リーダーが異文化コミュニケーションを理解する意義。東レ経営研究所が研修プログラムにCQを取り入れる狙い【現場を変えるCQ白書 第5回】 |HR NOTE

リーダーが異文化コミュニケーションを理解する意義。東レ経営研究所が研修プログラムにCQを取り入れる狙い【現場を変えるCQ白書 第5回】 |HR NOTE

リーダーが異文化コミュニケーションを理解する意義。東レ経営研究所が研修プログラムにCQを取り入れる狙い【現場を変えるCQ白書 第5回】

  • 組織
  • 企業文化・組織風土

※本記事は、アイディール・リーダーズ株式会社の宮森千嘉子様より寄稿いただいたものになります。

“カオスな会議”を経験したことのないビジネスパーソンは、ほとんどいないでしょう。意見の錯綜や、平行線をたどる議論に、戸惑いや諦めを感じる人もいるかもしれません。異文化コミュニケーションの場で生じるカオスを乗り越える、そのときに大きな力を発揮するのがリーダーです。

そこで「文化を扱い、異なる視点を持てるリーダーを育てるべきだ」と考えた、株式会社東レ経営研究所の前・代表取締役社長、髙林和明さん。そのための軸に据えたのが、多様な価値観を扱う力であるCQ(文化の知能指数)でした。この連載では次世代リーダーに欠かせないCQという力についてお話ししていきます。

今回はCQを経営リーダー研修のプログラムに採り入れた事例から、その狙いや効果などを聞きました。

寄稿者宮森 千嘉子アイディール・リーダーズ株式会社 CCO(Chief Culture Officer)

「文化と組織とひと」に橋をかけるファシリテータ、リーダーシップ&チームコーチ。 サントリー広報 部勤務後、HP、GEの日本法人で社内外に対するコミュニケーションとパブリック・アフェアーズを統括し、 組織文化の持つビジネスへのインパクトを熟知する。 また50カ国を超える国籍のメンバーとプロジェクトを推進する中で、 多様性のあるチームの持つポテンシャルと難しさを痛感。 「違いに橋を架けパワーにする」を生涯のテーマとし、日本、欧州、米国、アジアで企業、地方自治体、プロフェッショナルの支援に取り組んでいる。英国、スペイン、米国を経て、現在は東京在住。ホフステードCWQマスター認定者、CQ Fellows、米国Cultural Intelligence Center認定CQ(Cultural Intelligence)及びUB(Unconscious Bias)ファシリテータ、 IDI(Intercultural Development Inventory) 認定クォリファイドアドミニストレーター、 CRR Global認定 関係性システムコーチ(Organization Practitioner, Gallup認定ストレングスコーチ。著作に「強い組織は違いを楽しむ CQが切り拓く組織文化」、共著に「経営戦略としての異文化適応力」(いずれも日本能率協会マネジメントセンター)がある。 一般社団法人CQラボ主宰。 

“カオスな会議”を再現したワークショップ

私は、パーパス経営支援、リーダーシップ開発、組織文化の変革などへのソリューションを提供するアイディール・リーダーズ株式会社のCCO(Chief Culture Officer)として、国内外の企業などを支援してきました。その1社が今回ご紹介する東レ経営研究所です。

同社は、繊維や樹脂などの素材メーカーとして、グローバルに事業を展開する東レグループのシンクタンクとして調査・分析や人材・組織開発支援を行っています。

そこでのワークショップの一つが「もしあなたが、世界に拠点を置く会社の中で、拠点の代表として『世界共通の休日を決める会議』に参加するとしたら?」というものです。

参加者には、それぞれ異なる6つの国の代表になってもらいます。そして一人ひとりに異なる“指示書”が渡されます。例えば、ある国の人は「自国の祝日を必ず採用するようにしてください」と言われます。またある国の人は「あなたは意思決定者ではありません。最終的な結論は自国に持ち帰ってください」。さらに別の国の人は「このように簡単なテーマは、その場で決定してください」と。

匙を投げる人、自分の意見を相手に無理強いしようとする人、ただただ戸惑いストレスを抱える人……反応は様々。まさに“カオスな会議”です。

同じ議題で、同じテーブルについている。けれども目的も前提も、国によってまったく違う。このような状況が混乱を生じさせるのです。

体験が異文化コミュニケーションへの理解を深める

「ワークショップをやってみると、参加者は『一人ひとりがこんなに違うんだ』と気づいてくれます。異なる価値観を理解して受け止めるための勉強の仕方はいろいろあると思いますが、CQは最適なプログラムだと思います」

こう話してくれたのが、髙林和明さん。髙林さんは異文化コミュニケーションを知る上で効果的なのは、実際に体験することであり、ワークショップはそのシミュレーションになると考えています。

参加者からも「CQの向上が協働と創造につながると知った」「多様な価値観を扱う上で勉強になった」などの感想が上がっています。

では髙林さんが文化を扱えるリーダーを育てるべきと考えた、そのきっかけとなる体験は何だったのでしょうか。そこにはご自身の、海外勤務での驚きや苦労がありました。

2017年に在タイ国東レ代表として、現地にあった9つのグループ会社、約4000人を統括する立場となった髙林さん。それまで20カ国ほどの海外出張を経験してきましたが、海外に住むのは初めてのこと。そして住んでみたからこそ、タイ人と日本人との違いを実感できたそうです。

「例えば下から上へ『悪い情報』が報告されてこない。工場で従業員がケガをしても、その管理者は『知らない』と言います。後にCQを知って理解が深まりましたが、タイは権力格差の高い国民文化。日本人幹部が『絶対に怒らないし、評価を下げることもない。だから、正直に言ってほしい』と言って、初めて話してくれます」

また着任当時、タイでは前年の16年にプミポン前国王が亡くなったことから、国として喪に服していました。タイ国民は皆黒い服を着ていたため、強く記憶に残ったとも髙林さんは話しました。

国王の影響が強いというのも、タイの権力格差の高さを表す一例です。

文化により異なる「心に火が点くポイント」

大学では教育学部だった髙林さん。「人の心」に関心があり、日本にいるときからコーチングなどを学んでいました。

ところがタイではコーチングの観点でのコミュニケーションが通用しませんでした。相手の考えを引き出すような質問の仕方では「あぁ、この上司は答えを持っていない。仕事ができないのだな」と判断されてしまうためです。この場合、自分の能力や権限を示した上で、相手には“あえて”質問していることを示す必要があります。

さらに、こんなこともあったそうです。

「工場の3S活動でのことです。『きれいにしてください』と指示をしただけでは動いてくれないのですね。そうではなく、工場間で、タイ人同士で相互査察をさせると一生懸命やってくれます。メンツを失いたくないんですよ。そこから『心に火がつくポイント』は国によって違うのだと感じました。タイでは相互査察がうまくいきましたが、別の国では報奨金を付けるほうが動いてくれるかもしれません」

違いを一つ乗り越えると、さらにまた別の違いが現れる。

そんな中で髙林さんはCQを知りました。メモに書き留めていたタイでの出来事を「ホフステードの6次元モデル」を通して見たときに「なぜタイ人と日本人のやり方に違いがあるのかが驚くほど視覚化された」といいます。

「帰国後、私は経営リーダー研修のプログラム作成に携わり、そこにCQを取り入れることを決めました。現代は『先行きの不透明な時代』です。環境の変化に合わせられなかった恐竜が絶滅したように、企業も時代の変化に合わせて、イノベーションを起こして変革しないと成長しない。その中で、いろんな視点とやり方を学んでほしいと思ったんです。日本の普通が普通とは限らないんだと」

異文化コミュニケーションは「本国と外国」に限らない

東レ経営研究所では2021年から新設した経営リーダー研修にCQを導入。2025年現在、5年目を迎えました。参加者の大半から「有意義だった」というフィードバックが上がるそうです。

「ただ実は、あるときフォローアップ面談でショックを受けたことがあって。海外経験もなく、この先の予定もない方から『異文化コミュニケーションの話は単に聞いておけばいいのですよね?』と言われたんです。『そう見えるのか……』と。これは海外に行かない人には不要という話ではまったくありません」

髙林さんは、海外に駐在する人に学んでほしいことはもちろん、国内に勤務する人にも学んでほしいと強調します。文化の違いは、国の違いではありません。例えば、世代の違いにも文化の違いは現れます。

「シニア世代はよく『若者はすぐ転職する』などと言いますよね。シニア世代は一つの企業に勤めあげることが当たり前の時代を過ごしてきました。そのため『転職が当たり前』ではなかったりします。その当たり前を疑っていかないと。今後は定年も延びて、世代間のギャップも広がると考えられます。デジタル化もさらに進みますよね。デジタル化はサプライチェーンや産業構造の変革というより、「価値観」の変革に影響していると私は考えています」

価値観が変わっていく中で、これまでの組織文化では立ち行かなくなっていきます。私は同社の研修に携わってきた中で「これまでのように自分たちのやり方を現地でそのままやってもらうだけではダメなんだ」と話す参加者が増えてきたと感じます。「外国人との仕事以外でも役立つ」「海外経験のない自分にも関係があると気づけた」という声は少なくありません。

多様な視点を手に入れる強み

さて最後にもう一度、冒頭にご紹介したワークショップについて触れたいと思います。

そこで提示するのは「世界共通の休日を設定する」という単純なテーマです。しかしそこでは「あぁ、日本人はこのように見えるのだな」「アメリカに長く住んではいたけれど、アメリカ人になりきるのは難しいな」など、多くのことに気づいていただいています。

ただし一方で、このワークショップの目的は単に異文化体験をしてもらうことでもありません。

他者の立場・文脈・感情から世界を見る力を育むことです。
CQの高いリーダーは、自分自身のコアを大切にしながらも、状況に応じてリーダーシップの引き出しを柔軟に開くことができます。
“カオスな会議”とは、ストレスフルな場でしょうか?
いいえ。そこは“学びの宝庫”です。異なる文化を持つ人がどのような視点を持っているのか。多様な視点を手に入れることは、次世代リーダーにとって大きな強みになるに違いありません。

専門家の視点から
髙林さんとお話をしていると、ご自身のリーダーシップに幅があると感じます。趣味でフルートオーケストラの指揮者をしていらっしゃる髙林さんは、ご自身で編曲までされています。そこで大事にしているのは「楽しむため」ということであって、「賞をとる」ことではない。けれどもその考え方でアンサンブルの団員は増えていったそうです。このフルートオーケストラでマネジメント力が鍛えられたと話す一方で、実際はタイで約4000人のトップを務めたときはそこで通じるトップマネジメントの振る舞いをされてきました。リーダーシップに幅があることは、CQの高いリーダーに共通の特徴です。

【こんな方におすすめの一冊】

  • 組織に課題感がある人事担当者
  • 組織文化の変革に取り組みたいマネジャー・経営層
  • 多様性を活かしたリーダーシップやチームマネジメントに関心のある方
  • 異なる背景や価値観を認識し、チームとして最大化する思考を身につけたい方

人事業務に役立つ最新情報をお届け!メールマガジン登録(無料)

HR NOTEメールマガジンでは、人事/HRの担当者として知っておきたい各社の取組事例やリリース情報、最新Newsから今すぐ使える実践ノウハウまで毎日配信しています。

メルマガのイメージ

関連記事

2026年の人材育成トレンド予測|ジェイソン・ダーキー

2026年の人材育成トレンド予測|ジェイソン・ダーキー

こんにちは。アイディア社のジェイソン・ダーキーです。 執筆者JASON DURKEE(ジェイソン・ダーキー)氏IDEA DEVELOPMENT株式会社(アイディア社) 代表取締役 米国シアトル生まれ。1992年に来日し上 […]

  • 組織
  • 人材育成・研修
2026.02.12
金井 一真
【”上下”じゃなく”斜め”に頼れ!】味の素式 1on1「ななメンター」|味の素×ビジネスコーチ合同セミナー

【”上下”じゃなく”斜め”に頼れ!】味の素式 1on1「ななメンター」|味の素×ビジネスコーチ合同セミナー

2025年6月24日、味の素株式会社とビジネスコーチ株式会社による合同セミナーが開催されました。 テーマは、味の素社が独自に推進してきた1on1施策「ななメンター」。若手社員のキャリア自律を促し、中堅社員の自己肯定感向上 […]

  • 組織
  • キャリア開発
2025.12.22
金井 一真
社員の年収アップが企業成長につながる——公平で納得度の高い昇給制度をどう設計するか|エッジコネクション大村

社員の年収アップが企業成長につながる——公平で納得度の高い昇給制度をどう設計するか|エッジコネクション大村

人事担当者にとって、「昇給制度」は常に悩みの種ではないでしょうか。 どのような基準で昇給を決めれば不満が出ないのか、誰の給与を上げるべきなのか、そして、給与を上げた分のコストをどのように業績につなげていくのか——。 一方 […]

  • 組織
  • 人事評価
2025.12.16
金井 一真
インテージホールディングスの人事に聞く、 従業員サーベイを「因果分析」する意味と実践方法

インテージホールディングスの人事に聞く、 従業員サーベイを「因果分析」する意味と実践方法

昨今、人事業務における「データに基づいた意思決定」の必要性が高まる中で、「因果分析」の手法が注目されています。 そこで今回は、国内大手マーケティングリサーチ企業グループのインテージホールディングス様に、エンゲージメントサ […]

  • 組織
  • エンゲージメント
2025.12.04
金井 一真
年間4911億円の労働損失。企業が気づいていない、働く女性の87%が感じる「見えない不調」

年間4911億円の労働損失。企業が気づいていない、働く女性の87%が感じる「見えない不調」

働く女性の多くが抱える“見えない不調”は、いまや企業の生産性や人材定着に大きな影響を与える社会課題となっています。にもかかわらず、日本では女性の健康課題は長く「個人の問題」として扱われ、組織としての対策は十分とはいえませ […]

  • 組織
  • ダイバーシティ&インクルージョン
2025.12.03
金井 一真

人事注目のタグ