企業向け教育研修、組織開発コンサルティング会社の代表を務め、研修講師としてこれまで約2,000回以上登壇を重ねてきた山本直人さんにインタビュー。
USENの営業からスタートし、研修講師として活躍されるようになった山本さんのキャリア、研修プログラムで大切にしていることや、研修を通して提供できる価値についてお話を伺いました。
今後、効果的な人材育成には何か必要か?今、社外の研修講師に求められることは何かなど、企業研修で押さえるべきポイントをご紹介します。
【人物紹介】山本 直人|株式会社エンターイノベーション代表取締役 研修講師
山本直人さんがUSENでの営業から研修講師として独立するまで
ーまず、新卒入社したUSENでの仕事について教えてください。
山本さん:私はもともとエンタメ業界を志望して就職活動をしていました。
レコード会社や芸能プロダクションを中心に受けている中で、「音楽」と調べたらたまたま㈱有線ブロードネットワークス(現USEN)という会社に出会いました。
USENで内定をもらって同期約300名とともに入社をしたのですが、営業職だけは絶対にやりたくなかったんです。
しかし、残念ながら、1番大変そうでやりたくなかった営業職配属されるところから私のキャリアはスタートしました。
新卒入社後は、営業の基礎を叩き込まれて、営業現場で実践しながら鍛えられました。
私が入社した2001年は光ファイバーのサービスが始まった年で、さまざまなインターネット関連商材を中小企業にご提案しました。
毎日100件以上の飛び込みや電話営業を続け、必死に食らいついたのですが、あまり成績は振るわずでしたね。
その後、技術関係の部署に異動になり、ひたすら電線を撤去するというプロジェクトに回されてしまったので、もっと営業力を高めたいと思い、転職をすることになりました。
次に就いた仕事は、元リクルートの方が立ち上げた6名の研修会社でした。ここでも営業職として入社をするのですが、なかなか成績は振るいませんでしたね(笑)。
ですが、少人数の会社で、20代も私ひとりだったので、とても濃い指導・教育を受けました。この会社で研修の企画をつくるところから関わることができたのは、貴重な経験だったと思っています。
また、社用携帯とパソコン1台だけ渡されて「これで仕事をとってこい」と言われるような環境だったので、自分1人で市場に出て、何かしらの仕事をとってくるという現場経験を積むことができました。
今も1人で会社を経営していますので、これらの経験も今につながっていると思います。
この頃から「30歳までには独立をしたい」と考えるようになり、さらに経験を積むためにはマネジメントや事業企画の経験を積む必要があると思いました。
そこで2度目の転職を決意して、ネット系のベンチャー企業に移り、マネジメント経験を積むことにしました。
私が転職をした2006年頃は、mixiがSNS文化をけん引し、ブログやネットコミュニケーションに関する事業が盛り上がっている時代でした。
3社目に入社したドリコムというネットベンチャーはブログシステムの最先端の企業として注目されている会社でした。
そこで約半年後に、社内ブログ事業にて事業部長を担当させてもらい、法人営業や開発プロジェクトのマネジメント経験を務めました。
上場までのプロセスや、事業を立ち上げる企業風土など、貴重な経験をした後に、2008年、29歳で独立をしました。
「人を動かす」能力が研修現場で活きる
ーUSENや企業内研修の営業職、ブログシステム事業のマネジメントなどキャリアを持つ山本さんですが、あえて研修事業の会社を設立した狙いはどのようなものでしょうか?
山本さん:どちらかというと動くことよりも考えることが好きなので、営業マネジメントや組織のコンサルの仕事が自分に合っていると思っていました。
特にそのような仕事の中でも育成や教育に携わることが向いているのではと思ったんですね。過去を振り返ると、営業プロセスの体系化や育成、課題解決に関する周囲の評価があった点も大きいです。
今まで従事してきたUSENでのネット回線営業、研修会社での企画営業、ネットベンチャーでのブログ事業のマネジメント、すべてに「人を動かす」という要素が共通しています。
対話相手に自分の言葉で情報を伝えて、共感・納得してもらい、動かすという行為は、営業職にも研修講師にも共通する大事なエッセンスだと考えています。
そして、研修商品を売ることも、ホームページを売ることも、けっきょくそのツールを使って相手が何をしたいのか探り、コンサルティングすることが重要です。
私は、ホームページを使ってお客様が何を実現したいのか?ブログを利用してどのようにお客様の組織開発を進めるのか?という視点で働いてきました。
これらの経験がすべて、今の研修講師につながっていると考えています。
ー研修講師としてたった4年で年間200日以上稼働できる講師になることができた背景を教えてください。
山本さん:独立した直後は、自分の人脈やインターネットで販路を広げていきました。
続いて、複数の研修会社に研修講師として登録・所属をして登壇回数を増やしていきます。ただ、研修会社に登録しただけだと、どうしても依頼件数は頭打ちとなります。
そこで私がとった手法は、「研修会社自体を支援する」という視点でした。
研修会社に登録をしている講師である私自身は、研修会社にとって商品となります。つまり研修会社がしっかり商品の私を理解し、プレゼンをして、たくさん販売してくれないと私の仕事は増えません。
私は自分の営業経験を活かして、研修コンテンツの内容のすり合わせから研修パッケージの売り方を、研修会社の担当営業の方と共同作業しました。
その他にも、研修会社の営業さんの商談に同席したり、「営業ノウハウ研修やマネジメント研修」を実施し続けました。
その結果、ようやく講師依頼も殺到するようになり、年間で400件ほどご相談をいただくようになったのです。
どのような仕事もそうですが、依頼に答えるだけの受け身の姿勢、ただの下請けのような仕事をしていてはいけません。
この仕事の上流工程に入り、お客様により高い価値を提供するにはどうしたらいいか?という目線で、仕事をしていくことが重要だと考えています。
ー独立して研修講師をされているライバル講師もたくさんいるのでは?
山本さん:各研修会社に、数十~数百名は研修講師の登録があります。ですが実際の稼働率は2割ほどではないでしょうか?
先ほども申し上げた通り、いくら優秀な研修講師がたくさんいて、おもしろい研修コンテンツが用意してあっても売れなければ意味がありません。
研修会社としては、研修パッケージを売ることに対して支援をしてもらえたら嬉しいはずですし、売れるコンテンツ・売れる講師が必要だと思っています。
今は、弊社に登録している研修講師も40名ほどいます。年間400日のオファーをこなすために、協力体制を築いていますので、ライバルというよりもパートナーとしてご一緒にさせていただいていますね。
研修のKGIは売上アップではなく行動変容
ー現在、どのような研修コンテンツを提供されているのでしょうか。
山本さん:ビジネススキル系の研修は、基本的に何でも対応しています。
新入社員、若手の育成研修から中間管理職向け研修まで幅広く対応していまして、特に「思考スキル・問題解決・営業研修」のご依頼はよくお引き受けしています。
その他にも管理職向けのマネジメント研修、モチベーション、コミュニケーションのテーマなど、常時50種類ほど研修プログラムを持っています。
守備範囲が広いので、「こういう研修できますか?」とオーダーいただいて、企業ごとに研修プログラムをカスタマイズすることも可能です。
たとえば「質問力研修」という研修コンテンツはありそうで意外とないですし、少し突っ込んだレアなテーマで言うと「今までやったことがない数字を使った研修」や「営業で成果をすでに出せているハイパフォーマー向けの営業研修」などご依頼いただいたこともあります。
「このテーマで研修できますか?」と聞かれたときに、しっかりご要望に答えてオーダーメイドで作っていくことで、研修をリピートや横展開いただく機会につながっていくと思います。
ー研修講師をする上で山本さん流のこだわりやコツを教えてください。
山本さん:研修のケーススタディは架空スタディではなく、現場のリアルなケースを使うことが重要です。
たとえばマネジメント研修の場合、現場にどのような部下がいて、マネジメントがどのような指示を出したときにうまくいかないのか、何にどう困っているのか具体的にヒアリングをしてきます。
リアリティがないと研修の意味・価値はなくなってしまうのです。研修を依頼される皆さんは、自分がどうしても思いつかなかった新しい打ち手、解決策が欲しいと思っています。
実践として使えるリアリティさと、依頼主の思考領域を拡張するアドバイスが非常に大切なのです。
固定のコンテンツのインストラクションやプレゼンテーションが素晴らしい研修講師は多くいると思います。
研修企画会社にいたときに、様々なトップ講師の研修を後ろで見ていて「これって本当に現場の役に立っているのかな?」と正直、疑問を持ったこともよくありました。
本当に良い研修とは、研修を受けた受講者に対して行動変容を起こすことです。
この目的を重要視して、もっと研修・教育そのものを考え直し、研修プログラムを再設計すべきだという考えにたどり着きました。
山本さん:研修結果を測定するとき、基準とすべきなのは「行動変容」をどれだけ起こすことができたか?ということでしょう。
たまに研修をすれば売上が上がると考えている方もいらっしゃいますが、その相関性は高くありません。
直接的に売上を上げることができなくても、研修を通して、気付きを得て、受講者に何かしら行動変容を起こすことはできます。これが研修の1つの大きな目的となります。
研修講師の職業とは?社内研修講師にはできないこと
ー研修講師の職業として、難しいことや大変なことは何ですか?
山本さん:研修講師という職業で大変なことは、常に勉強をし続ける姿勢が必要なことです。また、1つのテーマだけ研修するのではなく、テーマの脱却をして守備範囲を広げていくことが重要です。
たとえば、新入社員向けのマナー講師もたくさんいます。社会人としてのマナーはとても大切ですが、新入社員が入社する4月~5月しか需要がありません。
極端な話、マナーは研修だけですぐ身につくものではありませんし、企業内のOJTでも身に付けることができます。
もう少し視座を上げて、マナー研修から接客研修、コミュニケーション研修などバリエーションをつくっていかないと、企業から求められる研修講師にはなれないでしょう。
このように1つのテーマを脱却して、守備範囲を広げていくためには、根本的にビジネスや組織構造の理解が必要となります。
世の中のさまざまなビジネスモデル、組織課題の理解をして、現場感をつかみながらリアリティをもった提案をしていかないと研修の価値は薄れてしまいます。
ー非常に多岐に渡る知見をインプットし続ける中で、研修講師として絶対に外せないスキルはありますか?
山本さん:研修講師として高めるべきスキルは、
- インストラクションスキル、
- ファシリテーションスキル、
- フィードバックスキル
この3つです。
この3つは根本的に高め続けなければ、企業に必要としてもらえないでしょう。単に、業界理解を深めて、ビジネス書を読みまくれば人に教えられるわけではありませんよね。
研修とは、「学びを通して受講者を動かす」ことだと定義します。新しい知識や概念をインストラクションして、研修における学び場をファシリテーションし、参加者が行動変容を起こしやすいようにフィードバックをすることが重要です。
インプットを続けるときのコツとしては、1つ1つを細かく理解するよりも、社会全体を俯瞰して理解することを重視しています。
日本には、多種多様な企業、業種がありますので、1社1社、1つずつの現場の情報を事細かくキャッチアップすることは容易ではありません。
業界や職種ごとの特性、社員の年次やレベルごとの悩みや特徴をポイントでとらえ、横ぐしで刺して抽象的な概念理解に努めるようにしています。
あとは、各現場でヒアリングをしながら、その場にあった研修プログラムをオーダーメイドでつくっていくようにしています。
ー社内の育成担当と、社外講師・トレーナーの違い。研修講師の意義について教えてください。
山本さん:社外の研修講師の良さは、第3者視点の客観性をベースにした影響力です。
社内の研修担当者や人事の方は、現場の状況を熟知しているからこそ指摘しにくいことも多いと思います。
社内の方がいつも指摘している内容を、社外講師の私たちがズバッとお話するだけでも、影響力や説得度合いが大きく変化します。
また、社内では言いにくいことを、アウトプットできるようにファシリテーションもしますし、事実ベースの客観性の高いフィードバックもおこないます。そのような視点で育成をできる点が大きな違いと言えるでしょう。
もう1点、社外講師としてお役に立てることは、他業界・職種の話をお伝えできる点です。
社内講師は、現場の課題や育成で伸び悩んでいることを熟知している良さがありますが、どうしてもケーススタディの幅が狭くなってしまいます。
私は年間、数百の現場を見てきていますので、複数の現場のケーススタディを参考にしながら、幅広い視野の中で研修の提案ができる点が強みだと考えています。
最後にもう1点、社外講師と社内育成担当との違いは、研修登壇の場数の多さでしょうか。
私は教えることのプロとして、さまざまな業界向けに登壇していますので、その場数の多さから安心感を持っていただけると思っています。
場数が多いのは事実ですが、偉そうに指導をするわけではありません。研修プログラムは、お客さまと共創していくことが重要ですから、一方的に「教える」のではなく、受講者の目線に落としながら「これってできそうですか?」と問いかけるようにしています。
また、育成担当者の方とのコミュニケーションも重要です。現場に定着させるのは育成担当者の役割になりますので、その環境づくりも支援させていただいております。
受講者が少しでも違和感を持ってしまうと、行動変容は起きません。現場に踏み込み、寄り添い、コンサルスタイルで研修をおこなうことが、社外研修講師の面白さだと思っています。
ー社内の研修担当者や企業人事に伝えたいことはありますか。
山本さん:1つ目に、社員育成の時間にぜひ投資をしてください。
研修はあくまでも行動変容を起こすためのきっかけづくりです。お金をかけて、何回か実施すれば、どうにかなるものではありません。研修をすれば即日で売上アップや組織の変革につながるわけではありません。
研修を、社員の長期育成のきっかけととらえ、投資をしていただくのが良いと思います。
人材育成とお話すると、よく「育成する時間がない」と答える経営者、人事の方がいらっしゃいます。
しかし、育成は個別に多くの時間をまとめてとらなくても良いんです。たとえば、日々の会議の中で、部下との報連相の時間を通じて育成をしてくことも可能でしょう。
例えば、成果を継続的に出す営業部長さんは、日常の会話の中で部下に気付きを与えて、育成をすることが上手だったりします。
今の時代は「なんで数字が上がっていなんだ、なんでできないんだ」と詰めても意味がありません。
会議や報連相の会話の中で、相手に問いかけをするように心掛け、育成の意識を持ってコミュニケーションの機会をつくっていただければと思います。
研修内容をどうするか、ではなく、最終的には組織の中で学習が生まれる風土、自然と成長する風土をつくっていくことが重要です。
その上で、研修をアウトソースする際は、私たちのようなプロの研修講師をうまく活用いただければと思います。