効果により、パフォーマンスが低下しやすくなります。ゴーレム効果を引き起こさないためにも、従業員のセルフコントロールを高めて、自己肯定感を向上させることが大切です。また、組織としても、人材配置・人事評価といった制度を見直したり、目標管理制度を導入したりするなど、従業員のパフォーマンスが高まるような環境を整備しましょう。