「職務分掌って具体的にどのようなもの?」
「職務分掌と業務分掌の違いがわからない」
「職務分掌規定の作り方のポイントは?」
職務分掌について、上記の疑問をもつ人事労務の担当者もいるのではないでしょうか。
職務分掌は従業員の負うべき役割を明確化するもので、企業活動の健全化に役立てられます。一定規模以上の企業であれば導入しておきたい仕組みです。
本記事では、職務分掌の概要や混同しがちな業務分掌、職務権限などとの違いについて解説します。職務分掌規程を作成する際の手順やポイントもあわせて解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
人事評価制度は、健全な組織体制を作り上げるうえで必要不可欠なものです。
制度を適切に運用することで、従業員のモチベーションや生産性が向上するため、最終的には企業全体の成長にもつながります。
しかし、「しっかりとした人事評価制度を作りたいが、やり方が分からない…」という方もいらっしゃるでしょう。そのような企業のご担当者にご覧いただきたいのが、「人事評価の手引き」です。
本資料では、制度の種類や導入手順、注意点まで詳しくご紹介しています。
組織マネジメントに課題感をお持ちの方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
1. 職務分掌とは従業員が果たすべき役割を明確化すること
職務分掌とは、従業員に対し役職や業務範囲の設定をおこない、各個人が果たすべき役割を明確化することです。
職務分掌を定めることで、業務上の責任の所在や範囲をクリアにし、内部統制を図ります。内部統制とは、効率的かつ健全な事業活動を維持するための重要な仕組みです。
部署やそこに所属する従業員が担う仕事内容を細かく設定し、だれが何をどこまで担当するかを明らかにすれば、業務の効率化につながります。職務分掌は、一定規模以上の企業に取り入れられるのが一般的です。
2. 職務分掌と業務分掌の主な違い
職務分掌と業務分掌の主な違いは、対象者の範囲や単位です。具体的には、それぞれ以下の単位で設定します。
対象者の範囲・単位 |
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職務分掌 |
従業員ごとに職務を設定 |
業務分掌 |
従業員を含めた各部署やチーム内で担当業務を設定 |
チーム単位で対応すべき作業内容を明らかにしておけば、業務を円滑に遂行可能です。
3. 職務分掌と職務権限の主な違い
職務分掌と職務権限の主な違いは、指し示す内容です。具体的には、それぞれ以下の内容を指し示します。
内容 |
|
職務分掌 |
従業員の責任の所在を明らかにするための区分け |
職務権限 |
特定の従業員に対して与えられる職務上の権限 |
役職者や管理職など、立場を考慮し限定的に権限を付与すれば、秩序を保ったまま業務遂行が可能です。
4. その他職務分掌と混同しやすいものとの主な違い
その他職務分掌と混同しやすいものとしては、以下のものが挙げられます。
- 職務分離
- セグリゲーション
4-1. 職務分掌と職務分離の主な違い
職務分掌と職務分離の主な違いは、内容や目的です。具体的には、それぞれ以下の内容や目的を指し示します。
内容 |
目的 |
|
職務分掌 |
従業員の責任を明確化する |
業務の効率化や健全な事業活動の維持 |
職務分離 |
1業務を複数の従業員に担当させる |
不正やミスを防ぐ |
複数の目があることで不正の機会を防ぎつつ、ダブルチェックによる業務精度のアップが期待できるのが職務分離の利点です。
4-2. 職務分掌とセグリゲーションの主な違い
職務分掌とセグリゲーション(segregation・分離)は、責任の明確化をおこなう趣旨は同一ですが、内容や目的が主な違いです。具体的には、それぞれ以下の内容や目的をもちます。
内容 |
目的 |
|
職務分掌 |
従業員ごとに担当職務の線引きを行う |
業務の効率化 |
セグリゲーション |
執行者と承認者の職責を分離する |
ミスや不正の抑止 |
5. 職務分掌が必要とされるシーン
職務分掌が必要とされるシーンの代表例は、内部監査や上場審査です。
内部監査時には、まず職務分掌をチェックされることが多いといわれています。職務分掌が適切に設定されていない企業は責任の所在が判然とせず、内部統制が取れていないとみなされ、不合格となるのが一般的です。
上場審査時も同様に、職務分掌が必要とされます。職務分掌を含む社内規定と業務実態とを照らし合わせ、整合性が取れていない場合には審査にパスできません。
内部監査や上場審査を控えている企業は、職務分掌を的確に導入しましょう。
6. 職務分掌を導入する3つのメリット
職務分掌で得られる企業側のメリットは以下のとおりです。
- 企業運営が健全化する
- 従業員の育成やモチベーションアップに役立つ
- 人事評価が公正化しやすい
具体的な内容を説明していきます。
6-1. 企業運営が健全化する
企業運営が健全化することが職務分掌の大きなメリットです。
職務分掌で各従業員の担当業務がしっかり線引きされれば、責任の所在が明らかになります。責任者が不明で放置される案件が減り、対応ミスやトラブルにも発展しにくくなるでしょう。
業務範囲が限定されるため、特定の人に権限が集中しにくく、不正のリスクも低下するでしょう。
6-2. 従業員の育成やモチベーションアップに役立つ
従業員の育成やモチベーションアップに役立つことも職務分掌のメリットです。
従業員ごとの担当範囲が明示されることで、従業員の責任感が向上し、意欲的に仕事に取り組めるようになります。適切に運用すれば、業務の効率化が図れるでしょう。
また、必要以上の業務を担当せずにすむことから、従業員が自分自身の業務に集中できます。ストレスが軽減されることからも、モチベーションアップにつながるでしょう。
担当範囲の切り分けにより必要なスキルも明確化されるため、人材育成計画を練りやすく、研修を利用して効率的に従業員を育成可能です。
6-3. 人事評価が公正化しやすい
職務分掌によって人事評価が公正化しやすいメリットもあります。
担当の業務範囲が決まることで、達成目標が明確に設定可能です。目標に対する達成度合いを評価しやすくなるため、公正な人事評価が期待できます。
人事評価が正しくおこなわれれば、従業員の満足につながり、離職防止にも役立つでしょう。
7. 職務分掌を導入する3つのデメリット
職務分掌には以下のデメリットがあります。
- イレギュラーな業務に対応しにくい
- 指示命令系統の硬直により生産性の低下を招く
- 場合によっては従業員のモチベーションが低下する
それぞれの具体的な内容は次のとおりです。
7-1. イレギュラーな業務に対応しにくい
職務分掌は、イレギュラーな業務に対応しにくいデメリットがあります。
実務では、往々にして想定外の事態が発生するものです。しかし職務分掌で担当業務が絞られることで、担当外の業務に対し率先して対応しなくなり、仕事がストップする可能性も否定できません。
対応の遅れからビジネスチャンスを逃したり、企業の信用低下を招いたりする恐れがあります。また、従業員間や部署間で仕事の押し付け合いが起こり、社内環境の悪化にもつながりかねません。
事前にイレギュラー発生時の対応策を練っておくことが肝要です。
7-2. 指示命令系統の硬直により生産性の低下を招く
指示命令系統の硬直が起こり、生産性の低下を招く可能性があることも職務分掌のデメリットです。
職務を分担し責任者を決めることで、業務を進める際に取るべき正しい手続きや手順が決まります。担当者や責任者が不在なケースや、複数部署の承認が必要なケースでは、正しい流れの維持にこだわることで業務が中断しかねません。生産性が低下する可能性もあるでしょう。
従業員の柔軟性と自主性をうながす教育や、部署間の連携を強化するシステムづくりなどへの配慮が必要です。
7-3. 場合によっては従業員のモチベーションが低下する
職務分掌は、場合によっては従業員のモチベーションを低下させる可能性があります。
職務分掌が導入されれば、業務が縮小され、バリエーションが乏しくなりがちです。他人の業務に無関心になったり、希望の業務に就けなかったりすることで、従業員の成長ややる気を阻害する可能性があります。
社員間や部署間の協力体制をうながしつつ、定期的なジョブローテーションを組み込むのが有効です。
8. 職務分掌を定める際のポイント
職務分掌を定める際のポイントは以下のとおりです。
- 従業員に趣旨の説明をおこなう
- 組織図を作成しておく
- 従業員へのヒアリングをおこなう
- 職務内容を細分化し権限を振り分ける
- 職務分掌規程(職務分掌表)を作成する
それぞれ次のようなポイントがあるので、詳しく解説していきます。
8-1. 従業員に趣旨の説明をおこなう
まずは職務分掌を作成する趣旨について、従業員にしっかり説明しておくことが大きなポイントです。
従業員の理解が得られないままシステムだけ作成しても、運用はうまくいきません。職務分掌を定める目的やメリットを丁寧に説明し、納得してもらえるよう努めることが大切です。
8-2. 組織図を作成しておく
次のポイントとしては、組織図を作成しておくことが挙げられます。組織図を使えば、企業の全体像や部署間のつながりを把握しやすくなり、その後の権限付与もスムーズです。
組織図には、経営者をはじめ、本社や支社、営業所、部門、部署、チームなどを詳細に記載します。
8-3. 従業員へのヒアリングをおこなう
現在の業務内容について、部署や担当者レベルでヒアリングをおこない、現状の把握に努めることもポイントです。
現場の声を聞くことで、職務分掌を作成する担当者の主観を排除しやすく、職務分掌の精度があがります。現状の問題点についても聞き取っておけば、職務分掌を作成する際の手がかりになるでしょう。
なお従業員へのヒアリングに先立ち、盛り込みたい内容を経営者へ確認しておくことも大切です。
8-4. 職務内容を細分化し権限を振り分ける
従業員からのヒアリング内容をもとに、職務内容を細分化し権限を振り分けていくこともポイントです。担当が不適切だと判断される業務については、本来あるべき部門への割り振りをおこないましょう。
部署間の横のつながりも意識しつつ、業務の重複を避けて配分していくことが大切です。
関連性の強い部署間では、イレギュラーの発生時に責任転嫁やトラブルが発生する可能性があります。これを回避するためにも、権限の詳細を極力明確に定めておきましょう。
8-5. 職務分掌規程(職務分掌表)を作成する
最終的には、制定した職務分掌を明文化した職務分掌規程(職務分掌表)を作成することがポイントです。
職務分掌規程は必須ではありません。しかし、作成しておけば従業員がいつでも確認しやすく、内容が社内に浸透しやすくなります。
社会保険労務士への依頼や、テンプレートを活用して職務分掌規程を作成しましょう。
9. 職務分掌の活用で企業活動の健全化を目指そう
職務分掌は、従業員が果たすべき役割を明確化するものです。内部監査や上場審査の際に必要とされるばかりか、業務の効率化や従業員の育成に役立つメリットがあります。
上手に活用し、企業活動の健全化を目指しましょう。
人事評価制度は、健全な組織体制を作り上げるうえで必要不可欠なものです。
制度を適切に運用することで、従業員のモチベーションや生産性が向上するため、最終的には企業全体の成長にもつながります。
しかし、「しっかりとした人事評価制度を作りたいが、やり方が分からない…」という方もいらっしゃるでしょう。そのような企業のご担当者にご覧いただきたいのが、「人事評価の手引き」です。
本資料では、制度の種類や導入手順、注意点まで詳しくご紹介しています。
組織マネジメントに課題感をお持ちの方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご確認ください。